【黒ウィズ】三大悪女?(魔道杯)Story
2019/08/23
目次
登場人物
ネオン | |
エネリー・ネリー | |
ティレティ |
story1 私は悪くない!
この異界は”死界”と呼ばれている。人も神も、悪魔でさえも、死ねば等しくここに送られる。もちろん悪しき者たちも――
「「「なんで私がこんな目にー!」」」
言うまでもなく、この3名は死者である。それぞれ別の異界で悪行の限りを尽くし、当然の末路を迎えた者たちだ。
エネリー・ネリー。大魔道士。数々の禁術に手を染め、大勢の罪なき人々を己の魔道のために犠牲にした。
だが、その悪逆非道にして無悪不造の行いも誇り高き牙に喰い止められた。
「ひいっ!ま、待って待って待って!謝る!超謝る!今までのこと全部謝るからぁ!!」
「「「はぁああああぁああああっ!!」」」
「ぎゃああぁああぁああああああーーーー!!」
エネリーは死んだ。力のすべてを打ち砕かれ、その魂は死界のどん底へと叩き落とされた。
聖女ティレティ。<聖域>の執行騎士。<煉獄>の民を蔑み、傷つけ、弄び、傀儡として思うがままに操った。
だが、人の心を弄ぶ彼女の行いは、心を棄てる覚悟を決めた少女の鉄槌に叩き潰された。
「ゆ、許して。
「駄目だよ。あんたは、あたしを本気にさせた。もう後戻りはできないよ。
じゃあね。」
ティレティは死んだ。その死に様は、見るも無惨だった。
アセンシプ社社長代行ネオン。クラックハンド隊に冤罪を被せ、一時はシェルアークの最高権力者として君臨するが――
「……なんでなんで、なんでなのよぉ……。
こんなに努力して、勉強して、身体も鍛えて、スタイルだって維持してるし、毎朝ばっちりメイクして、寝る前のお肌ケアも欠かさなくて。
なのになんでいつもああいうゆるふわばっかり愛されるのよぉぉぉ!あたしだってえぇぇぇ!たまには愛されたああぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!
新たな力を手に入れたクラックハンド隊に野望を打ち砕かれ、全てを失い、そしてー―
私はアセンシプ社の窓から落ちて……なのになんで私は生きているの?
ネオンは恐る恐る辺りを見回した。暗黒の空、死に絶えた大地。神話マニアでなくとも、”この世界”の名には聞き覚えがあった。
ちなみに、ここにいる3人全員が「危なくなったら、こいつらを囮にしよう」と考えていたのは言うまでもない。
***
死界の陰欝な光景、過酷で単調な旅……。7日目で、最初にネオンが音を上げた。
いやいやいやいや、ちょっと待ちなさいよ生き肝!?皆殺し!?さすがに私とあんたたちを一緒にしてほしくないんだけど!
(ち、違うわよね?誰か違うって言ってネオンちゃんは良い子よね?少なくともこいつらよりはマシよね?ね?ね?)
過去の発言がブーメランのようにネオンの心に突き刺さる。
「人が多すぎるのよ。必要とあれば使い潰しもするわ。」
「この惑星は未来永劫、私に抱かれるのよ!」
「武器を捨てなさい。抵抗するなら、ドローンに命令して、シェルの住人を殺すわ。」
(あ、あれ……もしかして私って……こいつらと同じ……なの?)
その時、3人の後ろから死者の大群が現れた。誰も彼も怪しい風体をしている。
「奴らが生き返る秘密を知ってるらしいぜ!
「俺たちを生き返らせろ!さもねえと、ぶっ殺すぞ!
死界は広い……。彼女たちの他にも悪人は大勢いるのだ。
story2 私は悪くない……?
「俺たちを生き返らせろ!さもねえと、全員ぶっ殺すぞ!
3人を追う死者の大群は、死界の名も無き悪党たちだ。
『生き返る方法を3人の悪女が知っている』という噂を聞きつけて追ってきたのである。――死者だけに地獄耳だった。
今の魔力じゃ弱っちいのしか呼べないけど、いないよりマシよね……。来たれ!〈水の粘魔〉、〈火の小鬼〉、〈雷の悪魔〉よ!
エネリーの従属召喚によって精霊の分身体が顕現した。
「やだ」
「断る」
「死ね」
精霊たちはエネリーの命令を完全に無視し、自分の意志で消失した。
3人は泥沼のほとりの岩陰に隠れた。周辺を探し回る死者たちに怯えつつ、息を潜めることしかできない。
――全てデマである。
(……クラックハンド隊のヤツらも、私に冤罪を着せられて追われている時はこんな気持ちだったのかしら……)
『本日、アセンシプ本社が、テロリストにより襲撃されました。目的は社長の暗殺です。
テロリストたちは、8名。うち7名は保安部第7課、通称クラックハンド隊のメンバーでした。
本件を受け、急濾、社長代行となったネオン取締役は、事件の終息に向けて、ハンターの募集を決断いたしました。』
「これで全世界が敵に回ったわよ、ゆるふわ女と愉快な仲間たち!せいぜいゴキブリみたいに逃げ回ることね!ホーホッホッホッホ!」
(私は地獄に落ちて当然の悪人だったんだ……
でも、そんな悪人(わたくし)をあのゆるふわは助けてくれたのよね……)
ネオンはアセンシプ社の窓から落ちる瞬間に、エニィの煌めく大剣が自分の身体を受け止めてくれたことを思い出した。
だが結局、自分は死んでしまった。きっとレソネイトを使いすぎたせいだろう。未知の技術を気軽に扱った結果だ。
だからもう彼女には会えない。「ごめんなさい」も「ありがとう」も……本当に言いたいことも、二度と言えない。
周りは死者の悪党たちに囲まれている。逃げ道はない。――目の前で悪臭を放つ泥沼を除いて。
ネオンは意を決して、泥沼に飛び込んだ。
ネオンとて同じ気持ちだった。こんな腐臭と汚植にまみれた泥沼、生きていた頃なら視界に入れるのも嫌だっただろう。だが――
2人の悪女も覚悟を決めて、泥沼に飛び込んだ。
story3 生きてこそ
――長く、苦しい旅だった。
ある時は足を引っ張り合い、またある時は囮として利用し合い、騙し合い、裏切り合い罵り合い……ようやく3人は目的地に到着した。
エネリーは祭壇の上に魔法陣を描き、ティレティが聖なる儀式を執り行った。だが、しかし――
仮にも生前は大魔道士と聖女だった2人が無理だったのだ。成功の可能性は薄かった。それでもネオンは祈らずにはいられなかった。
死界の昏い空に、朝露に濡れた蜘蛛の糸のような煌めきが走った。すると、細長い一筋の光の糸が紡がれ、地上にゆっくりと降りてきた……。
死界の空に向こう側の異界の様子が幻のようにうっすらと映し出された。
「ネオン、まだ目が覚めないんだって。少し、かわいそう……。」
光の糸が少し伸びた。どうやら向こう側の世界の思念や感情があの光る糸になっているようだった。
「そんなことないって、あいつの自業自得だよ。」
光の糸が縮んだ。
「……でも、やっぱりかわいそうなところもあるかもな。最後にあいつ、泣いてたしさ。」
光の糸がかなり伸びた。
「結果論だが、あの騒動で死者は出なかった。あいつも死ぬ必要はないだろう。無事に回復してくれるよう祈るとするか。」
向こう側から伝わる想いの力が、光輝く糸に紡がれて、死界の底の底まで降りてくる。
3人はまさに死に物狂いの勢いで光の糸を昇っていく。
しかし中程までよじのぼったあたりで、光る糸が軋み始めた。
光る糸はエネリーとティレティの2人がつかまっているところから、呆気なく、ぶつんと切れた。
しかし、誰かの手が切れた糸をつかんだ。
2人がぶらさがる糸の切れ端をつかんだのはネオンだった。
でもそんな私みたいな悪人にも手を差し伸べてくれたやつがいたわ。
だからあんたたちも一度くらいは救われるチャンスがあってもいいはずよ。一緒に生き返りましょう!
確かに2人はネオンと同じ悪人ではなかった。……さらにドス黒い別のナニカだった。
ぷつん。
「「「あっ。」」」
光の糸が切れた。
いやいやいや!もう〈煉獄〉はいや!地獄はもっといやぁぁああああ!!
「はっ!?……こ、ここは。
ネオンが目覚めたのはアセンシプ社の病室だった。
「夢、だったの……?
手の平を開くと、一瞬だけ、光の糸の切れ端が見えたような気がした。だが、それも目覚めた直後の幻覚だったのかもしれない。
ネオンが不思議な”夢”に思いを馳せていると、病室に誰かが入ってきた。
「あ、ネオン。起きたんだね。よかった。
「昏睡状態から目覚めたんだな。助かった、実はちょうど訊きたいことが――
「――クラン。あなたに酷いことしてごめんなさい人間もどきとか、ポンコツガラクタ娘とか、酷いこともたくさん言ったわよね。
「ええっ!?急にどうしたんだよ!頭でも打ったのか?それと、ポンコツガラクタ娘は言われてないぞ!
「それと……エニィ。あの時、助けてくれてありがとう。私が生きているのはあなたのおかげよ。
もうひとつだけ、あなたに言いたいことがあるの。聞いてくれる?
「うん、いいよ。言って。
ネオンは居住まいを正し、深く息を吸い、勇気を出して秘めた想いを告白する。
「あたしを!あなたのお嫁さんにしてください!
「「はああああああああああ!?
……その後、彼がどのような人生を送ったのかはまた別の機会に語られるだろう。
死界は、今日も明日も永遠に、正邪と善悪とを問わず、全ての死者を受け入れている……。
ここは悪人を罰する地獄でも、天国でもない。もしかしたら、どこにもないのかもしれない。
善人が救われるそのようなものはきっと天国も地獄もその人の心の中に生まれいずるものなのだろう――