ガルムのメモリー

魔女は穢れた子として嫌われる。

生きるには強くなるしかない。

だから少年騎士団に入った。

最初は魔女に騎士が務まるかってバカにされたけど、

きつい訓練を共にこなすうちに皆とも打ち解けられた。

ここでなら、あたいも生きていける。

そう思っていた矢先、

遠征先で敵国の部隊と戦いになり壊滅……

あたいは捕らえられた。

きっと、このまま処刑されるんだろう。

独房の中でうなだれていると、急に外が騒がしくなった。

のぞき窓から見えたのは、軍を襲う山賊たちの姿だった。

噂に聞いた事があった。

騎士だろうと軍だろうと関係なく襲う、

荒っぽい山賊の事を。

山に住む彼らの戦い方は、

騎士として修業したあたいには考えられないほど野蛮で、

だけどなぜか美しくて、目を離せなかった。

どうせこのままじゃ処刑されるだけ。

だったら……。

あたいは声を張り上げた。

「あたいは貴族の娘だ！　望み通りの報酬を払うから　助けてくれ！」

こんな小娘の嘘を信じるか不安だったけど、

彼らは助けてくれた。

おかげで無事に帰ることができたけど……

……あたいの帰る場所は、もうなくなっていた。

少年騎士団は、全滅していた。

敵国に襲われて逃げた事実を隠すために、隊長が皆殺しにしたんだ。

魔女だったあたいは騎士団の裏切り者にされ、

大量殺人と背信罪で指名手配されていた。

自分がみんなを裏切ったくせに……

許さない、殺してやる。

憎悪と絶望に心が支配された、その時……

山賊の頭が言った。

「強くあれ、強く生きろ」

帰る場所がないなら来い。

お前を、強い山の民に育ててやる。

そう言って、彼は手を差し出した。

山賊の仲間になった当初、あたいは復讐ばかり考えて荒れていた。

そんなあたいを、頭は決して見捨てなかった。

あたいはあの時の報酬すら支払えていないのに……。

それどころか呪われた魔女だ。

なのにどうして……

不安になるあたいに、頭が言ったんだ。

お前を助けると約束した……

山の民は約束を死んでも守る。

だから、ここがお前の家だ……

おかえり、ガルムって。

何だよそれ……無茶苦茶だろ。

だけど……すごく、嬉しかった。

そして、あたいは……山賊の一員となった。

強くて格好いい、山の民の一員に……。

それから、あたいは努力して、次期頭領にまで昇りつめた。

あいつへの恨みが消えたわけじゃない。

だけど、今はもっと大事なものがある。

あたいは山の民だ。

恨む事しかできなかった弱い自分とは決別したんだ。

そう、思っていたけど……。

あいつが、現れた。

あたいの仲間を全滅させた憎き仇が、山賊のアジトを襲撃してきた。

穢れた魔女を討伐するため、なんてもっともらしいことを言ってたけど、

本当は事実を知るあたいを消しに来たんだ。

突然の襲撃に仲間は次々と倒れ、

頭も、逃げ遅れた仲間を庇って、あいつに撃ち殺された。

あたいの中に再び黒い感情が渦巻いた。

あたいから、また、仲間を奪うのか……！

そして背中を押すように、頭の言葉が脳裏をよぎった。

強くあれ……

奴を、

奴らを、殺せ。

その言葉に従い、あたいは魔女の力を開放した……

仇を、皆殺しにするために。

山の民の強さを証明するために。

黒い感情に侵されたあたいは、暴走する魔女になっていた。

敵と味方の区別もつかなくなって、

近づく奴を片っ端から襲っていたらしい。

それを元に戻したのが、あいつだった。

不思議な杖の力だけじゃない。

あいつの近くにいると、なんでか心が落ち着くんだ。

まるで頭の傍にいるような……

性格も、体格も、まるで似ちゃいないんだけどさ。

でも、おかげで頭の言葉を思い出せた。

「強くあれ、強く生きろ」

頭のような強さはまだ持てないけど。

山の民の一人として、

頭の教えを継ぐ最後の一人として、

恥ずかしくないよう強く生きていくから。

だから、見守っててくれよ、

――みんな。