黄昏と終夜の道化師
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黄昏時のシノワール
黒猫ユレアがボクに言いました。
にゃあにゃあ、どこかで人間のニオイがするよ?
ミケ猫フレンがボクに言いました。
にゃあにゃあ、仲間はずれのニオイがいるよ?
白猫レックがボクに言いました。
迷子の迷子の人間さん、アナタのおうちはどこですか?
・・・みつけた!
こんなところで、どうしたの?ここは君みたいな人間が来る場所じゃないと思うけど・・・。
楽しそうな音楽が聞こえてきたから立ち寄った?
あぁ、あれはボクたちサーカス団がお客さんの呼び込みをしている音だね。
ボクはシノワール。あのサーカス団でピエロをやってるんだ。
あぁ、ダメダメ!君は見に行っちゃダメだよ!
そのオルゴールを持って、夜になる前にここを出た方がいい!
ここは記憶の森を抜けた、あの世とこの世のちょうど中間、来る者と去る者を惑わす、偽りの楽園・・・。
団長の合図で始まる黄昏サーカス。
ブランコノリの蜘蛛脚マダム、顔なし男の綱渡り、動物団員の人間曲芸、失敗できないピエロの道化・・・
サーカスは毎日大盛況。笑いも喜びもしない影のお客さんに、僕たちは芸を披露する。
現実でも生きていたくない、でも天国にも行きたくない。闇に潜り逃げ込んだ影が集う場所なんだ。
君は違うだろう?だって瞳がキラキラしてる。心も体も明日に向かってウキウキしてる。
闇夜が見回りにくる前にここから出られないと。君みたいな光はここじゃ嫌われ者だ。どんなヒドイ目に合うか分からないよ?
えっ!ちょっとサーカスを覗いてみたい?呑気な人だな~!
にゃあにゃあ、シノワールは曲芸が出来るよ!
玉乗りとジャグリングくらいしか出来ないけどね・・・。ほら、こんな感じに!
あわわ!森の中での玉乗りはちょっと難しいなっ!危ない危ない・・・。
・・・。
ご、ごめん!まさかそんなに喜んでくれるなんて思わなくて。
ここのお客さんは影だから、そんな風に笑ってくれない・・・。
影を捕らえてお客さんにする・・・昔の団長はそんな人じゃなかったんだけどな・・・。
昔は、「笑顔で森を抜けて欲しい」と思ってこのサーカスは作られたはずなんだ。
でも、来るお客さんの悲しみは中々拭えなかった。どんなに頑張って芸をしても、サーカスの中は涙の水たまりだらけ。
森を通過せず、留まる為にサーカス内に隠れる者も続出した・・・。
そんな毎日に、団長は段々狂ってしまったんだ。
どうすれば昔見たいな団長に戻ってくれるかな・・・。
え?団長に笑顔になって貰う?
そういえば、団長の笑顔も全然見てないな・・・
ねぇ、どうすれば団長に笑顔を取り戻せるかな?そっちの世界での面白いお話を聞かせてよ!
―あははは!凄いな!こちらの世界ではそんな面白い事おこったことないよ!
よーし、このサーカスのピエロとして新しい芸を磨いてみようかな!
まずはお客さんじゃなくて、団長に笑顔を取り戻してもらう為に・・・頑張るよ!
あぁ!もうこんな時間だ!日が落ちる!・・・急いで出口に向かわないと!
ここは来る者は多くても帰る者はそうそう居ない。入り口はいっぱいあっても、出口は1つしかないんだ。
昔、森の奥の花畑に出口の扉を見つけたことがある。そこまで案内してあげるから、さあ行こう!
ちゃんどボクについてきてね?はぐれたら二度と会えないかも・・・なーんてね。
ちなみに、扉に入ったら迷わず真っ直ぐ進むんだよ。絶対に振り向いちゃいけない。
扉の中はとても暗かったから、僕のランタンを持っていくと良いよ!
相談に乗ってくれたお礼だよ!
さぁ、ここが元の世界に続く扉だ。君がここを通ってくれて良かった!
団員もお客さんも笑顔の溢れるサーカスになってるようにボクが頑張るよ。
でも、次に会う時はずっと先であって欲しいな。サーカスを覗いてみたいからってすぐに来ちゃダメだよ?
それじゃ、バイバイ!笑顔が素敵な迷い人さん!
終夜のシノワール
レディース・アンド・ジェントルメン!今宵も始まる終夜のサーカス!
暗い暗い森の中、響き渡る軽快な音楽。ボクは入り口でお客さんを待つ。
黒猫ユレアがボクに言いました。
にゃあにゃあ・・・人間のニオイがするよ、シノワール
ミケ猫フレンがボクに言いました。
にゃあにゃあ・・・お友達になるチャンスだよ、シノワール
白猫レックがボクに言いました。
迷子の迷子の人間さん、こんな夜更けにどこ行くの?
・・・みつけた。
迷い人さん。こんなところで、どうしたの?
ボクはシノワール。この森のサーカス団のピエロをやっているんだ。
自分の世界に帰る途中?灯りも持たずにこの道を行くなんて危ないよ。
こっちにサーカスのテントがあるんだ。良かったら、寄っていかない?
さぁさぁどうぞ入って!ここに座って!
お客さんが来たって、団員に知らせてくるよ!
紹介するね。彼がここのサーカス団の団長、髭が立派な太っちょ団長。お客さんに笑顔と感動を提供する為に、このサーカスを作ったんだ。
こちらが、ブランコ乗りの蜘蛛足マダム。長い脚と糸を使って8個のブランコを渡り回る。サーカスで一番人気の看板女優だよ。
次は、顔なし男の綱渡り、綱の上で一回転!仮面の下の素顔は、誰も見たことがないんだ。
今度は、動物団員の人間曲芸。タキシード姿のクマの団員が合図をすれば、8つ子兄弟が踊りだす。
そしてボクは玉乗りピエロ。ジャグリングならお手の物!三匹の猫と一緒にお客さんを盛り上げるんだ!
どう?個性的な団員が集まるサーカス団!
・・・え?みんな動かない?
こうやって糸で操れば、ほら!おじぎもちゃんと出来るよ?
・・・そうだね。うん。わかってる。
ここに居るのはボク一人。他はみんな、ぬいぐるみ。
このサーカスには元々団員がいっぱい居たんだ。でも・・・一人、また一人と森を出ていってしまったんだ。
何処に行くの?って聞いてみたんだ。そしたら、みんな「とても楽しかった。そろそろ行かなきゃ」って・・・。
森の奥からオルゴールの音がするんだ。
最後にボクの頭を撫でて・・・みんなみんな、暗闇に消えていった。
・・・残ったのはボク一人。
だからボクは、いつお客さんがきても良いように、いつみんなが戻ってきても良いように
こうやって毎日サーカスの音楽を鳴らして待っているんだ。ずっと一人で、待っているんだ・・・。
こんなに人と話したのは久々だよ。すごく嬉しい。すごく楽しい。
ねぇ、ボクと一緒にサーカスをやらない?
君みたいな人間が、またここを訪れるかもしれない。そうしたら、また大人数でサーカスが出来るかもしれない。
ねぇ、迷い人さん。ボクとココでずっと一緒に居てよ・・・。
ごめん。ごめんね。ボクはただ寂しいだけなんだ。
この森の先には何があるんだろう?あのオルゴールの音色は、なんだったんだろう?
時々ボクにも聞こえるんだ。森の奥から、オルゴールの音色が聞こえる。
森の途中まで行くんだけど、途中で怖くなって耳を塞ぐ
最近はサーカスの音楽の音量を大きくして、聞こえないようにしてたんだ。
ねぇ、君はこの森の外から来たんだよね?そして君も、オルゴールを持っている・・・
この森の先には、いったい何があるの?
・・・え?ボクを待ってる人が居る?それ、どういう事?
そうか・・・ボクもみんなみたいに、行かなきゃなんだね。
少し怖いけど、ボクを待ってる人が居るなら・・・行かなきゃ!迷い人さん、教えてくれてありがとう!そして・・・最後にボクの芸をみてくれてありがとう!
君の世界でサーカスを見つけたら、時々ボクを思い出しね。
それじゃあここでお別れだ・・・
元気でね!迷い人さん!