幽界華園リコリス
6/29~7/12
幻想華園リコリス
フフ・・・お花たち、今日もみんな綺麗ね。花のアーチも瑞々しく輝いているわ。
現世と幽世を繋ぐ門・・・そしてそのまわりに広がる華園が私の居場所なの。
あら、あなたはだぁれ?もしかして、迷い込んでしまったのかしら?
私?私はリコリス。この華園に存在し続ける・・・守り人のようなものよ。
フフ、あなたたちの世界の言葉で言えば『地縛霊』・・・ね。
まぁ・・・そんなに身構えなくてもいいのよ?私は誰かを呪ったりしない善良な幽霊だから。
あなた、元の世界に戻りたいんでしょう?
ここは現世と幽世のはざま・・・いつまでもいると、あなたの魂はいずれ幽世に引き寄せられていくわ。
どういうことかって?フフ、この華園はね・・・特別な磁場の中にあるの。
強い力の影響を受けて、体から魂が剥がれやすくなって・・・最終的には幽霊になってしまうかもしれないのよ。
この華園は、多くの幽霊や魂の影響を受けていて、迷い込んだら簡単には出られないわ。
試しに散策でもしてみる?フフ、いくら歩いても彷徨うだけ無駄だけれど・・・。
まるで迷路みたいでしょう?いままで何人もの魂が華園で彷徨い幽世へ向かっていったわ。
まぁ。このまま幽霊になっても楽しいかもしれない・・・ですって?フフ・・・本当にいいのかしら?
幽霊ってね・・・とっても孤独なのよ。魂が現世から隔絶されて・・・二度と元の場所へは戻れないの。
あなたには待っていてくれる人がいるのかしら?
・・・そう、それならば諦めてはダメよ。
私は二度と大切な人の元へ戻れなくなってしまったの。
華園の美しい花々に魅せられて、彷徨い歩くうちに・・・もう戻れなくてもいいと思ってしまった。
その瞬間、私の魂は体からあっという間に剥がれていって、気がついたら幽霊になっていたの。
永く幽霊をやっているせいで・・・その記憶も、そろそろ朧げになってきたわ。
私の大切な人・・・どんな顔をしていたかしら?どんな声をしていたかしら?
忘れたくないのに、幽世の力はそんな私の気持ちなんてお構いなしなの。
フフ・・・こんな話を聞いたら、あなたも華園に残ろうだなんて思わないでしょう?
よかったわ、あなたが現世へ戻る気になってくれて。
さぁ、私についてきて・・・早くしないと、魂の在り所が安定しなくなるわ。
見惚れているの?フフ、とても綺麗な華園よね。
どの花も瑞々しくて・・・幽世とのはざまにあるとはとても思えない。
この華園の地縛霊になってからは、私がお世話をしているのだけれど・・・。フフ、どの花もかわいくて堪らないの。
おかしいわよね。幽霊が花のお世話をするなんて。生きていた頃はそんなのしたこともなかったのに。
自分の命が失われたからこそ、生命に溢れた存在に憧れているのかもしれないわ。
だから、私にはあなたも綺麗に光り輝いて見えるのよ。
そうね・・・お花で例えるなら、あなたはルビナスかしら。
ルビナスの花言葉は「いつも幸せ」そして「あなたは私の安らぎ」よ。
華園で初めて出会ったはずなのに・・・どうしてかしら?あなたを見ていると、心があたたかくなるの。
ああ、気をつけて・・・ここは亡者の沼よ。迷い込んだ魂たちが孤独に耐えるために寄り集まっているの。
亡者の沼に近づくと、引き寄せられてあなたも永遠に彷徨うことになるわ。
私は平気なの。孤独だけど・・・寂しくはないから。
フフ、言葉遊びみたいですって?毎日私がお世話するのを待っていてくれる花たちのおかげなのよ。
現世の記憶は薄れて、大切な人のことも・・・もう殆ど思い出せないけれど、華園での暮らしも気に入っているの。
昔に戻ることができるなら、留まることは選ばないかもしれない。だけど今の自分をすべて否定はしないわ。
現世には楽しいことがたくさんあったけれど、悲しいこともつらいこともあったから・・・。
だけど、何かひとつ願いごとが叶うなら・・・もう一度だけ・・・。いいえ、なんでもないわ。
ああ、そろそろ現世へ向かう道が見えてきたわ。
ごめんなさい。私はここまでしか来られないの・・・。華園を離れられないから。
この先は一本道だから、迷うことはないわ。もうあなたひとりでも大丈夫よね?
フフ・・・ありがとう。そんなふうに言ってもらえると嬉しいわ。しがない地縛霊が役に立ててよかった。
さぁ、そろそろ行って頂戴。長居すればするだけ、リスクが高まるから。
さようなら。元気でね・・・!もう迷い込んじゃダメよ。
見えなくなったわ。無事に帰れるといいのだけれど・・・帰れるはずよね、きっとあの子なら。
幽界華園リコリス
あら・・・?あなた、もしかして・・・ああ、やっぱり!どうしてここにいるの?
華園へ迷い込んだあなたを現世への道へ案内して、無事に帰れたと思っていたのだけれど・・・。
え?「散り際にリコリスが見せた儚げな表情が頭から離れなくなった」ですって・・・?
フフ・・・まさか、私のせいだったなんてね。申し訳ないことをしたわ。
華園に未練を持つ魂は、華園から出ることができなくなるの。
あなたは今、私と同じ・・・地縛霊に近い状態になっているってこと。つまり・・・華園に魂を縛れている状態なの。
だけどあなたは幽霊じゃなくて生身の人間だから、華園に長居するのは危険だわ。
フフ・・・あなた、本当にお人好しね?私を想って戻ってきてしまうなんて。
ああ、いけないわ。ほら、体から魂が剥がれかけている。このままではあなたは華園に囚われた地縛霊になってしまう。
戻ってきたあなたを見つけるまで、少し時間がかかったせいかしら。現世に戻っても、元通りにはならないかも・・・。
・・・慌てないで。何も方法がないわけではないのよ。
黄泉の国の番人を訪ねましょう。きっとなんとかしてくれるはずだから。
え?華園を離れられるのかって?フフ・・・現世へは行けないけれど、黄泉の国なら大丈夫よ。私、幽霊ですもの。
さぁ、急いで出発しましょう。時間が経てば経つほど、あなたの魂は体から離れていくわ。
しっかり強い意思を持って頂戴ね。あなたの魂は華園の花たちにとって良い養分なのだから。
一歩一歩、確実に・・・前に進んでいきましょう。フフ・・・笑い声が聞こえてきたわね。あれはあなたの魂を呼ぶ声よ。
普段は喋らないけれど、ごちそうを目の前にして黙っていられなくなったのね。
ダメよ・・・一見普通の人間に見えるけれど、あれは亡者なの。目を合わせないで。あなたの魂を狙っているのよ。
視線を感じても、決して見てはいけないわ。油断を少しでもしたら、すべて持っていかれてしまう。
気をつけてね。亡者はみんな寂しがり屋なの・・・フフ、私もね。
「ごちそうがあるから食べないか?」なんて聞こえてたけれど、行ってはダメよ。
亡者はああやってあなたを引き込もうとしているの。
黄泉の国で食事をすると、現世へ戻れなくなる・・・覚えておいて損はない知識ね。
お水一杯、塩ひと舐めですらダメよ。口にした途端、魂が現世から引き離されて、黄泉の国の住人になってしまう。
あなたは今、本当にギリギリの状態なのよ。細心の注意を払って行動していかないと危ないわ。
ああ、見て・・・ほら、ケルベロスの姿が見えてきたわ。フフ、大丈夫よ。見た目ほどこわくはないから。
こんにちは、ケルベロス。今日はお願いがあって来たの。
この子の魂を現世へ戻してあげて欲しいのよ。あなたならそれくらい造作もないことでしょう?
「そう簡単には手を貸してやれない」ですって?フフ、黄泉の国の番人は一筋縄ではいかないわね。
さて、どうしましょうか・・・早くしないと間に合わないし・・・。
そうだ、いいことを思いついたわ。ケルベロス、少し待っていて頂戴。
・・・お待たせ。さぁ、受け取ってくれるわよね?
フフ、これはね・・・私の大好きな華園に咲く花々で作った花束よ。
綺麗でしょう?飛び切り美しい花を選んで摘んできたの。どう?気に入ってくれたかしら。
「花束を一目見ただけで、リコリスの心を感じることができた」って・・・なんだか照れるわね。
「私の心根が優しいのがわかる」・・・って、ちょっと良く言い過ぎじゃないかしら?フフ、でもそれで助けてもらえるならありがたいわ。
ありがとう、ケルベロス。あなたに幸福が訪れることを祈っているわ。
ああ・・・あなたの体が強く光り輝いていく・・・どんな花よりも綺麗だわ。
さぁ、早く現世へ戻りなさい。今度こそ戻ってきてはダメよ?
フフ・・・名残惜しいけれど、仕方がないの。あなたは現世に暮らす騎士で、私は地縛霊。
同じ世界に長くはいられない運命なのよ・・・寂しいけれど、もうお別れよ。
大丈夫、今までもずっとここで永い時を過ごしてきたのだから。もう慣れているわ。
でも・・・あなたと出会って、もう何年も思い出せなかった気持ちをたくさん抱いたの。
だからやっぱり、少しつらいかもしれないわね。
フフ・・・ありがとう。そうやって私のために泣いてくれるだけで十分報われた思いがするわ。
人はいずれ必ず死ぬものだから、そのときにまた会いましょう。
私はずっとこの華園に存在し続けるから・・・。
あなたは人生を謳歌して、大切な人をたくさん愛してあげてから、ゆっくりここへ来て。
フフ、あなたのことは忘れたりしないわ。というか、忘れられない・・・わね。
さようなら、気をつけて!また会いましょうね・・・!
悠久華園リコリス
あら・・・もしかして、あなた・・・また迷い込んで来たの?
フフ、仕方がない人ね?今度こそ、現世に戻れなくなるわよ。
え?助けてもらったお礼をしに来たの?そんな人、今までひとりもいなかったわ。
そもそも現世からこの華園へ来るのがとても大変だから・・・簡単にお礼に来られないはずなのに。
お礼に私の身元を調べてきたの?嘘・・・そんなこと、本当にできたの?
私が生きていたのは、もう何年も昔で・・・私を知っている人なんて、ひとりだって残っていないはず・・・
これは・・・写真?まさか・・・ああ、真ん中に立っている女の子・・・私ね。
お父様にお母様・・・お母様が抱いている小さな赤ちゃんは・・・そう、私の妹。
嘘・・・妹がこの華園へ来ているの・・・!そんな・・・!
ああ・・・マーガレット・・・!あなたにまた会えるなんて、夢みたいよ!
フフ、もうすっかりおばあちゃんね。あら、足を悪くしたの?車椅子を使っているのね。
たくさんのシワが刻まれた手・・・とてもいい手だわ。
触れるとあたたかい・・・ああ、記憶が・・・蘇ってくる!
産まれて・・・両親にたくさん愛されて・・・妹が産まれて・・・フフ。とても幸せだった・・・。
毎日が楽しくてあたたかくて、とても満たされていたわ。
だけどある日、私は花摘みにでかけて・・・川に落ちてしまったの。
遠くまで流されて・・・気がつくとこの華園にいたの。
すぐに帰ればよかったのに、私は美しい花々と幻想的な華園に夢中になってしまった。
そうして、戻ろうと思ったときにはすべてが遅かったのよ・・・。
ごめんなさい、マーガレット・・・あなたには悲しい思いをさせてしまったわね。
お父様とお母様も・・・悲しんだでしょうね。
泣かないで、マーガレット・・・仕方がなかったのよ。私の命はあのとき尽きる運命だった。
ああ、顔があたたかいと思ったら・・・私、いつの間にか涙を流していたのね。
泣くなんて、何年ぶりかしら・・・フフ、私にもまたこんなに人間らしい感情が残っていたのね。
ごめんなさいね、マーガレット・・・あなたの前でみっともない顔を・・・。
マーガレット?眠っているの・・・?
ああ、魂が体から離れてしまったのね。だから今日あなたはここへ来たのね。
まるで眠っているみたいに穏やかな顔だわ・・・いい人生を送ったのがわかるわね。
リコリス、大丈夫?・・・あれ?そこにいる女の子は誰?
あら、あなたは・・・マーガレット?
フフ・・・少女の姿に戻ったのね。そのワンピース、私とお揃いでお母様が作ってくれたものだわ。
あなた、私と同じワンピースじゃなくちゃ学校へ行かないってダダをこねて、お母様を困らせていたもね。
え?私も向こうへ・・・?いいえ、行けないわ。私は華園の地縛霊なの。
地縛霊はひとつの場所に縛れているから・・・転生はできないのよ。
リコリス・・・体が光ってる!
嘘・・・あたたかい光だわ。もしかして、私・・・向こう側へ行けるの?
あっ、待ってマーガレット。そんなに手を引っ張ったら危ないわ!
この花のアーチは地縛霊の私には通れない。転生の資格がない霊が通れば、たちまち浄化され消えてしまう天界への道だから。
だけど・・・もしかしたら、今日こそは・・・。
もし浄化されれば、輪廻から外されて、永遠の無を彷徨うことになるかもしれない。
とてもこわいわ・・・でも、私はマーガレットと一緒に行きたいの!
ああ、通れた!マーガレットのおかげ・・・?
リコリス!迷い込んだときに助けてくれて、本当にありがとう!次の人生が幸せなものでありますように・・・!
こちらこそ、お礼を言いたいわ。あなたがいなかったら、私はずっと華園に縛られたままだった・・・。
とうとう転生できるのね。気が遠くなるほどの時間を華園で過ごしてきたけれど、ようやく解放されるんだわ。
フフ・・・慌てないで、マーガレット。あの子にちゃんとお礼を伝えてから行くわ。
何もかも諦めて・・・物分りが良いフリをしていたけれど、やっぱり私・・・ずっと我慢をしていたのね。
あなたが全部気づかせてくれたんだわ。本当にありがとう・・・!
また・・・会えるかな?
フフ・・・どうかしら?すべては神のみぞ知る・・・だわ。
でも、縁がある人の近くに生まれ変わるって、よくあるらしわよ。
あなたと私の間にも、きっと今強い縁が生まれたと思うの。
だから私は信じたい・・・またあなたと笑顔で再会できるって。そのときまで、さようなら!