ギルベイン・ルガ
ギルベイン・ルガ cv.大泊貴揮 |
2017/00/00 |
ルドヴィカが変わったのは、数年前の朝だったのを記憶している。
我々がリヴェータよりも……イレ家よりも下の立場に甘んじているのを、彼女は強く糾弾したのだ。
『覇眼』という世界を変える力を、イレ家は強く隠匿しようとしていた。これが世に出れば、多くの争いが生まれると懸念していた。
我々の祖先も、その考えに同調し盟約を結んだと記録にある。
しかしながら、長い時が流れるにつれ、我々の中で上下関係が出来ていった。
対等だったはずの立場は段々と崩れ、イレ家を頭とした支配構造が出来上がっていった。
そしてその中で、最も割りを食ったのはロア家だった。
イレ家や我がルガの血統がカンナブルで貴族として振る舞う中、ロア家はイレ家の侍衛として、我々よりもひとつ下の立場にいた。
住む家、食事、服、あらゆるものに差があった。だが、それに誰も疑問を持たなかったし、それを当然のことだと思っていたのだ。
リヴェータの父は言った。「自分に値をつけるのは自分自身だ。そして私に並び立つ程に価値を持ち、高みに居る人間などこの世には居ない」と。
奴はカンナブルの支配構造にどっぷりと浸かった男だった。立場が下の人間に対し、高慢かつ高圧的に振る舞う男だった。
奴がルドヴィカの叛乱を助長させたのは想像に難くない。
……恐らく、ルドヴィカはその支配構造に強い疑問を持ったのだろう。
優しい心を自分の眼のカ――『凛眼』で殺し、一族のために彼女は立ち上がった……俺はルドヴィカから離反の理由をそう聞いている。
その頃は、俺もその理由に納得した。イレ家当主の傲慢さには、ほとほと呆れ返っていたからだ。
だが、ひと月前にダリク砦で敗北し、治療のため前線から退いた今、俺の中にひとつの疑問が浮かんでいた。
『なぜ裏切りを扇動したのがルドヴィカだったのか』という点だ。
イレ家に対し怒りを抱くのならば、それはロア家の当主である彼女の父のは呪だが、ルドヴィカの父は最後までイレ家の当主を守るために戦った。
娘の意向と、奴は真っ向からぶつかったのだ。
つまり、あの裏切りはルドヴィカ個人の目的。しかしながら、彼女は一切その真相を語ろうとしない。
……何かが、隠されている。
俺はそう踏んでいる。