マーリンのメモリー

わたしが 「深き森の魔女」と呼ばれるようになったのはいつ頃だろうか。

魔女以外には見つかってはいないから、名付けたのはどこかの魔女だろう。

人を避け、この森の奥でこうして静かに暮らしているわたしにぴったりの二つ名だ。

ねぇ、お弟子さん。 わたしの話、聞いてくれるかな?

わたしのお師匠様のことと、それからわたしのした取り返しのつかないことの話一

「よくできたね、 マーリン」

あの人……

わたしのお師匠様は、いつだって褒めてくれた。

捨てられたわたしを拾って、新しい名前をくれた人。

魔法の使い方を教えてくれた、綺麗で優しくてかぼちゃのパイが得意な魔女。

初めて魔法で咲かせた花をプレゼントしたら、すごく喜んでくれた。

それが嬉しくて、もっと褒めてほしくて、わたしは一生懸命魔法を練習した。

お師匠様の誕生日が近づいていた。

なにかプレゼントを用意しようと思ったけど、 森の中じゃ見慣れたものしか手に入らない。

それに、そもそもこの森のことはお師匠様が一番よく知っているんだ。

わたしは、幼いながらに頭をひねって考えた。

そうだ。 あの人が、一番喜んでくれたもの!

魔法で咲かせた花!

よーし。

お師匠様の誕生日には、 いっぱいお花を咲かせて花束を贈ろう!

そう思ったわたしは、張り切って魔力を集中し始める。

気づいたとき、 わたしは一一

取り返しのつかないことをしてしまっていた。

「助けて、お師匠様!」

わたしの叫び声は、伸びていく草木の洪水の中に消えていく。

「マーリン!」

わたしの腕を、温かい掌が掴んだ瞬間。

わたしの意識は暗闇の中に落ちていった。

目が覚めた時、 そこにあったのは——

血だまりの中に落ちる、お師匠様の帽子だけだった。

わたしが自分を責める度に、 魔女の力はわたしを呑み込もうと奮いた。

だけど、わたしは必死で耐えた。

だって、もし力に飲み込まれることがあれば、それはきっとお師匠様への一番の侮辱になるから。

お師匠様が教えてくれた魔法をお師匠様のことを、誰かに伝えたい。

だけど、誰かと出会えばきっとまたお師匠様みたいなことになる。

わたしはどうすればいいんだろう。

わたしは、どうしたいんだろう。

誰かこの森を抜けて、 わたしに会いに来てくれれば。

一一でも。

誰かが本当に会いに来てくれたとして、わたしはどう迎えればいいの?

どういうふうに話せばいいの?

わたしが知ってるのは、 師匠と弟子っていう関係だけ。

……わたしなんかが、誰かに何かを教えるなんてできるわけがない。

まして、 お師匠様みたいに弟子を導くなんて。

未熟すぎるわたしじゃ、もしもの時にだって助けることはできないかもしれないし……

そうやって、ずっと答えが出せないままでいたわたしの前に突然現れたのが一一

お弟子さん、君なんだ。

ごめんね。

あの時、きっとほかにふさわしい言葉はあったと思う。

でも……気づいたら言ってたんだ。

「わたしのお弟子さんにならない?」って。

……ねえ、 お弟子さん。

わたし まだダメダメだけど、それでも……

これから絶対お師匠様みたいな立派な魔法使いになるから。

それで、きっと……

お弟子さんと、お弟子さんの大切な人たちと、 みんなみんな守れるようになるから。

……お弟子さんとだったら、 きっとそんな師匠になれると思うんだ。

だから……こんなわたしでよければ、これからも……よろしくね、

わたしのお弟子さん。