【黒ウィズ】覇眼戦線 Story
2015年1月14日16:00~2015年2月4日15:59 |
目次
プロローグ
“我ら傭兵は故郷を持たず、家や曖炉のぬくもりも、心温まる団欒も、なにもかもない”
鼻から息を吐きながら、ウィズは大きな壁画を眺めていた。
“ゆえに我らの心には常に冬があるのだ”……
「っていう事だと思うにゃ。」
街からほど遠くないその場所に、突如としてその遺跡が現れたのはつい最近のこと。
君たちは、おそらくは他の異界にあるべきその遺跡の調査にやって来ていた。
ウィズは手元の文献と自分の知識だけで見た事もない文字の意味を推測し、読み取っていく。
「どうやら過去の戦争の記録みたいだにゃ。
本当だったらこの壁画、あっちからずーっ……と長く続いているはずにゃ。」
この世界ではきっと長い間争いが続いていたんだな、と君は思う。
その時君は、ふと壁画の一部……。
瞳を隔てて睨み合う、ふたりの指揮官の絵に目を止めた。
どちらの人物も、特徴的な兵士たちを大量に引き連れている。
赤い瞳が見上げ、青い瞳が見下ろす……
その構図は、不思議と君の心を掴んで離さない。
「……んん? この絵、女の子にゃ?」
ウィズの言うとおり、描かれたふたりの指揮官は、ともに長い髪をしている。
それに装備や武器も、他の兵たちとは大きく趣が異なっている。
ウィズによると、その下に描かれた叙事詩の一文には……。
「目の力持つもの、戦いの時の中に消える」と書かれているらしい。
「昔の文章は詩的すぎてわからないにゃ。そろそろ調査を終わらせて帰るにゃ。」
君はウィズの言葉にうなずく。
興味をひかれるのは確かだが、長居をするつもりはない。
君は壁面についての報告書をまとめようと壁面を背にしてペンを手に取り……。
隣に、知らない誰かが立っていることに気づく。
その人物……否、“人物たち”は白銀の鎧に身を包み、虚空の一点を凝視していた。
「……なんだか、変な空間が開いたみたいにゃ。」
警戒を強める君の耳元で、ウィズが小さくつぶやき、それに対して君はうなずく。
「ヘタに身動きをしないほうがいいにゃ。異変が過ぎるまで耐えるにゃ……!」
そうしてどのくらい経っただろうか。やがて、君たちの周りの空気が一変する。
濃い砂埃、目を焼く強い陽光、耳をつんざく爆音……。
武器と武器がかち合う音、叫び声、獣の断末魔……。
「にゃにゃ! ここは、まさか……!」
息を飲むウィズの隣で、君はゴクリと喉を鳴らした。
そう、君の目の前では今、戦争が繰り広げられている。
精霊や魔法の力に頼らない、武器と兵器で戦う生々しい戦争が……。
story1 初級 ただ走る、戦場
兵士
うおおおお!
陽光を受け煌めく刃が振り下ろされる。
君は何とかそれをかわし、手にしたカードに魔力を込める。
兵士
なに!こいつ、魔法を使うぞ!?
早く!今はとにかくここから逃げるにゃ!
ウィズの声に導かれるようにして、君はとっさにレンガ造りの壁に身を隠した。
一体どうなってるにゃ………
兵士
猟兵、あの壁の向こうだ!撃て!
息つく間もなく、耳をつんざく発砲音とともに金属片が壁に撃ち込まれる。
まさか銃まで……。魔法があんまり使われて無いのも気になるにゃ。
気をつけるにゃ、この異界……。私たちには魔法ばかりの世界より危ないにゃ。
深刻そうなウィズの言葉に君はうなずく。
君の魔法は、このような乱戦の中で使う事は難しい。
状況に応じて力―ドを選び、その精霊からの呼びかけに答える。
精霊を召還するには、飛び交う弾九や矢をかわしながら、それらを行う必要があるからだ。
そのことを、ウィズは強く警戒していたのだった。
ここも危険にゃ。とにかくどこかに隠れて様子を見るにゃ。
自分の魔法を、精霊の力を発揮出来ない状況に、君はかつてないほどの不安を覚える。
まずはあそこの森まで走り抜けるにゃ。頭を低くして、急ぐにゃ!
足の震えをどうにか抑え、君はウィズを抱えて走りだした……!
***
「もう少しで森だにゃ!頑観るにゃ!」
足をひきずりながら、君は懸命に森へと急ぐ。
ここまで来る途中、君は青と白の羽をつけた矢によって右足を負傷していた。
倒れこむように茂みに身を隠すと、君は砂まみれ身体で荒い息をする。
「た、たすかったにゃ……。」
茂みから覗き込んだ戦場は未だ混乱を極め、目を覆うような惨状だ。
舞い上がる砂埃と、鼻につく硝煙の臭いが、君たちのいる茂みにまで漂ってくる。
「本当に私達はココを抜けてきたのかにゃ。……運がよかったにゃ。」
君はウィズの言葉にうなずきながら、思わず息を飲む。
と、同時にホッとしたためか、矢傷の痛みが急に強まり、君はその場にうずくまる。
「早く傷の手当をしないとダメにゃ!」
ウィズは君を心配するか、治療をしている暇はない。
君には解っていた。誰かが、君たちの背後から近づいて来ていることが――!
その方向へ、君は痛みに苦しみながらも手にしたカードに魔力を込める!
だが。
???
……勘はいいみたいね、魔法使い。
誰にゃ!!
誰も彼もないわ。私はイスルギ。
あなたたちは、私の名前を知ってる?
……フン、知るわけないにゃ。
何をするつもりにゃ!
何をする……って、息の根を止めるとか?
そういうのでいい?
なっ……?
あまりにあっけらかんとしたイスルギの言葉に、ウィズも君も続ける言葉をなくしてしまう。
だが、イスルギは全くこちらの態度を意に介さない。
私のこと知らないって時点で敵確定よね、ここに迎れてきた兵士は皆私の顔知ってるし。
それにあなたたち、人間のくせに魔法上手よね。亜人じゃないの?
……まあ、いいか。僅しい奴はとりあえず連れていけば……。
足も怪我してるし、ちょうどいいよね。
剣を構える彼女は、もう言葉では止めようがない。
そう思った君は、まずウィズを自分の背後に隠した。
行くよ。
白銀の刃が、来る!
***
BOSS イスルギ
***
ずいぶんしぶとい魔法使いね。
普通の魔法使いならもう音を上げてるのに。
激しい戦いではあったが、君はまだ何とか立ち続けていた。
……あんまり時間かけらんないのよ。そろそろあの人が出陣する頃だからさ。
呆れたように言いながら、イスルギは自分の手にあるナイフの切っ先を眺めた。
あの人って………
ウィズの言葉に一瞬遅れ、君は背中に剣を突き立てられたような感覚に陥る。
首筋に感じた嫌な予感に、君は素早く振り返った。
私だ。
同時に、君の首にはヒヤリとした感覚が押し付けられる。
……下がれ、下郎。
いつ、目を逸らしただろうか。否、いつ、まばたきをしただろうか。
苦戦しているという報せを受けて来てみれば、ただの魔法使いではないか。
この女剣士は、いつの間に君の前に立っていたのだろうか。
イスルギ、あまり私を落胆させるな。
……申し訳ありません、ルドヴィカ様。
まあよい。お前は出陣の準備を。
承知いたしました……。
言葉を交わすふたりに、君たちは口をはさむことすら出来ない。
君とウィズは、ルドヴィカの殺気に当てられ、身動きを取ることが出来なかったのだ。
……さて、魔法使い。ひとつ貴様に提案がある。
ルドヴィカの言葉に、一段と空気が引き締まる。
さっきまでは耳をうんざくほどだった戦場の音が、遠い。
私に付き従うならば歓迎しよう。歯向かうならば斬り捨てる。
そう君を見据えるルドヴィカの眼光は鋭く、只ならぬ威圧感を放っている。
君は恐怖で動く事が出来ない。
……選ぶがいい、服従か死のどちらかを。
言葉に合わせ、ルドヴィカの剣の切っ先が、君を睨む。
服従……? 紛れ込んだこの異界で、この凄まじい戦場で、兵士として戦う事など出来ない。
この相手と戦わなければ。そしてウィズとともにクエス=アリアスに戻らなければ……。
沸き上がる恐怖を押さえつけ、君はルドヴィカを睨む。
いい表情だ……懐かしい目をしている。
声を出すことも出来ず、首を振ることも出来ない君へ向けて、その刃は振り下ろされ……
!?
ちっ……!
???
確保ォーー!!
???
了ォ解じゃ!
目もくらむ閃光とともに、君は意識を失い、そして………
目覚めた時、君は見知らぬ軍人の前に転がされていた。
ハロー、お目覚めかしら魔法使い。……さて、女王裁判でも始めようかしら?
story2 中級 確執と過去
……さて、女王裁判でも始めようかしら?
相変わらず君は地べたに寝転がされたままだ。
軍人……と言うには少し若すぎる女性が、君を見下ろすように座っている。
その膝では、硬直した表情のウィズが撫でられていた。
さらに、君の周辺には武器を構えた兵士や獣たちが立ち並んでいる。
どう見ても、逃げられるような様子ではなかった。
あ、あの……リヴェータ?その魔法使いは私のパートナーにゃ………
だから助けろっていうのはちょっと聞けないにゃあ、ウィズちゃん。
喋る猫と、亜人並に魔法を使う人間……面白いじゃない。
言いながら、リヴェータは嗜虐的な雰囲気を纏い君を見つめる。
ウィズの助けを求める視線を受けて、君はリヴェータを睨み返す。
フフ……アンタみたいな反抗的な奴の心を根っこから折るのが楽しいのよ、魔法使い。
挑発された君が、ウィズを放せ、と口を聞こうとした瞬間………
君の背中には刃の切っ先が押しつけられ、それと同時に腕が捻り上げられた。
???
口を聞いて良いと誰が言いました?
離してやんなさいアマカド。ねえゲルデハイラ、こいつ使い道あるかな?
そうじゃなぁ……。
ゲルデハイラと呼ばれた白髪の亜人は君に近づくと、縛られた手をほどいてくれた。
まあ弾除けか荷物運びかの。とはいえ、なかなか見どころのある奴じゃぞ、こいつは。
おぬし、イスルギと渡り合っておったな。それからルドヴィカとも。
奴らとの間係はなんじゃ。ソレ次第ではお前を助けてやれんこともないぞ。
ゲルデハイラはそう言うと、リヴェータに視線を送る。
対するリヴェータは、居心地悪そうなウィズを抱えたままニヤリと笑い立ち上がる。
そういうこと。
……とはいえ、遊んでるヒマもなさそうね。
ジミー!兵士たちを叩き起こしなさい、敵襲よ!
…………。
ジミーと呼ばれた兵士は無言のままどこかへと走り去る。
その背中を目で追っていると、どこかで爆発音が鳴った。
ルドウィカめ、もう追いついて来よったか……どうするリヴェーダ。
今はどうしようもないわ、サッサとずらかるわよ!
ゲルデハイラ、そいつ連れて来て。使えなかったらこの猫と一緒に始末していいわ。
言い終わると、リヴェータはウィズを置いてすぐさまその場を去っていく。
足を引っ張るなよ、新入り。ワシの獣はいつも腹を空かしているからの。
にっこりと笑うゲルデハイラに対し、君はひきつった顔で返事をする。
爆発音は近づいてきている。早くこの場を離れなければ……!
***
戦場を走り抜けながら、君とウィズ、ゲルデハイラはあらかた自己紹介を済ませた。
話によれば、グルデハイラはリヴェータとは旧知の仲であるらしい。
君は騎獣の上で、ゲルデハイラに掴まったまま話を聞いていた。
ワシとジミー、それとガンドゥ……あのほら、デカイ猫がおったじゃろ。この三人は同郷じゃ。
亜人のくせに魔法を全く使えないワシに、リヴェーダは別け隔てなく接してくれた。
……だからの、ワシはお前たちにひどく当たるようなことはできんのじゃ。
人間のくせに魔法を使えるお前と……猫のくせによく喋るお前さんにはな。
この世界では亜人しか魔法を使えないにゃ?
ああ、基本的にはな。人は剣や銃で身を守り、我々亜人は魔法で身を守っておる。
……だが不思議なことに毛の白い者は魔法が使えん。ワシのようにな。
彼女は一瞬悔しそうな顔をして、その直後騎獣の足を突然止めた。
ど、どうしたにゃ、ゲルデハイラ。
ウィズの言葉を無視して、ゲルデハイラの毛がざわざわと大きく迎立つ。
彼女は歯をむき出しにしながら、森の一点を凝視していた。これは……。
……敵、かにゃ?
ああ、そうじゃ………
ワシとジミーとガンドゥ、そしてリヴェータが同郷だと言ったな。あれには続きがある。
我々の故郷は、もうこの世界に存在せん。
どういうことにゃ?
我々の郷には他に、エスメラルダ、ヤーボ、ギルベインという者達がおってな……。
奴らは我々の故郷を焼き、裏切った。絶対に許すことは出来ん。なあ、エスメラルダ……!
ゲルデハイラの言葉にあわせて、茂みから姿を現したのは、金毛の亜人だった。
アッハ!白毛のゲルデハイラ様じゃない、その後リヴェータはお元気かしらぁ?
黙れ小娘が。多少魔法が使えるからと言って上から目線とはオメデタイ奴じゃ。
ホンっと魔法使えない野蛮人ってヤーね、言葉遣いも汚ければ獣臭くて近寄りたくなーい。
鼻をつまみながら、ゲルデハイラを手で払うようなジェスチャーをするエスメラルダ。
なめるなよ小娘ェ!!
ゲルデハイラは君を騎獣から蹴り落とすと、単騎でエスメラルダヘと突進した
アッハ!来いよ白毛種!!
対するエスメラルダは、鞭を振るって魔力で出来た獣を召喚する!
げ、ゲルデハイラを止めるにゃ!
ウィズの言葉にうなずきながら、君は体についた泥も気にせず、カードを手にした!
BOSS エスメラルダ
なんなのよこの人間!魔法使うとかあり得ないんだけど!
エスメラルダは傷ついた休をかばいながら、魔法獣に乗ってその場を去ろうとする。
逃走を阻止しようと君は魔力を放つが、彼女は新たに魔法獣を召喚し、それを防御した。
断末魔の叫びを残して消える魔法獣の後ろで、エスメラルダは君を睨みつける。
……アンタみたいな甘ちゃんなら、次会った時には狩れそうね。
まあ、それは次の楽しみにしてあげる!
逃かすかッ!
だが、次の瞬間には、エスメラルダは魔法獣と一緒に大きく跳躍し、その場から消える。
ああもう!逃げ足だけは速い……!
……どうするにゃ?
放っとく。今追いかけても分が悪すぎるからのう。
それに……この戦いでお前たちを処分せずに済む良い口実ができたわい。
にかっ、と笑うゲルデハイラに、君たちはホッとため息をつく。
この異界から、自分たちは無事生きて元の世界へ戻れるのだろうか。
……これから先、大丈夫かにゃ。
どうやらウィズも同じ気持ちのようで、君は自分の不安を噛み殺すように彼女を一度撫でる。
先行きの見えない不安を感じながら、君たちはゲルデハイラの後を追った。