【黒ウィズ】アイドルωキャッツ!! Story3
2018/00/00 |
yほら。半分の人員でもちゃんと稼働するじゃないですか。
以前とは打って変わり、和やかな雰囲気の労働者をユッカは指差す。
ハイ……。
yこれからはちゃんと、お仕事の効率を意識して、ラインを稼働させて下さい。ちなみに今後の計画はどうなってますか?
「最近ハ サンドイッチモ 売レナイカラ……製造ラインノ 稼働時間モ 見直シマス。
yよろしい。……あれ? このサンドイッチ売れてないんですか?
「ハイ。地上デ 販売シテイルノデスガ、ナンデモ 別ノサンドイッチガ 流行ッテイテ 徐々二 販売数ハ 減ッテイマス。
「ア、ウチハ 強制労働所ナノデ ソコハ気ニ シナクテモ……。
マネージャーの訴えを無視して、少女たちは議論を進めた。
mこのサンドイッチ、素朴でおいしいけど、ちょっと新しさがないかもね。学校の売店でもこういうの売れ残ってる。
b斬新なものが必要ですね。
Eですが、大量生産できるものでないといけませんね。
我が家で作る〈魔界のはらわた〉というソーセージはとても美味ですが、大量生産は出来ません。
t飽きない味であることも重要だねー。
y斬新で、飽きなくて、大量生産が出来る……。
ふと、ユッカは自分がこの世界に来る前のことを思い出した。それはティータイムの直前……食べ損ねたのは大好物の……。
yそうか! パンケーキだ!
「「「「パンケーキ?」」」」
***
きゃっつはロディのライブ会場となる〈偶像の塔〉の最寄り駅に到着し、テンションが上がり切っていた。
そんな話をしていると、エターナル・ロアが妙に低い声で呟いた。
駅を出たところで、エターナル・ロアの言っていることがきゃっつにもわかった。
人形のように押し黙った人々が、物販の行列を作っていた。
そこに生気はなく、ただ前々に進むという意思は強かった。まるでそれは亡者であった。
無邪気に飛び出したリリーが、物販を待つ行列に飲み込まれるのは一瞬だった。
と、手を差し出したセラータももっていかれた。
と、腰につけていたダンダァくんのキーホルダーがひっかかり、アイラがもっていかれ。
エクセリアはすでにもっていかれていた。
わりと前の方にいた。
***
眼下の風景を一瞥し、ロディは呟いた。〈偶像の塔〉上階から見る地上の景色は、人が豆粒のように見える。
それでも、何が起こっているのかはわかった。
「始まったのね……。」
「なんだい? 今頃後悔してるのかい?」
「バカな質問ね。」
なせなら彼女は知っていたからだ。
「ねえ……。このお弁当食べないなら。僕が食べていいかい?」
「いちいちそんなこと聞かないで。勝手に、好きなだけ、食べなさい。」
***
mユッちゃん! ミルクとバター! ウチの親戚からいっぱい仕入れてきたよ!
yありがとう!
bハーネット商会にお願いして、魔道島民から買い入れた魔道バナナも譲ってもらえることになりました。
tお友達に、商売繁盛の招き猫もらってきたよー。
E我が家から、秘薬を持ってきました。これをパンケーキに練り込めば、絶対にまた食べたくなります。
mエレちゃん、それってニンゲンが食べて大丈夫なものなの?
Eなんとなく……大丈夫だと思います。
mま、なんとなくなるか。
ユッカのひらめいたアイデアを元に、少女たちはサンドイッチの製造ラインをパンケーキに変更することに決めた。
彼女たちは、一旦それぞれの世界に戻り、必要そうなものを持ち寄った。
yラインの機械も改造済みだし、バンケーキのレシピも教えてもらった。あとはもう作るだけだね。
新たな目的を見据え、前に進む少女たちの瞳は輝いていた。
みなさんがお腹空いているだろうと思って……。愛情を込めて! 握りました!
しこたま握り飯が置かれているトレイを、ルカが持ってくるのを見て、ユッカは言った。
yよし! ティータイムで一息いれようか!
tそれなら私は緑の方も呼んでくるねー。
少女たちは、稼働を止めているベルトコンベアの前に立つ緑の人を見た。
彼は動かなくなったベルトコンベアを見て、寂しげに佇んでいた。
mなんか……寂しそうだね。声をかけづらいかも。
y私が行くよ。
ユッカは緑の人の隣に立った。
yごめんなさい。パンケーキにキュウリは使わないんです。でもみんなの雇用を守るためなんです。分かって下さい。
「……。
y今はまだアイデアはないけど、絶対にキュウリを使った商品考えます。だから……一緒にティータイムしませんか?
その大きな目がごろりとユッカに向けられる。頭の皿が上下してキラリと光輝いた。頷いてくれたのだ。
それはパンケーキ製造の本格始動の合図でもあった。
***
リルムは、きゃっつのメンバーをもっていった行列に並走しながら、様子を窺っていた。
受け取ったロープをエターナル・ロアの下の方の返しになった部分に結びつける。
ロープのもう一端を電柱に結びつけ、ペオルタンが合図を送る。
リルムがエターナル・ロアを肩に担った。そこに至り、エターナル・ロアも体の力を虚脱させた。
といっても、杖なので、そんな気分になっただけである。
もういい……。我、一介の鉄棒なり。諦観の極みなり。好きにして……。
空に、魔杖が舞った。
***
群衆の波に飲み込まれ、もみくちゃにされていたリリーたちの眼前にエターナル・ロアが突き刺さった。
少女たちは、なんとか人の流れをかき分けて、エターナル・ロアに捕まった。
それを確かめるとロアが頭の部分を点滅させて、合図を送る。
合図を受けて、リルムがロープを引っ張る。
が、比較的簡単に諦めた。4人と1本を引きずり出すような筋力はリルムにはなかった。
投擲に必要な肩周りのインナーマッスルと牽引に必要な腎部及び後背部のアウターマッスルでは役割が違う。
彼女は投げることは出来ても、引き上げることは出来なかった。
リルムの声が、行列の中にめちゃくちゃ馴染んでいたガトリンの耳に届いた。
やや? 何か聞こえる……あれはナースコール!
見ると、ペオルタンが空中で『ナース』の文字を描くように飛んでいる。
ガトリンはそれを見るや否や、おっとりガドリン・チャンバーでリルムの下へ駆けつけた。
早速、ガドリン・チャンパーにロープを取り付け、巻き上げる。
巻き上げられるロープはすぐにビンと張りつめ、人がぐちゃぐちゃしている所にいるエターナル・ロアも牽引の気配を感じた。
エターナル・ロアの悲咄を行軍の掛け声にして、人のぐちゃぐちゃの中にいたリリーたちは脱出に成功した。
セラータは群衆の中でぎゅうぎゅうにされて、痛めた体をさする。
渦巻く疑念を振り払うように、リリーが挙手する。
皆、その瞳には同意を伝える光が宿っていた。セラータがひとつ頷くと、会議が始まった。
それを聞き、みんなは行列の方を見た。
人形のように無機質な表情の人々が、ガツガツとあの何味かわからないくらいカラフルなよくぱりサンドイッチを食べている。
行列だけではない。物販のスタッフもライブに関係のない通行人も、よくばりサンドイッチをかじっていた。
わからないこと会議に沈黙だけが残った。
「やれやれ。やっぱりアタイ抜きじゃ、ダメみたいニャね。」
きゃっつは一斉にその声が聞こえた方を見た。
「「「「ウィズ!」」」」
そこにいたのは、ウィズ。かつて異界クエス=アリアスの最高意思決定機関、四聖賢の地位にいた大魔道士である。
いまはこの世界で、スナックを経営していた。
アイドルキャッツ!!
プロローグ
1 Heart break Work(初級)
無防備会議
2 キューリー(中級)
3 物販戦線異状アリ!(上級)
リアル・ブラウンの弁当
4 アイドル特攻大作戦(封魔級)
5 フルタイム・チケット(絶級)
6 番外編
7 嘘猫は眠らない