ブラフモ・グロル
ブラフモ・グロル CV:伊達忠智 |
2014/12/29 |
バックストーリー
魔界の王、ブラフモ・グロルはこの時をじっと待ち続けていた。
聖王、イアデル・セラフィムの死する時を……。
神界に含まれる7異界の中で、魔界ほど争いの絶えぬ場所はない。
神界の誕生により、結界の外に出て暴れる事の出来なくなった魔族は、魔界の中で互いに争う様になった。
そこは誰もが破壊を求め、暴力を欲する、力が支配する世界。
彼らにとって、その対象が何であるかは問題ではなかった。
強き者が残り、弱き者は消える――。
そんな至極単純な法則のみが支配する世界をブラフモは美しいと感じた。
そして自らの身をその破壊と暴力の渦中に置くこととした。
――ただ目の前の存在を破壊し、屈服させる。
その連続が、彼をより強く、より邪悪で、より大きな存在へと変えていった。
誰かを破壊し、屈伏させる時の快感は、その相手の強さに比例して増していく。
ブラフモは自分よりも強大で、邪悪な相手を求めて、暴れ続けた。
そして気がつけば、魔界の頂点に立っていた。
最も邪悪な存在とされていた魔界の王はブラフモの前に膝を付き、玉座を明け渡した。
「……若く強き者よ、私を空虚で退屈な日々から開放してくれた事に礼を言おう」
玉座につくブラフモを見上げながら、年老いた先代の王は口を開いた。
魔界の王である事の何が空虚だというのか、ブラフモには理解が出来なかった。
「すぐに分かる……」
先王はただそう微笑み、ブラフモに光る石を手渡した。
「新しき王よ。お前にこれが砕けるか?」
「……愚問だ」
たった今、魔界で最も強大な存在を打ち倒した自分に壊せぬものなどあるはずはない。
ブラフモは手の石を握りしめた。しかしどれだけ力を込めても、石は割れなかった。
「答えよ! この石は一体何なのだ?」
ブラフモは戸惑い、問い詰める。
「それはこの神界の結界を結ぶ要石の一つ。そこには神界に存在する全ての光が込められておる。
破壊を求める強き王よ。この石を砕かぬ限り、お前の望む世界は訪れないと知るが良い……」
――それが先王の最期の言葉だった。
ブラフモは程なくして、先王の残したそれらの言葉の意味を痛感した。
頂点に立ってしまった以上、この魔界に征服すべき対象は存在しない。
そして神界が存続する限り、結界の外へ出て暴れる事も、神界内にある他の異界へ攻め入る事も出来ない。
神界の結界をつなぐ要石は2つ存在する。1つはブラフモの持つ光の要石。
そして、もう1つの要石――神界に存在する全ての闇を司る、闇の要石は天界の王が持っている。
手元にある光の要石を砕けば、結界は破られ、神界を崩壊させる事が出来る。
しかし神界内に存在する闇と光の力が同等である限り、闇を司るブラフモにこの光の要石を砕く事は出来ない。
ブラフモは破壊に酔いしれたいという自己の欲求を満たせぬ苦痛に耐え、神界内の光と闇の均衡が崩れる時を待ち続けた――
闇が光を凌駕し、手元にある光の要石を砕く機会を……。
――玉座に座るブラフモは、手の上の要石をじっと見つめている。
先刻、天界に送った使い魔が聖王イアデルの死を告げにきた。
ブラフモはこれまで幾度と無く破壊を試み、傷一つつける事の出来なかった忌々しき石を見つめながら、魔王になってからの退屈で空虚な日々を思い返していた。
「……ようやく、時は来た」
かつて先王の前でそうした様に、ブラフモは光の要石を握りしめ、力を込めた。
その手の中で、光の要石は砂の様に崩れた。
この時、結界は破られ、神界は崩壊したのである。