アナザーエデン Story10
「これが魔獣城でござるか。山を切り出した城とはまた……。
「この歌……。
「アルド……行きましょう。
「あ、ああ……。
***
ついにやったぞ!
アギラドのやつが人間の娘に一発かましてやった!
アギラドは魔獣の中でも特に人間を毛嫌いしていたからいつか手を出すと思っていたが……
まさか直接こぶしをふるうとは!
ことの発端は単純なことだ。いつものようにアギラドが泣き虫シーチルのやつをいたぶっていた。
そこにあの娘が通りがかったんだ。
何を考えたのかあの娘アギラドに向かっていじめは卑怯者がすることだなんてヌかしやがった!
なんと愚かな娘だ!キレたアギラドは鉄拳制裁!娘もただではすまなかったろう。
あれを見て俺は胸がすっとした。似た感情を抱いたやつも多いだろう。
なにせ人間は我々魔獣の敵であり許しがたい存在なのだから。
奇妙なことその1。
アギラドの罪は不問となった。
殴られた人間の娘は仮にもアルテナ様の客人。本来であればかなりの厳罰のはずだ。
だがアギラドはアルテナ様に一発ぶん殴られただけで済んだ。
もっとも本気の一発でヤツは思いっ切りぶっ飛んで気を失っちまったがな。
だがそこで人間の娘が止めに入ってアギラドを罰さないように頼んだようだ。
なぜ自分を殴った相手をかばうんだ?やはり人間は狂っている。
奇妙なことその2。
魔獣の中に人間の娘と対話するものが現れ始めた。
やつらは人間の娘をフィーネと名で呼び魔獣同士がするように普通に会話をしているという。
今はまだ小さな一派だが日に日にその数は増えているようだ。
人間の娘がこの城を変えているのか?まさか。
またフィーネ様がケガをした魔獣を癒やしていた。
人間の敵である魔獣の傷を治すなど正気ではないと思ったが彼女には彼女なりの理屈があるようだ。
最近仕事明けの時刻になるとフィーネ様の周りに集い話を聞くのが密かに兵士たちの間で流行っている。
フィーネ様は我々の知らない人間の価値観を話してくれる。
その話を聞くと不思議とあたたかな気持ちになるのは俺だけではないはずだ。
今日もフィーネ様の話を聞いた。
フィーネ様は優しさという言葉をよく使う。
優しさ……ううむ。産まれてからずっと戦いに明け暮れてきた我々には難しい概念だ。
フィーネ様が言うには優しさとは許すことだそうだ。
憎しみを暴力に変え誰かを攻撃すればその誰かがまた憎しみを暴力の原動力にしてしまう。
そうして出来た憎しみの連鎖は決して終わることがない。だから許す強さが必要なんだそうだ。
我々のいた兵士の修練所では憎しみを力に変えよという教訓があった。それと全く逆のことを言っている。
修練所で聞いたこととは真逆だが不思議と腹落ちする。
彼女と話すとこれまで見えていなかった世界が見えてくるようだ。
またフィーネ様と話をしたい。そう思う。
***
「フィーネ!」
「お兄ちゃん!?」
「待っていたわアルド!」
「フィーネ!アルテナも聞いてくれ!
あれからいろんなことがわかったんだ。
オレ達の素性……オレ達の両親のこと……。いまこの世界で何が起こっているのか。
世界は混沌に飲み込まれようとしてる。人と魔獣が争ってる場合じゃないんだ!」
「アルドお兄ちゃん……わたしの中の声が語りかけるの。人は間違っているんじゃないかって。
エレメンタルを宿して星の力と共にあるアルテナ達の方が未来を継ぐのにふさわしいんじゃ……?」
「何を言ってるんだフィーネ!?」
「ねえアルド。あの子の中のジオ・プリズマが魔獣達の宿してるエレメンタルと同調してるんじゃ?」
「なんだって!?だとしたらどうすればいいんだ……?面倒なことになったぞ。」
「わたしの中で何が起こってるのか自分でもよくわからない……。
ごめんなさいお兄ちゃん……。わたしこの声に逆らえない……!この力が……!」
「くッ!あれは……!?ジオ・プリズマか!?」
「他次元ヨリナユタ・クラスタ級のエネルギー流入を確認!ソレモ無数の次元からト推定サレマス!」
「別の世界から無限の力がそなたの妹の中に流れ込んでいるということでござるか!?
それがそなたらの言うところのジオとやらの秘技なのでござるか!?」
「フィーネ!ジオ・プリズマはクロノス博士が……オレ達の父さんが完成させた究極のプリズマだ!
人と魔獣の争いのために使われるようなそんなものじゃないはずだ!なんとかしてその力を抑えるんだ!」
「うッ……!だめッ!来ないでお兄ちゃん!」
「くそッ!ジオ・プリズマが何を望む?なんだってこんな事に!?」
「フィーネ!来て!」
「アルテナ……!」
「ダメだ!待てッ!やめるんだフィーネ!」
「アルドお兄ちゃん……ごめんなさい。」
***
「あ、あれは……!?フィーネ!?」
『見るがいい!エレメンタルとジオ・プリズマによって誕生したこの美しき生命を……!』
「くッ……!これはちょっとマズイことになったようね!」
「目を覚ますんだフィーネ!!」
『ムダだ!おまえの妹の意識はもう完全に私とひとつとなり他者の声など受けつけぬ!』
「くッ……!」
「前方の特殊融合生命体内のエネルギー反応爆縮的に増大中!脅威判定測定不能デス。」
『さあ思い知らせてくれるわ!きさま達によって踏みにじられてきたあまたの生命の痛みと無念を……!』
***
「フィーネ!くそ……本当に声が届かないのか!」
『貴様ら不完全な人間ごときに我を止めることは出来ぬ。
星よ聴け!我こそは古に常世を統べし天の使い!この世の新たなる法則を奏でる者!
海より出でた貴様らはやがて地に満ちた。そして自らの領分を誤解しついに星の源をも支配しようとした。
貴様らは報いを受けることになるのだ。
傲慢なる人の子よ。聴け。新たなる世界の産声を!
ぐぬ……っ不完全な貴様らにこの私が……!?
これが貴様らの見せる可能性だとでも言うのか……!?
ならばよかろう……こちらも終わりの唄を以って新世界の是非を問うのみ!
諦聴せよ。世界終焉の唄を!
耐えきったか……!!
***
「フィーネ!?大丈夫かフィーネ?
「お兄ちゃん……。うんわたしは大丈夫。だけど………
アルテナ!どうしてわたしを解放したの……?
わたしは最期まであなたと一緒のつもりだったのに……。それなのに……どうして!?
「フィーネ……やっぱりあなたを道連れにはできない。
あなたは生きて……この星の明日のためにその力を使って。私と一緒に滅んじゃダメ!
お願い……約束して。あなたの……友達に……。
「うん……わかった。約束する。絶対に……絶対……!わたしの……永遠の親友に……!
「ありがとう……。あなたと出会えてよかった……ほんとに……。
元気でね……フィーネ……。いつかまたふたりでキノコウメ……採りに……行こ………
「アルテナ……?
アルテナッ!?
「どうして……どうしてこんな……?アルテナ……。
「大丈夫かフィーネ?一旦バルオキーに帰ろう?爺ちゃんやみんなも心配してるぞ。
「うん……わかった。お兄ちゃん……?
「ん?どうした?
「ごめんなさい……。それから……ありがとう。お兄ちゃんも……お兄ちゃんの仲間のみなさんも……。
「いいのよそんなこと気にしなくてフィーネちゃん。あなたのアニキの方がよっぽど手間がかかるんだから。
「おい!それはどういう意味だ?
「フィーネさん。お気遣い無用デス!何の問題もアリマセン。貴重なデータも取れマシタノデ!
「……でござるよ。アルトの妹御なら拙者らの大事な仲間でござるからな。
「私にも別に異論はないわね。興味深い現象だったし……。
「みなさん……本当にありがとうございます!
「じゃあ帰ろうフィーネ。オレ達の家に……。
「うん!
***
***
「そう……セシルっていうのねわたしのほんとの名前。
わたし達親に捨てられたんじゃなかったんだね……。
「ああ……。博士は博士なりに世界を救うために命を懸けたんだ。
あの人の精一杯ギリギリの選択であり決断だったんだろう。
「会ってみたかったな……わたしも……お父さんに……。
「………。
「でも……お兄ちゃんも負けてられないね。世界のために頑張らないと!
「そうだな……。最後の最後まで出来る限りのことはやってみるつもりだ。
「うん。わたしもアルテナの想いに応えないと!このまま世界を終わらせたりしない!
「終わらせたりしないって……おまえはおとなしく家で留守番だぞフィーネ?
「えーッ!なんで!?
お兄ちゃん達の足手まといにならないよう一生懸命頑張るから!
「いいやダメだ!誰が何と言おうとゼッ・タ・イ・にダメだからな!!第一おまえの体はアルテナと一体化していた影響でまだ
本調子に戻ってないじゃないか。
いいかフィーネ。おまえは家でおとなしくしてるんだ!絶対だぞ。
「もうお兄ちゃんったら!プンスカプンプンだよ!
「どうかしたね?帰って来て早々に兄妹ゲンカかの?
「ああ爺ちゃん!いやそんなんじゃないから心配いらないよ。
できればゆっくりしていきたいんだけどそうも言ってられなくて……。
「うむわかっておるよ。世界がどうなるかはおまえと仲間の頑張り次第なのじゃろう?
おまえ達にしかやれぬことがある。わしのことなど気にせずに思う存分やって来るといい。
「ありがとう爺ちゃん。それじゃあ……。
「ああ……行っておいで。気をつけてなアルド。それにお仲間の方々も。
おまえ達の武運を祈っておるよ。しかと頼んだぞこの星の明日を!
「じゃあお家でお留守番してるから……本当に気をつけてねお兄ちゃん!
「ああ行ってくる。