亀ゼリー
キュイの資料
亀ゼリーは一見ゼリーのように見える中華薬膳料理である。その原型は、作り方の似ている別の薬膳料理“仙草ゼリー”にあると言われている一中国広東一帯は湿潤で瘴気に当てられることが多かったことから、涼粉草(リャンフンツァオ※仙草)という薬の材料を集めて煎じ、ライスミルクと混ぜて煮込み、冷やして黒いゼリー状にした。砂糖を加えれば食べやすくなり、食すと体内の熱を取り除き、解熱効果があることから、夏バテ解消にピッタリの食品である。亀ゼリーは上記の作り方を基づいて宮廷の薬膳レシピを加えて作られたもので、亀の肉、地黄(ジオウ)、茯苓(ブクリョウ)などの貴重な漢方食材を用いる。そうすることでこの“ゼリー”は解毒、健康の面で効果が高まり、地位ある役人や貴族に喜ばれる珍味となったのである。
特筆すべきは、涼粉草が“神仙草”とも呼ばれ、また亀ゼリーのもう一つの大事な材料である亀は中国では長寿の象徴とされてきたことである。それゆえにこの二つの材料を用いることによって、亀ゼリーは不老長寿を求める人々を惹きつけた。まさに“不老長寿の食べ物”なのである。もちろん、中国では西洋医学の発展に伴って、無意味で効果のない、有害な成分は排除されるようになった。
原始的で、野蛮な手段によって獲得されてきた薬の材料も、代替品にとってかわり、現在では亀ゼリーに亀などが材料として使われていることはほとんどない。亀ゼリーの長寿神話も徐々に廃れてきた。ただし、それは“漢方ゼリー”がその価値を失ったことを意味するのではない。むしろその逆で、そこには人の実践と物語が刻まれており、人々の心に深く根付いているのである。