希望叶える詩ポエット
10/31~11/15
願いの詠み手ポエット
ふふ、今日も良い天気、詩を詠むのに良い日和ですね。
心が傷ついて立ち直れない方、癒しを欲する方……いろんな人が私の詩を求めてやって来ます。
あら……ええと、あなたは初めての方……ですね?
騎士をなさっているのですか。ああ、丘の向こうの国からお使いでいらしたのですね。
えっ、王子様がご病気なのですか?それは大変です……!
どんな治療も効果がないほど悪いだなんて……おかわいそうに。
私の詩が少しでも王子様を楽にできるといいのですが。
きっと藁にもすがる思いで騎士様にご依頼したのでしょう。
私の全身全霊をかけて詩を紡がせていただきますね。
『暗く沈んでもがく魂を救うのは、風、澄みわたる青空、光たち……』
驚かせてしまったかしら……私の詩は私の口から紡がれた瞬間、力を持つのです。
光は鳥となり、踊るように王子様の元へ飛んでいくでしょう。
急いでお城へ戻ってあげてください。私の詩から今飛び去っていったのを追えば、近道です。
お気をつけて……王子様によろしくお伝えくださいね。あなた方の幸運を祈っています。
私の詩で少しでも多くの人たちが幸福になって欲しい……。
精一杯がんばってはいるけれど、私の詩はみんなの手助けになっているのかしら。
あら、騎士様!……ええ、それはよかったです。王子様は回復なさったのね。
騎士様が詩の鳥を追いかけたお城に到着した頃には、すでに目を覚ましていらっしゃったと……。
ええ、あの詩の鳥はそういうものなのです。あたたかな光に変化して、苦しむ人を包み込みます。
神様みたいだなんて……そんなことはありませんよ。私はただの詩の詠み手です。
お礼……ですか?そんな、いただけません。
騎士様が持っていらした金銀財宝は、どうぞお持ち帰りください。
お気持ちだけで十分、私は嬉しく思っていますとお伝えいただければ……。
もし返すことが難しいのなら……お城からここへ来る途中に、病院があったと思います。そちらへ寄付をしてください。
私が幸福を感じるのは、誰かが幸福を感じた瞬間。みんなが笑顔で過ごせる時間こそ、私にとっての宝物なのです。
すみません……わがままなことを言っているのはわかっているのです。
それでも、私は信念を曲げるわけにはいきません。例え理解してもらえなくても、私はみんなの幸福のために詩を詠み続けます。え?あっ……すみません。そんなに疲れた顔をしていましたか、私。
いつもはそんなことはないのですけど……今日は……少し、力を使いすぎたようです。
あっ、心配しないでください。少し休めば大丈夫ですから。
ええ……詩を詠むためには、精神力と体力を消耗します。
でも、いいんです。私が詠むことで、つらい思いをしている人が笑顔になってくれるなら。
……そんなふうに気遣ってくださるなんて。騎士様はとてもお優しい方なのですね。
私を詩を詠むことで相手から見返りを求めないようにしているのですが……。
優しい言葉をかけてもらうと、元気が出ますね。ふふ……騎士様の心が伝わってきました。
ええ、詠み手はとても大変な役割です。でも、私……詩が大好きなのです。
その時、その一瞬を切り取って、自分の言葉で色をつけていく……そうして大切にそっと届ける。
伝え方次第では、誰かを不幸にしてしまうこともあるかもしれません。
でも、だからこそ……言葉には無限の可能性がある……私はそう思うんです。
ふふっ……少し語りすぎてしまったかもしれませんね。ごめんなさい。
ああ、本当に大丈夫ですよ。え?まだ顔が青く見えますか?
ではココアでも入れましょうか。甘いものは元気をくれますから。
よかったら、騎士様もご一緒しませんか?ココアの他に紅茶やコーヒーもありますよ。
それで……よければ、騎士様が今まで巡ってきた国々のお話をしたいです。
これが金銀財宝を受け取る代わり?うふふ、では、そういうことにしておきましょう。
旅人さんからお話を聞くと、行ったことのない国々を想った詩を詠めるようになるんです。
詩を詠んだ私だけじゃなくて、詩を聞いた人たちも、その国へ思いを馳せて……世界が広がるんです。
ふふっ、素敵な連鎖だと思いませんか?
そうやって、私は詩で幸運を広めたいのです。
私の詩は人々の幸福のためにただ在るから……。
希望叶える詩ポエット
ああっ、あなた……一体、何があったのですか……?
可哀想に……こんなに怪我をして……!翼は……大丈夫そうですね。
私の詩を大切に運んでくれる鳥さん……こんな大きな怪我をしてきたことなんて、今まで一度もなかったというのに。
大丈夫、私が今すぐ詩を詠んで、痛みを和らげてあげます。
『傷ついた羽根、自由な空を求めているの?止まり木が見つからないなら、私の手の中でお眠り』
ああ、よかった。痛みは落ち着いたみたいね。ぐっすり眠っている。
この鳥さんがどうしてこんな怪我を負ったのか、知っている子はいますか?
えっ、呪いを受けているのを見た……のですか……誰がそんなことを……。
詩を依頼した方が、誰かに呪われていたせいで、詩を運んでいた鳥さんが呪いを受けてしまった……ということでしょうか。
このままでは依頼人さんに危険が及ぶかもしれません。なんとかしないと……。
でも、私はただの詩人で……魔術師でも戦士でもありません……。
私が呪いをかけた本人の元へ行ったとして、できることがあるかどうか。
それどころか、鳥さんのように呪いを受けてしまうかもしれません。
どうしましょう……。
あら騎士様!こんにちは。今日はどなたからの詩の依頼ですか?
でもあの、今……少し立て込んでいて……ごめんなさい。
え?どうしたのか、ですか?ええと、ですね……これは話していいものでしょうか。
すみません、ありがどうございます……私、そんなに切羽詰まって見えましたか?
騎士様はお優しいですね。……はい、お話します。実は……私の大切な鳥さんが呪いを受けたんです。
詩を鳥の形にして贈るのには力をたくさん使うので、緊急でないときは仲良しの鳥さんにお手伝いをしてもらっているのです。
今回は依頼人さんが呪われていたらしく、詩を運んでいた鳥さんが被害にあったのです。
幸い、詩で鳥さんを癒して事なきを得たのですが……このまま呪いを放置していたら、依頼人さんに被害が及ぶかもしれません。
それで……突然なのですが、騎士様にお願いがあるのです。
はい、呪った相手を突き止めて、できれば穏便に呪いを解きたいのです。
私ひとりでは不安で……え、いいのですか?本当に……?ありがとうございます!
騎士様が一緒ならとても安心です。心強いです。ふふ、お世辞じゃないですよ。本当のことです。
鳥さんも元気になったようなので、依頼人の元へ向かいましょう。何か手がかりがあるかもしれません。
……この辺りのはずですが、空気が淀んでいますね。騎士様、大丈夫ですか?
ありました。あそこが依頼人さんのお家です。この辺りの淀みはあのお家が原因のようですね。
騎士様が先に様子を?平気なのですか?……はい、わかりました。ではお願いします。
っ……!?今、呪いが発動しましたね……大きな火花が……!騎士様、お怪我はありませんか?
依頼人さんは……呪いでこの家の中に閉じ込められているのかもしれません。
詩を詠んで、光の鳥さんを飛ばします。周辺の呪いのあとを辿って、呪った本人の元へ飛んでくれるはずです。
『悲しみの先に何があるの?あなたを癒やし優しさで包みたい、怖がらないで、ほら……光の中へ手を伸ばして』
あっ……光の鳥さんが、依頼人さんの隣のお家へ飛んでいきます!
まさか、こんなに近くから呪いを飛ばしていたなんて。
騎士様、私行ってきますね。ふふ、大丈夫ですよ。……ごめんください。どなたがいらっしゃいますか?
……こんにちは。あなたはこのお家の方ですか?
可愛らしい女の子です……この子があの禍々しい呪いを発動させていたなんて……。
あなた、もしかして……隣のお家の方のことを想っているのですか?
ごめんなさい……私は詩の詠み手、ポエットと申します。今あのお家の周辺には呪いかかっているんです。
私の詩には不思議な力があって……呪いをもとに詠んだ詩に案内をしてもらったら、この家に向かっていったんです。
ああ……泣かないでください。無意識に呪いを発してしまうことは、稀にあるのですよ。
あなたのせいでいはありません。きっと隣の方を想ったがゆえに……少し間違えてしまっただけなのですよ。
そうだ、私と一緒に詩を詠みましょう。愛する方を想って。
心が穏やかになれば、自然と気持ちが緩んで、無意識に発していた呪いも解けていきます。
『穏やかな愛、静かな愛、激しい愛、どれもみな心ゆたかな財産。あなたを想う気持ちの形、それこそ愛なのです』
驚きましたか?これが詩の力です。心があたたかくなりますよね?ほら、呪いが解けていきますよ。
あとはあなたの勇気があれば大丈夫です。応援していますよ。いってらっしゃい。
騎士様……見守っていてくださって、ありがとうございます。あの子の心が、少しでも癒やされたなら……よかったです。
幸福を綴る声ポエット
いい天気で良かったです。バスケットにお弁当を詰めて……と。よし、準備万端です。
あら、騎士様。詩の依頼にいらっしゃったのですか?ごめんなさい……今日は年に一度のお休みの日なのです。
理由……ですか?もしよかったら、ご一緒しますか?そうすればわかりますよ。
ええ、大丈夫です。あ、騎士様の分のお弁当も急いで作っちゃいますね。少しだけ、待っていてください。
……突然、ごめんなさい。毎年のことだから、誰かに話を聞いてもらいたかったのかもしれません。
歩きながらでいいので、聞いてもらえますか?……まだ私が幼く、詩人として仕事を始める前の話です。
私にはとても仲の良い友人がいて、その友人には素晴らしい詩の才能がありました。
私たちは、どこへ行くにも一緒で……様々な場所へ出かけては、ともに詩を詠み合い、互いに切磋琢磨していたのです。
『将来は一緒に詩人になる』と……そんな夢を私は持っていて、叶うと信じて疑いませんでした。
けれど……ある日……森を歩いていた友人が、魔物に襲われてしまったのです。
幸い命は助かったものの、怪我によって友人は……声を失ってしまいました……。
詩人にとって、自分の詩を詠めないことは致命的で……私がいくら代わりに詠むから、と説得しても……友人は新しい詩を作らなくなってしまいました。
塞ぎ込んでいく友人のために、私は何度も励ましの詩を詠みました。でも……。
……すみません、少し……思い出してしまって。大丈夫です。最後まで、きちんとお話します。
塞ぎ込んだ友人は、衝動的に崖から飛び降りてしまいました。
友人が飛び降りた瞬間、私は咄嗟に詩の鳥さんの力で友人を助けようとしました。
指先が鳥さんを掠めて……助けられたかと思った次の瞬間……。
微笑みながら、友人は「ありがとう」と言い残して……そうして、暗い崖下へ……落ちていきました。
私は、友人を助けられなかった自分の不甲斐なさに落ち込み、長い間、詩を詠めなくなってしまいました。
……ああ、目的地に到着しましたよ。ここです。
こちらへ来てください。友人に騎士様を紹介したいのです。
久しぶりね。元気にしていた?……この方は騎士様。とても頼もしいお方なのよ。あなたに紹介したくて。
……驚かせてしまいましたか?すみません。ここは友人のお墓なのです。
ここで年に一度、あの子のために詩を詠むのが私の習慣となっているのですよ。
『懐かしい風、過去、現在、未来に吹く風、いつだって変わらないにおい、あなたもきっと、いつまでも変わらないでそばにいるのね』
ふふ……ここで詩を詠むと、いつも……ほら、あの子が来てくれるのですよ。
ほら、あの木の枝のところです。綺麗な鳥さんでしょう?
私はあの子がああやって鳥さんの姿をお借りして、私に会いに来てくれているのだと思っているのです。
寂しがり屋の私のために……あの子はとても優しい子でしたから。
……ごめんなさい。もう随分昔のことなのに。ふふ……少し感傷的になってしまいました。
私の詩、あの子に届いているといいのですけれど……。
ふふふ。ありがとうございます。騎士様がそう仰ってくださるなら、きっとそうなのでしょうね。
ああ、いい風……詩に呼ばれて吹いているのかもしれません。
『この風のかおり、想いとともにあなたに届け。幾重にも輝く思い出を伴って……』
……そろそろ行きましょうか。
ええ、大丈夫です。それに……そろそろお昼の時間ですよ。
ふふ。騎士様、今お腹を鳴らしましたか?
安心してください。お弁当はたっぷりと作ってきましたから。
ミートパイにサンドイッチ、サラダにフルーツ……チーズもありますよ。騎士様のお口に会うといいのですが。
あちらのほうに野原がありますから、ピクニックしましょう。いい天気ですから、きっと気持ちがいいですよ。
……騎士様、今日はありがとうございました。
毎年、あの子の命日に詩を詠むために、こうしてお墓にひとりで来て……。
今まではそれをなんとも思いませんでしたし、そうしなければ心がザワついて仕方がなかったのです。
でも……今日初めて、ひとりではないお墓参りをして……私、ずっと寂しかったのだと気づきました。
あの子がいなくなってしまって、私だけが幸福になるなんていけないことだと、そう自分に言い聞かせていました。
みんなを幸せにして、その気持ちのお裾分けをもらうことで、満足しているつもりでした。
だけど、もっと自分に正直に生きてみようかと思います。
あの子はもう近くにはいないけれど……でも、心にはいつだって寄り添ってくれている気がしているのです。
ふふ、ありがとうございます。大丈夫です。きっとこれからは、もう少し楽に生きていける気がします。
私が詩を詠み続ける限り、あの子の心と私の心は繋がっているのだと、私は信じています。