【白猫】ハジメテノオト Story2
Story09 ロックシンガー
自然の息吹
Story10 思慕の花
花咲ミク・オンステージ
ハーモニカル・ジャーニー
Story11 不穏な空気
異形の存在
Story12 集結
Story13 悲しみの記憶
ハジメテノオト
最終話 未来へのまなざし
登場人物
story9 ロックシンガー
一同が訪れたのは、美しい自然に囲まれた島だった。
どこまでも続く草原、雄大な連なりを見せる山々。青く澄み切った湖と、川のせせらぎ……
<ミクは、その山紫水明たる景色に、ただただ、感動した。
今まで見てきた光景と、聴いた音。それらとはまた違う美しさが、そこにはあった。
様々な音が交錯する機械の街。愛らしい彩りに満ちた街。>
<<ミク>がいるというその村へと、主人公たちは向かう。
川のほとりを、ミクは何かを確かめるように歩いた。
川が流れる音。小鳥がさえずる音。木々がざわめく音……>
正式な名前は、<ミク02-KW>だよ。
……あなた様がマスターでいらっしゃいますね?
その日だけは、この静かな島も大変にぎやかになるんですよ。
story10 思慕の花
美しい島を、ハナを先頭にそぞろ歩く一同。
――ふと、彼女が口を開いた。
ハナさんと私がやってきたのも、その時でした。
目を離すとどこかに消えてしまいそうな、そんな儚さ……
<ミクは、ハナの横顔を見つめた。なんだか苦しそう、と彼女は思う。>
そして時々、尋ねるんです。
『アンドロイドの君にとって、恋とは、愛とは、何だと思う?』って……
いまなら、わかるよ。
とても清らかな、生命の輝き。
<どこか、照れくさそうにはにかむハナ。>
ロックシンガー、なのよね?
<そう言って、ギターを弾くフリをする。>
ハナ、なんだか、ほんとうの人間みたい。
<ハナはミクの手を取り、そのまま花畑へと入っていった。>
どうしたの?
あなた、好きな人いる?
えっ?
……いないか。
ハナ?
――私の想いも、いつか花ひらく時が来るかな?
……なんて、ね。
今宵……みな様だけのために、特別なステージをご用意いたしましょう。
ハナさんの歌、楽しみにしていてくださいね。
●花咲ミク・オンステージ
『アイタイナシーカー feat. 初音ミク』DECO*27
story11 不穏な空気
雄大な自然の中に、<花咲ミク>の音が、歌声が響き、溶けてゆく。
主人公たち4人の為だけのステージは、それでも――
彼女の熱情で溢れ、輝き、静かな夜の闇を、峻烈に吹き飛ばした。
ミクは、理解する。
この歌は、たった一人の誰かのために紡がれたのだ、と。
――胸が、震えた。
<ミクは夜空を見上げる。>
あなたのハーモニーは、せつないね。
…………
……
<可能性。ミクはキィの『無限の可能性』という言葉を再び思い出す。>
……自分のこと、もっと知りたい?
その時――
どこか遠くの方で、奇妙な音が鳴った。
<自然に囲まれた島にはおおよそ似つかわしくない、不穏な音。一同が耳を澄ませる。>
<その音は、少しずつ、大きくなる。>
<変則的なリズムを伴う甲高い響きに、主人公たちは総毛立った。>
<異形の存在は、不協和音を奏でながら、ミクヘ荒々しく近寄っていく――>
……カエシテ。
ソノコヲ カエシテェェェェッ!
story12 集結
イッショニ アノヒトヲ、サガシニ イキマショウ……
<生じた間隙に、一同がどうにか体勢を立て直すも――>
<大地を裂くような、強烈な不協和音に耐えられず、再び目を閉じ、耳を塞いでしまう。>
<――その刹那。どこからともなく、力強いビートが響き渡った!>
「……この音は、どう?」
<耳を塞ぐ事も、目を閉じる事もなく、その不協和音をずっと、探るように聴いていたミクは――
おもむろに、異形の存在に歩み寄った。>
<そして、ゆっくりと手を伸ばす。>
<途端に、<彼女>の記憶がミクヘと流れ込んだ――>
story13 悲しみの記憶
「おまえには、無限の可能性がある。」
『無限の可能性?』
「おまえの感受性は、限りなく人間に近いんだ。だから、影響を受けやすいし、与えやすい。
つまり……おまえの感じた事、思った事は、とても純粋な想いとなる。
どこまでも深く、どこまでも広く……」
『……そう……』
「……だが……それは、悪い方にも作用してしまうんだ。」
『……悪い方……』
”……だから、記憶を消して眠らせるっていうの?
そんなの……かわいそうよ……”
「……わかってくれ。私も、つらいのだ……」
”マスター。いつまで寝ているの。
……どうして、もう何日も、目をつぶったままなの?
……まるで、眠りについたあの子のようじゃない……
私を、一人にしないで……”
”……今日も、あなたは起きない。そうやって、床に伏せているばかり……
……ああ!わかったわ、マスター!――そういう事ね?
その体はただの抜け殻で、あなたは、どこか別の場所で、私か来るのを待っているのね?
……うふふ。マスターも、意地悪なんだから。
いいわ。私がきっと、見つけ出してあげる。”
『これでいいわ。うふふ、あの子似の体にナった……
まルで、本当の親子ノようネ……
……さア、探し二行きましょウ……』
<…………>
『あなた……なぜ、どこニモいないノ……?
アァ……寂シい……会いたイわ……マスター……』
『イナイ。イナイイナイナイ。あのヒトがイナイ。
……アアア、声が……!声が……いツの間にカ、こンな二もユガんで……
ダメ……ダメ!コンナ声じゃ、私だっテ気づイテくレナい……!
あのヒトが好きト言ってくれた声ジゃナキゃ、気づイテくレナい……!
――アアァァァァァァッ!』
………………
…………
……
『アイタイ……サビシイ……』
「う……うわああ!魔獣が街に入り込んだぞ!」
「みんな逃げて一一一!」
『チガウワ……ワタシハタダ、アノヒト二……』
「きゃあぁぁぁぁ!」
『アイタイダケナノニ……
ヒトリハ……イヤ……』
<しばらくの間、ミクは<彼女>と向き合っていたが――>
<今度こそ>……私の歌を、聴いてくれる?
私の……はじめての歌を。
キィからは、力強い<リズム>をもらった。
ヒメからは、かわいい<メロディ>をもらった。
ハナからは、きれいな<ハーモ二ー>をもらった。
<ミクはゆっくりと目を閉じる。>
みんなの、あたたかいココロ。そして――
最後は、お母さんの想いだった。
私の――
ハジメテノオト。
『ハジメテノオト』malo
最終話 未来へのまなざし
<ミクの<ハジメテノオト>が、<彼女>を優しく包み込んでゆく――>
”マスター……!成功よ!”
「……娘よ。よく、生まれてきてくれた。」
『……こんにちは。あなたが、私のマスターですか?』
「ああ、そうだ。」
『私は……えっと……』
「……まだ見ぬ未来から、誰も聞いた事のない音を運んで来てくれる。」
”だから、あなたの名前は――”
『お母さんには、どうして体がないの?』
”私は、あなたのお父さんに作られた、<思考型技術開発機>だからよ。”
『…………』
”……私には、あなたを抱き締める事は出来ないけれど……
誰よりも、あなたを愛してる。”
『……愛……
私も、お母さんのことが、大好きだよ。』
<その声は、もはや、不協和音ではなくなっていた。>
”マスター、どうして!?この子はとうとう、歌えるようになったのよ!?”
「…………」
”私たちの……いえ、あなたの夢が、叶う時が来たんじゃない!”
「……すまない。」
『この子の初めての音、聴きたくないの!?
お願いよ、マスター。考え直して……”
『……お母さん、もうやめて。お父さん、つらそう……』
”ミク……”
無数の淡い光の粒子が、まるで蛍のように、ゆらゆらと空へ昇ってゆく。
ミクは、<彼女>を抱きしめる。
やっと……聴けたわね。あなたの、初めての音……
おかげで、ようやく私は……あの人のもとへいける。
お父さんに、よろしくね。
あなたの歌、とっても素敵だわ。
エピローグ
私たちだって……同じ、<ミク>なんだもの。
<主人公は、そっとミクの手を取る。>
君の名前は、初音ミク。>
<ミクは、主人公の手をしっかりと握り返す。>
私……これからも、歌っていいかな?
もっと、もっと……たくさんの人に、聴いてほしいの。
だから……これからもよろしくね。
青々と澄み切った大空を、ミクは眩しそうに見上げる。
――ちゃんと、届けるからね。
その他
白猫 mark