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ザ・ゴールデン2017 スローヴァ&ルルベル編 Story2

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作成者: にゃん
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story



連休二日目。

邪神ルルベルの朝は今日も変わらない。


「じゃしん、きしょー……ふあああ……。」

目覚めてすぐに、鏡を見て自分の体が子供のままであることを確かめる。

夕食の残りをヤガダ乳業のすこやかミルクで流し込み、朝食とする。


 ***


「ウリシラ。邪神が来たぞ。」

「うん。ちょっと待ってね。」

ウリシラを迎えに行く。そこまでは昨日と変わらない。

だが最後にひとつだけ、昨日までにはなかった項目が加わる。

「ズローヴァもだ。早く出て来い。」

「すぐ行く……。」


一同が教室に行くと、意外な人物が待っていた。

「うっす!みんな。」

「なんだお前、家の用事で忙しいんじゃないのか?」

「うっしっし。運よくお姉ちゃんが帰って来たから弟妹の世話を肩代わりしてもらっちゃった。

それに……じゃん!ワクフェスのチケットだよ!」

「「「おおー!」」」

「なんでお前も驚くんだ?」

「つい、つられてしまった……。」

「これもお姉ちゃんにもらっちゃったからみんなで行こうと思ってさ。誘いにきた。」

「あ。でも私、外出許可ないや……。」

「それも大丈夫。クルス理事長に許可もらったから。もちろんご先祖ちゃんもだよ。」

「ほんと?どうやって?」

「ウチのー族とクルス理事長が仲いいからお願いしたらなんとかなった。」

「軽いなあ……。」


 ***



ワクワク魔界フェスティバルとは、魔界全土の国家が参加する、魔界最大の祭典だ。

それぞれの国家が、自らの国力や文化の水準を他国へと誇示する機会でもあり、

本来、血の気の多い魔族たちが闘争や暴力以外で感情を爆発、発散させる場でもある。


言うなればこれは疑似的な戦争行為だ。どのような社会機構も消費と蕩尽、創造と破壊を繰り返す。

魔界ではそれを戦争という形で繰り返してきた。

我々、王侯会議は疑似的な戦争を起こすことで、実際の戦争を制御することを目指している。

その基幹となる計画が、このワクワク魔界フェスティバルだ。



「クドラくんだゼィ。」


「わー! クドラくんだあ!ねえねえ腹パンしていい?」

「いいゼイ。いつでもいいゼイ。何発でもいいゼイ。」

「よーし……いっくぞー。せーの、げんこつ!」

「がッ! ……は、腹パンって言ったゼイ。そこは腹じゃないゼイ……。」

「ごめんッ!? ついいつもの癖で……。」


たいそうなお題目は別にして、多くの魔族は純粋にワクワク魔界フェスティバルを楽しんでいた。

争いや憎しみでしか感情の発露できなかった彼らにとって、祭りというものは新鮮な愉しみを提供してくれていた。


「ここは……賑やかだな。まるで戦のようだ。」

「へたくそな表現だな。でもわかっただろ、魔界は変わったんだ。

腑抜けになった。」

「ルルベル……様はここは嫌いか?」

「好きも嫌いもない。あるものはある。楽しめばいいんだ。……よいしょっと。」

言うと、ルルベルはマパパの形をした帽子をかぶった。

「さて、何から回るかな?」

そういうとルルベルは人ごみの中に歩いて行った。


「あるものはある……か。」


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story3-2




「しまった……。」


ズローヴァに調子の良いことを言って、人ごみの中に分け入ったルルベルだが、以前に一度来ただけで、まったく土地勘などはない。

当然、ものの見事に迷った。迷子の手本のように迷った。

大勢の人々は行きかうが誰も知った顔はない。

こうなると、誰に声をかければいいのか、どこに行ったらいいのか、まるで分からなくなる。


「ずむむむむ……。」

邪神は泣きかけていた。泣いてはいないが、ほぼ泣いていた。いろいろとギリギリであった。


 ***


「ええっ?ルルちゃんがいなくなったッ!?」

「うん。気づいたら傍からいなくなってて。」

「ずっと帰って来なかったのは、そういうことか。」

「ご先祖ちゃん知ってたの?」

「心配するな、子孫。場所ならわかる。」


 ***


「おやぁ? 君はどこの子かなあ?」

「ずむむむむ……。」

「その制服からすると、聖サタニック女学院の子かなあ? その割には幼いですねえ。」

「むむむむ……。」

「おやぁ? 泣くのかい? 泣いちゃダメだよぉ。いま親御さんを探してあげるからね?

ほら。マシュマロをお食べ。お菓子を食べると、心がほっこりするよぉ。」

「むーむーむー……。」


「おい。その子から離れろ。」

ムールスは声の方に振り向く。今までの垂れ下がった目は、振り返る動作が終わる頃には釣り上がっていた。

「うーん。この子の親でしょうか?とてもそうは見えませんねえ。」

「俺は……その子の僕だ。」

「おやおや? お前みたいな図体の男が、こんな幼い子の僕……なるほどなるほど………。これは奇妙、奇天烈な。

……出鱈目も大概しておけよ、このクソ野郎。」

「なに?」

「このワクワク魔界フェスティバルでは、私闘の類はご法度。

ですが、我が主はこの私にだけ、自分の判断で戦ってもいいと命じられた。

どうしてだと思う、家畜野郎?

それは、私が強いからだよ。強くて、お前みたいなクソ野郎が大嫌いだからだよ。」

「……口数の多い奴だな。俺はその子から離れろと言ったんだ。そこを退け。」

「そうはいかないと私は言っているんだよ。」

「なら、腕っぷしで決めようか。」

「こっちは最初からそのつもりだよ。」


ふたりが正面切って睨み合うと、周囲の客たちも、ふたりから距離を取る。

そこには自然と円形の空間ができる。

そして平和な客だった人々は、一気に血の気の多い魔族の本性をさらけ出す。


戦いが始まろうとしていた。



ズローヴァが踏み出す。衝撃で地面が足の形のままめり込む。

「うおおおおおッ!」

振りかぶられた巨腕からの力任せの打撃である。ただそれだけなら、何の脅威もないだろう。

だが、それを打ち込むのはズローヴァである。その事実だけで、それが致死的な一撃であることを教えてくれる。

「ぬうううううッ!」


「その喧嘩、俺が預かったゼイ!」


絶望と殺意をまとったスローヴァの一撃を受け止めたのは、クドラくんであった。

ムールスの前に立ち、スローヴァの拳を両の羽(手?)で挟んで見事に止めた。

「ムールス。このおっさんはその子の関係者だゼイ。」

クドラくんは体全体を使って、ルルベルを示した。


「その子が俺に腹パンした時、このおっさんは隣にいたゼイ。

もしその子を守るために戦っているんなら、この喧嘩は意味がないゼイ。

たぶんこのおっさんも、その子を守るために戦おうとしてるんだからな……ゼイ。」


人垣をかき分け、ミィアやウリシラがルルベルたちのもとへ飛び出してくる。


「ご先祖ちゃんッ! こんなところにいた!」

「いきなり走り出したからどこに行ったのかと……」

「ルルベル……様の匂いを追った。」

それだけ言うと、ズローヴァは拳から力を抜く。察したクドラくんも羽の力を緩めた。


「ぬううう……面目ない……。私としたことが熱くなって、目の前の状況を正しく判断できなかったとは……。

かくなる上は……。」

不穏な動きを見せるムールスの手を、何者かが掴んで止めた。


「騒がしいと思えば……お前がまた騒ぎを大きくする気か?」

「我が主……。」


「喧嘩両成敗で、双方お咎め無しだゼイ。」

「そういうことだ。

さあ、ここはアトラクションではないぞ。ちゃんとフェスティバルを楽しんでくれ。」

その一声で、やじ馬たちはすぐに散っていった。



そんな周囲の変化を気にもとめず、泣きかけのルルベルの方ヘズローヴァは歩いてゆく。

「な、泣いていないぞ。」

ズローヴァは答えず、ルルベルを抱き上げ、肩の上に乗せる。

「ここならもう見失いません。」

「……角が邪魔だ。」

「それは……すいません。」

申し訳なさそうに、ズローヴァが肩をすくめるのを知って、ルルベルの泣き顔に笑顔が戻る。

ズローヴァもそれを感じたのか、傍らのミィアたちに声をかけた。

もうここには用がない。もっと楽しい場所に行くべきなのだ、と思ったからだ。

「子孫、ウリシラ、行こう。案内してくれ。」


「MOO……」

「ほげー……。」

「どうした? 何があった?」


聖サタニック女学院の生徒たちは(まともな)魔族の男性に免疫がない。

雑誌〈MAOH〉に載っているような魔王を見て、過呼吸を起こし、さらに失神してしまったのである。

聖サタニック女学院の生徒にはよくあることであった。


ただし、サキュバス科を除いて、である。


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story3-3



楽しい時間はすぐに過ぎた。

しこたま遊んだー同は帰路についていた。ルルベルは、というとはしゃぎ過ぎて、ズローヴァの肩の上で眠っている。



「ルルベルさん、いい寝顔だね。」

「うむ。……子孫、聞きたいことがある。

俺はなぜ死んだ。俺の最後はどんなものだった?」

「……私も話でしか聞いたことはないけど、療気を使い終わってルルベルが消えた後も、ずっとその神殿を守っていたそうだよ。

あと、女学院を作ったとも言われているよ。」

「学院を? なぜだ?」

「ルルベルの教えを広めるためじゃないかな?

ウチのー族はご先祖ちゃんから続く、魔界の中でもかなり古いー族なんだ。

なのに、王になるどころか、爵位すら持ってない。

それはご先祖ちゃんが、頑なにそういった肩書を嫌ったからなんだって。

肩書を信じるな。ルルベルを信じよ。名誉によって生きるな。名誉のために生きよ。

だいたいそんな感じのことを、昔のご先祖ちゃんは言ったんだって。すごくルルちゃんを信じてたんだね。

ねえ、どうしてそんなにルルちゃんを信じていたの?」

「……いまの俺にはわからない。いまの俺はスローヴァですらないのかもしれない。」

「ふーん。でも見た目はそっくりだから、もうズローヴァでいいんじゃない?」

「お前は、本当に俺の子孫とは思えんな。」


「ん?ここは……?」

「あ、起きちゃった?ルルベルさん、もうすぐ学院に着くよ。」

「ずいぶん……寝ちゃったな。」


学校に到着したルルベルたちの前に、立ちふさがる影がある。


「待っていたぞ。」

「なんだへっぼこ生徒会長。何か用か?」

「チビ。いまはお前に用はない。用があるのはそこのデクノボウだ。

アリーサの人指し指が、ズローヴァに向けられる。

「俺か……。」

「そうだ。先日はこのアリーサに反抗的な態度を取ってくれたな。」

「甦ったばかりで右も左もわからなかった。危害を加えるつもりも、反抗するつもりもなかった。」

「ほう……。ならアリーサに従うか?」

「断る。俺はズローヴァらしい。そして、スローヴァはルルベルに従う。

だから俺はズローヴァとして生き、ルルベルに従うことにした。」

「ズローヴァ……。」


「いやいや。良い答えだ。感動的だ。時を超えた主従関係の復活だな。

だが、お前はズローヴァである前に、アリーサのフィーリング魔人でもある。

反抗的な魔人が生まれた時のために、魔人の体には自壊因子を組み込んでいる。アリーサが……。

取り出したのは、蕾のままの黒い薔薇だった。

「この蕾を握りつぶせば、魔人は死ぬ。」

「「え? 初耳。」」

「爆発して死ぬ!」

「「ええー……。」」

「どうする?それでもまだアリーサに従わないか?」

「無理だな。」

「死ぬぞ。それでもいいのか?」

「構わない。仕える神は、死ぬまで変えることはない。」

「なら死ね。」

「へっぽこ生徒会長!勝手にあたしの僕を殺すな!スローヴァはあたしの僕だ!

それにズローヴァ!あたしは認めないぞ!勝手に死ぬのは絶対に認めない。」

「うるさいぞ、チビ。そいつはアリーサの作りだしたモノだ。それをどうしようと、アリーサの自由だ。」

堂々巡りの会話を制するように、ズローヴァがルルベルの体を持ち上げる。

「ちょ!何するズローヴァ。」

そして、その体をミィアに投げつける。ミィアはルルベルをがっしりと受け止めた。


「俺の近くにいれば、爆発に巻き込まれる。離れていてください、ルルベル、様。

俺の命運は、あの娘に握られている。何を言ってもそれは変わらない。ならば俺は自分の信念のために死ぬ。」


「駄目だ!あたしは認めない!」

前に出ようとするルルベルをミィアが強く抱き止める。

「ルルちゃん。ご先祖ちゃんはご先祖ちゃんであるために、決断したんだ。それを許してあげて。」


「お前の言い分はわかったぞ。だから、もう死ね。」

アリーサは指をひとつひとつ折り曲げ、蕾を握る。


「ズローヴァァー―!」

「ルルベル様、またいつか……」


アリーサの指が力を込め、蕾を潰した。すると……。


「チチチー―ッ!!」

ギブンが爆発した。


「間違えた……。この蕾だったか?」


「フォゲー―ッ!!」

今度はフォゲットが爆発した。



「うーん……つけ忘れた?」

アリーサは気まずそうにルルベルたちを見る。


「「「じー……。」」」



「オホン。今日の所はここまでにしようか。じゃあ、また。」

「うん。またね。」

「またね、じゃねえよ。」


改めてルルベルはズローヴァの顔を窺う。まだ少し困惑しているようだった。


「俺はまだ死なないのか?」

「どうやらそういうことだな。」

「そうか、それはいいことだな。

そうだ。まだあたしの僕として生きていけるな。よかったな、スローヴァ。」

ズローヴァは黙って頷く。その顔は少しだけ笑っていた。


「お前、前に自分が何のために復活してきたのかわからないとか言ったな。」

「はい。」

「あたしが思うに、お前が復活したのは、あたしがここにいるからだ。だからお前はここにいる。

だから、あたしに尽くせ。あたしが死ねと命じるまで、絶対に勝手に死ぬな。」

「……わかりました。ルルベル様に従います。」

「当たり前だ。」



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エピローグ




黄昏が校庭のグラウンドにルルベルたちの長い影を投影していた。

それを理事長室の窓から眺める少年がいる。



「ルルベルに続き、スローヴァまで甦ったか。これは大変なことだね、カナメくん。」

「はい。理事長……いいえ、ドラク卿。これは魔界の均衡が崩れかねない事案かと考えます。」

「このままでは……魔界が滅びる。」

「それは言い過ぎです。ドラク卿、なんかそれっぼいこと言って、悦に入るのやめてもらえますか?」

「うん。ごめん。……ところでイーディス君が、今日はいつもに増して静かだね。」

「え、ええ、まあ。喉が痛いとかで……。」

「……。」

「……。」

「クルスちゃん。」

「え? クルスちゃ……? なに?」


(余計なこと言うんじゃない……)



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