箱庭世界・回顧
ゼン・回顧
1908年、風の音に大きな騒音が混ざっている。空の半分が薄暗いオレンジ色に覆われて、キノコ雲がいつまでも空に揺らめいていた。夜明け前の空は明るく照らされ、まるで白夜のよう。
爆発音が続き、人々の恐怖の泣き叫ぶ声が入り乱れ、ゼンの頭の中でそれらが響いた。灼熱の空地が大地を焼き、強い風が瓦礫をかすめるように吹きつけている。遠くに目を向けるとホワイトハウスの半分が崩れ落ち、うろたえる人々の目には残骸と立ち上がる炎が映し出されていた。
その時、爆発の中で異常に眩しい光が周囲にあふれた。ゼンは目を細めてよく確かめようとしたが、途端に突き刺さるような頭痛を覚えた。しかし彼は、すぐに神経を集中させ意識を保った。
彼は近くに十歳くらいの少年が立っていることに気付き、慌てて駆け寄った。
「大丈夫か」
真っ直ぐ前を見つめる少年の眼差しはぼんやりとしていた。直後、彼はパチパチと瞬きをすると、頭を振ってこう言った。「大丈夫だよ。何が起こったの?」
「今の爆発は・・・・・・」
少年は戸惑いつつも、興奮したように彼の言葉を遮った。「爆発ってなに?どこが爆発したの?スゴイの!?」
少年の目には炎が映っている。それがまるで何もかも燃やし尽くしたかのようだった。
「1908年、アメリカのホワイトハウスで爆破事件が発生した。死傷者は出なかったが、現場にいた人々は爆破などなかったと証言した」
頭にあの男の言葉が浮かんできた。ゼンが周囲を見回すと、その場にいる誰もがその少年と同じように何が起こったのかわかっていないようだった。
その中の一人の青年に見覚えがあったが、ゼンはどこで彼と会ったのかすぐには思い出せなかった。その青年の手には懐中時計が握られていた。そして、彼は複雑そうな眼差しをしてその場から立ち去った。
ゼンはその場を離れると、寂れた路地に入った。そこは夜の余韻を残す風が吹き抜けるだけで、誰の姿もなかった。
ゼンは1年後の同じその街に立っていた。何もかもが変わっていないように思えたが唯一違うのは自分が持っていたリストに載っていた人物が消えたということだけだ。
「There is no Vane here.(ヴェインなんて人、ここにはいないよ)」
「Who is Chris?(クリスって誰?」
ーー静まり返った夜の間に、彼らの痕跡は全て消えてしまったかのようだった。
ゼンは何か納得したかのように徐々に目を細めて体を反転させると、街角の向こうに消えていった。彼がいなくなった方向からは、どこからともなく美しいバイオリンの音色が流れていた。