【黒ウィズ】大魔道杯 in クロム・マグナ ストーリーズ ~炎の新生徒会~
2019/07/26
story 剣を求めて
「屋台ってさ。学園みたいなもんだと思うんだよな。
「え? どこが?
「焼きそばもタコ焼きも、焼きトウモロコシやお好み焼きだって、ひとつの屋台で作れるだろ?
それって、学園みたいだよなあって。
「あー、かもー。
でも、そういうの全部同じ屋台で作るの、アキラくんくらいじゃない?
「そう?
「頼もう!
……あなたが、ノア・アームストロングさん? 生徒会長の。
「あ、はい、そうです! あなたは――
「私はユリアーナ・フリッツ。来週、このクロム・マグナ魔道学園に入学する予定になっているわ。
「フリッツ……フリッツ! あわわ、あなたがあの!
「何? 有名人?
「有名も何も、風雷帝国のお姫さまだよ! なんでも、初代”暴風雷帝”が、クロム・マグナに入学してたとかで――
雷帝の血脈に連なる者は、代々、クロム・マグナに入学することになっているの。私も、その時が来たというわけよ。
「なるほどなー。そっかそっか。そんじゃあよろしく! タコ焼き喰う?
「ア、アキラくん、無礼だよ!
「……お好み焼きの方が、豪華でいいか?
「そこじゃないなあ!
「あいにく、私は用があってここに来たの。そんなものを食べている暇はないわ。
「御用っていうと――生徒会に入会希望ですか!? わーい! 大歓迎ですー! よろしくお願いしますね副会長!
「そうじゃなくて――え、待って副会長いないの? そっちの彼は?
「オレはアキラ・マスグレイヴ。流しの料理人だ。よろしくな!
「なんで生徒会じゃないのにここにいるの!? そもそも生徒なのに流しの料理人って何!?
……まあいいわ。今はそれどころじゃない。私の用事というのは、剣を回収することなの。
初代”暴風雷帝”ヘルミーナ・フリッツ。彼女が実の父の首を刎ねるのに使った、伝説の宝剣をね。
「……なるほどな。あのヘルミーナの子孫か。
「誰? この子。
「フェルムだ。この聖樹クロム・マグナに捧げられる剣たちの面倒を見ている。100年前からな。
「ひゃ、100年!? じゃああなた、ご先祖様とも面識が?
「ああ。奴と来たら、本当に暴風みたいな女でな。お供を連れて冒険三昧だった。フェルムも何度巻き込まれたことか……。
「ふーん。大変だったんだなー。焼きトウモロコシ喰う?
「いらん。どういう文脈だ。それより剣の話だろ、剣の。
かつて、ヘルミーナはここに剣を挿げた。実の父を斬り、その血と怨念にまみれた剣を、聖樹の力で浄化するためにな。
100年の時が過ぎた時、剣を回収せよ。我がー族は、代々そう伝えられてきたわ。ついにその時が来たのね。
「うむ。すでに怨念は消えきっている。これが、その剣だ。
「きゃっ!何!?
「ふふふははははははははははははは! この剣はいただいた!
「ど、どなたですか!? 見た目からしてすっごく怪しいんですけど!
「私は、クロム・マグナおじさん。見ての通り、このクロム・マグナ魔道学園のマスコット的存在さ!
「ええええええ!? ウチにそんなのいたんですか!? 知りませんでした!生徒会長なのに!!
「やいやいやい、待ちやがれ! クロム・マグナのマスコットだってんなら、なんで生徒の剣をブン捕ってんだ!
(え? おまえのどこがマスコットだよ! とかそういうのないの? この学園的にはアリなのアレ?)
「私は生徒たちに試練を与え、成長を促す存在。フフ……100年モノの宝剣を手に入れたいなら、相応の試練を受けてもらわなくてはな。
そう。この私を倒すという試練を!!
「あの、あなた、ダンケル学園長ですよね。
「はっはっはっはっはっは。……そんなわけがないだろう。ないない。まったくない。
「いや学園長ですよね。普通に。声まんまだし。口調もそんな変わってないし。
「何言ってるんですか、ユリアーナさん! あれがダンケル学園長なわけないですよ! ほら、なんか変な仮面つけてますもん!
「学園長が変な仮面つけてるだけよね?
「ダンケル学園長は、やることなすこと無茶苦茶で、何かあるとすぐ悪ノリする、変な事件があったらだいたい元凶でしたーみてーな人だぜ。
あんなへんてこりんな仮面野郎とは、似ても似つかねーぜッ!
「めちゃくちゃ似てるでしょ! むしろあの仮面こそ悪ノリの産物でしょ!!
「あー、君たち。結局どうするのかね?戦わないなら、この剣、私が貰っていってしまうんだが。
「はっ! そうでした! そんな悪行、生徒会が許しません!
「流しの料理人も手を貸すぜ!
(結局なんで流しの料理人が生徒会に入り浸っているんだろう……っていうか生徒なのに流しってホント何……?)
「行くぜ仮面野郎!!
story 試練の時
「くっ……!なんて強さなの!?
「いかんいかん、戦い方がなっておらんよ君たち。そんなことで、このクロム・マグナおじさんを倒せると思うのかね!
このまま勝っても面白みがない。時を与えよう。明日のこの時刻、再びここで相まみえようじゃないか。
そのときまでに、私を倒せるよう策を練るなり訓練をするなりしておきたまえ。いいかね? これは宿題だ。ではさらば!
「宿題だって? あの仮面野郎、まるでセン公みてーなこと言うな。
「だから! アレ!! 学園長!!!!
「うーん。3人がかりで戦っても勝てないってなると、誰か応援を連れてこないとダメかなあ……。
「――それは達うぞ。
「ニヴァナ先生!
「苦戦しておるようじゃのう。ま、あの戦い方では、それも当然じゃろうが。
「私の戦い方にケチをつけるつもり?
「実際、勝てなかったじゃろ。
「ぐ……。
「ふふん。素直に頭を下げれば、問題点を教えてあげてもいいんじゃがのう。
「ここは頭を下げましょう、ユリアーナさん!ニヴァナ先生は学科長兼名誉教授で、こう見えて学園長より年上なんですよ!
「そうじゃそうじゃ。ノアはわかってるのう。我はダンケルちゃんがオシメをしていた頃からバリバリ活躍しとった最強の魔道士じゃ。
次期皇帝だろうと、ここでは一生徒にすぎん。我の方が、遥かぁ~~~~に偉いのじゃ。そこんとこ、わかっとるかのう? あーん?
「むぐぐぐぐ……。
「なんじゃ、頭を下げんのか? やれやれ。安っすいプライドにこだわっておるようじゃ、この学園ではやっていけんぞ?
「……私のプライドは私だけのものじゃない。帝国に暮らす臣民すべてのプライドよ。
私が軽々しく頭を下げては、帝国の威信に関わるそれは帝国を信じてくれている民を裏切ることよだから……だから私は……!
震えるユリアーナの隣で、突然、ノアがガバッと土下座した。
「ニヴァナ先生、お願いします! 勝てる方法を、教えてください!! なにとぞ! なにとぞぉー!
「ノアさん……!?
「あたしが頭を下げたら、ユリアーナさんが下げなくったっていいはずです!なんなら、あたしが2人分下げますから!なにとぞ々々!
「へへっ、ノアにぱっか、いい土下座はさせないゼ!見てくれ、ニヴァナ先生!これで2倍ッ!計4人分の土下座だァーッ!!
「あなたたち……。
(どう計算しても4人分にはならないけど……)
「ふふ……思い切りが良いのう。さすがは生徒会長、そして……。
……あれ、アキラ、おまえ肩書きなんじゃっけ?
「男1匹修行中! バカな野郎と笑われようが、燃やしてみせるぜド根性!
”燃える屋台魂”アキラ・マスグレイヴ!またの名を、”ゴルトフィツシュイェーガー”アキラ!
「よっ、金魚猟兵!
「すまん、訊一といてなんじゃがどーでもえーわ。
話を戻そう。おまえらが勝てん理由じゃが、これはもうごく簡単でな。おまえら、みんなバラバラに戦っとるのがいかんのじゃ。
連携もなーんも考えず、好き勝手動いとったろ。ダンケルちゃ……もといクロマグおじさんほどの猛者ともなると、それをあしらうのは簡単じゃ。
「なるほどー。ありがとうございます!つまりアレですね。絆の力で戦えばいいんですね。あたし、そういうの大得意ですー!
「理屈はわかるけど……絆とか、連携とか、そんなのどうしようもないじゃない。今から練習しても付け焼刃にしかならないし。
「だったら、こんがり刃になれるまで、スペシャルメニューで特訓だッ!
「山ごもりだねアキラくんッ!
ふたりはうなずき合い、ユリアーナの腕を左右からつかんだ、
「え?山?山ってなんで? 待って私そういうの行ったことない、ちょ、ちょちょ、ちょ、ちょっとおおおー!?
***
「ふう……。この仮面、久々につけてみると、無駄に重くて肩や腰に来るな……。
「お疲れさま、ダンケルちゃん。その姿を見るのも久々ね。
「なんだ、来ていたのか。忙しいんじゃなかったのかね?
「”あの子”との約束だもの。ちゃんとスケジュールを調整してきたわ。
「”暴風雪帝”懐かしいな。
「ヘルミーナ・フリッツ……もう100年も前のことになるのか
「その日が来たらこの剣を取りに来るよう、子孫に伝えていこうと思う。
ただ――我が帝国が100年も存続しているとしたら、きっと、子孫も平穏を享受していて、ヤワになっていると思うのよね。
だから、私の子孫がこの剣を取りに来たら、あなたたちの流儀で試練を与えてあげてほしい。
世の中、まったくわけのわからない理不尽な試練があるのだということを、ぜひ教え込んでもらえるかしら? 学園長。」
「まったく、人をなんだと思っていたのかね。あの言い方では、まるで我々が生徒に理不尽な試練を与えまくっていたようじゃないか。
「あら、違ったの? 私はそのつもりでやっていたけど。
「すべては愛あってのことだよ。生徒諸君に強くなってもらいたいという、そう、教師としての無償の愛のなせる業さ。
「どうせ、やっているうちにテンションが上がって楽しくなっちゃってたんでしよ。
「もちろんそれはそうだとも。生徒たちのがんばる姿を見て、楽しくならないはずがないではないかね。
「物は言いようね。
「さて……そろそろニヴァナが助け舟を出しているところだ。彼女には頼りたくなかったが、仕方あるまい。
「あら、まだニヴァナさまのことが苦手なの? 昔あんなことがあったからって――
「やめてくれ。思い出したくもない。それより――
「ええ。わかってるわ。
クロム・マグナお姉さん――いえ、クロム・マグナおばさんの、一夜限りの復活の時ね。
story 炎の絆
「よくぞ来た、生徒たちよ! 古の契約に則り、このクロム・マグナおじさんと――
「愛の助っ人、クロム・マグナおばさんがお相手をさせていただくわ!
「ただでさえ強いのに、助っ人まで呼ぶなんて!
「そりゃもう絶対勝ちたいからね。
「大人げのなさがすごい。
「敵が何人増えようが、関係ねーさ。特訓を終えたオレたちの絆の前にはな!
「あら、笑わせてくれるわね。たった1日の特訓で、いったいどれほどの絆が芽生えると言うのかしら?
「気になるんなら――見せてやらァ!
ユリアーナは、ふらふらしていた。
アキラとノアに山へと引きずり込まれ、丸1日、戦ったり屋台料理を焼いたりを(なんで?)繰り返した結果、頭が膿腫としていた。
「ふははははは!喰らえ、身体を回し腕を大きく横に振って希望を打ち砕く波動!
虎穴突入ゲットタイガー!!
ふらふらしていても、身体は動く。心身に刻まれた戦士としての本能が、ユリアーナを衝き動かし、戦わせる。
「ネガティブオーラの陣! ほほほほほ、さあネガティブな気分になっておしまいなさい!
「なんのなんのぉ! オレの心の鉄板は、そんなオーラじゃ冷めないぜ!!
飛来する魔法をかわし、剣を振るう。頭を使わない反射的な戦い方。山の特訓通りに身体が動き、アキラと、ノアと連携する。
「行くぜ! 秘技・お好み焼き返し!
「鬼首トルネイダー!
アキラとノアが呼吸を合わせ、爆炎を噴き上げクロマグおじさん&おぱさんは魔法で防御するその身は高々と空へ打ち上げられた。
「今だ、ユリアーナ。山での日々(1日)を思い出すんだ!
聞こえてきた幻聴に無意識に従って、ユリアーナはベストタイミングで魔力を解き放った。
「トルマリンバースト!
打ち上げられた2人を、天からの雷が直撃。強烈に地面に叩きつけた。
「ぐはっ!いかん、仮面が取れそうに……!
「今です! ここは生徒会伝統の必殺技、ハイパー生徒会キャノンで決めましょう!
「生徒会あなたしかいないよね?
「ここはノアに合わせようぜ、ユリアーナ!
「せーの、
「ハイパー生徒会キャノーーーーン!
「アルティメット鉄板ファイヤーーーー!
「合わせてない!!!
掛け声はともあれ、3人の魔力は呼吸ぴったりに合わさり、大いなる力となって解き放たれた。
「我々の魔力シールドを打ち破るとは……素晴らしい絆の力だ。これぞ友情。これぞ青春!
「絆感まるでなくなかったですか?
「見事に試練を乗り越えたわね。さあ、受け取りなさい。この剣は、あなたが持つべきものよ。
「では、ロング・グッバイ!
頭は相変わらずふわふわしていて、まるで脳が綿あめになったようだ。(あ、侵食されてる、とユリアーナは思った)
それでも、手に入れた剣を抱きしめると、じわじわと達成感が込み上げてきた。
初めてだった。自分の力で――それもあそこまで追い込まれるような努力をして――何かをなしとげ、何かを手に入れることができたのは。
やった。やってのけたのだ。その実感が湧くと、なんだか泣けてきそうになった。
「やりましたね、ユリアーナさん!
「うん……。
「ほら、喰いな。祝いの焼きそば。腹減ってるだろ?
「アキラの焼きそばを(待っていつ焼いたの?)受け取り、夢中でかきこむと、濃厚な味わいが口の中いっぱいに広がった。
努力の味。達成の味。それは、ユリアーナがこれまで食べてきたどの宮廷料理より、味わい深く感じられた。
(これ絶対、極限状態の錯覚だ)
などと思いながらも、ユリアーナは半ば泣きながら焼きそばを平らげるのだった。
***
「フフフ……一皮むけたようじゃないか。彼女の今後が楽しみだ。
「そうね、クロム・マグナおじさん。きっとヘルミーナも喜んでいるわ。
「悩める若人に、試練あれ。試練を超えたその先に、新たな力と絆あれ。
「クロム・マグナの輝きは、いつでもあなたを照らしましょう。
「フフフ……はーっはっはっはっは!
「ほーっほっほっほっほっほ!
「おまえら、そろそろ歳を考えた方がよいぞ。
「貴様が言うな!!