トート・タピーロ
トート・タピーロ 後藤ヒロキ |
2014/12/29 |
バックストーリー
その日、ワイ――オトコの中のオトコ、神獣トート・タピーローは自室の飼育小屋で空腹を紛らわしていた。
出会ってから早数か月、ドせっかちでド早とちりの飼育係メティースは、未だにワイが記憶だけ食べとると思い込んでいた。
ワイは確かに記憶を食べる。しかし、それはあくまで、神獣の役割的な意味でや。
どこの世界に記憶で腹膨れるヤツがおんねん。生物学的に必要な栄養素は別腹や!
ホンマにあいつ、人の話全く聞かんのよ。ほいで今ワイは隣の鳥小屋から豆をくすねて食いつないどる。
ワイもオトコや。彼女が自分で気づくまで、待ってようと決めとんねん。
とにかくや、それは豆も食い尽くしたワイがペコッ腹を紛らわすために寝てまおうとしていた時のことやった。
どこからか羽音が近づいてきたかと思うとワイの側ヘヒョイっと何かが舞い降りたんや。
「ハトかいな? 豆ならもうないで」
「こんにちは。神獣さん」
ハトやない! 何ともええ感じの気だるい声にワイはパッと振り返った!
そして二度見したね! パッ、パッと!
つまり、そんだけええ女が立っとったわけや。
ワイクラスの神獣になると、着ている服からそのネェちゃんの出自が分かってまう。
ほいで彼女の服の露出度は、神殿では絶対にお目にかかれない特Aクラス!
ワイはピーンと来たね――ははーん、こいつは魔族やな、と。
「なんや。魔族のネェちゃんがワイに何の用や?」
そうなると、そうそう気ィを許すわけにはいかへん。
ワイは突き放す様に対応した。そのクールさが、彼女の恋心に火をつけてしまう事とは知らずに。
「ちょっとお願いがあるんですけど……いいですか?」
いじらし気に体をくねりながら、彼女はワイを誘惑してくる。
「どないしたん?」
「やっぱり、こんなところじゃ言えません……」
「そんなん言うて、ネェちゃんワイの事たぶらかそう思うてんのちゃうか?」
ワイに体を近づけて来る彼女からは、何ともいわれへん甘い香りがする。
そこでワイは自問自答する――オトコとして、神獣として、そんなに人を疑ってええもんか、と。
そして、少しだけ、その魔族に心を開いてみる。そう、彼女の開いた胸元の分だけ……。
「いいから言ってみい。ワイに相談すれば、悩みなんてイチコロやで」
「それじゃあ……別りのところで」
「別の所?」
この子、イケる! ワイの動物的な勘に狂いはない!
そして彼女はワイの耳元で呟いた。甘い吐息を吹きかけて。
「二人っきりのところ、行きましょ?」
「まあ、二人っきりの方が集中できるわな……でも、こんなワイでいいんか?」
この質問の答えによっては8割方落とせる!
「私、見た目より、知的さを感じる男性に弱いんです」
キター!! これ、100パー、間違いなしや!
「よっしゃ! ほな二人っきりになれるとこ行こか!」
ワイは飼育係のメティースに一筆残し、彼女と愛の逃避行へと出発したのだった。
『メっちゃんへ。
さすがにお腹がすきました。
もう限界です』