イリアのメモリー

世界は滅んだ。

地獄の劫火に焼き尽くされた国。

骸晶に蝕まれた国。

生命の樹に浄化された国。

突如として現れた「呪い」と呼ばれる厄災が、 全ての国を滅ぼした。

だけど私は諦めない。

教皇様に 「杖」を託された者として。なにより、もう二度と大切な人たちを失いたくない から。

決意と共に滅びた世界を歩き始めた。

この広い世界のどこかに、たった一人だけいるはず の 「継承者」を探すために。

弱き者を護れる王になれ。 それが父と母の教えだった。

けれども私はその教えを守れず、全てを失い一人残された。

絶望する私を助けてくれたのが、 教皇様だった。

人は誰もが胸の中に、小さな光を持っている。

嬉しい時。 楽しい時。 愛する人に出会えた時。

胸の中があたたかな光に満たされる。

その光を他人に分け与えられる人がいる。

誰かを思う優しさで、誰かの足元を照らせる人がいる。

教皇様はそういう人だった。

ある日。

教皇様に大聖堂の一番奥へと呼び出された。

2000年の歴史を持つ聖槍教会には、その始まりで ある2つの聖遺物が存在する。

神より賜りし聖架 「ロンギヌスの槍」。

天より降りし星樹 「ティクーンの杖」

世界の終末に目覚めるという2つの神器が、今、教皇様の手に握られていた。

「私はもう長くありません」

教皇様の体が黒く侵されていく。

「杖の 『継承者』を見つけるのです。この世界を救うために」

差し出された杖を、 私は受け取れなかった。

だって、故郷も守れなかった私に、世界なんて守れ るわけが……

震える私に、教皇様が微笑んだ。

「心配ありません。 貴方なら必ずできると信じてい ます」

そうして私は「継承者」 を探す旅に出た。

世界が 「呪い」 に覆われたのは、それからすぐだった。

最初は抑えていた不安も、1カ国目、2カ国目と、渡り歩くうちによみがえってくる。

継承者を見つけなければ、世界は本当に滅んでしまう。

世界の命運が、 私一人の手にかかっている……

教皇様は心配ないと言ってくれたけど、どんなにくまなく探したって、世界中のすべての人と会えるわ けじゃない。

そもそも私は「継承者」 がどんな人かすら知らないんだ……

もしも会えなかったら。

もしも分からなかったら。

もしも呪いで、すでに亡くなっていたとしたら……

……ダメだ、弱気になるな! 今度こそ、今度こそ この手でみんなを守るんだから……!

そうでなかったら、私は一体、何のために今まで……

私しかいない。 私しかいないんだ……

世界中を歩いて分かったのは、もうこの世界は滅んでいるということだった。

大地は呪いに侵され、見たこともない獣であふれている。

安全な場所はどこにもない。

それでも、人々は生きていた。

苦しい時。 悲しい時。

愛する人を失った時。

絶望で目の前が真っ暗になった時。 ふと、胸の中の光に気が付いた。

誰かの優しさが。

記憶の中の笑顔が。

愛する人との輝くような思い出が。

絶望に塗り潰された心の中に、優しい光を灯していた。

そうだ。 世界は滅んでなんかいない。

誰かが誰かを想う限り、この光が絶えることはないんだから!

この世界はもうどうしようもなく手遅れで、だからこそどうしようもなく輝いている。

消えかけていた私の灯が、 再び赤く燃え始めた。

最後に訪れたのは、花の国フラン。

他の国では継承者を見つけられなかった。

だから、最後に残されたこの国にいるはず······

けど、もしここにもいなかったら。

考えるだけで恐ろしくなる。

今さらもう一度、 世界中を探し直す余裕なんて……

祈るように、一番大きな街に足を踏み入れる。 そして……

……ああ、見間違えるはずがない。

あんなにも温かくて、あんなにも優しい光。

あの人が、杖に選ばれし 「継承者」

ここから、世界を救うための、 本当の旅が始まる。

でも心配はなかった。 私はもう知っている。

誰かを想う心がある限り、世界から光が消えることはないということを。

「初めまして。 突然だけど、私と一緒に世界を救ってくれませんか」