【黒ウィズ】いい旅の見つけ方 Story
いい旅の見つけ方
目次
story1 神々の争い
その日、君は旅の準備をしていた。
ウィズとリュディの足跡を追うには、エルフが出現したという情報が入れば、すぐにでも旅立たなければいけないのだ。
いつ何時、その機会がやってきてもいいように、備えておく。
それが君に出来る唯ーのことだからである。
珍しくカヌエの荒ぶった声が聞こえた。
大して怖くはないが剣幕だった。
ちゃいちいーな鯛のことだよ!
だからこの前、あーたが鯛を釣ってきた時に、にょほほと思って、取っておいたんだよ。
それを!どうして!捨てるかねえ!
下らな過ぎるとこっちが死にたくなるのは、新しいな、と君は思った。
なぜ伝聞調なんだろうか、と君は思った。
バカバカしい。海でも見てくる。
とソラは背中を向けて、手をひらひらと振った。
カヌエはわかりやすく、ぷんぷんしていた。下らな過ぎてなだめる気にもならなかったが。
君は下らな過ぎて壁に頭を打ちつけて死にたい、と思った。
***
部屋を出たソラは街を歩きながらぶつくさ言っていた。
あまり見栄えのいいものでなかった。
神様が不機嫌そうな顔をして歩いているので、街の人も驚いた。
人の好さげなおばあさんなどは、ソラに饅頭を供え、2度、3度と熱心に拝んだ。
漁の神でもあるソラを信奉する漁師たちは、裸になり冷たい水を浴びたりした。
それでもソラはぶつくさ言っていた。今朝の喧嘩のせいで機嫌が悪かったのである。
神様の機嫌を執り成すとすれば、御子である。
ホリーがぶつくさ言っているソラの元に連れてこられたのは道理であった。
hどうされたのですか、ソラ?ずっとぶつくさ言ってますが。
いつものことだからいいんだが、気分は良くないな。
hそれなら海に行かれたどうでしょうか?気晴らしになりますよ。
h万策尽きるのが早くないですか?それに策、ひとつしかありませんでしたよ。
あ!しまった!思わずカヌエの名前を出してしまった!いまは憎き敵だったんだ。
カヌエのことを気にしたら、負けた気になる。ダメだダメだ。
W勝ちたいのかい?それならあたしの出番だね。
yあたしはヨッココ・ルボア。人は呼ぶ。勝ち方を知っている女とね。
待たせたね。
y呼ばれてから来るようじゃ。勝機を逃しているんじゃないか?
ファーストイン。ファーストアウト。それが勝利の鉄則さ。
そしてもうひとつの鉄則。それが敵を知ることさ!
hああ。なるほど。それはいい考えですね。
yあんた!いまわかった振りしただろ。自分だけわからないのは恥ずかしいから、わかった振りしただろう。
yじゃあ、何がなるほどなのか、言ってみな!
yわかってないじゃないかーい!てーい!
ヨッココはソラの手を取って飛び上がると、2本の指をその腕に叩きつけた。
yわかったふりするやつにはしっぺだよ。
y決まってるじゃないかい。旅だよ、旅。カヌエのお株を奪ってやるのさ。
ヨッココ・ルポアのきちゃない笑顔が常夏の街に、寒気を走らせた。
story2 貴種流離
hそれなら教団の人に任せましょう。良きようにして頂けるはずです。
y待ちな!あんたら、そんな人任せの姿勢が負けを呼ぶんだよ。
見えるねえ。あんたらが今まで神様だの御子だの甘やかされていたところがねえ。
hそれは否定できませんね……。
y風任せと行こうじゃないか。ちょうどここは祭りのフィナーレの〈火送りの儀式〉を行う場所さ。
同じように灯篭を飛ばして、風が運んで行った場所に行くのさ。どうだい、粋だろ。
h粋ってなんですか?
yそうと決まれば、各自準備を整えてー時間後にここに集合だよ。さあ、散った散った!!
神と御子と勝ちを知る女はその場から立ち去り、ー時間後再び集まった。
hあ、ソラ。こちらです。
hええ。でもソラが同じ考えでよかったです。みんな、すごい荷物を持ってきていたらどうしようと思っていました。
そんなふうに笑いあうふたりの顔が凍り付いた。
y裏切り者!
h裏切ってはいませんが……。
ホリーは灯篭に火を灯し、しばらく待つ。やがて赤い火とともに灯篭は空に昇っていった。
灯篭は風に流され、飛んでいく。
hあの灯篭、いつもどこに飛んでいくんだろうと思っていたんです。
hそれを知ることができるんですね。ふふ、少し楽しくなってきましたね。
y勝ち筋乗ってるね、これは……。
ヨッココの意味不明な言葉ときちゃない笑顔を残し、ソラたちは灯篭を追った。
story3 旅の思い出
旅は順調に進んだ。
寸空を舞う灯篭の速度は緩やかであり、すこぶる快調であった。
思いの外、遠出になってしまったこと以外は。
hこんなところまで飛ぶとは思いませんでした。せいぜい街の外のどこかだと思っていました。
y御子様ともあろうものが準備不足かい。どうやらこの勝負、あたしの勝ちのようだね……。
h勝ち負けなんかあったんですか?
ソラが頭を掻きながら、惘然としていた。
hえ?こんないい天気なのにですか?
h灯篭も落ちてしまいますね……。
yチッ!天気には勝てないねえ。ま、今回は引き分けにしておいてやるさ。
ソラの言う通り、すぐに山は雨に濡れた。
ー同は雨降りから逃れるため、森の中に入った。暖を取る焚火が心地よく音をたてていた。
ふと気づくのは、ここがどことも知れぬ場所だということだった。
h不思議な気がしますね。知らないうちにこんなところに来ちゃって、御子なのに。
hヴィジテは元々、そういう気風がありますから。少しうらやましいところはありました。
でも、いざ外に出てみると、不安を感じている自分を知りました。
旅とは楽しくもあり心細くもあるんですね。こんな少し出かけただけでそう感じるんですから……。
リザはもっと心細いでしょう。
hカヌエも同じなのかもしれませんよ。旅に出ると貴方と別れてしまう。
だから、貴方が釣った魚の骨を持っていくのかもしれません。つながりを失ってしまわないように。
また釣ったら……持っていってやろうと思う。
ソラは小枝を折って火の中に放り込んだ。
雨が降り終わった空にはもちろん灯篭はなかった。
h私たちの旅はここで終わりですね。
ホリーの言葉を聞いていなかったかのように、ヨッココが切り出す。
yさてと……灯篭を探しますか。
青空を背景にしてヨッココはニヤリときちゃない笑顔を見せた。
h探すんですか?
y天気に負けるわけにはいかないだろ。雨が降った時に飛んでいた辺りを探せば見つかるさ。
あたしが常に勝ち続けるのは、あたしが諦めないからだ。
負けたことないんてー度もない。ただ時間が足りなかっただけさ。
ソラの教えってのはそういうもんだろ?少なくともあたしはそう信じてる。
ソラとホリーが顔を見合わせ、やがて互いに頷きあう。
hはい。それがこの旅の目的ですもんね。
***
灯篭が見つかったのは巨大な大樹の傘で覆われた場所であった。
夜が近づいているせいで、あたりは暗くなっていたが、そこだけは淡い光が漂っていた。
ホリーはひざまずいて、咲いている花に指を添えた。
首をもたせかけるように、花は彼女の手におさまった。
hこの花が光っているんですね。
不思議な場所だ。こんなところがあるなんて全然知らなかった。
ホリーは指先に寄り添う花をそっと離してやる。花は楽し気に頭を震わせ、また首を垂らした。
空を見やると、青から黒へと移り変わりつつある空にうっすらと星が瞬き始めていた。
h私たちは毎年、〈火送り〉を行う。そして、その灯篭はこの地を飛び去っていく。
そんなこと誰も知らなかったんでしょうね。けどこの花は知っている。
この花だけが灯篭が飛んでいくのを毎年楽しみにしていた。なんだか素敵ですね。
yあたしたちはそれを知ったんだ。勝者にはいつも勝者だけが見える景色と花が与えられるものさ。
h帰ったらカヌエに自慢してあげたらいいんじゃないですか?
hふふ。そういう人間的な神様を信仰できる私たちは幸せですね。本当にそう思います。
旅は帰るまでが旅。あるいは想い出を誰かに伝えるまでが旅なのかもしれない。
カヌエの顔を思い出しながら、ソラはそんなふうに考えた。
rつまみ食いをするなと言っただろうが~。
やっていることは神様というか、子どもと変わらないなあ、と君はいつもの光景を見ていた。