【黒ウィズ】スノウ編(謹賀新年2019)Story
2020/01/01
story
童話の住人たちが暮らす異界にも新しい年はやってくる。
年が明けたばかりのおめでたい、この日。
童話の登場人物たちは、演人という普段の役割から解放されてしばし、自由な時間を過ごすことが許されている。
久しぶりに訪れた童話の異界。
君とウィズは、異国文化を取り入れたー風変わった造りの宿屋にいた。
スノウがいる。そして、なぜか怒っている。
君は首をかしげた。スノウに怒られることをした覚えがない。
前回、スノウが死の淵から蘇った際、君は言葉を交わすことなく姿を消した。スノウは、それを怒っているのだ。
君のために編んだセーターに手袋にマフラー。ウィズ用のニット帽やセーターまである。
黙っていなくなったのは悪かったとプレゼントを受け取りながら君は頭を下げた。
話したいことが沢山あって、うずうずしてたの。
君も、あのマルグリットがいなくなったあとの童話の異界がどうなったのか興味あった。
スノウは、近くにある『火鉢』という焼けた炭が入っている器を引き寄せる。
言われたとおりにしてみると、なるほど温かい。ウィズは、先ほどからずっと火鉢の傍にいる。
落ち着いたところで、シラユキ王国はどうなったのかとまず訊ねた。
いまシラユキ王国は大混乱。この機会に女王を決める掟を大臣たちが撤回に動き出したり、領主たちが独立したりと――
権力者同士の争いが続いているらしいんだ。
そんなところへ、お城から逃げ出した僕が戻っても、混乱に拍車をかけるだけだから……。
実は、マルグリットがいなくなってから童話の世界に新しい勢力が台頭したんだ。
マルグリットの配下だった童話四天王。新たな敵の登場に君の心がざわめいた。
スノウは、火鉢の中を突いた。赤く燃える炭が、音を立てて小さく爆ぜた。
まずはじめは、童話四天王のひとり、コルベス様と戦った時のお話――
ちゃんと最後まで聞いててよね?
そう言ってスノウは、君たちがいない間に起きた物語を語りはじめた。
***
むかし。これは、むかし……。じゃないね。ちょっと前にあったお話です。
童話四天王のひとり「コルベス様」の噂を聞いた僕とアーシュは、情報を集めて彼のアジトを突き止めました。
コルベス様が、悪いことをする前に倒すべく、僕は、アーシュと共にアジトヘ向いました。
途中、猟銃を持った赤いずきんのメメリーと出会いました。
さらに頼もしい仲間が増えて、僕たちは、意気揚々と先に進みました。
その後、半狼のラグールさんも仲間に加え……僕たちは、コルベス様のアジトに到着しました。
こんにちはー。
僕たちは相談して、コルベス様を思い思いの場所で待つことにしました。
メメリーちゃんは、カーテンの中に隠れました。リコラさんは台所に行き途中で取ってきた山菜を料理しはじめました。
アーシュは、柱時計を楽しそうに見ていました。
ラグールさんは、金目の物がないか物色しはじめ、ケットさんは、お花の匂いを嗅いでいます。
ピノキオさんは、はじめて訪れた家でとても落ち着かなさそうでした。
そして、僕たちの準備が整ったその時、ついにコルベス様が帰ってきたのです。
僕を見るなり、コルベス様は、いきなり抱きつこうとしてきます。
びっくりした僕は、思わずコルベス様を突き飛ばしてしまいました。
コルベス様は、足をもつれさせて台所にいたリコラさんにぶつかりそうになりました。
怖くなったリコラさんは、山菜の煮汁をコルベス様にかけました。
熱がるコルベス様は、顔を押さえて後ずさります。そして柱時計を見ていたアーシュにうっかりぶつかってしまい――
金庫を開けようとしていたラグールさんに倒れ込みます。その時、ケットさんの近くにあった花瓶を倒してしまいます。
それを見たピノキオさんが怒り、ハサミを振りかざしたのです。
コルベス様は青くなって窓から逃げ出そうとしますが、カーテンに隠れていたメメリーさんが飛び出してきたので急いで玄関から外に出ました。
ようやく外に出れたと安心したコルベス様でしたが、空からいきなり大きな白いものが降ってきて――
コルベス様は、押しつぶされてしまったのです。
コルベス様は、なんて不運な人だろう、と君は思った。
スノウに抱きつこうとさえしなければ、そんな不運な目に遭うこともなかったはず。
童話四天王コルベス様は、きっと運の悪い人に違いないと君は結論づけた。
今の話。どうだった?魔法使いさんの感想を聞かせて欲しいな~。
***
story
今日のために準備しておいたんだ。遠慮せずに飲んで。飲んで。
カップに注がれた白濁した液体。これが『あまざけ』という飲み物らしい。
喉ごしは爽やかで上品な甘さがある。なかなか美味しいよ、とスノウに言った。
ある日、僕のところに1枚の招待状が届いたのです。とあるお屋敷での昼食会のお誘い……。
招待状の差出人は、『窓辺の貴婦人』と名乗る人でした。
招待状の案内どおり、お屋敷にたどり着いた僕は、玄関のドアを叩きました。
ですが、反応はありません。だから勇気を振り絞ってお屋敷の中に入りました。
お屋敷は、奇妙な造りでした。入り口からいきなり、大きな階段が続いていたのです。
階段の1段目には双子の人形がいて、激しく言い争っていました。
ふたりは僕には目もくれず、大声を張り上げていました。
僕はお礼を言って1段昇りました。
振り返ると階段の1段目にいた双子はいなくなっていて、代わりに物干し竿と洗濯ばさみが落ちていました。
hおよよ。いま、何時ぞよ?はて。私としたことが時間を忘れてしまうとは。このところ忙しすぎたのだな。
2段目には、時間を忘れてしまった時計のおじさんがいました。
彼は、忘れた時間を思い出すので精ー杯らしく、いくら話しかけても答えてくれませんでした。
諦めて僕は3段目に上がりました。3段目には、白い骨のようなものが沢山散らばっていました。
骨たちは僕に「もう1段あがってみな」と言いました。
4段目には、お鍋に入った沢山の頭蓋骨たちが「熱い、熱い」と叫びながら、ぐつぐつ煮込まれています。
そして5段目に来て、ようやく部屋の入り口を見つけたのです。
僕は、部屋に入る前に窓辺の貴婦人様の顔を見てやろうと鍵穴からそっと中を覗いたのです。
すると中から声がして婦人が僕を招いていたので、ドアを開いて中に入りました。
僕は、階段にいた人たちのことが気になったので婦人に尋ねてみました。
婦人は、長いソファーに腰掛けています。僕に隣に座るように言いました。
その時、部屋の中に何者かが現れてこう叫んだのです
「ここは、人食い魔女の屋敷よ!すぐに逃げなさい!」
僕は、急いで窓から外に飛び出しました。しばらく走ってから振り返ると婦人が窓からこちらを見ていました。
そして、化け物のような口を広げてこう叫んだのです。
だから、捕まえたら、ただじゃおかないわ!
婦人は絶句して、窓の奥へ引っ込んでいきました。
僕は、さらに逃げて――
もう大丈夫だろうというところで振り返ると、あったはずの窓辺の貴婦人のお屋敷は、きれいさっぱりなくなっていました。
あれ以来、窓辺の貴婦人からの接触は、ー切ないそうだ。
***
story
コルベス様は、突然降ってきた白くて大きなものに押しつぶされたままです。
それでもとアーシュに促され、スノウは腕まくりして地面に埋まったカブを抜こうと試みます。
だけど大きなカブは、ー向に抜けません。
アーシュとスノウは、大きなカブが抜けなくて困っていると伝えました。
そう言ってハンスという若者は、カブを抜いてくれる仲間を探しに行きました。
戻ってきた時には、ひとりの老人を連れてきました。
ハンスは老人をまるで犬のように引き摺ってきたのです。
こう……手を握って、優しくお連れしなきゃダメですよ?
ハンスは再びカプを抜くのを手伝ってくれる人を探しにいきました。
威勢の良い声と共に、ハンスは嫌がる牛の前足を握り、強引に引っ張ってくるのでした。
またまた勢いよく飛び出していったハンスでしたが、すぐに戻ってきました。
なんとハンスは、リコラの首に縄をくくり付けて連れてきたのです。
次にハンスが連れてきたのは、半狼のラグールでした。
まるでお姫様のようにラグールを抱きあげ、得意げに戻ってくるのです。
スノウたちが見たのは、ピノキオを肩に乗せてやってくるハンスの姿でした。
そのあとも、次々に仲間が加わり……。
「「「「うんとこどっこいしょ。うんとこどっこいしょ。」」」」
全員がー丸となって白くて大きな、なにかを引き抜こうと頑張ります。
なんと、カブだと思っていた物体から声がするではありませんか。
名前は、鏡餅太郎といいます。どうぞよろしく。
***
月では、ウサギたちがお餅をついています。鏡餅太郎は、沢山搗かれたお餅のひとつでした。
ですが、あまりにも大きく作られすぎたが故に、ウサギたちから邪魔がられ、月から追放されたのだそうです。
助けてくださったのは、みなさんですか?なんとも、お礼の言いようもございません。
皆様に楯突くつもりなんてなかったんだ!
マルグリット様がいなくなったのを幸いに四天王を勝手に名乗っただけなんだ。
俺ひとりじゃ格好つかないと思ったから知り合いだったハンスにも名乗らせた。俺が知っている四天王はこいつぐらいだ。
もちろん僕とアーシュとで、2度と紛らわしい名前を名乗らないようにコルベス様たちには言っておいたけどね。
僕が食べさせてあげるね。はい。あーんして。あーん……。
恥ずかしいなと思いながらも、君はスノウをマネして口を開く。
ところで、鏡餅太郎はどうなったのと君は訊ねる。
そんな残酷なことスノウがするわけないよな、君は思う。
餅を作るスノウの姿は、あまり想像できないが、心が込められていることはわかった。
ねえ、次は魔法使いさんのお話を聞かせてよ。いいでしょ?
こうして君とウィズは、スノウとー緒に年明けの静かなー日を楽しく過ごしたのでした。