始覚の歌語り アリオラ
4/26~5/9
第二回スペボスホワイトデー 1位記念イベント
前回→終わりの使者セレミス
あらすじ
普通の人たちには見えない天使さんの姉妹と久しぶりの再会なんですのよ!
お二人ともお元気そうで…もないんですのね?
始覚の歌語り アリオラ
っ……ダメです、歌おうとすると……声が出ません……。
こうおしておしゃべりすることはできるのに、どうしてなのでしょう……?
戦士様、そちらにいらしたのですね。あの……私を覚えていらっしゃいますか?アリオラです。
ああ、よかった……覚えていてくださったのですね。嬉しいです。
改めまして、ごきげんよう戦士様。お久しぶりです。
久しぶりの再会だというのに、みっともない姿をお見せしてしまい、申し訳ありません……。
生まれ来る人の子に、天から届いた祝福の加護歌を届ける……それが私の使命……そのはずなのですが。
ご覧の通り、今の私は歌うことができないのです。
祝福の加護歌は、今は私の姉様……セレミスにお願いしています。
自分の役割をまっとうできないのはつらいですが、仕方がありません。
けれど、姉様には姉様の本来の役割があります。いつまでもこのままというわけには……。
歌えなくなった理由は……わかりません。一体、どうしてなのか……。
あっ……心当たり、ひとつだけ……あるかもしれません。
いえ、ですが、勘違いかもしれませんし……はい、わかりました。話してみないことには、何もわかりませんよね。
私たち姉妹は、表裏一体なのです。
私は生まれ落ちた者に歌う祝福の加護歌で喜びを歌い……。
姉は死を迎える者に捧ぐ終焉の子守歌で悲しみを歌います。
どちらもとても尊く、世界になくてはならないもの……優劣などつけられない大切な役割です。
ですが……やはり、喜びと悲しみでは、心に募る感情は違ってしまうと私は思うのです。
姉にばかり悲しみを背負わせているのではないかと、無意識のうちにも、私は負い目に感じていたのです。
これが私たち姉妹の役割なのだと、割り切っているつもりでした。
……しかし、その結果がご覧の通りです。
結局は、さらに姉様に負担を強いることになってしまいました。
私は……自分が不甲斐なく思えてしょうがありません。
歌うことができなければ、私に存在意義などないと……。
……ありがとうございます。戦士様はお優しいですね。
ああ、天から一筋の光が……あれは……王国の外れ辺りでしょうか。
いえ、いいのです。今は姉様が私の役割を担ってくれています。私が向かう必要は……。
戦士様?どうなさったのですか、私の手など引いて……戦士様!?
……戦士様に手を引かれるまま、光が差したほうへ来てしまいましたが……。
あれは……赤ん坊、ですね。顔を見る限り、まだ生まれたばかりのようです。
「この子をよろしくお願いします」……手紙が添えてあります。かわいそうに、捨てられたのですね。
姉様はまだいらっしゃらないのでしょうか……捨て子だとしても、祝福の歌は皆に平等に歌われなくてはならないのに。
泣かないでください……いくら泣いてもあなたのお母様は、もうあなたを……。
……この子を祝福できるのは、私しかいないのかもしれません。
きっと歌えない……それを何度も確認するのは、怖くてたまらないけれど……。
私は今、あなたに届けたいと……心の底からそう願っています。不格好でも、掠れていても……歌いたいのです。
っ……~……~~~……♪
ダメです……やはり……私にはもう歌は……
……いけない。ここで諦めたら、もう二度と歌えない気がします。
幸いにも、聴いているのはあなたと戦士様だけ……ふふ、少しだけ、気分が軽くなった気がします。
~♪……~……♪
はぁ、はぁ……もう、一度……!
~♪~♪~♪
ああ、戦士様!今の歌を……聴いていてくださいましたか!?今、私……歌えていました、よね……?
泣き止んでくれたのですね……よかった……
ふふ、笑顔がとても可愛らしいです。
ありがとうございます、戦士様。この子を施設に連れて行ってくださるのですね。
私に歌を取り戻してくれた……あなたの未来も、素晴らしいものでありますように。
……あなたは誰がなんと言おうと、この世界に望まれて生まれてきたのですよ。
終末の歌語り セレミス
~♪~♪
~♪…はぁ。
いけない……歌に迷いが滲んでいるわ。
こんな浮ついた気持ちでは、役割を果たすことなんて……。
終焉の子守歌を歌うため、心を石のように固くして、ずっと守ってきたのに。
原因は、はっきりしている。
不調のアリオラの代わりに、祝福の加護歌を歌うようになってから……私の歌は変わってしまった。
この程度のことで……情けない。
今まで平気だった……いくら悪態をつかれ、命乞いをされたとしても、私の心は固く閉ざされていた。
でも、今は違う……軟化した心には隙間ができて……そんな些細なことでも傷つくようになってしまったの。
アリオラとの役割の違いだって、気にもしていなかったのに。
でも、あの子に終焉の子守歌を歌わせるなんて、したくない……あの子は優しいから、私以上に傷ついてしまうわ。
……貴方は……戦士様?ごきげんよう……そしてさようなら。お久しぶりね。
覚えていらっしゃるかしら?私はセレミス。
死に逝く者にだけ見える私の姿、捧げるのは終焉の子守歌。その魂を無事天へと届けるのが、私の使命。
……そのはずなのだけれど。
あら、貴方……怪我をしているの?随分と深い傷だわ……動けないのね。
……そうね、ここは人里から離れているから……助けも簡単には来ないわ。貴方にもついに……『その時』が来たようね。
「ありがとう」……ですって?どうして、お礼なんて……。
今の苦しみから解放されることを喜んでいるの?
君が……死がいたから、がんばって生きてこられた……あぁ、よく生きた……。
っ……戦士様……。
私はなんて無力なのかしら……こんなとき、歌うことしかできないなんて。
でも……それが私の役割……。
~♪~♪
私の歌で、貴方の苦痛が少しでも和らぎますように……この世に生まれたことを後悔せずにいてくれますように。
~♪~♪……何か……音が聞こえる♪
よかった!ずっと探しいたんだ……!ひどい怪我じゃないか。急いで治療できる場所に運ばないと!
っ……あり、がとう……。
仲間なんだから、当然だろう?ほら、運ぶぞ。
うっ……痛……!
すまない、でも少しの辛抱だ。
……よかった。貴方にはまだ『その時』が来たわけではなかったのね。
戦士様……私の目を見ながら『ありがとう』と告げていたわ。
戦士様の仲間たちには私が見えていなかった様子だけれど……。
どうして、お礼なんて……。
死がいたから……がんばって生きてこられた……戦士様は確か、そんなふうに言っていたわ。
生と死は表裏一体、確かに、どちかが存在すれば必ずもう一方も存在しなければならない。
人間たちは、限られた生の中を懸命に生きて……そして最終的には死をむかえる。
それは悲しいことだと……私はずっとそう考えてきたけれど……。
戦士様が言うように、だからこそ……限られているからこそ、生を大切にできる……そんな考えにもあるのね。
死が生を輝かせている……もしそうならば、終焉の子守歌を歌うこの役割にも……誇りを持てるかも知れない。
今までずっと、悲しみの中でしか歌うことができなかった私でも、変わることができるかしら?
……いいえ、変わろうとしなければ、ダメね。
まずは……アリオラの元へ訪ねてみようかしら。
あの子に、今日あった出来事を聞いて欲しいわ。
そうしたら……何かが変わるような気がするの。
後ろ向きだった私の考え方も……きっと……
戦士様……気づかせてくれて、本当にありがとう。
死に逝く者たちに、もっと素晴らしい歌を聴かせてあげられるように、私も……がんばるわ。
始終の歌語り アリオラとセレミス
~♪~♪
あら、姉様。ごきげんよう。どうなさったの?
アリオラ……いえ、たまたま近くに用事があったものだから。
そうなのね?もし時間があるなら、久しぶりにお話をしませんか?
……ええ、いいわ。
よかった!お茶でもいかが?美味しいお菓子もありますから。
ありがとう。……いただこうかしら。
すぐ用意しますね。姉様にはずっとお世話をかけてしまっていたから、お礼がしたかったのです。
そんな、お礼だなんて……姉様なら助け合うのは当然でしょう?
……ええ、姉様はお優しいから。そうおっしゃってくださると思っていました。
でも、私がそうしたいのです。……役割の違いに悩んだこともありましたが、今は姉妹同士、もっと仲良くしたいと……そう思っています。
アリオラ……。
私も同じ気持ちよ。
姉様……嬉しいです!
……今、声が聞こえたわ。
え?……ああ、本当ですね。ここから近いようです。
お茶は今度でも構わないかしら?今すぐに向かいたいわ。
わかりました。私もお供します。
アリオラ?貴方が来る必要は……。
お供させてください。私が姉様のお手伝いをさせていただきたいのです。
……わかった。急ぎましょう。
っ……はぁ、はぁ……。
声の主は……あの若い女性ですね。重い病で……もうすぐ命の終わりを迎えようとしています。
セレミス、アリオラ……!
戦士様!?どうして……。
貴方……彼女の看病をしていたの?
……彼女は生まれつき体が弱くて。いつかはこんな日が来るとわかっていたけれど……こんなにも早いなんて。
セレミス……歌わないで欲しいとどれだけ願っても、あなたは歌うんですか!?っ……納得、できない……。
……ごめんなさい。役割はまっとうしなくてはならないの。死は誰にでも平等に訪れるわ。
~♪~♪
っ……ふ……。
……逝ってしまった……とても安らかな表情で……う、ううっ……。
彼女が生まれたとき、私が祝福の歌を歌ったのを思い出しました。
……彼女は、ずっと冒険家に憧れていて……病で街を出られなくても、ずっと憧れは捨てずにいました。
けれど病は徐々に彼女の体を蝕んでいきました。せめてと、街に立ち寄った旅人から彼女は旅先での話を聞いて楽しんでいたんです。
貴方は彼女に色々な話をしてあげていたのね。
はい。体が良くなったら、いつか自分をギルドに入れて欲しいと……。
彼女の瞳はいつも寂しげで……願いが叶わないことを知っているかのようでした。
今回もこの街に立ち寄って、土産話をしようと思っていたのに……彼女が倒れたと聞かされて……。
彼女はきっと、戦士様に最期を看取ってもらえて……幸せだったわ。
幸せだったかどうかは、彼女にしかわからない!
……一緒に街の外へ出て、彼女が見たことのない景色を見せてあげたかった……。
すべてには始まりがあり、終わりがあるのです。
終わった命は、今とこれからの命へと織り込まれていくの。
みんないずれは再び土へと還り、風に吹かれ……星となって瞬くのです。
そんなこと頭では理解できても心では納得が……!
貴方が納得してもしなくても、我々も貴方も、みんな大いなる流れの一部なの。
今はわからなくても、いずれわかる日が来ると思います。その日まで……。
胸にある感情は、忘れずに慈しんでおきなさい。さようなら、戦士様。
さようなら、戦士様……さようなら。