魔鏡のエミリエ
11/30~12/14
召喚士ツェツィーリアに再登場しています。
第一回スペボスホワイトデー10位 チョコ260個
囚われのエミリア
登る、登る・・・階段を登る・・・。私は塔の頂上を目指す。
塔の頂上まで辿り着けば、足場が崩れて真っ逆さま。
繰り返し、繰り返し・・・運命の繰り返し。目覚めればまだ塔の中腹。
この先に待っているのは同じ運命、終わりのない悪夢。それでも私は、登り続ける。
この塔を降りる事の方が、よっぽど恐ろしく感じて。私は登ることをやめられない。
悪夢の中の希望・・・彼との出会いを何度も繰り返す。
あぁ、また辿り着いてしまった。背後からは階段を駆け上る足音。
振り向けば、名前も知らない彼がやってくる。言葉を交わす前に、
私は、また落ちる・・・
・・・?
違う、彼じゃない。アナタは誰?
あぁ、塔が崩れる・・・!!また落ちる!!
私はエミリア!!ねぇ、アナタもここに閉じ込められたのっ・・・?!
ー目覚めればまた塔の中腹。登る、登る・・・階段を登る・・・。
頂上に居たアナタへ。まだこの塔の何処かに居るなら。私のこの声が届いているなら、どうか聞いて下さい・・・。
まだ私が、こちら側にくる前のこと・・・誰も住んでいない廃洋館。二階の一室。四方の壁から天井まで、色んな形の鏡が一面に飾られた鏡の部屋。
右を向いても左を向いても、前を見ても後ろを振り返っても、自分が見つめてくる不思議な空間。
そこで無数の自分に「願いは何か」と問いかけれる・・・。そんな噂をアナタは聞いたことがあるかしら。
噂は本当なのか、夜中に家を抜け出して、友人達と一緒にその館に忍び込んでみる事にしたの。
鏡の部屋は本当にあった。問いかけは聞こえなかったけれど、友人達は鏡に向かって願い事をするのに夢中だったわ。
けれど私を夢中にさせたのは、鏡の部屋ではなく・・・一階の大広間だった。
月明りに照らされた肖像画。剣を持ち、塔の前で凛々しくマントを靡かせる姿。私は彼から目が離せなかった・・・。
それから一人、何度もその洋館に忍び込んで彼に会いに行ったわ。名前もわからない。何処の誰かも分からない。絵の中の彼に。
ある日、二回の鏡の部屋から声が聞こえたの。「その絵を持って、こっちへおいで」
その声に誘われるまま絵画を持って鏡の部屋に入ると、無数の鏡の中の私が問いかけてきた・・・。
「彼に会いたい?」「会わせてあげる」「彼と一緒に居たい?」「私ならできる」
「私に向かって願うなら」「叶えてみせる」
「私に願えば」「彼は貴女に会いに来る」
噂の鏡は本当だった。私は一度でいいから彼に会ってみたいと思ったの。彼の瞳に映りたい・・・。
私は、鏡の私に向かって願ったわ。「どうか私を彼に会わせて下さい」・・・と。
鏡に映った一人が笑った。髪は黒く、瞳は赤く、私であるのに私じゃない、彼女がニッコリ微笑んだ。
「その願いを叶えてあげる。」
「代わりに貴女の居場所をちょうだい。」
気づけば私は塔に居て・・・何十回、何百回とこの塔で彼との出会いを繰り返している。
でも気づいたの、何度も何度も繰り返すうちに・・・頂上で出会う彼の表情が少しずつ変わっていることに。
最初は信じれない様な、驚いた様な表情。それが段々と、苦しそうな、悲しそうな表情になっていた・・・。
落ち行く中で、頂上に残った彼が必死に何か叫んでいるけれど、
私はいつも、聞き取れない・・・。
ーあぁ、また辿り着いてしまった。背後からは階段を登る足音。この足音は、やっぱりアナタね。
ごめんなさい、私もここから出る方法が分からないの・・・。アナタはどうやってこの世界に?
あぁ、また塔が崩れる・・・落ちるのはもうイヤ・・・。最後にアナタに頼めるかしら?
彼に会ったらどうか伝えて・・・。貴方のその瞳に映れて、嬉しかったと・・・。
・・・え?手紙を預かった?
その手紙、まさか・・・
あぁ、ありがとう!私、まだ諦めないわ!もし頂上でまた会えたら!今度は名前を教えてちょうだい!!
ー繰り返し、繰り返し・・・。目覚めればまた塔の中腹。
登る、登るわ。何度だって。私は塔の頂上をまた目指す。
この塔の運命から抜け出して、いったい彼は何処にいるのだろう。
手の中に残った彼からの手紙には、こう書いてった・・・
きっと君を助けてみせる。
ークラウス・ヴィッツより
魔鏡のエミリエ
美しい女が一人。私を買って、部屋に飾った。
かって美しかった女は一人。鏡を買い漁り、部屋中に飾った。
無数の鏡に映る女。自分の年老いた姿に発狂しながら・・・笑ってみせたり、泣いてみせたり。
私は女に問いかけた。「願い事はあるかしら?あるなら私が、叶えてあげる。」
彼女の願いは永遠の若さ。・・・私は答えた、「叶えられるわ。鏡の中なら!」
合わせ鏡の無限の中で、今も聞こえるわ彼女の声が。・・・若さと老いの恐怖を繰り返し、壊れて叫ぶ彼女の悲鳴。
それが私の初めての食事。それが彼女の、終わりなき始まり。
私を作った魔女が言ったの。欲する女の魂をたくさん喰らえば、ここから出られるって!
けれども主を失い廃洋館となった後は、誰も私に映ってくれない・・・。
あぁ・・・暇で、暇で。
暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で暇で!!・・・しかたがなかった!!!
だから、たまたま忍び込んできた子供の願いを無償で叶えてあげたの。瞬く間に願いを叶える魔鏡の噂は広まったわ・・・。
1人、「恋人の浮気を許せない」・・・叶えてあげる。窓も扉も無い部屋で、貴女は彼を独り占め。
1人、「醜いカラダを美しく」・・・叶えてあげる。肉体なんて取り去って、透明なカラダで貴女を自由に。
1人、「誰かに私も愛されたい」・・・叶えてあげる。あらゆる生き物が貴女を求める、逃げても逃げても追ってくる。
ほらまた1人、いらっしゃい。
・・・ようこそ?何処の誰かはわからないけれど、お会い出来て光栄よ。
鏡に名前は無いけれど、折角だからこう名乗らせていただくわ。私はエミリエ・・・魔鏡のエミリエ。どうぞよろしく。
それにしても、アナタ命拾いしたわね・・・。さっきの彼女で鏡は満たされた。だからアナタの魂はいらないわ・・。
最後の1人は、恋するエミリア。館の肖像画に恋をした、哀れなエミリア。
絵の中の男に恋い焦がれ、会いたいという彼女の願いを叶えてあげたわ・・・。
あの肖像画と共に鏡合わせの無限の世界へ・・・永遠に出会える世界に閉じ込めた。
高い高い塔を登れば、頂上で必ず彼と出会える。でも、出逢った瞬間塔は崩れて真っ逆さま!
目覚めた先はまだ塔の中腹。登って登ってまた頂上へ・・・。何度でも何度でも、塔は崩れる。
言葉も交わせず出会いだけを繰り返す世界。ふふふ、ロマンチックでしょ?
あぁ・・・このまま朝を迎えれば魂は完全に鏡に喰われ、彼女の体は私のモノいなる。やっと外に出られるの・・・やっと私は自由になるのよ!
ふふふふ、あはははははははははははははは!!!!
あら、何?どうしたの?武器なんて構えちゃって・・・。
彼女を助けたい?無駄よ無駄。外の世界のアナタが私を攻撃したって、傷一つ付かない。
ほらやってみて?
もう一度どうぞ?
ね?無駄でしょう?
どうせなら、アナタも一緒に眺めましょう?彼女が堕ちゆく、その姿を・・・。
ねぇ・・・外の世界はどんな感じ?頬に風が当たる感覚ってくすぐったい?
暑いと寒いは、どっちが辛いこと?お花の香りって、どんな感じなのかしら?
私、魂以外を食べたことがないから・・・美味しいものをいっぱい食べてみたいわ。
動物にも触ってみたい・・・きっとフワフワして、柔らかいんだわ・・・。おしゃれもいっぱいしてみたい。
これでもう、この館に一人ぼっちで居なくても良い。自分の足で外に出て、いろんな世界をこの目で見るの。
楽しみ。すごく楽しみ。外の世界で、私も立派な魔女になってみせるわ・・・。
無駄よ。アナタには私は止められない!無駄な足掻きはやめることね!
・・・・・・・?
何で、鏡にヒビが・・・?
ナゼ?ドウシテ?外の世界のアナタじゃ、鏡を壊せないはずなのに・・・?
鏡に映ったアナタの姿が・・・あの子が恋した絵画の男と、重なって見える・・・?
アナタの鏡像を借りて、絵画の男が内側から攻撃している・・・!!
彼女を助けたいと思う気持ちが絵画の男と同調しているの・・・?ヤメテ、それ以上攻撃をしないで!!!
イタイ!イタイ!!鏡が割れちゃう!!!魔女が作った魔鏡より、勝る力を持っているっていうの?!
ヤメテ、ヤメテ、割らないで!!私も外の世界に出たいだけなの!!!!割らないで・・・割らないでぇえええ!!!!!
・・・・・・・
・・・あぁ、砕ける。消えちゃう。歪んだ虚像が真実を映す。あぁ、エミリアの魂も元通り。
魔鏡を割るなんて・・・私はとんでもない絵を、鏡の世界に引き込んでしまったらしいわね・・・
アナタ、最後にこの絵画に付いたタイトルを教えてくれるかしら・・・砕けた破片からじゃ読めないわ・・・
・・・やっぱり。普通の絵画じゃなかったわね。あぁ、この男さえ・・・引き込まなければ!!!
救われたエミリア・・・とんでもない男に一目惚れをしてくれた!!!!
あぁ、エミリア、憎いわエミリア!!貴女が恋したその絵画のタイトルは・・・
魔女を倒した英雄騎士 クラウス・ヴィッツ