箱庭世界・夢の外
シモン・夢の外
静まり返った路地裏で、シモンはゆっくりと目を開いた。彼女が彼の胸の中で深く顔をうずめている。彼は手に力を入れようとしたが、肩が少し痺れていて、しばらくしてようやく動かせるようになった。
彼は顔を上げて周囲を見回した。路地の向こうにはかすかに車のライトが見えている。彼は彼女の柔らかい髪の毛に頬をすり寄せた。頭の中は乱れた湖面のようで、現実味がなかった。彼女の服が真っ赤に染まっていることに気付いた彼は、その体に怪我がないことを確認すると、再び胸元に抱き寄せた。シモンは軽く身じろいだ。記憶がぼんやりとしていることに彼は眉をひそめ、そして彼女を抱いて路地の奥に止まっている車のヘッドライトの方へと去っていく。
窓の外では雨が降り始め、止む気配はない。彼女はベッドに横たわり、不安そうな顔をして眠っていた。シモンはそっと手を伸ばして彼女の眉間のしわをなぞった。夜の闇の中で彼の目がかすかに輝く。静かに彼女を見つめている間は、まるで時間の流れが遅くなったように感じられた。どれほど経った頃か、彼はようやく彼女から離れた。まるで最初から自分がそこに居なかったかのように。
過去の思い出が胸を過ったその時、シモンは心臓が強く収縮するのを感じた。左胸が、誰もいない暗闇の中でかすかに熱を発している。彼は廊下の突き当りまで行くと、何度も身分確認を行ない、更に薄暗い研究室の中へと入っていった。
彼は慣れた様子で椅子に座ると、装置を身につけた。目の前の電子パネルに猛烈なスピードで数字が次々に表示される。瞬く間に無形のものが形のある波型へと変わり、保存されていった。
どれくらいの時間が経っただろうか。シモンの額にはうっすらと汗が浮かんでいた。彼はようやく息をつき頭に装着していた装置を外すと、包帯に手を伸ばしてシャツから透ける傷口に手際よく巻いた。それからシモンは印刷したばかりの書類に素早く目を通し、それらの記録資料を「Memory」と書かれたフォルダの中に格納する。
モニターの冷たい光が瞳に反射し、言い知れぬ冷たさを放っていた。しかし、ある人物の姿が走馬灯のように頭に浮かぶと、その目付きが和らいだ。それも一瞬のことにすぎなかったが。
実験室を出たシモンにはわかっていた。まだ多くの問題が彼を待ち受けているのだということを。