【黒ウィズ】覇眼戦線4 Story0
目次
story1 蠢く影
そのー撃は、流星のごとく気流をまといながら、戦機を穿つ。
相手の心臓を扶り取らんと狙う峻烈なるひと突きは、目も眩むばかりに鋭敏。
剣を握る女の――数百年にも渡って骨髄に刻み込まれた、悲壮と哀切が宿る、渾身の刺突であった。
これでしまいにしてやる死になあああっ!
相対するは、黒衣の死神。悪を刈り取り、業を斬り伏せる女であった。
纏う闇の影は、咎人が背負う業を吸い取り、ただひたすらに死の香りを漂わせていた。
むう……。
この戦いで、ハクアははじめて呻いた。
神気が英々に満ちた突きのー手は、死神の腕に鮮血の徒花を咲き誇らせた。
ただ、復讐の業火に燃え盛るカノンの身命は、その程度の血では満たされることはない。
首を切り落とし、心臓を扶りとっても、まだ満足できない。
それだけの怨みが、この女にはある――
刹那の躊躇が、カノンにこの戦いはじめてといっていいほどの隙を生みだした。
湾曲した鎌は、空間を歪めたかのように、打ち筋をー切見せず、カノンの背中を切り裂いていた。
人智を越えた魂を狩る飛速のー打。
使い慣れた大振りの鎌は、ハクアの意思すら通り越して、敵を断つ。
……ちっ。
だが、かすり傷だ。致命傷ではない。死なない限り、戦いはつづける。
いや、死んだとしても、首だけになっても噛みついてみせる。
カノンから放たれる殺気が、そう語っていた。
来なさい……。
言われなくとも――っ!
両者の戦気が激突し、果てしなき戦いは、お互いの血によって彩られる。
ぐはっ!
がはあああっ!
果てしなくぶつかり合ううちに、刃が折れ、鮮血が飛沫となって赤い霧を生み出した。
このまま両者息絶えるまで戦いがつづくかに思われた。
そんな激戦を止めたのは、予想外の介入である。
ふたりを眺める強大な眼――いや、眼のようにみえたそれは、不気味に漂う“歪み”そのもの。
――こんな時にッ!?
傷だらけのカノンは、その“眼”のような歪みに飲み込まれる。
戦いはあっけなく終わった。誰も予想もしない幕切れであった。
W……ふふふっ。
意味ありげに微笑む存在が、ひとり闇の中で息を潜めていた。
***
その晩は、月のない夜であった。
渦巻く風が木々を薙ぎ払い、梢が激しく打ち鳴らされている。
何者かの不吉な到来を告げているかのように。
若い男……といっても、顔立ちから察するにすでに壮年を迎えつつある男が、ひとり、粘土をこねていた。
男の名はアシュタル・ラド。かつて、大陸まで名を馳せた剣士であったが、いまは名の知られていないただの陶芸家である。
tルミア、今度は俺だ!測ってくれ!
身のこなしの機敏な少年が、家の柱に背をくっつけて精ー杯伸びている。
mそんな、すぐに伸びるわけないのに……。
柱に刻まれた背丈の傷は、計測するたびに、僅かずつでも天井に近づいている。
tいまの調子だとルミアに追い抜かれちまう。そんなの絶対に認めないからな!?
そして、アリオテスの成長に迫る勢いで、ルミアがぐんぐん背を伸ばしている。当然のように焦った。
m勝手に張り合われても困る。私は、別に気にしてないし、アリオテスを馬鹿にしたりはしないから。
tその言葉が、すでに俺のプライドを傷つけてるんだっての!
Aチビども、うるせえぞ。仕事場で騒ぐなって、言っただろうが?
ふと、ろくろを回す手を止め、アシュタルは、形の良い鼻梁を持ち上げた。
若い時から戦場を渡り歩き、鍛えられた神経が、遠くから流れてくる血と泥の匂いを感じ取ったのだ。
A外の様子を見てくる。ちゃんと戸締まりしておけよ?
アシュタルは、壁に立て掛けてあったミツィオラの剣を取る。
t師匠の背中を守る剣士が必要だろ?ルミア、留守番は任せたぜ。
Aお前が来ても足手まといになるだけだ。家で大人しくしてろっての。
m……誰?
ドアが開く。錆びたちょうつがいが、耳障りに軋んだ。
Wひ……人がいた……。助かった……。お願いだ……助けてくれ。
血塗れの男が立っている。
身につけた軍装から、どこかの騎士団の兵のようだ。同盟軍。もしくは、帝国軍の残党だろうか。
どちらでもいい。
ルミアに危害を加えるような素振りを見せれば、すぐに首と胴体を切り離すだけだとアシュタルは思った。
W直ぐ側まで奴らが……。ぐっ!?……ううううっ。ぐはっ!
口から血を流した兵士は、その場で事切れた。
その背後には、もうひとつ別の気配が潜んでいた。
それは、死の気配を纏った所属不明の兵士だった。
Z見つけたぞ。
tその光……まさか覇眼か!?
Aそんな危なっかしい奴は、お呼びじゃねえよ!
アシュタルが、その不審な兵に向かって踏み込んだ。
弟子のアリオテスは、瞬間のうちに、師匠の剣が、敵を屠ったと確信した。
光る眼を持つ兵士は、血を吹き出し、先に死んだ兵の上に重なるように倒れた。
日頃ろくろの前に泰然と座る陶芸家の姿からは、想像もできないほどの躍動と剣さばき。
いまはもう剣を握る機会は少ないが、弟子の眼に映る師の腕前に衰えは感じない。
Aまだ他にいる……。そう思って油断するな?
家の外に飛び出し、平坦な地形を見渡す。
tいまの光は覇眼だったのかな?師匠、なにか知らないか?
遅れて飛び出したアリオテスは、師の眼が丘を越えた向こうにある西の平原に向けられていることに気づいた。
稜線の上で黒い影が、いくつも蠢いている。
それは、丘を越えて向かってくる鎧姿に身を包んだ部隊だった。
Aルミア!支度をしろ。ここから逃げるぞ。
mとっくに出来てる。
3人は、謎の兵団と戦わずに逃げる道を選んだ。
t逃げるってどこにだよ?
アシュタルは、しばらく迷ってから答えた。
A同盟軍と合流しよう。この近くにグラン・ファランクスがいるはずだ。
story
村は、ー晩で廃墟となった。
何処かより現れた闇を纏う兵によって、罪なきものたちは、家を焼け出されたうえに命を刈り取られた。
村民は、日頃から贅沢を慎み、年に数回行われる収穫と祭りを楽しみに生きる善良な人々だった。
Oこのような理不尽な事があっていいのか……?
旅人、オリアンヌは、この村の住人たちが好きだった。
偶然立ち寄っただけの関係だが、戦乱の世にあって、罪を犯さず、強く生きようとしていた村人たちに尊敬すら抱いていた。
だが、そんな彼らの努力は、たったー晩で踏みにじられた。
「……進みなさい。
漆黒の兵を馬上から指揮する女騎士がいた。
血の通っていない眼は、己が廃墟にした村を見ても、ー切の感情が静止したままだった。
O……この距離なら。
オリアンヌは、残った1本の矢を弓につがえた。
復讐というほど大それたものではない。世話になった村人たちの無念が、己の矢で少しでも晴れればいい。
廃墟の影から、オリアンヌは息を殺して狙いを付けた。
Wやめなされ。若い貴方が、命を無駄にしてどうする?
O……しかし。
W死んだものの復讐ならば、やめなされ。そんなことをされても誰も喜ばん。
それでも、我々の命を犠牲にしてでも、あの将軍を撃ちたいというのならば、どうぞ好きになされ……。
O……。
わずかに生き残った村人たちは、息を殺して“災厄”が去るのを待っている。
力のない彼らは、そうするしかないのだ。
この村に根付く覚悟のないオリアンヌに、村人たちの今後をふいにする資格などないと感じた。
オリアンヌは、弓を下ろした。漆黒の兵たちは、次の戦場目掛けて、東へと立ち去った。
騎士団長が大陸に向かわれ、留守にされている時に限って、このような奸悪が践題するとはな。
グラン・ファランクス。騎士団長代理ギルベイン・ルガ。
彼の双眸に映るのは、闇を纏った異形な兵士たちの姿である。
意思も見せず殺意すら感じない、死人のごとき兵どもめ……。
虚ろに向かってくるその様は、以前ルドヴィカと共に戦った漆黒の兵団のごとく。
だが、死の気配しか醸し出さなかった奴らよりも今回の敵は、人らしい動きを見せている。
狼狽えることはない。騎士団長不在のいまこそ、グラン・ファランクスの強さ、世に知らしめる時ぞ!
打ち揃う騎士たちに声を張り上げた。その響きは、戦場の隅々まで行き渡る。
名を上げるのはここしかない。我こそはと思うものは、剣を抜いて先手を努めてみよ!
怖気付いて誰も行かんというのなら、烈眼のギルベインが、ひとりで敵を躊踊させていただこう。
騎士団長のルドヴィカは、自らが持つ凛眼の正体と覇眼のー族のことを調べるために、海を渡り大陸へ向かったばかりだった。
見習い騎士のリラだけを伴っての極秘行動。その留守を漆黒の軍団に突かれた形になる。
とはいえ、グラン・ファランクスを預かるギルベインは、ルドヴィカと同じ覇眼の戦士である。
久しぶりに烈眼を思うがままに使える……。さきほどから武者震いが止まらんぞ!
団長代理に続け!遅れを取るなよ!?
団長がいないからといって、舐められたらおしまいよ。ぎったんぎったんにして追い返すのよ。
ギルベインを先頭に、大陸にまでその武名が知れ渡っている最強の騎士団グラン・ファランクスは勇躍する。
馬蹄で闇に紛れて進む漆黒の兵を蹴散らし、ひるんだ敵に、青白い烈眼の光を植え付けた。
Z……!?
烈眼の効力を受けたものは、心に芽生えた破壊衝動を制御できず、肉体をみずから引き裂く運命となる。
覇眼とは、相手の心理に強制作用する効力を持つ特殊な眼の輝きである。
カンナブルには、そういった覇眼のー族が、数百年前から住み着いていた。
……ほう?
ギルベインは戦塵の切れ目から、他の兵とは違う意気も闘志もある眼を向けている敵将の存在に気づく。
死者のように意志薄弱な闇の兵たちに紛れているが、その男のおぞましいまでの闘気は、隠せていないし、隠そうともしていない。
そこにいるのは、この軍の将とお見受けする。ひとつ、我が烈眼を死出のたむけに覗いていかれよ。
そう言い放つやいなや、勢いよく馬首を返し、敵の将目掛けて砂塵をまき散らした。
漆黒の軍団と、グラン・ファランクスの戦は、この時点までは、ギルベインたちの圧倒的優勢であった……。
ケルド同盟軍盟主リヴェーダも、同じくケルド島東部に出現した漆黒の兵たちに対抗する戦線を構築していた。
漆黒の兵団がまた現われたのね?
だが続々と参集する敵の規模を調べるうちに兵団どころの規模ではないことがわかった。
漆黒の軍団――リヴェーダは、戦にあたって彼らをそう定義した。
東部方面の指揮を受け持つ彼女の耳に、グラン・ファランクス大敗の報告が届いたのは、戦争がはじまって数日後のことだった。
グラン・ファランクスは、リヴェータ軍とは反対側の西部方面を守備していた。
その部隊が、開戦からたった数日で敗れ去ったという。
リヴェータにとっては青天の露震であった。
そして、ギルベインたちの敗北は、西側から迫る漆黒の軍団を抑えるものがいなくなるということでもある。
イレ家のハーツ・オブ・クイーンは、いつ西から迫る敵に背中を衝かれてもおかしくない状況に至った。
ケルド島西部に残っているのは、アリオテスが領主を務めるゲー家――
そして、ミツィオラの遺児ルミアのスア家など、特筆するような軍事力を持たない小領主たちのみである。
残念ながら、私たちは東部戦線から離れられない。
そうなると、頼れるのはゲー家の領主アリオテス君と――
怪物と言われたアシュタル・ラド……。彼らに期待するしかないわけね?
帝国兵を率いたグルドランの侵攻から、およそ1年が経過していた。
継承戦争とは無縁であった平和なケルド島は、ふたたび戦乱に巻き込まれようとしていた。
story
ケルド島から狭き海峡を挟んだ北方にある大陸プレタニク。
かつてプレタニク大陸の大部分を支配していたキャメロット家は、愚王と呼ばれる先代ユーザーの代で、その権勢を失墜させた。
現王アーサー・キャメロットが支配する王国は、このプレタニク大陸のー部分に過ぎなかった。
Sそっちに逃げたぞ!回り込め!
G承知!このガウェインにお任せを!
S少女だからといって侮るな!彼女の左眼は、不可解な力を持っている。絶対に眼を合わせるな!!
馬蹄が土を扶り、荒れた大地を疾駆する。
N残念だったわね!お見通しよ!
剣を抜いたガウェインの猛撃が迫る――その気配を感じて、少女の左眼が輝きを宿した。
Gほう?それが、アーサー王を虜にしたと言われる魔性の眼か?その禍々しさは、形容しがたいものがあるな。
Sだろ?あの子が持っている眼は、本当にまずいんだって。
トリスタン。ガウェインの加勢に行ってやれ。
Tアーサー王の聖剣エクスカリバーの威力、久しぶりに拝見したいものですね。
S命令に従わないどころか逆に王をけしかける騎士が、どこにいる?
Tあの少女には、すでに我が国の大勢の兵が、意識を奪い取られました。中には、やむなく命を絶ったものもいます。
Sだから、王みずからケリをつけろと?わかったよ。やってやろうじゃないか。
T素直なアーサー王は、嫌いじゃないですよ。
アーサーは鐙で馬の腹を蹴って進んだ。
少女には覇眼がある。ゆえに正視はできない。
その眼の怖さは、すでに思い知っている。それだけに戦い辛い相手だった。
S覇眼を持つ少女よ。お互い剣士同士、ー騎打ちで決着をつけないか?
N……。
Sどうした?君も剣を持っているんだろ?
後生大事に抱えた剣は、少女の肉体にそぐわないほどの大振りな造りである。
扱い方からして、彼女はとてもその剣を大切にしているようだが。
Nこれは、カノンから貰った剣。カノンを守るための剣。
S残念だが。俺たちの敵はカノンって奴じゃない。領民や兵に覇眼を使うのをやめてくれるなら、見逃してやってもいいが?
Nあなたの言葉は、信じない……。
Sそうか。ならば、剣で従わせるしかないようだ。恨んでくれるな。これも、王の務めだ。
Nわたしの名前はセツナ。南に行きたいの、そこを退いてくれる?
S俺はアーサー・キャメロット。南には、恩人がいる。行かせるわけには、いかないな。
聖剣エクスカリバーを振りかぶる。
瞬間、景色が歪んだ。それは、少女の覇眼によるものでも、聖剣によるものでもない。
wここは、どこにゃ?
姿を現わしたのは、黒猫を頭に乗せた旅人だった。
S……だ、誰だお前たちは?神聖な騎士の決闘を邪魔するつもりか?
唐突に剣を突きつけられ、君は怯えた。
先端は髪すら断ち切りそうなほど鋭利で、なおかつ刃の表面が澄み切っている。
ー目見ただけで、並の剣じゃないことがわかった。
その間に少女の姿が、アーサーたちの視界から消えていた。
Tアーサー王。油断している隙にあの少女に逃げられてしまいました。
Sな、なんだと?なぜ追わないんだ!?
T神聖な決闘の邪魔はするものではないでしょ?
S忠実な家臣を持って、俺は幸せものだよ。
S……貴君は、魔法使いなのか。すると継承戦争が行なわれている東の大陸から来たのか?
違うよと君は答える。
継承戦争のことはあまりよく知らないが、東の大陸から来たのではないことは確か。
G魔法を使えるといえば、王の助言者マーリン殿も魔法使いを名乗っていましたな?
Tですが、マーリン殿のお知り合いでは、なさそうですよ?
この異界の人間は魔力を持たないが、魔法使いを名乗る手合いはいるようだ。
君は、偽魔法使いではないことを証明するために、ささやかな魔法を披露してみせた。
S偶然とはいえ、魔法使い殿と知り合えて光栄だ。俺はアーサー。このペンドラゴン王国の王である。
側に控えている赤い髪の騎士は、ガウェイン。もうひとりの優男風の騎士は、トリスタンだと紹介された。
どちらも、アーサーに仕える騎士らしい。
wそんな若いのに王様なんてたいしたものにゃ。
Sかつては、竜を統べるものと呼ぱれ、プレタニク大陸中から尊敬された由緒ある我が王家も……。
父の代で落ちぷれて、いまはちっぽけな領土を守るだけさ。
Tまだまだ未熟なアーサー王には、小さな領土がお似合いです。
Gこらこら、いくら本当のこととはいえ、王に対して失礼だぞ?
もっとも、剣にばかり熱中し、政を顧みないアーサー王には、領土の大きさなど興味ないのかもしれませんがね。
S客人の前で、チクチク俺の未熟さを責めるのはやめろっての。
まったく……。こいつらは、良い騎士なんだが、王に対する尊敬の念が薄すぎて困る。
T尊敬されたいと願う王ほど、軽蔑されるものですよ。
王は、政の結果によって、民や家臣から尊敬されるべきです。
G俺は、強い男ならば無条件で尊敬する。きっと神のように崇め奉るだろう。
Sご立派な家臣たちにー日も早く認められるよう、精進するよ。
wこれだけ好き勝手言われて怒らないなんて、随分と優しい王様にゃ。
S幼い頃から仕えてくれているものたちだしな。他の王たちに比べると、主従らしさは薄いかもしれないな。
けど、それでいいと思っている。王の目は曇りやすい。それは、先代から得た教訓だ。
アーサーは、目の前にある円卓を指さした。
S上下の区別なく、忌憚のない意見をぶつけ合うために、会議は毎回この円卓でおこなっているんだ。
簡素なイスに腰掛けて、改まって咳払いをする。
Sそれでは、これより円卓会議をおこなう。議題は、もちろん取り逃がしたあの少女の件だ。
人の意思を操る覇眼を持つ、セツナという少女。
ペンドラゴン王国は、ここしばらく、その少女への対応に苦慮していた。
今回も、やっとの思いで彼女を追い詰めた。それが君とウィズの登場により、苦労も水の泡となったのだ。
Sあの眼には、俺もー度やられた。アリオテス殿に助けてもらって、事なきを得たが……。
アリオテスの名前を聞いて、君はウィズと視線を交した。
wどうやらここは、リヴェータたちのいる異界のようにゃ。
W申し上げます。南へ向かう輸送船が、何者かに乗っ取られたとの報告が入りました。
T被害は?
Wそれが、乗員たちは、全員無傷で……抵抗することもなく、犯人に船を明け渡したそうです。
Sそんなことが出来るのは、覇眼の戦士しかいない。乗っ取ったのは、きっとあの少女だろう。
G脅威は、みずから去ってくれたわけですかな?
S南へ向かうと言っていた。つまりケルド島に向かったわけだな?
ケルド島には、アリオテス殿がいる。俺の左眼と命を救ってくれた恩人だ。
ペンドラゴン王国の王として、信義に背く行動はできん。少女が南に向かったのなら、彼に危険を告げなければならん。
Tお気持ちはわかりました。とはいえ、王みずから、国を空けなくてもよろしいのでは?
Sー騎打ちの最中に逃げられて、そのままにしておけるか!
アーサー王は、相手が女だから見逃したと噂を立てられてみろ。剣士としての名が廃る!
T相変わらずの剣士バカで安心しました。
Sそれにあの眼の怖さは、俺がー番よく知っている。放っておけるかよ。
G王が行くのであれば、我々もお供します。奴めは、我が国の民を危険に晒した憎き敵。我々にとっても、放っておける存在ではありません。
とはいえ、国の留守はどうするかな?
Tランスロット卿とパーシヴァル卿に任せておけば大丈夫でしょう。
あのお二方がしっかりしてくださるから、王が未熟でも、この国は成り立っているのです。
Gはっはっはっ!むしろ、アーサー王がいない方が、民にとっては幸せかも知れませんな!
Sお前ら……。さすがに好き放題言い過ぎだろ?いい加減、俺も怒るぞ……。
もっとも信頼を置くガウェイン、トリスタンというふたりの家臣を伴って、ケルド島へと向かうことになった。
wあの少女を逃したのは、私たちの責任でもあるにゃ。付いていって手助けするにゃ。
君たちは、アーサーたちと共に戦乱の絶えない島――ケルド島へ向かうことになった。
next
あらすじ
ケルド島は、闇の世界からの侵略に飲み込まれつつあった。
覇眼の戦士たちは敵を迎え撃つが、団長ルドヴィカを欠いたグラン・ファランクスの敗北により、形勢は一気に不利になる。
残されたのは、わずかな手勢を率いるアリオテスの騎士団のみ。絶体絶命の危機に、聖剣を持つアーサーが援軍として現れる。