インビトウィーン チャノキ
9/28~10/11
ファーストフラッシュ チャノキ
ふわぁ……今日はとてもいい天気ね。お城に籠ってお勉強だけしているのはもったいないわ。
お勉強や習い事が嫌いなわけではないし、将来女王になるために必要なのはわかっていますの。
だけど、こんなにいい日和にじっとしてはいられないわ!
家庭教師の先生が黒板のほうを向いている間に……。フフッ、抜け出せましたわ。
太陽はあたたかいし、気分がいいわ。そうだ、街へ行ってみようかしら。
街は人が多くてにぎやかね。市場も繁盛しているみたい。あら?あのお方……どうしたのかしら。
こんにちは。先ほどからずっと紅茶の棚を眺めていらしたけれど、どうなさったの?
あれ?どこからか声が聞こえたような?気のせい…?
私はここですわ。あなたが今手にとっている紅茶の隣の棚に。
わぁっ!……こ、こんにちは、体がとても小さいので、びっくりしてしまって……すみません。
あら、驚かせてしまったのね。ごめんなさい。私はチャノキ、この国の姫です。
お姫様!?どうしてお姫様が市場に!?
あら、姫が国の中を歩くのに理由が必要でしょうか?
ふふふっ……ごめんなさい、少し意地悪なことを言ってしまいましたね。
私はこの国と民たちが大好きなのです。だから時間を見つけてはこうして国を出歩きますの。
私が大人になったとき、国のことを何も知らない女王にならないように…。
チャノキ様はとてもいい女王様になる気がします。
うふふ、ありがとうございます。そうだ、あなたはここで何をしていらしたの?先ほどはとても難しいお顔をしていましたけど。
美味しい紅茶を求めて私の国にいらしてくださったのね?でもどれを買えばいいのかわからないと……。
それで迷ってあんなに難しいお顔をなさっていたのね!うふふ。
ならば、私に任せてくださいませ。私はこの国……紅茶の国の姫なのですから。
あなたのための紅茶を選ぶ前に、いくつか質問をしても?
好みの香りはありますか?……ふむふむ。味はどのような?……ええ、わかりました。
アッサムはコクがあって濃厚、ニルギリは癖がなくて飲みやすいのです。
あなたは一体どんな紅茶をご所望かしら……うふふ、おすすめの紅茶を選ぶのは楽しいですわ。
それじゃあ、これはどうかしら。香りを確かめてみてくださいますか?……気に入ってもらえたなら嬉しいですわ。
チャノキ様のおかげでいい買い物ができました。紅茶のこともいろいろ教えてもらえたし…。
うふふ、光栄ですわ。そうだ、お時間があるなら、購入した茶葉の美味しい入れ方をお教えしますわ。
いいんですか?では近くのカフェでお茶をしながらでも……わっ!?
怪我はありませんか?今の方、物凄い速度で市場を駆け抜けていきましたわ。
ああ、今のはスリのようです!周りの人たちがザワついていますよ。
スリですって?それはいけませんわ。一緒にいらしてくださいませんか。あの方が駆けていった先への近道があるのです。
えっ?まさか、チャノキ様……。
悪事を見過ごすわけにはいきませんわ。さぁ、早くこちらへ。隠し扉がありますの。
……ふぅ、どうにか先回りできたようですわ。ああ!こちらへ駆けてきましたわ!
あっ、チャノキ様危ない!走ってきたスリとぶつかります!
心配なさらないで。私なら平気です。王家に伝わる紅茶魔法で……この通り。
チャノキ様が手にしたポットから、紅茶の湯が飛び出して……スリを捕まえた!?
あらあら、暴れないでくださいね……ほら、すぐ眠たくなってくるはずですわ。
うふふ……あっという間にぐっすり夢の中ですわね。
先ほどの紅茶魔法に使用したのは、私がオリジナルでブレンドしたリラックスティーですの。
リラックス効果が強すぎて、ひと口飲んだだけでぐっすり眠り込んでしまうのですけれど…。
わぁっ、市場にいた人たちが一斉に拍手を……凄い歓声だ!
あら……嬉しいのですが、どうやら私がこの国の姫だということを気づかれてしまったようですわ。
これ以上ここにいれば民たちをいたずらに混乱させてしまいますわね…。
あなた、手をこちらへ!
えっ?……わぁっ!?
うふふ、さぁ急いで市場を抜けましょう。皆が驚いているうちに!
ここを抜け出したら、先ほど仰っていたように一緒にお茶をしませんか?
私、あなたに興味がありますの。あなたのことをたくさん教えてくださると嬉しいですわ。
インビトウィーン チャノキ
私の国の紅茶を手に入れるためにわざわざいらしたのね?うふふ、とても嬉しいですわ。
あなたのこと、もっと知りたいの。お茶をしながらいろいろお話したいですわ。
街はザワついていて落ち着かないから、森へ行きましょう。
森でお茶が飲めるんですか?
うふふ、着くまでのお楽しみですわ。
さぁ、私のあとについていらして。早くしないと暗くなってきてしまいます。
旅人さんは騎士をなさっているのね?私、自国以外の騎士様とこうしてお話をするのは初めて。
あら……不思議そうなお顔。どうなさったの?ああ、森の中……というのが気にかかってらっしゃるのね。
焦らしてごめんなさい。でもびっくりさせたくて……うふふ。
ほらご覧になって、あれが森ですわ。美しい木々でしょう?春はここでピクニックをするのですよ。
あの……本当に大丈夫でしょうか?迷いなく真っ直ぐ突き進んでらっしゃいますが……。
想像以上に鬱蒼とした所で驚かせてしまったかしら?でも安心してくださいませ。あと少しで目的地ですわ。
こんな森の奥でお茶って……どういうことなのかな……わっ!?
あら、どうなさったの?そんなに怯えた様子で……。
い、今……獣の声が!
獣の声?ああ、あれは……。
帰りましょう!ここは危険です。森からすぐ出たほうがいいです!
平気ですわ。お友達なんですもの。怯える必要はありません。
お、お友達!?さっきの獣の声、おそらく野生のものでした。お友達なわけ……。
野生動物でもお友達になることはできますわ。そんなに怖がらなくても……。
自分ひとりなら出会い頭に逃げることもできますが、あなたを守りながらでは無理かもしれません。ですから……あっ!?
うふふ、あなたはとっても心配性なのですね?大丈夫、私が安全だということを今から証明して差し上げますわ。
チャノキ様、待ってください!森の奥へ行ってはいけません!……ひゃあっ!?
あらあら、迎えに来てくれていたのね?久しぶり。しばらく来れなくてごめんなさい。……きゃっ!
わぁっ!?チャノキ様が獣に頭からパックリ食べられた!?た、助けないと!
あははっ!くすぐったいわ!久しぶりだからじゃれているのね?うふふっ!
……じゃれてる?あれ、チャノキ様……怪我をしていない?血も……流れていない!?
あら、少し驚かせすぎたみたいですわね。こめんなさい。この子、想像以上に寂しがり屋でしたの。
この子は森に住む大熊ですの。私とお友達なのよ。先ほど聞いた声も、この熊さんのものですの。
熊……そうだったんですね。驚いたぁ!
とても懐っこい子なのですよ。この熊は紅茶の国にしかいない種類で、はちみつしか口にしないのです。
だから森の中にある特別に美味しいはちみつの在り処を、仲良くなった私は教えていただけるの。
さあ、こちらへいらしてくださいませ。ここに大きな蜂の巣がぶら下がっているのですよ。
うふふ、この巣からとれるはちみつは絶品なのですよ。森の奥の綺麗な空気と水に囲まれているからでしょうね。
はちみつだけでも十分美味しいのだけれど、あなたにはぜひ私の入れた紅茶と一緒に味わっていただきたいわ。
ハンカチを敷いて……と。うふふ、私はいつでも茶器を持ち歩いていますの。いついかなるときでも紅茶を振る舞えるように。
大切な人を亡くし涙を流すとき、新たな命の誕生を皆で祝い喜ぶとき…そんな様々な日常に、私の紅茶を添えたいのです。
さぁ、こちらへいらして。あら?まだこの子が怖いかしら?見た目は少し毛むくじゃらかもしれないけど、気のいい熊さんなのよ。
あたたかい紅茶は気持ちをほぐして、時間の流れをゆるやかに変えてくれるのです。さぁ、私の一杯をぜひ召し上がってくださいね。
やさしく芳しい紅茶の水面にトロリと黄金色のはちみつを垂らせば、甘い香りに胸が踊りますわ。
スプーンをくるくると回せば、まるで紅茶とはちみつがダンスを踊っているみたい。……ふふふ、素敵でしょう?
冷めないうちにどうぞ。あ、火傷には気をつけて頂戴。お茶菓子も用意してありますのよ。
森の奥であなたと秘密のお茶会ができて光栄。……うふふ。ええ、あなたと私だけの秘密。
蜂さんからはいつも少しだけ蜜を分けてもらっているのだけど、みんなが知ってしまえば……そうもいかなくなるでしょう?
私はみんなで仲良く幸福に暮らしていきたいの。そこに美味しい紅茶があればもっと素晴らしいわ。
ああ、ごめんなさい。熊さんも紅茶をいただきたいのね。安心して、あなた用の大きなカップも持ってきていますわ。
熊さんの紅茶にははちみつを多めに入れておきましょうね。冬眠に向けて、たくさん体に蓄えなければいけないものね?
チャノキ様は不思議な人ですね。お姫様なのに外を出歩いたり、森の熊と仲良くしていたり……。
あら、そうかしら?私にとっては特別なことではないわ。したいようにしているだけですもの。
確かに私はこの国の姫だけれど、お城の中に籠もったままでは国のことは何もわかりません。
私はこの国が大好きだから、いろいろなことを知りたい。そしてもっともっとこの国のものたちと仲良くなりたいのです!
セカンドフラッシュ チャノキ
はぁ……今日はお城の外に出られなくて寂しいですわ。
あら、ごめんなさい。客人のあなたの前でこんな独り言……。うふふ、お父様とお母様に叱られてしまいますわね。
だけれど、旅人でもあるあなたのお話を聞いていたら、うずうずしてきてしまいましたの。
私はこの国のお姫様だから、外に出ることは重要な式典などがない限りできませんわ。
でもあなたは違う。国から国へ旅をして、いろいろな人やものと出会って……それはとても素敵なことだわ。
それに……あなたから話を聞いた異国のお茶のお話!とっても興味深くて……いつまでも聞いていたいくらいですわ!
紅茶の国の茶葉とブレンドしてみたらどうなるのか……考えただけで楽しい気持ちになるの。
異国をまわって、見たことも聞いたこともないお茶と出会ってみたい……そうしたらこの国の紅茶はもっと美味しくなると思うのです。
うふふ、わかっています。一国の姫という立場では、難しいということは。
でも、叶うかどうかは挑戦してみないことにはわかりませんもの。
ああ……まだ見ぬ茶葉たちとの出会いで、美味しくて幸せな気持ちになる紅茶をブレンドしてみたいものです。
そうして、世界中の人々を幸福にできれば……私も嬉しいですわ。
チャノキ様は普段おっとりとされていますが、紅茶のお話をするときは目がキラリと光りますね。
うふふ、そうかしら?自分ではよくわからないけれど……でも、紅茶は私そのものと言っても過言ではないものだから。
悲しいときもつらいときも、紅茶があると私は『ほっ』とできるの。
きっとチャノキ様は将来素晴らしい女王様になるのだろうなと思います。
あら……ありがとう。とっても嬉しい言葉だわ。
わっ!?突然ドアから兵隊さんが転がり込んできた!?どうしたんですか?
た、大変です!我が国の茶畑が……燃えております!火事です!
ああ、なんということ!?急いで様子を見に行きます!
一緒に行きます!消火のお手伝いをさせてください!
ええ、ぜひお願いいたします……。急ぎましょう。
……想像以上に燃えている範囲が広いわ。魔法を使えるものたちのおかげで、火は収まりつつある様子だけれど。
ああ、いけない。悲しんでいる暇があるならば、私も消火活動を始めなければ。
チャノキ様、大丈夫ですか?
ありがとう……あなたがいてくれて心強いわ。さぁ、一気に消火してしまいましょう。
……はぁ、魔力をたいぶ使ってしまったけれど、消火できてよかったわ……でも……。
私、何も役に立てなかったわ……茶畑はほとんど燃えてしまって……。
チャノキ様……。
泣いていても仕方がないわね。ごめんなさい。さぁ、とにかくお城に戻って対策を考えなければいけませんわ。
お父様とお母様も随分肩を落としてらしたわ……私にできること、何かあるはずですのに……。
チャノキ様、よろしかったらお茶をどうぞ。
え?あなたが私に紅茶を入れてくださったの?……ありがとう。
……うん、美味しいわ。それにこの味……私が以前あなたに教えた入れ方を実践してくださったのね?
はい。チャノキ様を少しでも励ましたくて……。
ありがとう……私、大切なことを忘れかけていましたわ。
悲しいときもつらいときも、今までいつだって紅茶は私を幸せにしてくれましたの。
今度は私が紅茶に恩返しをする番なのね。今それがはっきりとわかったわ。
それに気づかせてくれたのは、あなたが心をこめて入れてくれたこの紅茶のおかげ。
うふふ、いつまでも悲しい顔をしていたら、私らしくないわ。さぁ、計画を立てましょう。
……それにしても驚きました。王様も女王様も信じられないという顔をしていましたよ。
そうね。私も少し驚いているわ。自分にこんなにも行動力があったなんて。
でも目標に向かって行くためには必要なことなの。
お父様や大臣たちには反対されたけれど、国を出て旅をする計画は中止しないわ。
茶畑を復活させるためには、紅茶の国以外のたくさんの国々の知識が必要だと思ったから……。
国を出てお茶の研究をして、その結果を持ち帰る……そのための異国への留学ですの。
言い訳ばかりして動かずにいた私の背中を紅茶が押してくれましたのよ。
もちろん。あなたの言葉と素敵な紅茶を……。
そうだ、国を出発する前にあなたに贈り物がありますの。
今の私が一番美味しく入れた紅茶ですわ。いつかまた再会した際には、もっと美味しくなった紅茶をごちそうさせてくださいませ。