幽館に咲く薔薇ミヤビ
6/30~7/12
第一回スペボスホワイトデー1位 チョコ5330個
1位記念イベント→愛惜の棘姫ミヤビ
幽館の仇薔薇ミヤビ
三千世界の鴉を殺し、ぬしと朝寝がしてみたい。
・・・くすくすくす・・・
ああ、煩い。ヒトの声はなぜこうも煩いのか。まるで鴉や獣のようよ。・・・くすくすくす・・・
壊しても、壊しても、ヒトの声は鳴り止まぬ。わっちはぬしと二人きりになりたいだけなのに・・・
世界が壊れるのをみとうなければ、幻だと思えばよい。・・・青い薔薇は幻の薔薇。ぬしが見ているのも、きっと幻・・・
ぬしの愛するヒトというものが、わっちはだあい嫌い。・・・くすくす・・・
なぜわっちを止める?この世界に・・・わっちとぬしの他に必要なものなどあるはずもないのに・・・
わっちはぬしより好きなものはありんせん。だからぬし以外の全てを壊すのでありんす。・・・くすくすくす・・・
ぬしにはわっちより好きなものがありんすか?教えてくれなんし、・・・ひとつひとおつ、わっちが壊してやりんしょう。
幽館の艶薔薇ミヤビ
…………
……客人とは珍しい。ぬし、名は何と?
わっちはミヤビ、この薔薇園の主でありんす。
綺麗でありんしょ、ここに咲く薔薇はどれも他ではお目にかかれぬ一級品。
それそこの、九重に花を重ねた薔薇を見なんし。
可愛らしうござんしょう。……さ、もちっと近くで見てゆきなんし。
……
……はて。
ぬし、その薔薇を見て何も感じぬか?
ほう……ならば、こちらの手鞠のような薔薇はいかがかえ?
…………
……やはり何も変わった様子はないのう。
……はて……
では、その傍らの……螺旋(らせん)に伸びた薔薇がありんす。その香りを……
……なに?
『先から何を試しているのか』、とな。
ふふふ、こうまで効かぬとはな。わっちも観念するほかあるまい。
実はな……ここに咲く薔薇には、すべてにヒトを蝕む『毒』が宿っておる。
それは、ヒトを魅了し、骨抜きにし、全てを捧げさせる魔性の毒よ。
並の人間ならば、この園にひとたび足を踏み入れればたちまち薔薇の虜になる。
そうして薔薇の香につられ、蝶蜂のようにふらりと花に近寄っては、愚かにも手を伸ばし、刺に刺されて指を切るのじゃ。
この園の薔薇は血を好む。指先のかすかな傷口からその蔓(つる)は絡まり、やがて胸へと入り込んで心を囚う。
心の隙間に根を張って、寂しさを浴び蔓を伸ばし、滅びの花を開くのが、この園に咲く妖しの薔薇よ。
わっちもかつては薔薇の一輪。それがいつしか永く生き、人の形を成すまでになった。
この園の薔薇もみなわっちの分身よ。わっちの魔性によりて生き、吸い上げた力をわっちに捧ぐ。
だがつくづくも、奇特なことよ。この薔薇たちのどの魔性も、ぬしの心を暴けなかったとは。
ぬし、さてはこの薔薇たちを凌ぐ強い魔性の使い手か?
それとも、薔薇の誘いに屈さぬほど、心に決めた「いい人」がおるのか?
恋か……わっちはまだ恋を知らぬ。しかし、ヒトに恋をさせるのは得手じゃ。
わっちも薔薇のひとつと言ったな。わっちとて、他の薔薇のようにヒトを狂わせることは雑作も無い。
魔性の効きが弱い相手には、わっちが直に術をかけておる。なに、傍らに添い、名前を呼んで、髪を梳き分けてこの瞳で見つめれば終いよ。
わっちの瞳にはいっとう魔性の強い薔薇が宿っておる。この瞳の薔薇に比ぶるば、園の薔薇などかわゆい野の花。
この強い妖気に正面から当たれば、ぬしとてそう無事ではあるまい。ぬしの心にあるやもしれぬ「いい人」も、わっちがたちまちのうちに忘れさせてみせようぞ。
……どれ、ひとつ試してやろうか。
ふふ、冗談よ。ぬしの焦った顔、なかなかの傑作であったぞ。
……ヒトなど……脆く、弱く、愚かなだけの生き物と思っておった。しかしぬしは、苗床にするにはどこか惜しいような気がするな。
なに、『どうしてそこまでヒトを嫌うのか』?とな。
……そうじゃな。少し……昔の話をしてやろう。
この園の薔薇は魔性の薔薇。なれど、その毒をくぐり抜け花を手折れば、転じて強力な惚れ薬となる。
その噂をどこぞで耳にしたのか、恋に悩む乙女が園に来たことがあってな。
実らぬ恋に身をやつし、思い詰め、弱り果てたその姿をわっちは哀れに思い、薔薇の魔性を弱めてやった。
乙女は薔薇を大切そうに抱きしめると、思い人の元へと戻っていった。
それから幾日、乙女はまた薔薇を求めた。
既に思い人を虜にするだけの薔薇は与えたはずだった。わっちは訝しく思いながらも、仕方なくまた魔性を弱めた。
翌る日も、その次も、乙女は毎日園へ来た。
その頃になると、頼りなげで可愛らしかった乙女の顔は、いつしか欲にまみれた醜い女の顔になっておった。
……巷に「次々と良家の男を骨抜きにしては、金品を巻き上げる悪女」の噂が立ったのは、それから間もなくの事じゃった。
またあるときには、見目のよい色男がある家の令嬢を園に連れてきたことがあった。
その男は世間を知らぬ令嬢をたやすくたぶらかし、虜にした。
令嬢の思いは日に日に増してゆき、やがてその重さを疎ましく思った男はこの園の噂を聞きつけやってきた。
男は、この園に人を溺れさせる毒があるのを知りながら、令嬢を薔薇の海に突き落とし、門を閉めた。
……わっちには、令嬢を毒にかけることはできなかった。
薔薇の毒で浮世を忘れることもできぬまま、ただ扉にすがり泣く令嬢の声は、いつまでもこの園に響いておった。
ヒトの心は醜い。されど、それを糧に咲き続ける薔薇もまた、おなじく醜い。
枯れる理由がない、それだけのことで……今日もヒトの力を奪っては、ただ徒に花を咲かせ続けるばかりよ。
……なんじゃ、何か言いたげな顔をしておるな。
『それで』?ふむ、申してみよ。
……『それで、初めて会った時に』……
『泣いているように見えたのか』…………とな?
………ふふっ……ふふふ……
……くっくっく……そうか、花が涙を流すと申すか。なかなか面白いことを言う。しかし……
……そうできれば、少しは楽なのかもしれぬなぁ。
ふふ、独り言よ。
其れにつけても、ぬしのような人間と話すのは初めてじゃ。
今度は、ぬしの身の上が聞きとうなった。退屈しのぎと思い、ぬしの話を聞かせてくりゃれ。
…………
……そうか、ぬしは『騎士』をしておるのか。
解せぬな。人間は本来、己が欲のために生きるもの。その人間がどうして、他の人間を守ろうとする?
『大切な人がいるから』?それは恋か?この園の薔薇のように術をかけ、互いを縛り合っているのか?
それだけではない、と申すか。友の情も、仲間の信頼も、家族の安らぎもわっちは知らぬ。……術をかけずに、ヒトを縛り置くすべもまた知らぬ。
ヒトはつくづく、不思議な生き物よ。……ぬしはこの世界を、ヒトを、本当に愛しく思っているのじゃな。
……良い退屈しのぎになった。気が向けばまた、この薔薇園に来るといい。
……また会ったな、騎士よ。どうじゃ、この庭もなかなか美しうなったろう。少し手を入れてみたのじゃ。
……ぬしが来るからではない。伸び放題だった薔薇の蔓を、少しむさ苦しく思っただけよ。
そうじゃ、ぬしに良いものがある。手入れのついでに余った花よ。さ、この赤い薔薇を持ってゆきんなし。
安心せい、根を絶った切り花にまで毒はない。ただの薔薇とおなじくして、ただ飾り、香りを楽しむだけのもの。
何なら薬にしても良いぞ?……くく、ぬしをからかうとまことに面白い顔をするな。冗談じゃ。
……今日も暑いな、騎士よ。また薔薇が余った。白い薔薇は好きかえ?
白い薔薇には「尊敬」という意がある。ぬしにも師がいるのなら、この薔薇を贈ってやるがよい。
……そうだな、今日はぬしが今まで出会ってきたヒトの話を聞かせてくりゃれ。
……ん、またぬしか。すまぬ、ここのところ日差しの強さにやられておってな。
今日は黄色い薔薇が咲いた。黄色の薔薇には「友情」という意味がある。ぬしの仲間に、持って行ってやるとよい。
……なあ、ぬしはいつまでもヒトが好きか?いや、何でもない。少し聞いてみただけよ。
……待っておったぞ。今日はぬしに桃色の薔薇を束ねてやった。桃色の薔薇には……
……なに、顔色が悪い?さあな、顔色のよい妖かしがいるというのなら見てみたいものじゃ。
……騎士よ、遅かったな。また、ヒトの話が聞きた…… ……
……っ
すまぬ、少し目眩がしただけじゃ。
『様子がおかしい』?ふふ、そうじゃな……
……いよいよ、隠すのも難しうなってしまったか。 ……わっちは、
……わっちはもうここしばらく、ヒトの力を吸っておらん。
わっちの蔓に囚われていた者どもも皆、今頃は解き放たれておるはずよ。
『どうしてそんな事を』とでも言いたげでありんすな。
易いことよ、……わっちは恋をした。
わっちの想い人はヒトじゃ。脆く、弱く、儚くかわゆい生き物よ。
ぬしのようなヒトに出会って、憧れて……
わっちははじめて、ぬしの愛するヒトというものを、己も愛してみようと思った。……ヒトを苦しめぬ生き物になってみとうなった。
なに、恋をした娘が化粧を覚えるのと同じこと。己を少しでもかわゆく見せとうて、ささいな無理をしたまでよ。
しかし……それももう限界のようじゃ。わっちの力は、まもなく尽きる。
力を失った者は弱り、滅びるのがこの世の理。
……わっちもこれまでは、そうして弱い者を糧に生きてきた。今更、何の未練もありんせん。
屋敷の薔薇もすっかり消えてしまったな。
花々が消え、蔓が短くなり、その端がいよいよこの身体の傍に来ればわっちももう終いよ。
……思えば、ぬしに出会ってこれまで、これほど時の流れを疾(と)く感じたことはありんせん。
初めは、何につけてもわっちの思い通りにならないぬしに、いかにして仕置きをしたものか考えているだけですぐ夜が来た。
そうして、ぬしがわっちの物にならぬのが解せず、気になって頭を悩ませ続けていたら、今度はすぐに日が昇った。
終いには、ぬしの笑った顔を一目見たくなり、どのような薔薇を咲かせて喜ばせようか夢中で考えているうちに、何度も月が昇っては落ちた。
恋とは、かように楽しいものであったか。どれほど永く生きたとて、わっちは恋の前では何も知らぬ幼子同然じゃった。
恋とは、かように難しいものであったか。
『奪う』事だけを考え生きてきたわっちには、『贈る』事は難しく、面倒で、くすぐったく、……楽しいものでありんした。
……恋とは、まことに恐ろしいものじゃった。苗床を失い滅びることよりも、今はぬしに愛想を尽かされてしまう事の方がよほど怖い。
……恋とは、まことに温かいものじゃった。
こうしている今も、ぬしの眼差しひとつでわっちの心はかくも安らぐ。
蔓ももう、とうに短くなってしまったな。この姿を保っていられるのもあと、僅か……
この身体が塵と消える前に……ひとつ、わっちの願いを聞いてはくれぬか?
そう、そこに……残っている薔薇を一本手折って持ち帰り、ぬしの傍に飾ってくれなんし。
妖かし薔薇とて所詮は薔薇。根を失ったものはただの花となり、現世の理どおりに散りて朽ちる。
ただの薔薇になったその一輪の、最期のたったひとひらを、わっちはどうかぬしの目で見送ってもらいたいのでありんす。
散るのも早い花なれど、物言わぬ小さな花なれど、ぬしの傍で残された時を過ごせるのなら、わっちにこれ以上の仕合わせはありんせん。
けれども、もし……あとひとつだけ、わっちに贅沢が許されるのならば……
次に生まれる時は、ヒトを傷つけぬ生き物になりたい。
獣でも、魚でも、また同じ花でも良い。わっちはただ、ぬしの傍らに寄り添い……静かに笑っていられれば……
……そんな顔をしてくれるな。この目で見る最後の顔じゃ、おなごのつまらぬわがままと思い、笑った顔を見せてくりゃれ。
……おお、ようやく笑ってくれた。……好い顔じゃ。
……もっと……近くで……
……
……
………… ……
………… ……
……ここ、は……?
冥土にしては…………明るいのう……
? ……ぬしは……あの騎士の……
……なに?
……わっちが……『滅びていない』……と?
そんな筈はない……わっちは確かに……あの薔薇園と共に滅んだはず……
それに、ぬしの体がそのように大きい筈はない、いや……それとも……わっちの方が縮んでおるのか……?……一体……
『実は』……なんじゃ?
『最後の一輪を、いちかばちかで植えて育てた』……?
『切り花が普通の薔薇と同じなら、そこから新しく生える根も普通の薔薇と同じかもしれないと思って』…… だと……
『……怒った?』じゃない。……呆れて声も出ぬわ……
……ヒトから力を吸えぬ薔薇など、最早妖かしでも何でもありんせん。
魔性を失い、体もこのように小さくなってしまっては……人を惑わすことももう易くはあるまい。
全く、わっちもつまらぬ生き物になってしまったものよ。ただ日を浴びて、水を吸って、静かに花を咲かせるだけの……
……ヒトを、傷つけぬ生き物に。
……ありがとう。わっちの目が覚めるまで、待っていてくれて。
しかし……人を狂わす妖かし薔薇を”挿し木”とはな……ぬしは本当に……くくく……ふふふ……あはは……
……なんじゃ?
『笑った顔は花みたい』?……ふん、きざなことを。メニューに戻る
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野獣先輩
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野獣先輩
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野獣先輩
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野獣先輩
42015年07月16日 18:27 ID:cn66rbl91から250まで全てテキストに起こしたんですけど編集権限が無いんですよね…
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野獣先輩
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野獣先輩
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野獣先輩
12015年07月11日 13:43 ID:bngy2toa弱ボスのセリフもまとめて欲しいです…お願いします