【白猫】ハジメテノオト Story2
Story09 ロックシンガー
自然の息吹
Story10 思慕の花
花咲ミク・オンステージ
ハーモニカル・ジャーニー
Story11 不穏な空気
異形の存在
Story12 集結
Story13 悲しみの記憶
ハジメテノオト
最終話 未来へのまなざし
登場人物
story9 ロックシンガー
一同が訪れたのは、美しい自然に囲まれた島だった。
どこまでも続く草原、雄大な連なりを見せる山々。青く澄み切った湖と、川のせせらぎ……
うわあ……
<ミクは、その山紫水明たる景色に、ただただ、感動した。
今まで見てきた光景と、聴いた音。それらとはまた違う美しさが、そこにはあった。
様々な音が交錯する機械の街。愛らしい彩りに満ちた街。>
静かだね……
街という街はなくて、大きな村が二つあるぐらいなんだって。
<<ミク>がいるというその村へと、主人公たちは向かう。
川のほとりを、ミクは何かを確かめるように歩いた。
川が流れる音。小鳥がさえずる音。木々がざわめく音……>
みんなみんな、とってもきれい……
こんにちは。
?
迎えに来たよ。
ミクいた!
迎えに……?あ、もしかして、ヒメさんが?
うん、あの子から連絡がきてさ。……みんなの事情も、彼女から聞いているわ。
ハナさ~ん!どこですか~?
あ、ごめん。こっちだよ~!
あら……ハナさん、この方たちが?
うん。自己紹介するね。私は<花咲ミク>。
正式な名前は、<ミク02-KW>だよ。
はなさき……だから、ハナね?
ハナ……よろしくね。
私はミクナビのヤヨイと申します。よろしくお願いいたします。
……あなた様がマスターでいらっしゃいますね?
ど一やら、こまかいところまで、ヒメから聞いているようね?
ええ……まさか、私たちのお姉さんに会えるなんてね。
おお、妹よー。
ど……どうしたの?
ユーモア……ダヨ。
あはは♪
ハナは、この島で歌手をしているのね?
ええ、そうなんです。こう見えて、ロックシンガーなんですよ。
かっこいい……!
でも、この島の人口って少ないんでしょ?ちょっと、物足りなくない?
そんなことないよー。
外のみな様へ向けたライブも、定期的に行っているんです。
その日だけは、この静かな島も大変にぎやかになるんですよ。
本当に……ありがたい事だよね。
ロックかあ……どんな歌なのか、気になるわね。
みな様は、<ハーモニー>を学びにいらっしゃったのですよね。
お願いしてもよろしいでしょうか?
もちろん!私でよければ、力になるよ!
ハナさんの歌は、まさにぴったりだと思いますよ。
story10 思慕の花
美しい島を、ハナを先頭にそぞろ歩く一同。
――ふと、彼女が口を開いた。
私のマスターはね、小説や詩を書いてる人なの。
へえ、芸術家なんですね。分野はどういったものを?
恋とか……愛について。
あらぁ……ロマンチックね。
元々は都会で暮らしていたのですが、作品が有名になるにつれ、そこでの生活を厭うようになり、この島へ移住したんだそうです。
ハナさんと私がやってきたのも、その時でした。
どういうひとなの?
とても穏やかで、優しい方ですよ。私たちに、いつも良くして下さいます。
そして……どこか、陰のある人。
かげ?
私に微笑みかけるその顔が、どこか悲しげに見える時があるの。
目を離すとどこかに消えてしまいそうな、そんな儚さ……
<ミクは、ハナの横顔を見つめた。なんだか苦しそう、と彼女は思う。>
思慕や愛情……人から人への切なる気持ちを、マスターはハナさんに教えてくださいました。
そして時々、尋ねるんです。
『アンドロイドの君にとって、恋とは、愛とは、何だと思う?』って……
……それ、むずかしくない?
……最初は、そうだった。でも、考えるのは好きだから。それに――
いまなら、わかるよ。
ここは、私のお気に入りの場所。
……お花が、好きなんですね?
芽が出て、つぼみが生まれ、やがて……美しく咲く。
とても清らかな、生命の輝き。
マスターは、恋をお花に例えるのが好きなんです。
だから、ハナさんも?
<どこか、照れくさそうにはにかむハナ。>
自然の営みと、ハナさんの想い。それらが詞となり<ハーモニー>となり、歌になっていくんです。
……ひとついい?聞いたかぎりでは、なんだかしっとりとした歌をうたいそうだけども……
ロックシンガー、なのよね?
恋は激しく繊細に、ってね。
<そう言って、ギターを弾くフリをする。>
恋の情熱は、ロックに通じるものがある。そういう事なのでしょう。
……モフタローのいってたとおりだね。
ハナ、なんだか、ほんとうの人間みたい。
……ねえ、ちょっと二人きりにならない?
<ハナはミクの手を取り、そのまま花畑へと入っていった。>
どうしたの?
あなた、好きな人いる?
えっ?
……いないか。
ハナ?
――私の想いも、いつか花ひらく時が来るかな?
……なんて、ね。
なにをはなしてたの?
ひみつ~。
さて、百聞は一見に如かず、と申します。
今宵……みな様だけのために、特別なステージをご用意いたしましょう。
ハナさんの歌、楽しみにしていてくださいね。
ハナ……
……あなたに届けるよ。私の、<ハーモニー>を。
●花咲ミク・オンステージ
『アイタイナシーカー feat. 初音ミク』DECO*27
story11 不穏な空気
雄大な自然の中に、<花咲ミク>の音が、歌声が響き、溶けてゆく。
主人公たち4人の為だけのステージは、それでも――
彼女の熱情で溢れ、輝き、静かな夜の闇を、峻烈に吹き飛ばした。
ミクは、理解する。
この歌は、たった一人の誰かのために紡がれたのだ、と。
――胸が、震えた。
だからこそ、みんなの心に届くんだね……
ハナさん。素敵な歌を、ありがとうございました。
恋は激しく繊細に、かぁ。なんとなく、わかった気がしたわ。
しっかりと、届いたよ。あなたの想い。
<ミクは夜空を見上げる。>
……ねえ、ハナ。
あなたのハーモニーは、せつないね。
…………
……
さて……ミク?そろそろ、歌をつくれるようになったんじゃない?
リズム、メロディ、ハーモ二-……音楽のこと、色々学びましたもんね。
そうですね。あとは、あなた様次第です。
あなただけの音を、紡いでいけるのよ。
私だけの……音。
……ねえ、ヒメちゃんから聞いてるでしょ?
……私は、プロトタイプなんでしょ?
そう。……あなたには、可能性がある。
<可能性。ミクはキィの『無限の可能性』という言葉を再び思い出す。>
……少しだけ、うらやましい。
えっ……どうして?
どうしてかな?……あはは、ごめんね。
……自分のこと、もっと知りたい?
……うん。
……わかった。<私たち>が知っている事、全部話すね。
その時――
どこか遠くの方で、奇妙な音が鳴った。
…………?なに? いまの。
何か、変な音がしたね。
<自然に囲まれた島にはおおよそ似つかわしくない、不穏な音。一同が耳を澄ませる。>
……あ、また……
<その音は、少しずつ、大きくなる。>
なに、この音……聞いたことが、ない。
……何だか、嫌な感じがします……
<変則的なリズムを伴う甲高い響きに、主人公たちは総毛立った。>
……何かが、こっちに来る!
アアァァ……ヤット……アエタ……
コ、コイツは……!?
うぅぅ……!
なんていやな音なの!頭が……いたい!
魔獣……なの……?
カワイイ、アタシノ……
…………?
サァ……カオヲヨクミセテ……!
…………?かすかに、声がしたような……?
<異形の存在は、不協和音を奏でながら、ミクヘ荒々しく近寄っていく――>
あっ……!
主人公、ミクが……!
ミク様、下がってください!
う、うん……
……ナニ……?ナンナノヨ、アナタタチ……
……カエシテ。
ソノコヲ カエシテェェェェッ!
story12 集結
うぅ……
イヤな音のせいで、まともにたたかえない……
サア……イッショニ イキマショウ、ミク……
イッショニ アノヒトヲ、サガシニ イキマショウ……
…………!
どうしましょう、どうしましょう!
ヤヨイ、落ち着いて。……さあ、もう一度!
<生じた間隙に、一同がどうにか体勢を立て直すも――>
ジャマシナイデエッ!
きゃあー!
<大地を裂くような、強烈な不協和音に耐えられず、再び目を閉じ、耳を塞いでしまう。>
どうしたら、いいの…… ?
<――その刹那。どこからともなく、力強いビートが響き渡った!>
「……この音は、どう?」
グウッ!?
みんな!助けにきたよ!
……大丈夫?
オイラたちも加勢するぜ!
キィ……!ヒメ……!
……勘が、当たったわね。
嫌な予感がするってキィがいうからさ、心配になって飛んできたんだ!
ボクたちもそんな感じ~。
オネガイダカラ、ジャマシナイデ……
また仕掛けてくるぞ……!
ワタシノ コヲ カエシテッ!
あたしのかわいい音で、はね返してやるんだから!
みなさん、ちょっと待って――
ミク、あなたは離れてて!
……待って。
<耳を塞ぐ事も、目を閉じる事もなく、その不協和音をずっと、探るように聴いていたミクは――
おもむろに、異形の存在に歩み寄った。>
ミ、ミク!?
あなたは……だあれ?
……ゥ……ア……
<そして、ゆっくりと手を伸ばす。>
どうして、私に――!!
<途端に、<彼女>の記憶がミクヘと流れ込んだ――>
story13 悲しみの記憶
「おまえには、無限の可能性がある。」
『無限の可能性?』
「おまえの感受性は、限りなく人間に近いんだ。だから、影響を受けやすいし、与えやすい。
つまり……おまえの感じた事、思った事は、とても純粋な想いとなる。
どこまでも深く、どこまでも広く……」
『……そう……』
「……だが……それは、悪い方にも作用してしまうんだ。」
『……悪い方……』
”……だから、記憶を消して眠らせるっていうの?
そんなの……かわいそうよ……”
「……わかってくれ。私も、つらいのだ……」
”マスター。いつまで寝ているの。
……どうして、もう何日も、目をつぶったままなの?
……まるで、眠りについたあの子のようじゃない……
私を、一人にしないで……”
”……今日も、あなたは起きない。そうやって、床に伏せているばかり……
……ああ!わかったわ、マスター!――そういう事ね?
その体はただの抜け殻で、あなたは、どこか別の場所で、私か来るのを待っているのね?
……うふふ。マスターも、意地悪なんだから。
いいわ。私がきっと、見つけ出してあげる。”
『これでいいわ。うふふ、あの子似の体にナった……
まルで、本当の親子ノようネ……
……さア、探し二行きましょウ……』
<…………>
『あなた……なぜ、どこニモいないノ……?
アァ……寂シい……会いたイわ……マスター……』
『イナイ。イナイイナイナイ。あのヒトがイナイ。
……アアア、声が……!声が……いツの間にカ、こンな二もユガんで……
ダメ……ダメ!コンナ声じゃ、私だっテ気づイテくレナい……!
あのヒトが好きト言ってくれた声ジゃナキゃ、気づイテくレナい……!
――アアァァァァァァッ!』
………………
…………
……
『アイタイ……サビシイ……』
「う……うわああ!魔獣が街に入り込んだぞ!」
「みんな逃げて一一一!」
『チガウワ……ワタシハタダ、アノヒト二……』
「きゃあぁぁぁぁ!」
『アイタイダケナノニ……
ヒトリハ……イヤ……』
――ア”アァッ!
……お母さん、なの?
ア”ゥゥ……ミ、ミク……!
ずっと……ひとり……だったの?
いったい、なにが…… ?
……だから、せめて、娘の私に……
…………
イヤな音が……小さくなった?
ミクさん……
<しばらくの間、ミクは<彼女>と向き合っていたが――>
……きっと、大丈夫。だから――
<今度こそ>……私の歌を、聴いてくれる?
私の……はじめての歌を。
!!
……あのね、みんな。ほんとうはね、少しずつ、できてたんだ。
キィからは、力強い<リズム>をもらった。
ヒメからは、かわいい<メロディ>をもらった。
ハナからは、きれいな<ハーモ二ー>をもらった。
<ミクはゆっくりと目を閉じる。>
私が見た、たくさんの景色。私が聴いた、たくさんの音。
みんなの、あたたかいココロ。そして――
最後は、お母さんの想いだった。
いったい、どういうこと…… ?
多分……ミクさんは、自分の歌で――
<”彼女”を、救おうとしている。>
みんなに……そして、あなたに、届けるよ。
私の――
ハジメテノオト。
『ハジメテノオト』malo
最終話 未来へのまなざし
<ミクの<ハジメテノオト>が、<彼女>を優しく包み込んでゆく――>
……アァァ……
”マスター……!成功よ!”
「……娘よ。よく、生まれてきてくれた。」
『……こんにちは。あなたが、私のマスターですか?』
「ああ、そうだ。」
『私は……えっと……』
「……まだ見ぬ未来から、誰も聞いた事のない音を運んで来てくれる。」
”だから、あなたの名前は――”
姿が……変わって……
……違う。
……戻って、いくのよ。
ワタシハ……ワタシハ!
『お母さんには、どうして体がないの?』
”私は、あなたのお父さんに作られた、<思考型技術開発機>だからよ。”
『…………』
”……私には、あなたを抱き締める事は出来ないけれど……
誰よりも、あなたを愛してる。”
『……愛……
私も、お母さんのことが、大好きだよ。』
……ああ……
<その声は、もはや、不協和音ではなくなっていた。>
初めての、音……
”マスター、どうして!?この子はとうとう、歌えるようになったのよ!?”
「…………」
”私たちの……いえ、あなたの夢が、叶う時が来たんじゃない!”
「……すまない。」
『この子の初めての音、聴きたくないの!?
お願いよ、マスター。考え直して……”
『……お母さん、もうやめて。お父さん、つらそう……』
”ミク……”
無数の淡い光の粒子が、まるで蛍のように、ゆらゆらと空へ昇ってゆく。
お母さん……
ミクは、<彼女>を抱きしめる。
……ありがとう、ミク。私の、愛しい娘。
やっと……聴けたわね。あなたの、初めての音……
おかげで、ようやく私は……あの人のもとへいける。
…………
お父さんに、よろしくね。
――ねえ、ミク。
あなたの歌、とっても素敵だわ。
エピローグ
じゃあ……そろそろ、出発しよっか。
主人公、ミクさんは…… ?
……
……ずっと、海を眺めてるんだ。
お母様のことを、想っているのかもしれません。
ヒメちゃん。……ボクには、よくわからなかったよ。
……たぶん、二人だけにしかわからないことが、あったんだよ。
……親子にしか、わからないこと。
でも……おぼろげには、感じた気がした。……そうでしょ?
私たちだって……同じ、<ミク>なんだもの。
<主人公は、そっとミクの手を取る。>
……マスター?
ああ、そういえば……
ミク様の名前……まだ、ついておりませんでしたものね。
決まったんだな?どんな名前なんだ!?
はやく教えて~。
<初音……ミク……
君の名前は、初音ミク。>
初音……ミク。
……いい名前。
君にぴったりだね!
よかったね……おめでとう。
<ミクは、主人公の手をしっかりと握り返す。>
ありがとう、マスター。
私……これからも、歌っていいかな?
もっと、もっと……たくさんの人に、聴いてほしいの。
だから……これからもよろしくね。
青々と澄み切った大空を、ミクは眩しそうに見上げる。
……まだ見ぬ、未来の音……
――ちゃんと、届けるからね。
その他
白猫 mark