【黒ウィズ】アイドルωキャッツ!! Story3-2
story リアル・ブラウンの弁当
『スナック くろねこ』。
きゃっつがアイドル活動を開始した頃に、ウィズが営み始めた紳士の社交場である。
どういう資金繰りをして、彼女が店を出せたのかは一切不明であった。
噂ではタイガー兄弟とのリンゴの密売で得た利益だと言われていたが、それも真実かはわからない。
まずは座って、少し落ち着くニャ。
だが、比較的安価な料金設定と、食べ物の持ち込みや出前の注文がオーケーというアットホームさで人気を集めていた。
ウィズは慣れた手つきでロックグラスに氷を入れて、2、3度マドラーでかき混ぜると、琥珀色の液体を注いだ。
それを人数分カウンターの上に用意すると、肉球でグラスを押し出した。
飲むニャ。受け入れがたい現実を受け入れないといけない時は、これが一番ニャ。
でも……これって。
飲むニャ。
ウィズの腐った魚のような眼が鋭くきゃっつを睨みつけた。いつものように鼻息は荒かった。
少女たちは、気圧されるようにグラスを手に取り、恐れや不安もろとも、琥珀色の液体を流し込んだ。
……ッ! これは……。
めんつゆニャ。疲れた体には塩分とミネラルの補充が必要ニャ。そういう時はめんつゆが一番ニャ。
ウィズさんの言う通り、もみくちゃにされて、へとへとになった体にめんつゆが染みますね。
ウィズ……素麺がほしい。
それは話が終わってからにゃ。まずはアタイの話を聞くニャ。
ウィズは自分のグラスに入っためんつゆをひと舐めしてから、話を始めた。
生粋の風来坊であるアタイが、この店を出して一年近く、この世界に滞在したのには訳があるニャ。
アタイはこの世界のことを調べていたニャ。ここで人と繋がりを作り、情報を手に入れていたニャ。
そこでわかったことがあるニャ。この世界は、とても不安定に出来ているということニャ。
この世界では、人は容易に堕落し、ピュアを失い、〈ボエーナ〉に送られるニャ。そして容易に世界は滅亡するニャ。
ペオルたんの時もそうだったね……。
今回もそうニャ。よくばりサンドイッチを食べて、欲望がむき出しになり、人形として地下に行くニャ。
つまり、何者かがあの食べ物を与えて、この世界を滅ぼそうとしている。
ウィズは首を横に振った。
半分正解で半分間違いニャ。サンドイッチを手に取っているのは、人形になった本人たちニャ。
サンドイッチはただ売られているだけニャ。1度食べ、2度食べ、3度食べ、するうちに欲張りになっていくニャ。
人は自分の意思で滅亡しているニャ。このサンドイッチを売り出したヤツは、ただ、きっかけを与えているだけニャ。
サンドイッチを売っているヤツは何者なんだ?
アイラが事務所から与えられた携帯端末でネット検索を始めた。
パラデイススカンパニー。ごく普通の企業みたい。
そこは歯車のひとつに過ぎないニャ。恐らくペオルタンのような悪魔が関係しているニャ。
悪魔はペオルタンひとりだけじゃないニャ。無数にいるニャ。人の欲望の数だけいて、世界を壊そうと暗躍しているニャ。
今回はその中の、誰かの仕業ニャ。
椅子を揺らして、リルムが立ち上がった。
サンドイッチを食べるのを止めさせよう! みんなに説明して、止めてもらおう!
小娘、それは不可能だ。人間は欲望に弱い。理性で欲望を抑えることが、人間にとってどれほど難しいことか。我はよく知っている。
ウィズは再びグラスの中のめんつゆを舐め、マホガニーのカウンターにグラスを置いた。乾いた音がした。
この世界を支配的に覆っているシステムにキャピタリズムというものがあるニャ。
キャピタリズムでは、流行っている商品を駆逐するのは、より良い商品だと言われているニャ。
人々の欲望を別のものに向けるために、サンドイッチ以上のものを売り出せば、この流れを止められるかもしれないニャ。
わかりました! それならサンドイッチ以上の商品を売ればいいんです!
でも、よくばりサンドイッチ以上のものなんて、どこにあるの? 少なくとも検索では見つからないよ。
あ。言われてみるとそうですね……。うーん……全然思い浮かびません!
***
yみんなー、パンケーキ出来たよー!
完成した新ラインから、焼き立てのバナナパンケーキが次々と生み出されていく。
その光景を眺め、労苦を共にした人々が、やんややんやと喜び、踊る。
騒ぎの渦中の中でも、ルカとユッカは冷静に次なる目標を確かめていた。
r次は作った物を売りに出さないといけませんね。具体的にどうすればいいのかというアイデアはありませんがー。
すると、緑の人が指さした。上を。
yうん。そうだね。まずは上に行ってみようか、ルカちゃん。
r上、行ったらーい! の精神ですね。ええ、行きましょう!
アイドルキャッツ!!
プロローグ
1 Heart break Work(初級)
無防備会議
2 キューリー(中級)
3 物販戦線異状アリ!(上級)
リアル・ブラウンの弁当
4 アイドル特攻大作戦(封魔級)
5 フルタイム・チケット(絶級)
6 番外編
7 嘘猫は眠らない