【黒ウィズ】チュレ・ソワ
チュレ・ソワ CV: |
2017/00/00 |
美術学校へ通うチュレ・ソワは、画家を目指す可愛い女の子。
この日も学校の課題で出されたスケッチをするため、森の中へとやってきました。
「この森には見たこともない魔物や悪さをするおばけたちが棲んでいるから気を付けるんだよ」
森へ入ろうとする彼女に地元の優しい猟師さんたちが声を掛けてきます。でもチュレは、その注意に耳を貸そうとしません。
と言うのも、彼女は『自然主義』(目に見える現実を空想によらず、ありのままに捉えようとする考え方のこと)を勉強しているので、オカルト的なものは全く信じていなかったのです。
おてんばな彼女は、ついてきてくれると言ってくれた猟師さんたちの好意を撥ね付け、一人で森の中へと入っていきました。
「大丈夫よ。魔物やおばけなんているはずないんだから」
とは言うものの、森の中は薄暗く物寂しい雰囲気を漂わせています。彼女は膝をガクガク言わせながら森の奥へと進んでいきました。
「あれ? ここさっき通った道よね?」
方向音痴の彼女は、すぐ道に迷ってしまいました。
悪いことは重なるもので、冷たい風が吹きはじめ、ポツリポツリと雨までも落ちてきました。
「どこか雨宿りできるところを見つけなきゃ……」
風は不気味に唸り声を上げ、揺れる枝は踊る骸骨のように見えます。
そして逃げ惑う彼女の前に突然ポッカリと口を開けた穴が現れました。
「あっ!?」
勢い余った彼女は、深い穴の中へと滑り落ちてしまったのです。
「きゃ~!」
長い長いトンネルを落ちていくと、急に目の前が開けました。
ドンッ!
「痛ったー……あれ? 全然痛くない!」
そこはふんわりとした絨毯のようなものの上でした。そしてどこからか吹いてきた生暖かい風が、彼女の巻き髪を揺らしたのです。
「なに?」
風に目を向けると、大きなクマがこちらに目を向けているではありませんか。
「きゃーっ! は、放して!」
クマの腕の中から逃げようとしても、全くビクともしません。
「だいじょうぶだよ」
「え!? いま、喋った?」
「だいじょうぶ、逃げなくても。ぼく、きみの友だちだから」
怖くなったチュレは、クマの腕を振りほどいて地面へ飛び降りました。でも足元がぬかるんで上手く歩けません。
悪戦苦闘しているチュレの頭上をクマの大きな爪が覆いました。そしてヒョイっと首根っこを掴んで、軽々と摘み上げたのです。
「放してったら!」
「帰りかた、教えてあげる」
「あなた、悪い子じゃないの?」
クマはニッと笑みを浮かべると、再びチュレを抱き上げ、歩き出しました。
可愛らしいその笑顔を見て安心したのか、チュレはクマのふかふかした腕の中で、いつの間にか眠りに落ちてしまいました。
目覚めると、そこは森の入り口でした。
それから家へ帰ったチュレは、あの時の素敵な出来事を思い出しながら無我夢中で絵を描き上げたのです。
「だれが、クマのぬいぐるみの絵を描いてきなさいと言いました?」
提出したその絵を見た先生の一言に、教室中からドッと笑いが起こりました。
「これは、私が森の中で見た、自然主義の絵です!」
彼女の必死の訴えに先生は困った顔を浮かべました。
それから彼女は、みんなから「服を着たクマちゃんに会いたい」と冷やかされました。
でもみんなを森へ連れていって証明しようにも手立てがありません。
なぜならあの時、往きは道に迷い、帰りは眠ってしまったので、連れて行こうにもあの場所がどこにあるのか分からなかったのです。
いつかまたあの大きなクマさんに会ってお礼がしたい。彼女は描いた絵を見つめながらそう願いました。