箱庭世界・見下ろす夜景
ハク・見下ろす夜景
風が夜空で自由な旋律を奏で、街の明かりがゆっくりと消えて眠りに落ちていく。久しぶりに平穏な夜が訪れた。
ハクは屋上の隅にある階段にもたれかかっていた。ぼんやりと街の夜景を見渡すその顔の眉間にはしわが寄っている。BLACK SWANの監視任務では何の手がかりも得られず、テレビ塔の事件で捕らえたEvolver数名の尋問もこう着状態が続いていた。事件の背後にいる卑劣な黒幕は依然として闇に潜み、次の機会をうかがっているかもしれないのに。
風すら通さない分厚くて真っ黒な雲が空を覆っている。ハクは軽く腕を持ち上げて手を開いた。いつものそよ風の中を、コントロールされていない鋭利な黒風が素早く通り過ぎていく。彼はぎゅっと拳を握りしめた。固く握りしめられた拳は自然と震えている。
顔を上げた彼の瞳は影を落し、複雑な感情が映し出されていた。その瞳には、不安ながらも強がっていた彼女の姿が見えていた。それは透き通っているが、はっきりしたものだった。
今はまだダメだ。
彼の目は光を取り戻し、決意を露わにする。彼にはまだ守らなければならないものがたくさんあるのだ。
ようやく雲の隙間から静かに月明かりが辺りを照らし始めた。風の中にはかすかに笑い声が混ざり、夜を彩る伴奏のようになっている。彼はふと遠くに見える水上観覧車に目を止めた。テスト用の明かりがいくつか夜空で輝いている。彼の頭の中に、ある考えが浮かんだ。
彼は夜風に乗って観覧車の前へとやって来ると、星空の景色が描かれたゴンドラの前に降り立った。
見上げると彼女の会社のビルが見え、彼は思わず柔和な笑みをこぼした。
隣では建てられたばかりの科学館がグランドオープンを待っていた。スタッフが深夜になっても入り口を行ったり来たりして、最後の準備と各種調整を行っている。通りには楽しそうに騒いでいる数人のぼんやりとした人影。けたたましく通り過ぎる車の音が静かな夜風を一瞬で切り裂き、どこか遠くへ走り去っていった。陰鬱とした夜の闇に色彩が添えられたかのようだった。
これほど静かで暖かい街なら、彼女にも見せてやりたい。
観覧車付近の小屋からスタッフが出てきた。彼は眠そうに腰を伸ばしている。ハクは観覧車を見つめ、少し考えてから風に乗ってスタッフの元に向かった。