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【黒ウィズ】5周年、自分探しの旅 Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん

2018/03/05

目次


Story1

Story2

Story3



主な登場人物


五属性を極めし魔道王ゼルプスト



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story1




「キミ、最近働きづめにゃ。たまにはゆっくり散歩でもするにゃ。」

厳しい寒さが和らぎ、春のきざしがあちこちで見えはじめる季節――

ウィズの提案に乗った君はトルリッカの草原にやってきた。心地よい風が君の頬を撫でる。

今日はいいことかありそうだ――そんな予感を胸に君は歩き始めた。

が、いいことなどなく、それどころか行き倒れの男を発見してしまう。

「キミ、助けるにゃ!」

君は倒れ伏している男に駆け寄った。


「余は五属性を極めし魔道王ゼルプスト。自分探しをしている。」

は?

「謎の意志に導かれ、この世界にやってきた。余にこの世界を救って欲しいのか? それとも滅ぼして欲しいのか?

どちらも可能だ。余は強大な力を操る存在。だが、それは強大過ぎて保つのが難しい力でもある。」

倒れているが饒舌な男だった。ひとまず、大丈夫なのだろう。ある意味で大丈夫ではないのかもしれないが。

「思えば、兆候があったのも事実。余の内で、性格の一面同士が互いに反発し合っていたのだ。

熱血な余や、弱気な余。いろんな余が混ざり合うことで、ちょうどいい感じの余となっていた。

しかしこの世界を訪れてバランスが崩れたのか、余は分裂してしまった。それに伴い、極めた五属性もバラバラになった。」

べらべらしゃべる元気があるなら倒れてないで起きればいいのに。

そう思いつつ、君は革の水筒を差しだす。

「水か……。余は五属性を極めし魔道王。当然、水の魔法も自在に操った。

しかし――今の余は雷属性の魔法しか扱えん。余は水属性の魔法を扱える余ではないのだ。」

水、飲まないんですか?

「飲むけども。」

男はむくりと起き上がり、喉を鳴らして水を飲み干した。


「水属性を操る余や、闇操る余……。この世界のどこかに、いろんな余がいるはずだ。

貴様ら、このへんで余を見なかったか? 余と違う色の余。」

見てませんと君は即答した。

「ならば余と一緒に自分探しの旅に出よう。」

意味がわからないので立ち去りたい気分だった。

「キミ、意味がわからないから立ち去るにゃ。」

ウィズもまったく同じことを考えていたようだ。

思えば、随分と長い間、一緒に冒険している。君は感慨に浸りながら、男を無視して歩き出した。


 ***


気を取り直して、トルリッカの街で昼食を摂ることにした。
店の目星をつけながら歩いていると――


「余は五属性を極めし魔道王ゼルプスト。自分探しをしている。」

またいた。しかし、髪型や服装が異なっていた。

「余は五属性を操っていたが――

「一属性しか扱えないにゃ? それもう聞いたにゃ。」

「情けない話、今は水属性しか扱えなくてな。こんな自分が恥ずかしい。」

男は弱々しく漏らした。先ほど行き倒れていた男とは、性格が違うようだ。

「申し訳ないが、どこかで余に会ったら、よろしく言っておいてくれ。」

「よろしくって……なんて伝えればいいにゃ?」

「余が、余のこと探してたよ、って。」

わかったと言って、君は食堂に向かった。



不運にも食堂でバロンに会ってしまった君は、面倒な用事を押し付けられてしまう。王都ウィリトナヘの使いだった。


「余は五属性を極めし魔道王ゼルプスト! 自分探しをしている! 貴様も一緒に自分探し、やろう!」

「こいつどこに行ってもいるにゃ。むしろいない街を探すほうが大変にゃ。」

余が、余のこと探してたよ。君は約束通り、男に伝える。

「はァ?」

こっちが「はァ?」と言いたい気分だったが、怒りを抑えて宿屋に向かった。


 ***


まだ陽は高いが、疲れを感じていた君はベッドに寝そべる。

……が、ふと妙な気配を感じて、ベッドの下をのぞき込んだ。


「余は五属性を極めし魔道王ゼルプスト。自分探しをしている。殺すぞ。」

どうしてこんなところにいるんですか?

「今の余は闇属性だけを極めし存在。暗闇を住処としている。殺すぞ。」

殺すぞっていうの、物騒だからやめてもらっていいですか?

「ああ、すまない。おどかすつもりはないんだ。殺すぞ。」

君はため息を漏らして部屋から出た。



宿屋の前、君を出待ちしているかのように男がいた。

余は五属性を極めし魔道王ゼルプスト。自分探しをしている。君は先んじて言った。


「そう、それ。初対面なのによくわかったな。話が早くて助かる。余の自分探しを手伝え。」

最初に会った男と瓜二つだが、どうやら別の個体? らしい。


「面倒だけど自分探しを手伝うしかないのかもしれないにゃ。きっとそういう定めにゃ。」

君は観念して、やたらいる男ゼルプストの自分探しを手伝うことにした。




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story2



「余は物理的にも精神的にもバラバラになってしまった。

だがこれは余が自分を見つめ直すいい機会だし、こういう機会に恵まれる余って、特別な存在なのだと改めて思う。

それが存外嬉しい。特別であることに慣れきった余でも、こういうことに喜びを感じるんだ――

へえ、余ってそんな一面もあるんだ、余って深いなあ、好きだなあって、思う。」

「うっさいにゃ。さっさと自分探せにゃ。」

「焦るでない。確かに余は再び五属性を操るために色違いの余を探している。

しかし、そんな物理的自分探しで終わってしまっては、勿体ないではないか。

精神的な意味で新たな余、あるいは本当の余と巡り合うために。

余は昔から、本当の自分を追いかけていた。あれは余がまだ三属性しか扱えず、腐りかけていた頃――」

「こいつめっちゃ自分の話するにゃ。キミ、全部聞き流して五属性の余を集めるにゃ。」

君は師匠のアドバイスに従い、ゼルプストの話を無視してゼルプスト集めに集中した。


 ***



 ***


「やったにゃ! 火、水、雷、光、闇――五属性コンプリートにゃ!」

君はぐーっと伸びをする。奇妙かつ馬鹿馬鹿しい体験だったが、終わってみれば心地よい達成感に包まれていた。


「愚かだな。」

ゼルプストは吐き捨てるように言った。


「余は五属性を極めし魔道王だ。そんな余がバラバラになった。だから貴様らは五色の余をコンプした。」

「なにがおかしいにゃ? なにも間違ってないにゃ!」

「事態はそう単純ではない。五属性の余の他に、二属性を併せ持つ余もいる。」

「……どういうことにゃ!?」

「例えば……そうだな。ここはひとつ、余の思い出話を交えて教えてやる。」

ゼルプストは遠い過去を懐かしむように、目を細める。

「あれは修練に行き詰ったときのことだ。余はひとり荒野でうなだれ、雨と雷に打たれていた……。」

ダメージ的に雷の比重高いなと君は思った。

「そんな絶望の中――雲の切れ目からひと筋の光が射し、余の顔を照らした。

その瞬間、困難を突破する案が閃いた。それはまさしく、希望の光となったのだ。」

「なるほど、それで光属性が生まれたにゃ?」

「いや、生まれたのは水雷属性の余だ。雨と雷に打たれてたと言っただろ。」

「希望の光のくだりなんだったにゃ!」

「そんなわけで、水であり雷でもある余がどこかにいるはずだ。それとは別に、雷であり水でもある余もいる。」

「にゃー! めんどくさすぎるにゃ!」

「世界は余で溢れている……そう考えると、この世界も捨てたものではない。さあ、世界中を巡る旅を続けるぞ。」

君とウィズがうんざりしていると、それまで穏やかに微笑んでいた光属性のゼルプストが雷属性のゼルプストの前に出た。


lずっと思っていたのですが、どうして自分探しの旅を貴方が仕切っているのですか?

k何を言う。余を探しているのは余なのだ。余が仕切るのは道理だろう。

l余も余を探しているのですが。おそらく、余が一番余のことを思っているでしょう。

ゼルプストたちは揉め始めた。自分と揉めているのだから、内輪揉めの極みである。

rそうだ、思い出した! 元はと言えば、余は他の余たちの根性が気に食わぬから別離したのだ!

軟弱な余と一緒に戦いたくはないそれならひとりでやってやる!

z強がって見せても、貴様は自分探しをしている。一属性に限界を感じているのだろう? 所詮は弱者。殺すぞ。

r貴様、口には気をつけろ! 余を誰だと思っている? 余だぞ!

bふたりとも、落ち着け。再び力をひとつにするのだろう?

余みたいな駄目な余を外すならともかく貴様らは強いのだから……。

l駄目な余とはなんですか。貴方がいなければ、五属性を極めし魔道王には戻れないのです。駄目な余など、存在しません。

z確かに、その通りかもしれん。それぞれ別の力を持っているのだ。力を合わせなければならんな。殺すぞ。


ゼルプストたちは仲直りしたようだ。この人たちは、本当に自分が好きなんだなあと思った。

「もう付き合ってられないにゃ。キミ、帰るにゃ。

君は頷いて帰ろうとするが、色とりどりのゼルプストたちに囲まれてしまった。

「こんなやつら、きっと大したことないにゃ。力ずくで突破するにゃ!


b力ずくはやめてくれ。余は荒事が得意ではない。それでも勇気を出して立ち向かう……そういう余、好きだなあ。

l自分を愛することで、人を愛せるのです。余は、全ての存在を愛していますが、一番はやっぱり余です。

k余の自分探し、引き続き手伝ってくれるだろう?


異界の魔道王だかなんだか知らないが、こちらも四聖賢とその弟子。

身勝手な要求を易々と飲んでは、名がすたるというものだ。

五人のゼルプストと一戦交えるべく、君はカードを構えた。



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story3



意外にも、ゼルプストは魔道王の名にふさわしい実力者だった。

「貴様、なかなかやるではないか。このまま戦い続けるのも一興だが、お互い消耗は必至。休戦といこう。

君としても、著しい体力の消耗は避けたかった。

「引き続き、自分探しの旅をしよう。その道すがら、魔道士としてお互い意見交換をしようではないか。余は、貴様の話が聞きたい。

「どうせ口だけだと思ってたけど、かなりの手練れみたいにゃ。自分探しに付き合うのは面倒でも、貴重な話を聞けるかもしれないにゃ。」

君とウィズは再びゼルプストの自分探しに付き合うことにした。


貴様の話が聞きたいと言ったくせに、ゼルプストは延々自分の話をし続けた。魔道士として参考になる話は、特になかった。

それにめげることもなく、君はクエス=アリアスをひたすら歩き回った。

行く先々でゼルプストと出会い、かなりの数のゼルプストを集めた。


 ***



 ***


「余は五属性を極めし魔道王。貴様ら、余と一緒に自分探しの旅へ征くぞ! 断れば殺すぞ。」

「あーこの余はダブりだ。火闇の余はさっき仲間にした。一応キープはしておくが。」

「ダブりってなんにゃ! どうして同じ属性の自分がたくさんいるにゃ!」

「ひと口に火闇と言っても、いろんな火闇がいる。想いの数だけ余がいるのだ……。」

「然りだ! 余は熱血漢の火属性!だけど飼っている闇属性の犬が好きだから火闇の余だ! 殺すぞ。」

とりあえず語尾に殺すぞがついてるところが闇属性なんだなと君は理解した。

「ちなみに余は……幼少期、火属性のように暑い夏、光属性の友達と一緒に飲んだ水属性の水が一番おいしかったよなあと昔を懐かしみ――

酒場で間属性のブランデーを傾けては、時間の不可逆性を痛感する、ちょっとセンチな雷属性だ……。」

「結局それ何属性にゃ……。」

「ちょっとセンチな雷属性って言っただろ。雷属性だよ。」

「思い出話まったく関係なかったにゃ。もうなんでもいいにゃ。」

「それにしても……火闇の余、多いな。こんなにいらないのだが。」

確かにいらないですねと君は言った。ちょっと数えてみると、火闇のゼルプストだけで18人いる。ひとりですら轡陶しいのに……。

「火闇、ちょっと集まるにゃ。邪魔だからひとりになれにゃ。」

なんて大胆な要求なのだろう。さすがは四聖賢だと君は舌を巻いた。

「余たちは同じ火闇でもそれぞれ別の想いを抱いてんだ! ひとりになんてなれん! 「「「殺すぞ。」」」」

しかし、そんな言葉とは裏腹に――灼けつくような魔力の波動を放ちながら、18人の火闇ゼルプストはひとりになった!

「この調子でどんどんいくにゃ! あと揃ってないのは何属性にゃ? 雷水のゼルプストがいないにゃ! 雷と水でくっつけにゃ!」

再び魔力の波動を放って、ふたりのゼルプストがひとりになる。

「成功した……にゃ?」

「余はひとり荒野でうなだれ、雨と雷に打たれていた……。」

「にゃー! こいつ水雷にゃ!私たちが欲しいのは雷水にゃ!」

その後何度試しても、荒野でうなだれ雨と雷に打たれていた水雷ゼルプストばかりが誕生した。

「ズルはいかんということだろう。自分探しの旅で見つけてこそ、本物の自分だ。

君は終わりの見えない自分探しの旅を続ける。

人助けは嫌いじゃないし、魔道士として率先してすべきことだ。

しかし、今の自分は本当にすべきことをしているのだろうか。

自分を見失ってないか。本当の自分は、こんなふうだったか。君は自分についていろいろ考える。

自分は四聖賢ウィズの弟子で、頻繁に異界の歪みに呑まれ……いや、違う。これらは本質的な情報ではない。

自分。自分ってなんだろう……。

君はゼルプストを集めながら自分について考えているうちに、混乱してくる。


……!

今、自分そっくりの魔道士とすれ違った気がする。あれは自分の分身なのだろうか。

ゼルプストの身に起きたことが、自分にも起きているのかもしれない。

君は魔道士を追いかけて、腕をつかんだ。

魔道士が振り返る。自分とよく似ている気もするし、全く似ていない気もした。


「え、なに、このひと……。」

「おいあんた、なにやってんだ!」


割って入った魔道士も、自分に似ているように見えた。あるいは、似ていないようにも見えた。

魔道士ふたりは連れ立って去っていく。果たしてあれは自分だったのだろうか……。

そんな疑問を持つのは、確固とした自分を持っていないからなのかもしれない。


……自分探しの旅に出たい。

「にゃにゃ!?」

無意識のうちに、君はそう口走っていた。

自分探しの旅に出れば、もっと自分らしい自分、本当の自分に出会える気がする。

君は自分探しに対する情熱を語った。すると――

「眠たいこと言うなにゃ!」

ウィズに腕を引っかかれた。

「自分探しの旅より魔道士としての腕みがけにゃ!そうすればおのずと自分が見えてくるにゃ!」

 「身につまされる……。」

鮮烈な痛みによって、意識がはっきりとする。一時の気の迷いが、きれいに晴れた。

ウィズの言う通りだ。自分探しの旅ではなく、腕をみがくべきだ。

危険な状況を潜り抜けてきて、一人前の気になっていたが、まだまだ師匠の助言がなければ道を踏み外してしまう未熟者だ。

自分は四聖賢ウィズの弟子なのだなと、君は改めて実感する。

「キミ、痛かったにゃ? ちょっと乱暴だったにゃ。ごめんにゃ。」

ありがとう、気が引き締まったよ。君はウィズに頭を下げる。これからもいろいろ勉強させていただきます。

「にゃは! そんなに弟子らしく振る舞われると変な感じがするにゃ。

そういえば、キミが私の弟子になったのは、ちょうど今くらいの季節だったにゃ。あの頃のキミはずいぶん初々しかったにゃ。

それが今では、どこに出しても恥ずかしくない立派な魔道士にゃ。

だけど魔道は深いにゃ。道はまだまだ続くけど、焦らずゴツゴツいくのが大切にゃ。さあ、バロンのところに行ってギルドの仕事を請け負うにゃ!」

 「……あー、余は、一体どうしたら……。」

その時――何の前触れもなく異界の歪みが発生した!

君とウィズは異界の歪みを一瞥し、ゼルプストたちに視線を移し、もう一度異界の歪みを眺める。


「……。

……次に会う時は、全ての属性がひとつになった完全なる余だ。

魔法使い、せいせい腕を磨いておけ。」

ゼルプストたちは自分から異界の歪みに飛び込んでいく。

「まだ見つかってない余が、この世界に残っているだろう。見つけたら、伝えておいてくれ。

余が余のこと探してたけど、なんかもういいよ、って。」

君は快諾した。君自身も、なんかもういいよと思っていたところだった。


すべてのゼルプストが飛び込み終わると、異界の歪みはまばゆい光を放ちだす。

君は思わず目を閉じる。

目を開けると、異界の歪みは跡形もなく消滅していた。

あまりにもきれいさっぱり片付いたものだから、あれは全部夢だったのかとさえ思った。

「いろいろあって疲れたにゃ? ギルドの仕事を請け負う前に、気分転換に散歩でもするにゃ。」


心地よい風が君の頬を撫でる。

今日はいいことがありそうだ――そんな予感を胸に君は歩き始めた。







5周年、自分探しの旅 Story -END-

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No.9932~No9946 (396P)



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