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【黒ウィズ】三大悪女?(魔道杯)Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん


2019/08/23





目次


Story1 私は悪くない!

Story2 私は悪くない……?

Story3 生きてこそ



登場人物


ネオン
エネリー・ネリー
ティレティ


TOP↑

story1 私は悪くない!



 この異界は”死界”と呼ばれている。人も神も、悪魔でさえも、死ねば等しくここに送られる。もちろん悪しき者たちも――


z悪女を殺せー!

私は悪女じゃなーい!


そういえば、ネオンくんって、女の子じゃないんだっけ?

性別のことじゃない!私はあんたらほど悪党じゃないって意味よ!

私だって悪女じゃありませんわれっきとした聖女ですのよ!

zあの3人の悪女を殺せー!


「「「なんで私がこんな目にー!」」」


 言うまでもなく、この3名は死者である。それぞれ別の異界で悪行の限りを尽くし、当然の末路を迎えた者たちだ。


 エネリー・ネリー。大魔道士。数々の禁術に手を染め、大勢の罪なき人々を己の魔道のために犠牲にした。

だが、その悪逆非道にして無悪不造の行いも誇り高き牙に喰い止められた。


「ひいっ!ま、待って待って待って!謝る!超謝る!今までのこと全部謝るからぁ!!」

「「「はぁああああぁああああっ!!」」」

「ぎゃああぁああぁああああああーーーー!!」

 エネリーは死んだ。力のすべてを打ち砕かれ、その魂は死界のどん底へと叩き落とされた。


 聖女ティレティ。<聖域>の執行騎士。<煉獄>の民を蔑み、傷つけ、弄び、傀儡として思うがままに操った。

だが、人の心を弄ぶ彼女の行いは、心を棄てる覚悟を決めた少女の鉄槌に叩き潰された。


「ゆ、許して。

「駄目だよ。あんたは、あたしを本気にさせた。もう後戻りはできないよ。

じゃあね。」

 ティレティは死んだ。その死に様は、見るも無惨だった。


 アセンシプ社社長代行ネオン。クラックハンド隊に冤罪を被せ、一時はシェルアークの最高権力者として君臨するが――


「……なんでなんで、なんでなのよぉ……。

こんなに努力して、勉強して、身体も鍛えて、スタイルだって維持してるし、毎朝ばっちりメイクして、寝る前のお肌ケアも欠かさなくて。

なのになんでいつもああいうゆるふわばっかり愛されるのよぉぉぉ!あたしだってえぇぇぇ!たまには愛されたああぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!

 新たな力を手に入れたクラックハンド隊に野望を打ち砕かれ、全てを失い、そしてー―



はっ!?……こ、ここはどこ?

私はアセンシプ社の窓から落ちて……なのになんで私は生きているの?

いいえ、ちゃんと死んでますわよ。

そうそう、あなたもあたしもみんな死んでるの!あはははは!あはは……あは……はぁ……。

だ、誰よ、あんたたち!?てゆーか、何その格好?コスプレマニアか何か?

私はティレティ。見ての通り清く正しい聖女です道端で倒れているあなたを見つけて保護してあげたのですよ。

あたしはエネリー。気軽にエネリーさんって呼んでね。魔法のお酒飲む?嫌なこと辛いこと全部忘れられるわよ……自分が死んでることも。

 ネオンは恐る恐る辺りを見回した。暗黒の空、死に絶えた大地。神話マニアでなくとも、”この世界”の名には聞き覚えがあった。

まさか……ここは地獄なの?

地獄じゃないわよ~。死後の世界ではあるけど。正確には死界って言って――

知らないわよ、そんな細かい違い!レーザーとビームの違いみたいなもんでしょ!あの世はあの世じゃないのよぉぉぉぉ!!

落ち着きなさい。生き返る方法はありますわ。

本当!?だったら教えなさい!今すぐに!

ここから49日はどかかる場所に”ウォ・ヴォンの祭壇”という遺跡があります。そこで儀式を行えば、蘇ることができるのです。

どうせデマだと思うけどね。人間って、生きてる時も死んだ後も、下らない迷信に騙されるものよ。みんなおバカばっかり。

希望を捨ててはいけませんわ、エネリーさん。きっとウォ・ヴォンの祭壇まで行けば、生き返る手だてが見つかるはずです。

だったら、私も連れていきなさい!私が死んだままなんて世界の、いえ、全宇宙の損失よ!

もちろんです。そのつもりであなたを助けたのですから。危険な旅になるでしょうが、互いに助け合えば、どんな苦難も乗り越えられますわ。

 ちなみに、ここにいる3人全員が「危なくなったら、こいつらを囮にしよう」と考えていたのは言うまでもない。


 ***


 死界の陰欝な光景、過酷で単調な旅……。7日目で、最初にネオンが音を上げた。


うぅ……なんでよ。なんで私がこんな地獄に落とされるのよ。何も悪いことしてないのに!

私だって何の罪も犯していませんわ。

あたしだってやりたいことをやっただけよ!

確かに私は会社を乗っ取って邪魔な奴らに冤罪を着せて、独裁者として市民を弾圧したわ。でも世界のためですもの。何も悪くないでしょう?

私は毒入りの食糧を食べた侵略者に、解毒剤は子どもの生き肝ですよと教えてあげました。薄汚い罪人にも情けをかけてあげたのですよ。

あたしは村人皆殺しにして邪神の眷属にして、もう1回死なせて怨念を回収して利用したわ。他にもいろいろやったけど、それが何よ!?

……えっ?

いやいやいやいや、ちょっと待ちなさいよ生き肝!?皆殺し!?さすがに私とあんたたちを一緒にしてほしくないんだけど!

同じでしょう?世界を救うためには手段を選んでいられませんものね。

同じでしょ。あたしよければ全てよーし!あはは!

全然ちっがーう!!

(ち、違うわよね?誰か違うって言ってネオンちゃんは良い子よね?少なくともこいつらよりはマシよね?ね?ね?)


そもそも戦争が起きたのはインフェルナ人が増えすぎたのが悪かったのです。もし生き返ったら、私が間引いて差し上げますわ。

 過去の発言がブーメランのようにネオンの心に突き刺さる。

「人が多すぎるのよ。必要とあれば使い潰しもするわ。」

世界はあたしの実験場。みんなあたしの実験台。そうやって永遠に生きたかっただけなのにな~。

「この惑星は未来永劫、私に抱かれるのよ!」

戦争なんですもの。どんな手を使っても勝てばいいのですわ。

自分のためなら何してもいいでしょ。卑怯って言葉はおバカな連中の負け惜しみよね。

「武器を捨てなさい。抵抗するなら、ドローンに命令して、シェルの住人を殺すわ。」

(あ、あれ……もしかして私って……こいつらと同じ……なの?)

 その時、3人の後ろから死者の大群が現れた。誰も彼も怪しい風体をしている。


「奴らが生き返る秘密を知ってるらしいぜ!

「俺たちを生き返らせろ!さもねえと、ぶっ殺すぞ!

ひ、人殺しぃいい!!

にっ、逃げるのよ!!捕まったら絶対ひどい目にあわされるわ!

死界は広い……。彼女たちの他にも悪人は大勢いるのだ。



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story2 私は悪くない……?



「俺たちを生き返らせろ!さもねえと、全員ぶっ殺すぞ!

3人を追う死者の大群は、死界の名も無き悪党たちだ。

 『生き返る方法を3人の悪女が知っている』という噂を聞きつけて追ってきたのである。――死者だけに地獄耳だった。

こういう時のためにあなたを雇ったのですよ。エネリーさん、早くあの悪人たちを魔法で追い払ってくださいませ!

言われなくてもやるわよ!あたしだって痛いのはイヤだもの!

今の魔力じゃ弱っちいのしか呼べないけど、いないよりマシよね……。来たれ!〈水の粘魔〉、〈火の小鬼〉、〈雷の悪魔〉よ!

 エネリーの従属召喚によって精霊の分身体が顕現した。

さあ、あの連中をぶっ殺して!命令よ!

「やだ」

「断る」

「死ね」

 精霊たちはエネリーの命令を完全に無視し、自分の意志で消失した。

なんで言うこと聞いてくれないのよぉぉ~!

あれだけ毎日お酒を飲んでいれば、魔法の腕も落ちますわよ。生前は大魔道士という話でしたのに、どうしてここまで落ちぶれたんですの!?

あたしだって死んだばかりの頃は頑張ったわよ!でも何をしてもダメなんだもん!お酒を飲んで嫌なこと忘れないとやってけなかったの~!

そのせいで魔法の使い方まで忘れてしまったら元も子もないではありませんか!

どうするのよ?今の私は〈腕〉もドローンも呼べない、世界一可愛くて美しくて完璧なだけが取り柄のただのネオンちゃんなのよ?

とにかく、どこかに隠れないと!あんなゲスそうな悪党どもに捕まりたくなぁ~いっ!!


 3人は泥沼のほとりの岩陰に隠れた。周辺を探し回る死者たちに怯えつつ、息を潜めることしかできない。


zあいつらの生き肝を食えば、生き返れるって聞いたぜ!

z生皮を剥がして、生き血を浴びればいいって聞いたぞ!

z違う!邪神ヅェムヌァグヅ様の生贅に捧げるんだよ!

 ――全てデマである。


死人から生き血も生き肝も生皮も取れるわけないし、生覧にもできないわよバカなの?バカは死んでもバカなのぉぉ!?

しぃー!静かになさい!奴らに気づかれたらどうするんですの!

これは夢よ夢。目が覚めたら私を褒め称える市民と土下座したクラックハンド隊が「ごめんなさいネオンさま私たちが間違っていました」って――

(……クラックハンド隊のヤツらも、私に冤罪を着せられて追われている時はこんな気持ちだったのかしら……)

『本日、アセンシプ本社が、テロリストにより襲撃されました。目的は社長の暗殺です。

テロリストたちは、8名。うち7名は保安部第7課、通称クラックハンド隊のメンバーでした。

本件を受け、急濾、社長代行となったネオン取締役は、事件の終息に向けて、ハンターの募集を決断いたしました。』

「これで全世界が敵に回ったわよ、ゆるふわ女と愉快な仲間たち!せいぜいゴキブリみたいに逃げ回ることね!ホーホッホッホッホ!」


……ぁあぁ……。

(私は地獄に落ちて当然の悪人だったんだ……

でも、そんな悪人(わたくし)をあのゆるふわは助けてくれたのよね……)

 ネオンはアセンシプ社の窓から落ちる瞬間に、エニィの煌めく大剣が自分の身体を受け止めてくれたことを思い出した。

だが結局、自分は死んでしまった。きっとレソネイトを使いすぎたせいだろう。未知の技術を気軽に扱った結果だ。

だからもう彼女には会えない。「ごめんなさい」も「ありがとう」も……本当に言いたいことも、二度と言えない。

そんなの……イヤよ!むと私は絶対に生き返って、あのゆるふわに……エニィに言わなくちゃいけないことがあるんだから!

周りは死者の悪党たちに囲まれている。逃げ道はない。――目の前で悪臭を放つ泥沼を除いて。

だったら……!

 ネオンは意を決して、泥沼に飛び込んだ。

な、何をしているのですそんな穢らわしい泥沼に飛び込むなんて、正気ですの?

 ネオンとて同じ気持ちだった。こんな腐臭と汚植にまみれた泥沼、生きていた頃なら視界に入れるのも嫌だっただろう。だが――

ここでまた死ぬよりマシでしょ!生き返りたいなら、ついてきなさい!

そんなばっちい沼に入るなんていーやーあたし、きれい好きなんだから!生きてた頃は1日3回シャワー浴びてたのよ!

zこっちにいたぞ!悪女だ!

ひぃぃー!待って待って超待って!あたしも行く!行きますから~!

置いていかないでくださいませぇ~!

 2人の悪女も覚悟を決めて、泥沼に飛び込んだ。



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story3 生きてこそ



 ――長く、苦しい旅だった。

ある時は足を引っ張り合い、またある時は囮として利用し合い、騙し合い、裏切り合い罵り合い……ようやく3人は目的地に到着した。


ぜえぜえ、ここが”ウォ・ヴォンの祭壇”なのね……。

ひぃひぃ、疲れてもう一歩も歩けないいい……。エネリーさん、死んじゃうぅぅ……もう死んでるけどぉ……。

はぁはぁ、ここまで来ればこっちのものですわ!早く儀式を行いましょう。何としてでも生き返るのですよ!

 エネリーは祭壇の上に魔法陣を描き、ティレティが聖なる儀式を執り行った。だが、しかし――

そんな!どうして何も起きないんですの!

だから言ったんじゃーん。どうせデマだって。本当に使えそうな遺跡はヒルデみたいないい子ちゃんたちが見張ってるんだもの。

……私も試してみるわ。あんたたちと同じようにやればいいのよね?

 仮にも生前は大魔道士と聖女だった2人が無理だったのだ。成功の可能性は薄かった。それでもネオンは祈らずにはいられなかった。

お願い、誰か私の祈りにこたえて……!

 死界の昏い空に、朝露に濡れた蜘蛛の糸のような煌めきが走った。すると、細長い一筋の光の糸が紡がれ、地上にゆっくりと降りてきた……。

ウソ……やった!やったわ他の異界につながったのよ!あの糸につかまれば、現世に帰れるはずよ!

 死界の空に向こう側の異界の様子が幻のようにうっすらと映し出された。


「ネオン、まだ目が覚めないんだって。少し、かわいそう……。」

 光の糸が少し伸びた。どうやら向こう側の世界の思念や感情があの光る糸になっているようだった。

いいわ!もっとよ!もっと私を哀れんで!

「そんなことないって、あいつの自業自得だよ。」

 光の糸が縮んだ。

余計なこと言うんじゃないわよ、ポンコツガラクタ娘!!

「……でも、やっぱりかわいそうなところもあるかもな。最後にあいつ、泣いてたしさ。」

 光の糸がかなり伸びた。

今のウソウソ!クラン様は女神様です!天女様です!お願いい~、もっとネオンちゃんを哀れんで~!

「結果論だが、あの騒動で死者は出なかった。あいつも死ぬ必要はないだろう。無事に回復してくれるよう祈るとするか。」

うぅ……何よぉ。どいつもこいつも、いい子ちゃんぶってぇ……。

 向こう側から伝わる想いの力が、光輝く糸に紡がれて、死界の底の底まで降りてくる。


よしっ!つかんだわ!後は上まで昇ればいいのね?

いつまで異界の入り口が開いてるか分からないわ!大急ぎで昇らないと!


 3人はまさに死に物狂いの勢いで光の糸を昇っていく。


向こう側は<聖域>じゃありませんのね。ですがこの際、贅沢は言ってられませんわ!人の命ほど尊いものはありませんもの。


 しかし中程までよじのぼったあたりで、光る糸が軋み始めた。


き、切れちゃうううう!!


 光る糸はエネリーとティレティの2人がつかまっているところから、呆気なく、ぶつんと切れた。

しかし、誰かの手が切れた糸をつかんだ。


ネオンくん!?

ネオンさん、どうして……?

 2人がぶらさがる糸の切れ端をつかんだのはネオンだった。

一緒に旅をしてよぉーく分かったわ。あんたら最低最悪のクズよ。……私と同じね。

でもそんな私みたいな悪人にも手を差し伸べてくれたやつがいたわ。

だからあんたたちも一度くらいは救われるチャンスがあってもいいはずよ。一緒に生き返りましょう!

……はあ?

……えっ?


何わけわかんないこと言ってんの?この糸は最初からあたしのもの、あたしだけのものよ。さっさとそこをどきなさい!

私は悪人なんかじゃありませんわ!あなたのような下賤な者と一緒にしないでくださる?さあ、その穢らわしい手を放しなさい!


 確かに2人はネオンと同じ悪人ではなかった。……さらにドス黒い別のナニカだった。


こんな細い糸じゃ3人分の魂の重みに耐えきれないのよ!あんたらはエネリーさんのために落ーちーろー!!

あなた方こそ手を放しなさいこれは聖女たる私のために特別に天が降ろしてくれた聖なる糸ですわ!

や、やめなさい!そんなに暴れたら糸がまた切れちゃ――

 ぷつん。

「「「あっ。」」」

 光の糸が切れた。

いぃぃぃぃややぁぁぁああああ!もう死ぬのやぁだぁぁぁぁああ!

いやいやいや!もう〈煉獄〉はいや!地獄はもっといやぁぁああああ!!

落ちるぅうぅぅぅぅぅぅ!!



「はっ!?……こ、ここは。

ネオンが目覚めたのはアセンシプ社の病室だった。

「夢、だったの……?

手の平を開くと、一瞬だけ、光の糸の切れ端が見えたような気がした。だが、それも目覚めた直後の幻覚だったのかもしれない。

ネオンが不思議な”夢”に思いを馳せていると、病室に誰かが入ってきた。

「あ、ネオン。起きたんだね。よかった。

「昏睡状態から目覚めたんだな。助かった、実はちょうど訊きたいことが――

「――クラン。あなたに酷いことしてごめんなさい人間もどきとか、ポンコツガラクタ娘とか、酷いこともたくさん言ったわよね。

「ええっ!?急にどうしたんだよ!頭でも打ったのか?それと、ポンコツガラクタ娘は言われてないぞ!

「それと……エニィ。あの時、助けてくれてありがとう。私が生きているのはあなたのおかげよ。

もうひとつだけ、あなたに言いたいことがあるの。聞いてくれる?

「うん、いいよ。言って。

ネオンは居住まいを正し、深く息を吸い、勇気を出して秘めた想いを告白する。

「あたしを!あなたのお嫁さんにしてください!

「「はああああああああああ!?

……その後、彼がどのような人生を送ったのかはまた別の機会に語られるだろう。


死界は、今日も明日も永遠に、正邪と善悪とを問わず、全ての死者を受け入れている……。

ここは悪人を罰する地獄でも、天国でもない。もしかしたら、どこにもないのかもしれない。

善人が救われるそのようなものはきっと天国も地獄もその人の心の中に生まれいずるものなのだろう――






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