【黒ウィズ】シューラ編(サマコレ2020)Story
開催日:2020年6月30日 |
目次
story
どうもー!〈號食み〉でーす!
おお!よくぞおいでくださいました!みなの者、宴じゃ、宴じゃ!!
世界各地の氏族を巡り、その地の名産物を喰らうことで、トーテムの力を吸収――それを体内で混合させて、祝福の力となす。
そして、訪れた地に祝福を分け与え、運気の向上や、作物の豊穣を約束する。
それが、〈號食み〉の使命である。
各氏族にとって、〈號食み〉は最高の賓客だ。そのため〈號食み〉が来ると宴が開かれ、豪勢な食事が用意される。
ささ、我が氏族の名産、焼きソヴァーです!うまいですぞ!
おいしー!
我が〈海神族〉の誇る、トライデントロブスターのグリルですわ。どうぞご賞味くださいませ。
ほくほく~!
俺たち〈ゾクゾク族〉の名産、超スパイシーカレーを召し上がれ!ひとつだけ超激辛味が混ざっているぜ!
からうま~!
氏族を巡る旅の途上、シューラたちは久々に、〈アレフワ族〉の街に足を踏み入れた。
ん~~~っ。船旅もいいけど、揺れない地面ってやっぱり安心するね。
あれ?なんかここ見覚えある。
〈奪魂杖〉を追うときにー度来たでしょう。宴にも参加していますよ。
〈アレフワ族〉の街ね。ここ、港町だから寄りやすいんだ。
ああ。ジャビーのおっさんが言ってたな。人と物が集まるとかなんとか。
そうそう。だから、こないだみたいに変な禁具が持ち込まれることも多くて――
あぎゃーっ!!?
突如。
空から、何か巨大なものが降ってきて、地響きを立てて広場に落ちた。
あいたたた……。
剣のような翼を生やした、大きなドラゴンだ。頭を振り、ふらつきながら起き上がる。
……ああいうのもよく来るのか?
あれは違うんじゃないかなあ……あ、ほら。防衛用の使い魔たちが出動してる。
「ウェーイ!ウェーイ!ウェーイ!
「ウェイ!ウェイウェイ!ウェイ!
うわっ!なんだこいつら!たかるな!こら、やめろ!やめろってこら、ちょ、この――
やめんかあ――――っ!!
「「ウエ――――イ!
おのれ、小癩な連中め!ん?なんかどっかで見た形してるな……。
ていうか、ここどこだ?えーいわからん!あいつはどこへ行った!?
「ウェイ!ウェイウェイ!
だからたかるな!つつくなこら!あーもーいー加減にしろ!フェルムがまとめて吹き飛ばしてやる!
鋼の竜が暴れ出す。剣状の翼が空を裂き、集まってくる機械鳥たちを次々と弾き飛ばした。
何あいつ!いきなり暴れ出すなんて!高貴なるドラゴンの風上にも置けーぬ!ぶっとばしてやるぅぅぅうらっっしゃあ!
あ、レイル!あ―、行っちゃった……。
すみません、ウチのレイルが。
今回はいいんじゃねえか?ぶん殴ってでも止めねえと、被害が拡大しそうだしな。
ラディウスさん、戦いたいだけでしょ。
まあな。行くぜ!
もー。
切り刻んでくれる!
ライズ――〈鉄槌の巻髪姫〉!
ぐうっ!な、なんだ!?
とりあえず、大人しくしてね!〝イリアステル・フリーズ〟!
ぬわ!魔法か!?
ライズ――〈紅き黄昏〉!
〝ダークサンブラッド〟!
やばくない?
ラディウスの放つ紅蓮の刃が、巨竜を真っ向から直撃した。
ぎゃあああああああー!
安心しな。峰打ちだ。
どのへんが!?
焼いて、治す。〈紅き黄昏〉の力だ。最終的にダメージが残ってねえんだから、気持ち的には峰打ちみてえなもんだろ。
どーかなー……。
ちょこざいな~……。
あれ?女の子になった。
竜に化けてたわけか。変わった氏族だな。どういうトーテムだ?
氏族?トーテム?なんのこっちゃ!わけのわからんことを言いおって!!
ねえラディウスさん、このパターンって……。
ああ。氏族やトーテムを知らねえってことは、こいつ、まさか異界から――
ちょいちょい、ちょいちょい。おにーさん、おにーさん。
あ?なんだ、嬢ちゃん。何か用か?
えとね。それね。ウチの剣。
…………。は?
Sすいませんすいません!ウチのフェルムがすいません!
***
フェルムと名乗る、竜変化の少女。ケイトリンと名乗る、ふわっとした少女。スバルと名乗る、しっかり者の少年。
話を聞いてみると、やはり彼らは、異界から来てしまったようだった。
フェルムたちは、厄介な魔剣を追っていたのだ。フェルムと同じく自我を持つ魔剣でな。他の魔剣を取り込み、悪さを働いていた。
Sどうにかそいつを見つけて、追い詰めたところだったんだけど……。
したら、局所的かつ突発的な魔力の歪みが発生して。みんな、しぽーん!って呑み込まれちゃって。で、ここ。ナウここ。
異界の歪みか……。
何、最近流行ってんの?そういうの。異界から来るヤツ、やたら見るけど。
とりあえず、この世界のこと、ちゃんと説明してあげなきゃね。
S卜ーテム……氏族……すごい、本当に異界なんだ、ここ……。
ど、どうするんだ、帰れるのか?ー生こっちにいるなんて嫌だぞフェルムは!ケイトリンなんとかしろ~!……ケイトリン?
「ウェイ!ウェイウェイ、ウェーイ!ウェイ?
ウェーイ。ウェイウェイウェーイ。ウェイ!
順応早えな、この子。
〈アレフワ族〉の機械鳥と会話(?)を交わしていたケイトリンは、こくりと小さく首をかしげた。
我が家感。勝手知ったる我が家感。ほわい?
Sというか、この鳥……ケイトリンの使い魔にそっくりだ。もしかして――
うん、たぶん、ケイトリンちゃんって、〈アレフワ族〉のトーテム……〈フワツとしたアレ〉ご本人なんじゃないかな?
マジで!?トーテムの元になった人ってことー!?
〈フワッとしたアレ〉ってなんじゃい。なんの説明にもなっとらんぞ。
Sつまり、ケイトリンの力がこの異界に流れて、卜ーテムになって……そこから、〈アレフワ族〉の人たちが生まれたってこと?
おお。おおお。なんか感動。わたし、ここの子になる!
いや、この街の人たちが、ケイトリンちゃんの子供みたいなものなんだけどね。
それを聞いて、ケイトリンはポンと手を打った。
そだ。んじゃ、ちょっとネゴっていい?これこれこーゆー感じのおブツ、あったら集めてほしいんだけど――
ケイトリンの頼みに応じて、〈アレフワ族〉の使い魔たちが、続々と街中から魔道具を持ってくる。
ほうほう。ほうほうほう。これはこれは。いやはやいやはや。なかなかどうして。
ケイトリンは、ふわっとしたことを言いつつ、それらをガチャガチャいじり始めた。
そして。
でけり!
なんだそりゃ。いつもの鳥じゃねえか。
見た目はね。中身はノンノン。
超即席の魔力波検出分析機。特定の魔力波だけを検知できるから、これで歪みを探せば――
ケイトリンが魔道具を操作すると、鳥がクルリと西を向いた。
ビンゴ!あっちにおんなじよーな歪みがあるぽげ~。
……なんか、この前、似たようなもん見たな……。
西に、歪みかあ……みんな、何か知ってる?
「ウェイ!ウェイウェイ、ウェーイ!
へ~、そうなんだ。
どうだって?
昨日、密売人が、船に危険な禁具や呪装符を積んで、こっそり街から出て行こうとしたんだけど――
警備隊に見つかって、戦いになって。犯人は捕まったけど、船と物資は、港の西に沈んじゃったんだって。
なるほどな。んじゃ、その拍子に禁具が発動して、異界の歪みを作っちまった、てのがありそうなところか。
うん。〈アレフワ族〉の近くだったから、その繋がりで、ケイトリンちゃんの近くに歪みができちゃったのかもね。
ん?じゃあ、フェルムとスバルまでこっちに来たのは?
巻き添エーイ。
なんちゅうはた迷惑な話だ!
Sまあまあ、それで、えっと……もうー度、その歪みを通ったら、元の世界に帰れるんでしょうか。
たぶんね。
禁具をほっとくわけもいかないし。サクッと取りに行っちゃおっか!
story
ライズ――〈双子の人魚姫〉!
シューラは水着姿になって、水中活動の力をもたらす呪装符をライズした。
S俺とケイトリンも、〈潜水〉の魔法をかけ終わりました。いつでも行けます。
ガキでもそんな魔法が使えるのか、クロム・マグナ魔道学園ってのは、相当な名門なんだな。
負けてんぞー、魔道士。
仕方ねえだろ。クエス=アリアスの魔法の効果は、契約できた精霊次第なんだから。
じゃ、ちょっと潜ってくるね!
ラディウスたちに手を振って、シューラは海にダイブした。
禁具の気配は……うん、こっちだね。
シューラさん、そゆのわかるの?
うん。〈號食み〉だから。
ごーはみ?
そう。普段は、いろんな氏族の集落を巡って、祝福を授けてるんだけど……。
強力な呪具や禁具を見つけて封印するのも、私たちの使命なんだ。
Sそれ……すごく危険なんじゃないですか?
まあね。だいたいいつも命がけかな。
禁具絡みの事件は、往々にして、命に関わる危険な事態に発展する。
それに、禁具の封印は〈號食み〉の力を――肉体に宿る祝福の力を用いて行うため、術者に凄まじい負荷がかかる。
シューラの父も、危険な禁具を封印するため身を削り、結果として命を落としている。
それは、〈號食み〉という氏族にとって、決して珍しいことではない。
ー族郎党、よその連中のために命を懸けているわけか?わからん話だ。
フェルムちゃんだって、他の魔剣が酷い目に遭わないように、悪い魔剣を追いかけてきたんでしょ?
魔剣はフェルムの同胞だからな。だがおまえたちは、同胞以外のために命を懸けている。そこがわからん。
〈號食み〉にとっては、この世界の氏族みんなが同胞なんだよ。おいしいごはんを食べさせてくれるからね。
そんな理由か?
〝同じ釜の飯を喰う〟って言うでしょ?ごはんは、命の源だから。それを分かち合うってことは、命を分かち合うってことだよ。
私は、旅先で出会った人たちに――おいしいごはんを笑顔で分かち合った人たちに、誰ひとり悲しんでほしくない。
だから、禁具を封じるの。みんなに貰った命の力でね。
フェルムは、「むう」と考えるように唸った。ー方、ケイトリンは、ふわふわと微笑む。
シューラさん、えらーい。
ふん。おまえも見習ったらどうだ。そんなふわふわしてるから、あんなふわっついた氏族が生まれるんだろ。
わたしはほら。ゆったりふわふわ、つつがなーく暮らしたい派だから。しゃーないない。
ふふ。その影響かな。〈アレフワ族〉はみんな、のんびりしてて気のいい人たちばかりだよ。
名産品も、煮込み料理が多いんだ。放っといたら完成、みたいな。
Sひょっとして、めちゃめちゃもやし入れてきません?
めちゃめちゃ入れてくる。めちゃめちゃしゃきしゃきしてる。
食べたら心がしゃきしゃきーん!
いやなんもわからん。
そんな会話を交わしているうちに、海底が近づいてきた。
禁具はあのへん……なんだけど……何かいる!あれは……。
ドラゴン!?
Sあいつ――俺たちが追ってた奴です!
え?えっと、なんだっけ、魔剣を取り込む魔剣、だっけ?見た目すんごくドラゴンだけど。
フェルムと同じで魔法が使える。魔法で竜になっておるのだ!
ほう――?貴様らも、この地に来ていたのか。
この地はいいな。実にいい。面白い力にあふれている!ここでなら、俺はもっと強くなれそうだ!
いい加減にしろ!強くなりたいからって、無関係な魔剣まで取り込みおって!ちょうどいい、貴様も持ち帰ってやる!
できるかな?
魔剣竜はニヤリと笑い、キラッと輝く何かを口へ放り込んだ。
ライズ――〈竜宮の舞姫〉!
すると、海中に凄まじい渦が巻き起こり、シューラたちを呑み込みにかかった。
Sうわっ!
プリミティプグレート――ほにゃらら!
ケイトリンが雑な呪文を唱えると、シューラたちを魔法の光が包み込み、荒れ狂う渦から守ってくれる。
ふはははは!防いだか!ならばどんどん行くぞ!
魔剣竜はさらに光るものを――呪装符を取り出し、大口に放り込む。
どうしてライズを――まさか!
思い出す。ここには、禁具と一緒に、密輸された大量の呪装符も沈んでいることを。
呪装符を使うには〝顔あり〟の武器が要る。もし、密輸された品のなかに、〝顔あり〟の剣もあったとしたら――
ライズ!!
魔剣を取り込む魔剣は、高らかに呪装符の〝銘〟を呼ばわり、その力を解放した。
***
ライズ――〈青春マリンダイブ先生〉!
Sどう考えてもサルーム先生だソレ――――!
もう何度目になるだろうか――さらなる大渦が発生し、シューラたちを襲う。
魔剣竜へと近づくまで、次々に放たれるライズを、ケイトリンが魔法で防ぎ続けていたが――
ギガファンタスティック――
つかれた。
Sちょっとお――――!?
だってぇ~~~~。
ー同はなすすべもなく大渦に呑まれ、巨人にぶん回されるがごとく翻弄された。
くうっ……!
身体に強い圧がかかり、上下左右の感覚が消える。脳が激しく揺さぶられ、意識が飛びそうになる。
(これは……やばいかも!みんなは――)
歯を喰い縛って耐えながら周囲に目をやると――
がぼぼぼぼぼ。
渦のなか、ケイトリンが木っ端のようにもみくちゃにされ、目を回していた。
いけない!
助けなければ――と思うが、手持ちの呪装符に、この大渦をなんとかできそうなものはない。
(海や水を操るトーテムの力なら……)
たとえば、そう。先日訪れた〈青龍族〉。
彼らのトーテム、〈青龍轟神将〉なら、水を自在に操ることができるのに……!
そう思った瞬間、目の前に、強い光が弾けた。
魔力の光。強い力を秘めた、呪装符の光が。
これって……!?
突然目の前に現れた呪装符を、シューラは渦にさらわれる前にどうにかつかみ、とっさに封呪槍へと放り込んだ。
頭に、呪装符の〝銘〟が伝わってくる。
まさか、と思いながらも、シューラはその〝銘〟を口にした。
ライズ――〈青龍轟神将〉!
槍から、龍の形をした蒼い閃光がほとばしる。
その光は、たちまち渦へと喰らいつき、喉首を噛みちぎるようにして、渦をばらばらにしてしまった。
なんだとぉ!?
渦が消え、自由を取り戻したシューラは、槍の口から呪装符を取り出す。
間違いない。その〝銘〟は〈青龍轟神将〉――〈青龍族〉の里にあるはずの、伝説級の呪装符。つまり、トーテムそのものだ。
どうして――、……あれ!?
まじまじと眺めているうちに、呪装符は、パッと細かい光になって散ってしまった。
当惑していると、すーっとケイトリンが泳いできて、ちょいちょいと肩をつついてくる。
今の、シューラさんから出てきたよ。
へっ?私がら?
うん。シューラさんのパワーが、今のになって、ポンッて出てた。待ってね、ちょい魔法で調べるから。
おのれ、次は別のやつで――うおっ!
S何度もやらせるかっ!
スバルとフェルムが時間を稼いでくれている間に、ケイトリンが何やら指で魔法陣を描き、ふむふむとうなずいた。
シューラさんの力のー部だけが活性化してる。祝福の力がトーテムの力の混合なら、ー部だけ恣意的に選定して現出させる事も可っちゃあ可?
ごめん、よくわかんない。
ちょっとね、そのまま欲しいの考えてみて。わたしがそこだけ魔法で押し出してみるから。
わかった!
うなずき、シューラは目を閉じて集中した。
思い出す。宴を開き、饗応してくれた人々を。あたたかな笑顔と、おいしいごはん。確かに心の通じ合った、幸せなひと時を。
(この世界には、いろんなトーテムがあって、いろんな氏族がいる。みんないろんな使命を持っていて、いろんな暮らしをしてる)
(その暮らしのひとつひとつが、世界を作ってる。私はそれを知っている……見て触れて昧わって、笑い合って旅してきたから)
(だから――わかる!今、力を借りるべきトーテムは――)
活性化確認!行くよ、シューラさん!
うん!ケイトリンちゃん、お願い!
アブソリュートエクストラ――なにがし!
ケイトリンの魔法で押し出された力が、呪装符となる。
シューラはそれを即座につかみ、ライズした。
ライズ――〈このへんの海の女神〉!
いやそれどういうヤツ!?――のわぁああぁああー!?
今度は、魔剣竜が大渦に呑まれた。スパルたちを巻き込むことのない、きわめて局所的な大渦だ。
さらにシューラは、別のトーテムを思い浮かべ、その知識と記憶を呪装符に変えてライズする。
ライズ――〈仮初め・大海神〉!!
〝デウカリオン・プリミラ〟!
どわあぁああああ!?
渦に巻かれた魔剣竜の下から、三叉柘のごとき水柱が立ち昇り、天を衝く洪水となってほとばしった。
水柱は魔剣竜をー気に押し上げ、水面はおろか、その上の空に向けて、高々と跳ね飛ばす。
待ってましただ!飛べ、フレーグ!
あまり長くは飛べませんからね!
ラディウスとレイルを乗せ、フレークが飛翔する。向かうはもちろん、天に打ち上げられた魔剣竜。
く、来るなあっ!
ロード――〈白霊竜の金色の翼〉!
魔剣竜は宙で身をひねり、巨大な尾を叩きつけてくるが、これはレイルとフレークが障壁で弾いた。
ぷはっ。アークセレスティアル――なんちゃら!
さらに、水上へ浮上してきたケイトリンが魔法を放ち、魔剣竜の身体を空中で拘束する。
ケイトリンちゃん、ナイス!ライズ――
〈ln The Fast Lane〉!
シューラは両足に風のブーツをまとい、空へ舞い上がる。
決めるぜ、シューラ!
りょーかい!
ちょ、ちょ、ちょ――
空中に縫い止められたままもがく魔剣竜へ、ふたりは同時に、最大のー撃を繰り出した。
〝ダークサンブラッド〟!
〝Derive:MultipleDisaster〟!
んぎゃあああああああああ――っ!!
炎の刃と、無数の風の砲弾が、魔剣竜を直撃し、大爆発の華を咲かせた。
story
かくして。
自我ある魔剣は破れ、海底に眠っていた禁具の回収も完了した。
異界の歪みを作り出すというその禁具は、かなり危険な代物であり、まともに扱うのは至難の業だったが――
ウェウェイのウェイ!
ケイトリンは〈アレフワ族〉やスバルとともにあれやこれやと禁具をいじくり倒した挙句、その制御に成功したのだった。
ここ!って異界を選んで跳ぶのは無理だけど、発勤しっ放しになってたから、前回繋がったのと同じ場所に跳ぶことは可。
S放っておくと危ないから、俺たちがいなくなったら封印しちゃってください。
うん、わかった!回収に協力してくれて、ありがとねー!
Sいえ、こちらこそ。元の世界に帰れるのはみなさんのおかげです。本当にありがとうございました。
ありゃーす。
そしてケイトリンたちは歪みを発生させ、それを通って元の異界へ戻っていった。
その直前。
あ、そうそう。シューラさん。
なーに?
面白くて、いい世界だね。びっくり箱みたい。
そう言って、ケイトリンはふんわり笑った。
今後とも、ウチの氏族にどぞよろ~。
ひょい、と歪みに消えていく彼女を見て、ラディウスが苦笑する。
びっくり箱か。確かにな。この異界、どこに行っても、どんな氏族と会っても、たいがい驚かされるからな。
いいとこでしょ?
ああ。まるで退屈しねえ。こういう事件がちょくちょく起こるってことも含めてな。
そういうの、ほんとはあんまり起こらないで欲しいんだけどね。
まあでも……起きちゃうからには、しゃーないない、っと。
シューラは禁具を拾い上げ、歪みを閉じる。
あまりにいろんな人がいて。あまりにいろんな文化があって。危険な禁具が生まれもする。
だから、この世界には〈號食み〉が必要なのだ。あらゆる氏族、あらゆる文化の肯定者として。あらゆる呪具や禁具の鮮印者として
この、つぎはぎだらけのびっくり箱のような世界を、ばらばらにならないよう繋ぎ止めておくために。
(でも、あんなことできるなんて、聞いたことないんだけどなあ)
呪装符を生み出した己の手を見つめ、シューラは首をかしげる。
呪装符は、異界の力が結晶化した存在だ。
今回は、シューラがトーテムから受け取った力がー時的に結晶化して呪装符になった、ということなのだろう。
あらゆるトーテムの力に触れてきた、〈號食み〉ならではの能力――かもしれないが、そんなことができるなど初耳だった。
シューラさま、宴の準備ができておるようです。事件解決のお礼にと。
お、いいな。ここじゃあ前に負けてるからな。きっちりリベンジさせてもらうぜ。
ハハハハハハハハハ。
顔!
この世界は、私にとって、びっくり箱で、宝箱。
だからこうして、見て触れて昧わって……笑い合って、守っていきたい。私も世界も、みんなの暮らしでできているから。
というわけで――いただきまーす!!
ちなみにシューラの圧勝だった。
ちくしょう……。
ハハハハハハハハハ。