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喰牙 RIZE 2 Story【黒猫のウィズ】

最終更新日時 :

白猫ストーリー

黒猫ストーリー


2017/00/00

目次


Story1

Story2

Story3

Story4

Story5

最終話



主な登場人物



セドリック

ヒルデ

エルロウ





story0 プロローグ



異界の精霊の力が流れ込み、結晶化して、人々に力と使命をもたらす”トーテム”となる。

そんな地に、このクエス=アリアスから流れ着いた、ひとりの戦士がいた。


彼は、故郷を失い、仲間を失い、よるべなき風来の獣となりながら、異郷の地で生きていく道を選んだ。

許せないものを許さない――そんな”牙”とともに。




「……彼らしい。」

セドリックは、穏やかに微笑んだ。


『異界の歪み』を通して現れる魔物たちから、クエス=アリアスを守るために戦う、境界騎士団――その長たる、彼の私室。


向かい合って話をしながら、君は、鞘のような人だ、と思う。

やわらかな態度の奥に、強い芯が通っている。普段は見せることのない心の剣一一研ぎ澄まされてきた覚悟と誓い、そのものが。



「彼のことは、よく覚えているよ。ヒルデという戦士とー緒に、よくエルロウに挑んでいた。

エルロウ隊は、いつもにぎやかだった。それでいて勇敢であり、精強であり、何よりみな、強い意志の持ち主だった。

そのひとりが、今も生きていてくれる。同志として、これほど喜ばしいことはない。知らせてくれてありがとう、魔法使い殿。」


細められた瞳に、あたたかな喜びが映える。冬枯れの野原に、小さな花を見つけたように。

セドリックの来歴を、聞いたことがある。

こことは違う異界で、『異界の歪み』から現れる魔物に対し、多くの騎士を率いて戦った。やがて『歪み』に呑まれ、なおも戦い続けた。


ただひとり生き残り、この世界に漂着した。

そして、今度はこの世界を守るため、同じ境遇の漂着者たちとともに戦っている。

何もかもを失いながら、同じように何もかもを失った者たちの長として、数多の死を背負い続ける男。

曲者ぞろいの境界騎士団も、セドリックの命令には従う。


彼らには、わかっているのだ。

戦いの果て、この異郷の地で命を落とすとしても。セドリックなら、無言でその死を背負ってくれるだろうと。 



「それにしても、君は不思議な存在だ。異界を超えて、無事に戻ってこられるとは。

ひょっとすると、君にも、オルハさんのような特異な素質が――」


言いかけたところで、セドリックの顔色が変わった。

何事か、と厨しむ暇はなかった。

君とウィズの周囲に、謎めいた光が満ちあふれ、竜巻のように渦巻き始めたのだ。


「にゃにゃ!?」

まさか、と思いながらも、君はあわてて、ウィズを抱き寄せた。


直後。

脳を隅から隅まで洗われるような、強烈な魔力の波濤に呑み込まれー―


君は、なすすべもなく意識を失った。


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story1



光が止むと、見知らぬふたりが目の前にいた。


「え。」

「え。」

え。

「「ひいいいいいいいいいい!?」」


年端もいかぬ少女と、痩せた中年の男。

ふたりは、君を見るなり、悲鳴を上げて後ずさった。


「いきなりなんにゃ!叫びたいのはこっちの方にゃ!」

「「猫がしゃべったああああー!!」」


師匠が事態を悪化させているのを横目に、君は周囲の光景を確認する。


色鮮やかな葉をつけた、風雅な木々。見上げれば、彩り豊かな峻峰が立ち並んでいる。

どうやら、どこかの山のなからしい。と言っても、こうも鮮麗な化粧を見せる山など、トルリッカの周囲にあろうはずもない。

やはり、また異界に飛ばされてしまったのか。


「か、勘弁してくれえ!」

君が考え込んでいる間に、中年の男が、情けない声を上げて逃げ出した。


「あっ!待って!」

少女の方は、涙目で縮こまりながらも、逃げる男の背に、何かを投げ放つ。

奇妙な目と口を備えた器具が、見覚えのある符をゴクリと呑み込むのを、君は確かに目の当たりにした。


「ライズー―”天空の炎翼”!」


器具が、ぼっ、と激しい炎をまとった。それを翼のように広げ、逃げる男の背に向かって飛んでいく。

「ライズ!?ここはラディウスたちのいる異界にゃ!?」


君は咄嵯に、男と少女の間に割り込み、懐から力―ドを取り出して、呪文を詠唱した。

紅蓮の翼を生やし謎の器具を、防御の魔法で打ち弾く。そうしてから気づく――

今の火弾は、男への直撃を狙うものではなかった。威嚇のつもりだったのだろう。


ただ、君が火弾を防いだのを見て、少女の顔色が、明らかに変わった。

あどけない相貌に、恐怖と戦慄の色が浮かぶ。小さな手が小刻みに震え、つぷらな瞳に大粒の涙が盛り上がった。

「あの子、怯えてるにゃ。」

弱ったな、と思いながら、君は両手を広げ、敵意のないことを示そうとした。

すると少女は、もごもごと口を動かす。


「む……。」

む?

「無理ぃーーーー!!」



少女がやけくそのような叫びを放つや否や、その全身から膨大な魔力の渦が吹き上がった。

すると、謎の器具が3つ、宙に浮かんで、魔法陣のようなものを形成し――

そこから、何かが姿を現した。


「〈紅の焔鬼〉、〈焼き尽くす禍い〉――〈怪炎の魔神〉!」


すがるような少女の声に応え、それは、ゆっくりと吐息する。

烈火を散らしたような赤銅の肌が、隆々と脈打つ。牙持つ口元に凄絶な笑みを浮かべ、黄玉のごとき瞳を爛々と光らせる。

君は思わず、息を呑む。

ただの怪物とは思えぬほどの、圧倒的な存在感。

目の当たりにしているだけで心が震え、湧きあがる畏怖の念に膝を折りたくさえなる。


「精霊――じゃないにゃ!この力は……。」

さしものウィズが、明確な緊迫と戦慄の声で、君に警告を発した。

「おそらくは――神の力!その発現にゃ!」


赤銅の魔神は、然りと肯定するかのごとく咆嘩し、巨大な火柱を噴き上げた。



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story2



怪炎の魔神が腕を振るうや、君の足元にカッと激しい熱気が宿る。

危機を感じて、君は真横に駆けた。その足跡を追いかけるように、焦熱の火柱が、次々と地を割って噴き上がる。

先はどから魔神に魔法を放ち続けているが、いまだ有効打には至らない。

あの少女が魔神を呼び出し、操っているのなら、彼女を無力化するのが一番かもしれない。

君は、無力化に遊した魔法のカードを取り出し、一気に少女へ向かって疾走した。

「こ、来ないでえっ!

魔神がサッと君の行く先に割って入り、腕を振るう。

君は一瞬、足を止め、無下に強力な氷の魔法を解き放った。

足元から立ち昇る火柱が、君を焼き焦がす前に凍りつきー―巨大な氷柱と化して、君をグンと持ち上げる。

君は、そそり立つ氷柱の頂上から跳躍し、怪炎の魔神を飛び越え、空中で少女に狙いを定めた。

「ひいっー―

凝然と固まる少女に、眠りをもたらすカードを構えたとき。

「ライズー―〈蒼の彗星〉!

烈声とともに、天から刃が降り落ちた。

流星のごとく地を穿った刃が、爆発的な土砂を噴き上げ、魔法を放とうとした君の視線をさえぎる。

着地した君は、見た。

晴れゆく噴煙の奥一一震える少女を守るように立つ、剣士の姿を。

見忘れようもない、その刃の双眸を。

「化身を退かせろ、アスピナ。」

じっと君に視線を注いだまま、ミハネが言った。

「あの魔法使いは、敵ではない。

「……そうなの?

男の長身に隠れるようにしながら、アスピナと呼ばれた少女が、何やらもごもごとつぶやいた。

怪炎の魔神が、不満そうに唸りながら、その巨体を薄れさせていく。

「呼ぶなら、別の神にすべきだったな。


脇の木立から、別の声が上がった。

いかにも魔道士らしい風体の青年が、苦笑しながら歩み出てくる。

「一歩間違えれば、景観が台無しになるところだ。


「ご、ごめんなさい。いきなりだったからー―選ぶとか、ぜんぜん無理で……。

「なんにしても、大事なくてよかったよ。お互いにな。

ユウェルは、ちらりと笑みを向けてくる。

「また会うとは思わなかったな、魔法使い。ウィズ師もご健勝そうでなによりだ。

「知り合い……なの?

アスピナは、まだミハネの陰に半身を隠したまま、びくびくと君を見つめる。

「エネリーと、同じ魔法を使ってた、けど………。

「出身が同じなんだそうだ。まちがっても、あの女の仲間じゃない。

「いったいどういうことにゃ?

「杖を持った男がいたはずだ。俺たちは、そいつを追っている。

君は、逃げていった中年の男を思い出す。言われてみると、確かに、長い棒のようなものを持っていた気がする。

その杖に何か問題が? と尋ねると、ミハネはうなずいた。

「エネリーが作った禁具だ。

「あの女、しぶとくも生きていたそうでな。何に使うつもりにしても、ろくなものじやないはずだ。

「再会早々なんだが、よかったら、杖の回収を手伝ってくれないか、魔法使い。

そう聞いて、見て見ぬふりができるわけもない。君は、こくりとうなずいた。

「協力するのはいいけど、先に、その子のことを聞いておきたいにゃ。」

ウィズの視線を受けたアスピナが、びくりと震える。

「神のようなものを呼び出していたにゃ。この子は、いったい何者にゃ?」

「神”のようなもの”か。さすがはウィズ師、言い得て妙だな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


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story




「んっと……こっち、かな……。

あの謎の器具は、振り子(ペンデュラム)であったらしい。

アスピナが意識を凝らすと、吊り下げられたペンデュラムが、くるくると振れ始めた。

「それで杖のありかがわかるのかにゃ?

「うん。神様が、教えてくれるの。

しゃべる猫からの問いかけに、まだどこかおっかなびっくりという感じながら、アスピナは答えた。

「神様って、さっきのでかいのにゃ?

「あれは、化身。異界の神にお願いして、力のー部を借りてるの。

「そんなことができるのは、〈奪魂族〉でも―握りの人間だけらしい。群を抜いた素質の持ち主ということだ。

だからこそ、あの杖の存在を感知することもできた。」

いったいどういう流れで、あの杖を追うことになったの?と、君は尋ねた。

「君たちが異界に帰ったあと、〈マガシシムラ〉を封印するために、〈號食み〉の聖地に向かっていたんだがー―


途中で、ラディウスがエネリーと遭遇した。

俺とユウェルは、エネリーの足取りを追うことにした。そして、妙な杖の噂を聞いた。

〈奪魂杖〉――神と交信する力を持つ禁具。その買い手を、エネリーが探していた。

「その杖について調べている途中で、アスピナと出会ったんだ。な?」

ダウジングを続けながら、アスピナが、こくりとうなずく。

「私たち〈奪魂族〉は、交神能力を使って、いろんなものを探す仕事をしていて……。

そしたら、あんな杖があるってわかって。なんとかしなきゃって思って……。」

―度、エネリーと交戦したが、逃げられた。そのとき、杖はすでに人の手に渡っていた。

そして、杖の追跡を優先したところで、この世界に現れた君と遭遇した――ということだったらしい。


「〈奪魂杖〉ってことは、〈奪魂族〉と関係があるのかにゃ?」

「ああ。もしかすると、”化転融合”(けてんゆうごう)を行ったのかもしれない。」

「なんにゃ、それは?」

「この世界における禁術の一種だ。人を禁具に変えて、その氏族の能力や特性を再現する。」

つまりエネリーが、〈奪魂族〉の誰かを犠牲に、”神と交信する能力を与える杖”を作った……ということだろうか。

「〈奪魂族〉は、流浪の民だから……どこかで誰かがいなくなっても、簡単には気づかれない。

それに……みんな私たちを嫌ってるから。いなくなっても、せいせいしたとしか思わない――」

うつむいた少女の唇から、やるせない言の葉がこぼれ落ちる。

冬風に吹かれ、木々が葉を落とすようなー―冷たく沁みる悲しみを、仕方がないという諦めのなかに閉じ込めたような声だった。


「見せつけてやればいい。」

だしぬけに、ミハネが言った。アスピナは、驚いたように顔を上げる。


「行方知れずになった幼子を探す。盗まれた物のありかを突き止める。〈奪魂族〉なら、そういうことができる。

いれば、助かる。いなくなれば、困る。そういうものだと、見せつけてやればいい。おまえには、それだけの力がある。」


当たり前のことを言うような口調だった。

その飾り気のなさこそ、彼なりの真摯さのあらわれなのだろう。


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story 初級凰姫山



「見つけた……あっち!」

君たちは、アスピナのペンデュラムが示す方角へ移動を始めた。


「〈奪魂杖〉を買い取るなんて、あの男は何者にゃ?」

「わからん。とにかく、捕まえて吐かせるしかない。」

ミハネは迷いなく、ずんずんと足を進める。

君は、彼と行動をともにした時間は少ない。それでも、並みならぬ精神力と決断力の持ち主であることは、わかっている。

その、研ぎ澄まされた刃のような鋭さは、まるで鈍っていないようだった。


「アスピナは、ミハネが怖くないにゃ?」

「うん。最初は、おっかなかったけど………。

今は、いい人だって知ってるから。」

「不愛想で不器用で直情径行な馬鹿野郎だが、裏表はないからな。」

前をゆくミハネの背を見て、ユウェルが、からかうように言う。

一見アスピナのペースを無視した早足のようだが、実は一定の距離を保っている。先行し、周囲を警戒しつつ、楯となるつもりだ。

そういうことを、黙々とやる人だということが、アスピナにもわかっているのだろう。

「キミも、しっかりいい人アピールをするにゃ。クエス=アリアスの魔道士が、みんなエネリーみたいだと思われちゃ問題にゃ。」


『おばかキラーイ!

あたしよければすべてよし!

死んだと思った? ねえ思ったでしょ?でーすーよーねー死んでないけどー!』

大問題だ、と君は思った。


「クエス=アリアスの人って、みんな猫さんに魔法を習うの?」

「そうにゃ。見習い魔道士はまず猫耳をつけて、猫になりきるところから始めるにゃ。」

イメージ向上を狙ってか、ウィズがファンシーなデタラメを吹き込んでいると。


「いたぞ。」

ミハネが足を止め、前方を指差した。

山道の先-―杖を持ったあの男が、周囲を見回しながら歩いている。

「先に行く。」言って、ミハネは駆け出した。


すばやく距離を詰め、短刀を投げ放つ。

「止まれ!」

白刃が、男の足元に突き刺さった。男は、ぎょっとして振り向く。


「ひ、ひいいつ!

「その杖を渡せ!

「来んな、来んなよう!


男はわめき、むちゃくちゃに杖を振り回す。


すると、杖から赤黒い煙が噴き出した。

煙は、そのまま広がるのではなく、むしろ寄り集まるようにして形をなす。

そうして現れたのは、存在することが何かの間違いと思えるような、何体もの異様な怪物だった。

「あれは……!」


「ひぃいいぃいいっ!なんだこれ! なんだこれぇ!」


「魔物……? いや、なんだ、あれは?

「なんでもかまわん。


鋭く構え、ミハネは言う。


ーーーーーーーーーーーーーーー


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story




「ライズー―〈暁の雪月花〉!」

ミハネは左手に氷の刀を形成し、怪物の群れに飛び込んだ。

「゛真・風華旋風剣、、!」

二刀の生み出す刃の旋風が、怪物たちを鮮やかに斬り散らす。

ミハネは激流さながらの勢いで敵陣を駆逐し、逃げる男の背中へ肉薄した。


「ま、待て!待ってくれえ!

男は泣きそうな顔で杖を放り捨てる。

「お、俺は雇われただけだ! 運び屋だよ!この杖がどんな杖かなんて、知らなかったんだ!」

「雇ったのは、魔道士の女か。」

「そうだ、若ぇ魔道士の姉ちゃんよ!」

「運び先はどこだ。」

「それは――」

男が答えようとした瞬間、ミハネの相貌にハッと緊迫がよぎった。



「ライズ――〈暴火麗炎の竜姫〉!」

「ライズ――〈美しく降る剱の雨〉!」



右からは剣の雨、左からは火の雨が、忽然と現れ、ミハネヘと降り注ぐ。

ミハネは双刀を駆使し、火と剣の雨を弾きながら後退した。

その間に、道の左右から数人の戦士が飛び出し、ミハネの前に立ちふさがる。


「運び先は、今、ここになった。」

屈強な体格の戦士が、落ちている杖を拾い上げて言った。

「運び屋よ。ご苦労だったなー―と言いたいが、依頼品を途中で放り出したとあっては、報酬を払うわけにはいかんな

そして、君たちの方に視線を向ける。


「〈奪魂杖〉を探し当てたか。才能を伸ばしているな、アスピナ。」

気さく、と言っていい口調で声をかけられたアスピナは、信じられないものを見る目で、戦士を見つめている。


「おまえたちは何者だ!その杖を何に使おうとしている!」

「おっと、1度に2個も質問するとは欲張りさんめ。おまえアレだぞ、将来浮気とかするタイプだぞ。つーか訊かれてあっさり答えるわきゃねーだろ。」

「神を降ろす。」

「あっさりさん!!」

槍使いが大仰に驚くのも構わず、戦士は、手にした杖を掲げてみせた。


「大言壮語でないことは、これを見ればわかるだろう。

骨の杖が、ぼうっと朧(おぼろ)な光を放った。


杖から激しい魔力の波動が放たれ、おうおうと唸るような風が吹き荒れる。

ただの魔力ではない、と君は感じた。悲しみに打ち震え、怒りと嘆きに荒れ狂う、その魔力の正体は――             

「死者の魂か……!」

「なんで――なんで、そんなことっ!」

絞り出すようなアスピナの叫びにも答えず、戦士は無造作に杖を振るった。

唸る魔力が赤黒い霧を生み出し、それが、あの怪物たちへと変化する。


「仕留めろ。」

居並ぶ戦士と怪物たちが、その命令に従った。雄叫びと咆啼を上げながら、君たちの方へ突っ込んでくる。

「ヘイ、おまえさんはこっちだ、〈呪具盗り〉ミハネェッ!」

「俺の名を!」

「ウチの業界じゃ有名人だぜ!サインをくれよ! その血でなァ!」

戦士と槍使いが、ミハネに襲いかかる。

ライズ使い2人の猛攻に、さしものミハネも防戦を余儀なくされた。

他の戦士たちは、怪物とともに、こちらへ向かってくる。


「〈あたたかき守護者〉〈恵みなす祝福〉――〈陽なる麗猫神〉!

アスピナのペンデュラムが陣を形成。そこから猫頭の女神が現れ、艶やかに結界を構築した。


「果てなき渇きに焼かれしは、心の枯れたる証なり!」

君とユウェルも呪文を唱え、近づいてくる敵の動きを封じ、あるいは一撃を加えて吹き飛ばすがー―

「まずいにゃ! 包み込まれるにゃ!

敵は数の利を活かし、こちらを包囲し始めた。

集団戦になっては魔法は不利だ。逃げ道を探すべきか、と思いながら、君はなんとなく、既視感を覚えていた。

前もこんなことかあった。そのときは、そう、確か――


「ライズ――〈百華一閃〉!」


荒ぶる鋼の刃風が、すべてを散らしていったのだ。


1「面白え祭やってると思ったら、ずいぶんとまあ、見た顔が並んでんじゃねえか。

豪胆きわまる一振りが、数人を薙ぎ払う。

かと思えば機敏に身をひるがえし、新手の剣をかわしざま位置取りを変えている。


「”イリアステル・フリーズ”!」


ラディウスに殺到しようとした怪物たちが、清らかな冷気を受けて、瞬時に凍りつく。

直後、紅蓮の刃が一閃し、氷もろとも怪物たちを斬り潰した。


3「よくわかんないけど、助太刀するよ!

1「ひとつ噛ませな、魔法使い!」


〈魂食み〉の少女と、風来の獣。

それぞれ趣の異なる笑みを浮かべたふたりが、脅威の包囲を捧猛に喰い散らかしていた。


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story



「こりゃだめだ。押し切れねェ。奇襲で仕留め損なったのが痛ェなァ。」

「そうだな。このあたりで退くとしよう。」


3「逃すか!」

武器を引き、距離を取ろうとするふたりへ、ミハネが果敢に斬り込んでいく。

その眼前に、いくつもの火柱が立った。

3「怪炎ッ……!?」

火柱の群れが、両者の間をさえぎる。その向こう側一一戦士の傍らに、怪炎の魔神の姿があった。

ミハネは水の呪装符を使った一閃で、邪魔な火柱を叩き斬る。

しかし、そのときにはもう、彼らは杖ごと、場を後にしてしまっていた。


1「どうも妙なことになってるな。

敵陣を蹴散らし終わったラディウスは、ぶんと剣を振って血のりを飛ばし、縮こまっているアスピナの方を見やった。

1「よう。おまえ、変わった術を使ってたな。ありゃなんだ?」

5「ひっ――」

牙むく獣の笑みを向けられて、アスピナは、すばやく近くの木の裏に隠れた。

虎を目にした野ウサギのような動きだった。

追撃を諦めて戻ってきたミハネが、じろりとラディウスを見やる。

2「アスピナは感覚が鋭い。おまえの呪装符に怯えている。」

3「ラディウスさん、竜とか吸血鬼とか使ってるもんね一。」

ふたりはどうしてここに? と君は尋ねる。

1「西の方で、怪物が人を襲うって話があってな。その原因を探ってたんだ。」

3「そしたら、禁具の気配を感じて。それを追ってきたの。」

神と交信する力を持つ杖。それが、怪物を生み出していたということは、あの怪物たちは……。

5「ただの怪物じゃない……。」

君の視線を受けて、アスピナは、おどおどと告げる。

5「どこかの異界の、神の化身。あるいは、もっと小さな眷属たち……だと思う。」

1「あんな見た目の化身だか眷属だかがいるなんざ、ろくな神様じゃなさそうだな。いわゆる邪神か。」

2「神を降ろす、と奴は言った。」

ミハネは、じっとアスピナを見つめた。

「できるのか。アスピナ。」

「あの杖があれば、たぶん……。」

うつむいたまま、アスピナは答える。

「賛となる魂を捧げれば。あの杖には、もう半分くらい、儀式に必要な魂がたまってる……。

それを聞いて、ラディウスとシューラが顔を見合わせる。


「なんか、思った以上に物騒な話になってんな。」

「だねー。」

「それに、なんで魔法使いとウィズがいるんだ?」

「例によって、いきなり飛ばされたにゃ。」

「またかよ。おまえらも大変だな。」

まあね、と苦笑しながら、君は、ミハネとユウェルが道の脇へ歩いていくのを見た。

そこでは、あの運び屋の男が、腰を抜かしてへたり込んだまま、震えて動けずにいる。


4「正規の運び屋ではないな。金次第で、どんなブツでも運ぶ――いわゆる、裏の運び屋か。」

2「それなら、このあたりの地理には明るいだろう。」

刃の双眸で男を見下ろし、彼は言う。

2「報酬はくれてやる。奴らを見つけ出すのを、手伝え。」

男は、無言でがくがくとうなずいた。


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story 魂すらも失せた村



「誰もいねーな……。」

ファルクは、ぽつりとつぶやいた。

そのつぶやきすら、虚ろにこだましてしまいそうな静けさが、小さな村を隅々まで支配しきっている。


「ところどころ、戦いの跡があるわね。」

無人の村の検分を進めながら、イルーシャが痛ましげに言った。


「例の”怪物”に襲われたのかしら。」

「それにしちゃ、魂が見当たらねーのはおかしい。」


村の片隅に置かれた墓場を見やり、フアルクは怪厨げに眉をひそめる。


「こんな不気味なところ、初めてだ。墓場にすら、霊魂ひとつ残ってね一なんて。


死者の魂は、どこにでも当たり前にいるものだ。

死者と触れ合う〈死焔族〉にとって、”死者の魂が見当たらない”というのは、なんとも侘しく、ぞっとしない光景だった。


「まるでここだけ、きれいに掃除されちまったみてーだ。」

「だけど、”掃き清められた”って感じでもない。」

「”喰われた”ってのが、ありそうなところか。」

苦々しく言って、手にした鎌の柄を強く握る。

魂は、それ自体がひとつのエネルギーだ。人の想い、人の自我、そうしたものを形作る、根源的な力を秘めている。

だからこそ、何かしらの方法でこれを喰らえば、己の力として利用することも可能となる。

無論まっとうな手段ではない。外道にして外法。この世界においては禁術と呼ばれるべきもの。


「どこかの誰かが、怪物を操っている。そいつらを使って村を襲わせ、人の魂を喰らわせている。

とすれば当然、何か目的がある。何百人もの魂を使わなきゃならないような、途方もなく大それた目的が。

それが何かはー―」


イルーシャは、スッと目を細めた。

「訊いてみた方が、早そうね!」


言うなり、携えていた銃を背後に向け、狙いをつけたとも思えぬ速度で発砲した。

魔力の弾丸が、家壁を穿つ。

同時に、その家の陰から、何かがサッと飛び出すのが見えた。


ファルクは、駆け出しながら鎌に呪装符を喰らわせた。

「ライズー―〈凶騒の支配者〉!」


するりと敵影に肉薄し、禍々しい咆嘩を上げる鎌を振り抜く。


「ふっ!」

白刃が閃く。なめらかに抜き放たれた長剣が、うまく鎌のー撃を受け流していた。


旋回し、相手の側面に移動。いくつもの円弧を刻むようにして、すばやく鎌を撃ち込んでいく。

相手は踊るように後退して鎌をさばきつつ、細身の剣の柄に生えた口へ、呪装符を突っ込んだ。


「ライズ――〈冥闇騎士〉!」


剣から鋭い間色の魔力が放たれ、両者の間の空間を裂く。

それで一瞬を稼いだ相手は、大きく飛びすさり、距離を取った。


背の高い、女だ。どことなく、針を思わせる鋭さがある。隙を見せれば即座に貫かれるような一一


「この状況と無関係……なんて、まさか、おっしゃらないでしょう?」

女に銃を向けながら、イルーシヤが隣に並ぶ。

「事情を。聞かせていただきますわ。なんなら、魂になってからでもね。

”死人に口なし”は、〈死焔族〉には通じませんことよ!」

「姉ちゃん、それ悪役のセリフ。」

「勝てば官軍!」

「それもな。」

ぶつくさ文句を言いつつも、ファルクは姉とタイミングを合わせ、女戦士に向かっていった。


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story その名はスタード



「あれ? なんか、めっちゃ増えてる。

今後の手はずを確認したところで、レイルとフレーグが合流してきた。


「レイルたちもー緒にいたんだにゃ。」

「シューラさまが禁具の気配を感じたとのことで、二手に分かれておりましてな。」

「ていうか、むしろなんであんたがここにいんの?魔法使い。しゅぱーって光って消えたのに。」


レイルとフレークとラディウスは、〈號食み〉の聖地で正式に、シューラの護衛として雇われた、ということだった。


「私がためてきたトーテムの力、だいぶなくしちゃったから。」

「だから、また各地を巡って、十分に力をたくわえるまでの護衛ってわけだ。」

意外だ、と君は率直な感想を口に出す。レイルたちはともかく、ラディウスは、一人旅を続けるものだと思っていた。

「たまにはいいかと思ったのさ。〈號食み〉の一族は、金払いも良かったしな。

あと、まだシューラに勝ってねえ。


「無理でしょ。永久に。」

「るせーな。俺だって大食いには自信あんだよ。〈號食み〉相手でも、勝てねえこたねえ。はずだ。」

「ハハハハハハハハ。」

「てめ。顔。」


合流したレイルたちにも事情を説明し、今わかっていることをまとめると――

4「奴らは〈奪魂杖〉で怪物を生み出し、人々を襲わせ、魂を集めていた……ということだな。」

2「そして、その魂を費として捧げ、邪神を降ろそうとしている。」

ミハネは、ちらりとアスピナに視線をやった。

2「あの男も、〈怪炎の魔神〉を呼んだ。同じ〈奪魂族〉か?」

問いに、アスピナは悄然とうなずく。

「あの人……スタードは、〈奪魂族〉の戦士なの。

2年前……族長が、邪神に魅入られて、それを降ろそうとして――

スタードは、他の氏族の戦士たちとも協力して、族長を止めるために戦ったの。

邪神の降臨は止められたけど……その戦いで、村は人の住めない場所になって……トーテムも、吹き飛んじゃった。

だから……〈奪魂族〉はみんなに嫌われてる。゛邪神を降ろそうとした民。って……そう言われて。」


故郷を失い、流浪の身となり、さすらう各地で忌み嫌われる氏族――

アスピナのおどおどした態度は、他の氏族の嫌悪や畏怖の視線にさらされてきたせいなのかもしれない。


「また神を降ろしたら……今よりもっと、嫌われちゃうのに。なのに、どうして――」

「止めるしかないだろう。」

その場のすべてを断ち切るように、ミハネが断じた。

「スタードが何を企んでいるにせよ――外れた道は、断つしかない。」

「そうだな。わざわざ”神を降ろす”と告げたのは、アスピナを混乱させるためだろう。

逆に言えば、それだけアスピナの力を警戒しているんだ。化身を呼べる〈奪魂族〉は少ないからな。」

「悩んでも答えが出ないときは、とにかく今やるべきことをやれ。」

「うん……。」


1「そうそう。連中が何をやろうとしてるかなんざ、ブッ飛ばしてから訊きゃあいい。」

「ひいっ。」


『バリアー!』

ペンデュラムが、ひとりでに展開し、ラディウスの前に障壁を張った。


「しゃべったにゃ。」

3「珍しい呪具だね一。」

1「なんでバリアー?」

L「怖いんじゃないの? 顔が。」

「なんか釈然としねえな……なんでミハネは大丈夫で、笑顔の俺はだめなんだ。」

「ハハハハハハハハ。」

「だから顔!」


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story 中級 聖仙川



しばしの休憩を挟んだ後、アスピナのダウジングとシューラの感覚を併用し、禁具のある方向を絞り込んだ。


3「〈聖仙川〉の方だね。トーテム〈流水華聖神〉の影響を受けた、神聖な川だよ。

不浄の存在とは反発する性質があるから川の流れの乱れている方に行けば、追いつけるはず。」


「よし。んじゃ、頼むぜ、おっさん。」

ジャビーと名乗った運び屋の背中を、ラディウスが力強く叩いた。ジャビーは、げほげほとむせる。

「近道を探すのはいいけどよ、あんなのとの戦いに巻き込まれるのは勘弁だぜ。」

「いざとなりゃ、腰の剣で叩っ斬っちまえよ。」

ラディウスは、ジャビーが腰に佩いている長剣を指差した。なかなか立派そうな代物だ。

「こいつは、単なる飾りだよ。別に使えるわけじゃねえ。」

「ふうん。にしちゃ、手入れはしてるようだがな。」

さらりと目ざといことを言ってから、ラディウスは後ろを指し示した。

「戦わなくてもいいけどな。多少の危険は覚悟しとけ。アスピナだって、がんばってんだからな。」

言われて、ジャビーは、ちらりとアスピナの方を見た。

少女は、震える唇をきゅっと結び、涙目のまま、前を見据えている。

「……わかったよ。けど、やべえと思ったら、とんずらさせてもらうからな、俺は。」

ため息を吐いて、川を先導し始める。猫背気味の背中に、なんとも言えない哀愁が漂っていた。

ミハネとラディウスが、その両脇に並んだ。


「あのふたりが前衛なら、安心だな。スタードたちとも渡り合える。

しかし、見知った面々が、こうも続々と集まってくるとはな。」

「みんな、禁具を追いかけてたからじゃない?」

「その手の話に首を突っ込む面々が、―堂に会しやすいのは確かだがー―」

ユウェルは、困ったように君を見た。

何かに引き寄せられたのかもしれないね、と君は言う。

「その”何か”が、災いの類でなければいいんだが。」


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アスピナとシューラの示す方角を目指し、ジャビーが導く近道を通っていくと、やがて、川が震えるような感覚があった。


3「あっち!禁具があるんだ。近いよ!」

L「よーし、フレーク、ラストスハート!ライズ――〈神威の幻獣〉!」

 「それ、疲れるんですけどねえ。」

3「ライズー―〈震撃の突貫公女〉!」

5「〈命の御柱〉、〈光の礎〉――〈大いなる翼蛇神〉!」


レイルとシューラが加速の呪装符を使い、アスピナが翼ある蛇神を呼び出した。

君たちは、それに乗ってー気に距離を詰める。


しかし、飛んでいった先にいたのは、スタードではなかった。


「おっ。いい具合に釣れたねェ。」


L「あれっ、あいつだけ!?」

「悪いなァ、フェイクさ。ここにあるのは、禁具は禁具でも、〈奪魂杖〉じゃねエ。俺の個人的なコレクションよ。」

4「コレクションだと?」

「そうよ。俺は〈優麗都雅なる凛黒竜〉をトーテムとする、〈凛竜族〉のバルチャス。禁具の収集が趣味なのさ!」

バルチャスが、バッと巻物を広げた。

するとそこから例の怪物が――邪神の眷属たちが次々と現れる。

5「なんで!?杖もないのに!」

「これなるは〈写秘捺(しゃひな)〉!魚拓取るみてェに何かをベターッとやると、中に封じておけるってェ面白禁具よ!

人間を入れると狂っちまうんだが、邪神の誉属にゃ関係ねェようだなァ!」

4「軽々しく禁具を使ってくれるものだな!」

「そりゃおめェ、禁具ってなァ使うが華だからよ!

”芸術を愛し、芸術を生み出す礎を愛す”!それが我が氏族の使命つてヤツだ。んで俺ァ、なかでも禁具に目がねェのさ!

禁具はよう、こうなってくれたならなァってェ根源的な欲望の具現化よ! つまりこれにゃあ、生々しい人の本質ってもんが詰まってる!

好きなんだよなァ~それが!倫理も道徳も飛び越えたとこにあるギラッギラの感情!

〈写秘捺〉もよォ、愛する人とー緒に入って、閉じた世界で暮らすために作られたんだぜェ。入ったら狂うってのにゃっちまうんだよなぁ!」


喜々として語るバルチャス。〈翼蛇神〉の背に乗っていたミハネが、珍しく嫌悪をあらわにする。

「禁具は、邪な欲望が生み出す外道の産物だ。おまえの使命は、そんなものを愛するためのものではあるまい。

「冷めたこと言うなよセンパーイ!俺ァ、あんたのこと尊敬してたんだぜ?〈呪具盗り〉ミハネ!

強くなりてェ一心で、呪いの刀に手を出した。すっかり心を魅入られて堕ちたは血塗れ羅刹道(らせつどう)命もろとも呪具を盗る、非情の烈刀ここにあり!」


ミハネの顔色が変わった。刃の双眸に炯々(けいけい)たる怒気が満ち、すさまじいまでの殺気がほとばしる。


「黙れ!」

「いーいじゃねェの俺ァ好きだぜそういうの!殺人コレクター同士、仲良くしようやセンパーイ!」

「戯れるなッ!」


〈翼蛇神〉の背を蹴り、ミハネが跳んだ。刀を抜き放ち、眷族の群れへ身を躍らせる。


4「あの馬鹿、あっさり挑発に乗って!

1「しょうがねえだろ。そういう奴だ。


ラディウスも、シューラの作り出した角獣型の魔力から跳び下りた。



1「ライズ――〈屠竜の剛双刃〉!」

左手に炎の大剣を生み出すや、双の剛剣で眷属どもを薙ぎ払い、強引にバルチャスヘの道を切り拓く。

「おおっと、竜族相手に〈屠竜の〉とは、洒落た真似してくれんねェ!」

2「ライズ――〈白銀の竜騎士〉!」

ラディウスの剣撃から転がって逃れたところへ、高々と跳躍したミハネが高速で落下してくる。

「のわっ、とと、こいつは予想外――」

「「はあっ!」」

呼吸を合わせ、ふたりが同時に斬りつける。

バルチャスは、意外と細やかな槍遣いでふたりの連撃をいなし、大きく後退した。



3「まったくあいつらときたら、作戦ももなしに前に出る!」

4「文句は後で。今はとにかく後方援護!」


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「ロード――〈優麗都雅なる凛黒竜〉!

そゥら!”凛黒竜の極印”とくらァ!」


トーテムの力を引き出したバルチャスが、大きく開いた口から、漆黒の霧を吐き出した。

ラディウスとミハネは即座に後退した。しかし、わずかに霧を吸い込んでしまい、苦悶に顔を歪める。

1「毒か……!いやらしい真似しやがって!」

「ブハハハハハハハハッ!ちィィィィかづけまいッ!」


5「〈翼蛇神〉!」

怪物たちを蹴散らしていた〈翼蛇神〉が、濃々たる毒霧の渦中へ飛び込んでいく。

輝ける翼のはばたきが、魔性の毒を吹き払った。


その奥に見えるバルチャスは、歪んだ鏡を両手に構えている。

「あいにく、そいつを待っていたァ!」

蛇身が、鏡に映る。

チカッと鏡が光を反射した瞬間、〈翼蛇神〉が身悶えし、でたらめに暴れ始めた。 


1「うおっ、と、いきなりなんだ!?」

「これなるは〈狂神鏡〉!神の在りようを捻じ曲げる禁具!こういうときでもなきゃ使いようのねえガラクタよ!」

〈翼蛇神〉が、ぐるりとこちらに反転した。爛々と光る瞳が、アスピナを見つめている。


4「まずいぞ、アスピナ!制御を!」

5「む、無理!声に応えてくれないよぉ!」


〈翼蛇神〉の翼が空を撃つ。

飛び上がった蛇身が、烈風を巻き起こしながら、アスピナめがけて急降下した。

「ひっ……!」


君は縮こまるアスピナの前に飛び出した。即座に呪文を唱え、防御障壁を展開する。

賭けだった。荒ぶる神の一撃を止められるか否か、その確信はまるでない。

それでも、やらないよりはマシだった。君はとにかく、すべての魔力を障壁に注ぐ。

「ロード――」

そのとき、とん、と軽い感触が障壁を打った。


2「〈不動なる剛烈刀〉!」

後退してきたミハネが、君の障壁を踏み台に、〈翼蛇神〉めがけて跳び上かっていた。

吹き荒ぶ烈風が、その身を鋭く切り刻む。血の華にまみれながら、ミハネは構えを崩さない。

決死の一刀を、神に浴びせるー―ただそのために。


4「渇せし者に、うたかたの杯を!」

3「ライズ――〈鮮血の貴公子〉!」


ユウェルの魔法とシューラのライズが、〈翼蛇神〉の動きをわずかに遅滞させる。

それで、ミハネの刃が先んじた。


「”剣閃嵐舞「サカサクラ」”!!」


蒼刃が、幾度、閃いたのか。君に数えられたのは、4つがせいぜいだった。

実際には――〈翼蛇神〉の頭部は、10を超える新線に断ち割られ、魔力の飛沫を散らして消えた。


「嘘だろマジかよ神斬るかァ!?だったらお次はこの禁具――」

「うっさい、竜の恥さらしッ!」

バルチャスが取り出した新たな禁具を、レイルの鎖鉄球が的確に捉え、手元から吹っ飛ばした。

1「いい一撃だ、レイル!」

滑り込むように、ラディウスが双剣で斬りつける。バルチャスは槍で防御しようとするが、その反応は明らかに遅かった。

1「”龍滅十字斬”!」

双剣が、その名の通りに十字を刻む。

竜頭の槍戦士は、よく回る舌ごと、その頭部を十字に断ち割られ、どさりと仰向けに倒れた。


「あきれた野郎だ。」

炎の剣を消しながら、ラディウスがつぶやく。

「俺が斬る前に、死んでやがった。」

「禁具を使った反動かなぁ。神様を歪めるなんて無茶するから。

とてとてと近づいてきたシューラが、バルチャスの使った禁具を〈號食み〉の槍に仮封印していく。


一方、君とアスピナとユウェルは、血だらけになって膝をつくミハネのもとへと駆け寄っていた。

「ミハネさん、だいじょうぶ……!?」

「ああ。生きている。魔法使い、足場を作ってくれて助かった。」

そういうつもりじゃなかったんだけど、と苦笑しながら、君は治癒の魔法を施していく。

「まったくおまえは……俺とシューラ師の援護がなかったら、良くて相打ちだったぞ。」

「おまえの魔法が届く距離だ。五分五分と踏んだが、シューラ師のおかげで勝ち目が増えた。」

「相談もなく人をあてにするな!」

「それより、問題は〈奪魂杖〉だ。」


仮封印を終えたシューラが、ふるふると首を横に振る。

「やっぱり〈奪魂杖〉はなかったよ。それに、さんざん禁具が使われたせいで、〈聖仙川〉の気が乱れちゃってる。

これじゃ、近くに禁具があっても、気配を感じるどころじゃなさそう……。」

1「それも、ここで足止めする理由のひとつか。命を懸けてスタートを逃がそうなんて、そんなタマには見えなかったがな。」

4「ご自慢のコレクションを使い倒したかっただけかもな。」

「アスピナのダウジングならどうにゃ?」

5「たぶん、無理。それでつかめるなら、こんな罠に引っかかってないから……。」

4「あちらも〈奪魂族〉だ。ダウジングを使われるとわかっていて手を打ったんだろう。あるいは、何かの禁具で隠匿しているか……。」

L「つまりー……あいつらがどこに行ったか、わかんなくなっちゃったってこと?」

君たちは、思わず沈黙した。明確な打開策は、誰の頭にもなかった。


「あのよ。」

そこで声を上げたのは、意外な人物だった。

離れて様子を見ていたらしいジャビーが、ひょこひょこと近づいてきて、自信のなさそうな顔で告げる。


「ひょっとしたらだけどよ……奴ら、北の街に向かったかもしれねえ。

大きな街だからよ。人もブツもまぎれこめるし、逃げる手段もたくさんある。ブツを受け取った奴は、だいたいそこから高飛びしてんだ。

そこで受け渡しをすることも多いからよ。近道は知ってる。金をもらえりゃ、案内するぜ。」


みな、じいっとジャビーを見つめた。ジャビーは、情けない顔で縮こまった。

「な、なんだよ。やめろよ、そういうの、なんか、こ、怖えじゃねえかよ……。」


3「ああ、ごめんごめん、ちょっと驚いちゃって。」

2「騙すつもりとわかれば、即座に斬る。」

「か、金さえちゃんと払ってもらえりゃ、そんなことしねえよ!

それによ……俺だって、その、ちょっとは責任感じてんだよ……あんなやベェ奴らの片棒担いだと思うとよ……。」

どこかしょんぼりと、ジャビーは言った。


「いいんじゃねえか。他にあてもねえしな。」

あっさりと言って、ラディウスはジャビーの肩を叩いた。

奴らに追いついて、邪神の降臨を止められるかどうか。ひとつ、おっさんに世界を託してみようじゃねえか。」

「そういうプレッシャーのかけ方やめろよ!」

ジャビーの悲鳴が、せせらぎのなかにこだました。


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