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【黒ウィズ】 はじまりの塔 ドゥームズ・デイー面接ー『魔道杯』

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん


登場人物


ハカマダ
タカシ




story



 悪の組織といえど、管理職ともなれば戦いだけをしているわけにはいかない。

セクションマネージャーのハカマダは、戦闘員アルバイトの面接者を待っていた。


エニグマ戦士にサンフラワーが入ってから、ビビってやめるバイトが多いからな。いい人が来て欲しいもんだ。

……もう時間だよな?遅刻か?まさか迷ってないだろうな。ちょっと外を見てくるか。

wえ?うちの課のマドンナが俺に惚れてる?また俺やっちゃったかあ……。ふふ……社会人無双……。

………………。

……いや、仕事だしな。すいません、面接の方ですか?

やばい、このMTG(ミーティング)、俺の鶴のー声待ち……え?……あ、はい。

私、今回の面接を担当させていただきます、戦闘2課のセクションマネージャー、ハカマダです。

それでは、履歴書をお預かりしてもよろしいでしょうか?

 面接者はうなずくと、椅子に片足をかけた。おもむろに立ち上がり、

我、闇に導かれ深淵より降臨せり。讃えよこの名を!我が名は――タカシ!

…………はい、履歴書をお預かりします。どうぞお座りください。

……あの、すいません。座るところ汚れてるので、ウェットティッシュとかないですか?

 いや、汚したのお前だろ。

 と思ったが、ハカマダは管理職なので、無言でウェットティッシュを差し出した。

薄いタイプかあ。まあいいか。あ、どうもです。

 これもうダメだろ。

 と思ったが、ハカマダは管理職なので、相手が椅子を拭き終わって座るのを待った。

 所在なさげにぶらさげていた使用済みのウェットティッシュも受け取って、ちゃんとゴミ箱に入れてから、履歴書に視線を落とす。

えー、お名前は……。

 後泡孝志。

 フリガナは、ない。

……タカシさん?

タカシだ!

ではタカシさん。この度は弊社に勤務をご希望とのことですが、なぜ弊社をお選びになったのか、志望動機を伺ってもよろしいでしょうか?

ぐ……志望……動機……!?

 考えてないパターンだな、とハカマダは悟った。

生活費のため、ということでしょうか?

あ、はい。あ、いや違った。我はこの世を闇で満たすために生まれし怪人。この場に溢れる悪の香りに導かれたのだ。

なるほど。

 ハカマダは「生活費」とメモを取った。

募集要項にも記載させていただきましたが、当社は基本週5回40時間のフルタイム勤務となります。

無論だ。光を滅するその時まで、闇に安息の時はない。

また、正義の味方が現れた場合、休日出勤の可能性もあります。ちなみに弊社の敵である戦士は、わりと土日にも出がちですね。

え?

……休日出勤は難しい?

あの……はい。したくないです。

 ハカマダは「やる気なし」とメモを取った。

特技に「闇の香りを作ること」とありますが、こちらはどのような?

知りたいか?いいだろう。

 タカシはニヤリと笑うと、腰にさげた変なランプみたいなものを掲げる。

嗅ぐがいい。これが闇の香りだ!

……なんか嗅いだことあるなこれ……。昔、近所にあった……あ、アレか。

闇の香りだ!

 ハカマダは「乾物屋」とメモをとった。

社会保険等は完備しておりますが、戦闘員は危険と隣合わせの業務となります。こちらは理解されてのご応募でしょうか?

無論だ。我は生まれながらの怪人。この身に流れる呪われし暗黒の血が尽きるまで、怪人として戦い続けるのみだ!

あ、いや、今回は怪人ではなく戦闘員の募集になります。

戦……闘員?あのなんか「キョアー」とか叫ぶ。

最近はコンプライアンスの問題であまり叫ばせないようにしていますが、そうです。弊社では怪人は正規雇用のみになります。

いや、でも、あの、闇の怪人です。ほら、闇の香り……。

それは結構ですので。

 ハカマダは「乾物屋」ともうー度メモをとった。


はい、以上で結構です。本日はご足労いただき、ありがとうございました。

え、あの、結果は?

結果に関しては検討の上、近日中にこちらから連絡させていただきます。

いや……闇の香り……。

あ、そうだ。ひとつだけ、社の人間ではなく、ハカマダ個人としてお伝えしておきますが……。

「うちの課のマドンナ」とか、たぶん今どき誰も言わないと思うぞ。

はあ。ちょっと社会人ものはあんま知らなくて。異世界転生ものならけっこう詳し……。

お帰りはあちらになります。お気をつけて。

え、あの、なんか……はい、どうも。


 オフィスにひとりになったハカマダは、手元に残されたメモに視線を落とす。

 「生活費」「やる気なし」「乾物屋」「乾物屋」

いや、無理だろ、これ。いくら人手不足でもさあ。

 と、その時、オフィスに電話の着信音が響いた。

おーい、ベンガクー!トンボガエリー!セキトリー!……みんな出払ってるか。仕方ないな。

お電話ありがとうございます。こちらモティラースカンパニーの……はい?ウシ……?あーはい、タカシさんのお母様。

はい、先ほど帰られまして……はい、はい、そうですね、はい、お優しい方だというのはよくわかりまして……はい。

いえ、とんでもありません。はい。……なるほどタカシさんはそのようなご苦労を。いえいえ……。

 ――ハカマダが受話器を置くことができたのは、それから約30分ほど経ってからだった。

はーい、ありがとうございます。商品開発部には伝えておきますので。今後とも弊社をよろしくお願い致します。では。

……母ちゃんの電話は反則だろ。っうかうち、悪の組織なんだから、根が優しくちゃダメだろ。

……就活に母親が出てくるようじゃ、アイツ、働ける場所ないだろうなあ。

ま、俺は管理職だ。余計なことを考えず、必要な人材を採るだけだがな。


 ――翌日、タカシのもとに面接結果が連絡された。

 採用だった。


ふっふっふっ……闇の香りを嗅いだ者は、この超魔香怪人タカシに逆らうことはできぬのだ。ハッハッハッハッハッ!

 ハカマダが後悔したかしないかで言えば、めちゃくちゃした。





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