【黒ウィズ】相変わらずの天女たち Story
story
ここは、12の支神に幸を与えられし異界。
動物の姿をした神様が、人々を見守りながら、時に寛大な心で幸と福を与え――
人間たちは、そんな神様たちに感謝しながら慎ましく生きていた。
I『イヌミコ・イヌイの、ワンだほーでキャンだほー!』。
今日は大晦日の特別版でお送りしましゅ!今年起こったいろんな事件や話題を、みんなで振り返っていきたいと思いましゅ。
m今年は……そうね、いきなり“和伊波(わいは)”で大王イカと戦わされそうになったりしたっけ。
bその後、放送事故が起こって、ワタスらはしばらく謹慎してたっぺな……。
tい、いちばんの大事件って言ったら、やっぱり福の神様の大暴走じゃないですか~?
あれで町がめちゃくちゃになっちゃって、トリテンちゃん、とても悲しかったです~。
m(よく言うわ。イノセントさんに御神水を飲ませた首謀者は、あんたでしょうに)
Iその件ですが、次の年を気持ちよく迎えるため、イノセントさんは、率先して正月の飾りつけをしてくださってましゅ。
ちょうど、中継が繋がってましゅ。イノセントさ~ん?
Tおう、ただいま正月の準備中だぜベイベー。
Uうりたちも、しっかり手伝ううり!
jあれからもう1年が経とうとしているのね。月日が流れるのは早いわ、ほんと……。
Iあっちは大丈夫みたいでしゅね!それでは引き続き、今年のニュースを振り返っていきましょう!
m今年の大きなニュースっていうと……あれかな?トリテンガンパウダー事件。
bトリテン先輩が、ようつばの企画で立ち入り禁止区域に入ったら、めちゃくちゃ銃で撃たれたんだっぺな。
tトリテン、すごく怖かった~。お気に入りの服に穴が空いちゃったし~。
bあと、あれはどうだっぺ?トリテン先輩感動の再会やらせ事件。
m家出したくーちゃんぐーちゃんとの感動の再会……って番組だったのに、まさかの替え玉だったとはね。
tあれは、くーちゃんぐーちゃんにものすごくそっくりな子たちだったのトリテンちゃんもびっくりしたよ~。
Iトリテン先輩本音暴露事件もありまちた。
b生放送中、マイクが切れていると思って、うっかり本音をしゃべったときだっぺな。あれは驚いたっぺ。
mでもあれ、局の偉い人がしつこく誘ってくるって愚痴だったから、むしろその人が炎上して、引退に追い込まれたんだよね。
tニヤリ。
m意図的かいっ!?
tトリテンちゃん、ほんとのこと言っただけだから~。
てういか、さっきからトリテンちゃんの事件ばっかりじゃない!
mいや、改めて考えると、いつもいつも世間を騒がせすぎだわ、あんた……。
t他にもっと一大ニュースがあったと思うな~。あ、あれは?ネミミちゃんの音楽チャート席巻事件!
bあれは凄かったっぺ。ネミミちゃんの出したシングル曲が、チャート1位~100位を独占したっぺ。
m一気に100もシングル出す方も凄いし、それ全部買う方も凄いわ……。
ネミミちゃんて、最近ビューティー12天女に入った子だよね?テレビじゃぜんぜん見ないけど……。
bテレビ嫌いで、音楽番組にも滅多に出ないらしいっぺ。
tふ~ん。でも、それってどうなのかな?天女たる者、テレビでみんなに幸を届けるのが仕事だと思うけど。
Iネミミちゃんは、歌うのが好きなんでしゅ。あたちたちとは違う形で、みなさんに幸を届けてくれています。
mイヌミコちゃん、詳しいね。
Iネミミちゃんとは歳が近いので、たまにプライペートで遊んだりしてまちて……。
b仲がいいんだなぁ。羨ましいっぺ。
tトリテンちゃんたちだって、良く一緒に軽飯(かるめし)行くよね?ね~。
mうち、いまだに1回も誘われてないんだけど。で、お店の請求書だけ届くの。
tそ、それはほら。マワシちゃん忙しいと思って。でも、請求書を送れば、一緒に食べに行った雰囲気だけでも出るかな~って。
t出て行くのはうちのお金だけだつーの!
tあ、でもほら、この間、マワシちゃんの家でご飯食べたでしょ?動画にもしたやつ!
mあれはたかりに来たって言うんでしょ!?連絡もナシに来るんだからもう!
bなんだかんだ言いつつ、お金も払うしご飯も作るし、マワシ先輩、トリテン先輩に甘いっぺな……。
jはぁ。あの子たち、しっかりやってるかしら。監視してないと、いろいろ不安だわ。
T大丈夫なんじゃねーか?それより、今年は御神水を飲んだりするんじゃないぜ、ベイベー。
jわかってるわよ。変な物は口にしません。水分補給に使うのは、家から持ってきた水筒だけ。
あんな不祥事、二度と起こしてなるもんですか。今年は、まじめに!つつがなく!終わらせてみせるわよ!
***
イノジョプロヂューサー、イノセントさん。作業はどうですか?
jおかげさまでね。年明けまでには問題なく終わりそう。あんたたちは休憩?
tはい!忙しく働いてる先輩たちに、差し入れをしたいと思って~。はい、甘~いおまんじゅうですよ~。
Tおお、こいつは助かるぜベイベー。ちょうど小腹が空いてたんだ。
jだめよ。やめておきなさい。何が人ってるかわからないでしょ。
tぎくっ。そ、そんなことないよ~。入ってるのはあんこだけだよ~。
(用心深いんだから~。もう1回暴れてもらえば、今度こそ更迭されて新番組が作れると思ったのに!)
jふふふ、あてが外れたって顔ね。だけど、あんたの性根はお見通しよ。
今年は、自分で持参したもの以外、何も口にしないって決めてるの!飲み物だろうと食べ物だろうとね!
nちぃ~っす!ネミミちゃん、今日もかわい~ね~。なに~?カウントダウンライブのリハしてる系~?
年明けたらさ、俺の年来つからさ~。マジ幸とかあげちゃうからさ~。どうよ?今度、ご飯行かない?
mうるせえ。消えろ。
nちょいちょーい。天女がそんな言葉づかいしちゃだめっしょ。俺、泣いちゃうよ~?
――ん?あ、ほら見て見て、流れ星!めっちゃ綺麗くね?ヤバくね?マジで。
m……あれ、町の方に落ちてない?
nあ、ほんとだ。
wにゃーーーーーーーー!!
君とウィズは、どこともしれぬ町に落っこちた。
Tあいてっ!
巨大な猪のような生物の背に落ち、ぼよんと跳ねて、路地に転がる。
wキミ、大丈夫にゃ?
いきなり異界の歪みに呑まれたと思ったら、空から落っこちるなんて……ついてなさすぎにゃ。
Iあの、大丈夫ですか?
w平気にゃ。大きな猪がクッションになってくれたにゃ。
mあんたたち、どこから来たのさ?空から降って来たように見えたけど。
b猫がしゃべってるってことは、ひょっとして、猫の福の神様か?
w福の神?なんにゃそれ?
tえー?福の神様を知らないの?どんな田舎の人でも知ってるよ?
Iここでは、動物の神様が、人々に幸を与えてくださるんでしゅ。
m特に12支神は、1年ごとに交代してすごい幸をもたらしてくれるんだけど……。
bそういや、猫の神様は、12支神にはいなかったっぺな。
tいにしえの12支神決定戦で、ネズミの神様に敗れたんだって。つまり2軍の福の神様だね。
wなんだかひどい言われようにゃ。
m神様に向かってなんつーことを……あんた、いちおう天女なんだから、言葉ってもんを選びなさいよ。
ひょっとして、この猪も神様なの?と、君は大きな猪を見上げる。
Iはい!イノセントさんは今年の福の神で――
Tうぃー、ひっく。いい気分になってきたぜベイべー。
Iあれ?
jあははははは、町とお空がぐるぐるしてる~。
bありゃ?
mちょ、ちょっと!トリテン、あんた何かした!?
t何もしてないよ~!まだおまんじゅう食べさせてないもん!
ひょっとしてこれのせいかな?君は手にしていた瓶を掲げた。
wあ。バロンに頼まれて買ってきた、〝獣王殺し〟がこぼれてるにゃ。
そして、その中身は猪の神様と、その傍にいた女性に降りかかったようだった。
m……と。
bいう……。
Iことは?
Tこんなの飲んだことないぜ!もっと飲ませろベイベー!
やっぱりー!
T突っ走るぜベイべー!!
tひー、こっち来ないで~!今回トリテンちゃん悪くないのにー!
w猪の神様が暴れ出したにゃ!
自分たちのせいみたいだし、放っておくわけにはいかないね……と言って、君はカードを取り出した。
T正月に向けて、今年最後の大爆走だぜ!