【アナデン】空へ旅立つ友のために Story
「ん?これは……?
……この角やたら装飾されてるな。なんでこんなところに?
誰だ!
「待ってください。危害を加える気はありません。
「あんたコニウムの魔獣か……?
「驚かせてしまってすみません。ところでこの辺りで角を見かけませんでしたか?
「ん?もしかしてこの角あんたのか?
「ああ……!そうです!返していただけますか?
「ああほら。
「とても大事なものなので……拾っていただき本当にありがとうございます。
「そんなに大事なものなら今度からは落とさないように注意しないとな。
「ところでその角……何に使うんだ?
「友人の旅立ちに必要なんです。
「旅立ち……島から出るってことか?
「ええまあ。なのでこの角が必要だったんです。
「なるほど饒別みたいなものか。その友人っていうのはどこに?
「彼は別の場所で待ってますよ。僕はその準備をしているんです。
「なるほど。
なあオレも一緒に見送ってもいいか?角を拾ったのも何かの縁だしさ。
「わかりました。ただ代わりにと言ってはなんですが……。
少し準備を手伝ってもらえませんか?実はまだ終わってなくて。
「ああオレにできることなら協力するよ。
「本当ですか?でしたら『ヨミクサ』と『ハナオクリ』という植物をとってきてもらえますか?
『ヨミクサ』はイゴマ。『ハナオクリ』はガバラギに生えているはずです。
「わかった任せてくれ。
「その後はガバラギの奥で合流しましょう。私もそこにいますので。
***
「あったあった!これが『ヨミクサ』か!いい匂いだな。
……だけど少しキツイな。部屋とかには飾れなさそうだ。
「お、あれが『ハナオクリ』か。
言われた通り目立つ見た目だ。蛇骨島にはこんな花も生えているんだな。
「さて言われた植物は揃ったしあの魔獣と合流しよう。
確かガバラギの奥にいるって言ってたよな。」
***
「お待たせ言われた植物はちゃんと手に入れてきたよ。」
「ありがとうございます。助かりました。」
「ところであんたの友人は……?見当たらないけど。」
「ちゃんとここにいますよ。」
「え……?ここってどこにも…………まさか友人って。」
「……はい。彼はここで眠っています。」
「……そういうことだったのか。どうしたのですか?」
「最初旅立ちって聞いたからてっきりこの島から出ていくものだと思ってたんだ。
まさか葬式だとは思ってなくて。」
「ああ気にしないでください。種族が違えば言葉の意味も変わってくるものですから。」
「あのさ改めて聞くけどこれってオレが立ち会っていいものなのかな?
その葬式とかって親しい人たちで静かに行うものだからさ。」
「大丈夫ですよ。むしろ人間であるあなたに立ち会ってほしいです。」
「いいのか?」
「友人は島の中でも特に人間に興味を持っていたやつなんです。病に倒れ命を落とすその時まで……
あいつは人間と思う存分語り合いたいと話してました。」
「そうだったのか……。」
「人間のことを話す時のあいつはとても楽しそうでした。
私もよく聞きましたが不思議とあいつの話は退屈しませんでしたよ。」
「本当にいい友人だったんだな。」
「ええ……なので旅立ちの儀を人間に立ち会ってもらえるなら彼も本望でしょう。」
「……わかった。なら責任をもって見送るよ。
ところで他に魔獣は……?」
「死者の弔いは二人で行うのがこの蛇骨島でのしきたりなんです。」
「そういうところも人間と全然違うんだな。」
「ではさっそくとってきていただいた植物を調合してお香にします。
少し時間がかかるので待っていてください。」
「わかった。」
***
「……すごいな。調合するとこんな甘い匂いがするのか。」
「ふむ人間にはこれは良い匂いになるのですか。」
「あんたたちは違うのか?」
「何とも言えない匂いですね。良いとも悪いとも言えません。」
「まあ弔いに使うお香だからいい匂いの方がなんか違う感じがするしな。」
「たしかにそうですね。ではこちらにきてください。黙祷をしますので。
……安らかに眠ってください。そしてあなたの魂は必ず空へ送り届けます。」
「……これで終わりか?」
「いえもう少し続きます。ですがその前に……。」
「なっ魔物!?」
「この匂いは魔物が好むものでして……
匂いが漂っている間は遺体を守らないといけないんです。」
「そういうことか!なら手分けして魔物を追い払おう!」
「すみませんよろしくお願いします。」
***
「……匂いも消えたし魔物ももういないな。」
「みたいですね。みたいですね。ご協力感謝します。」
「あとはどうするんだ?」
「最後はコラベルで彼の魂を弔います。ついてきてください。」
***
「こんな崖の近くまできてどうするんだ?」
「彼の肉体の弔いは終わりました。ですがまだ魂の弔いを終えていません。」
「魔物!?」
「安心してください。敵ではありません。
この魔物は島に古くから住む特別な魔物です。」
「そ、そうなのか……。
それオレが拾った角か。渡していいのか?」
「ええこれで良いんです。
……では彼をお願いしますね。」
***
「……ありがとうございます。
これで無事『弩葬』を終えることができました。」
「きゅうそう……?」
「この島独自の弔いの名前です。死者の魂に見立てた物を空へと届けてもらうことからこの名になりました。
死した魂は天の使いにより天の園へと誘われると言われているんです。」
「なるほど。やっぱりオレたちのやり方とは違うんだな。
オレたちでいう死後の世界に近いものなのか……?」
「我々も完全に理解しているわけではないので……。
そういう伝承があるという程度の認識ですよ。」
「そんなものか……。」
「ではそろそろ村に戻りましょうか。」
「ああそうだな。」
「………………。」
「どうした?」
「……ひとつ聞いてもいいですか?
あいつのように人間に興味を持つ魔獣をあなたはどう思いますか?」
「………………。」
「あいつの考えは魔獣の中でも異質だと言われていました。
人間であるあなたがその考えをどう思うか気になったんです。」
「……オレは嬉しいって思ったよ。
魔獣にも人間のことに興味を持ってくれるひとがいるんだなって。
それにそういうひとが増えれば今よりもはやく人間と魔獣が仲良くなれると思うからさ。」
「………………。
……やはりあいつの弩葬にあなたが立ち会ってくれてよかった。」
「え……?」
「いえ……なんでもありません。さあ村に戻りましょう。
後で人間のことを色々聞かせてください。
あいつが学んでいたことを私ももっと知りたくなりました。」
「ああ!もちろん構わないよ。」
「またここにきます。その時は土産話をたくさん持ってきますね。」
空へ旅立つ友のために