【黒ウィズ】シューラ編(サマコレ2020)Story
開催日:2020年6月30日 |
目次
story
世界各地の氏族を巡り、その地の名産物を喰らうことで、トーテムの力を吸収――それを体内で混合させて、祝福の力となす。
そして、訪れた地に祝福を分け与え、運気の向上や、作物の豊穣を約束する。
それが、〈號食み〉の使命である。
各氏族にとって、〈號食み〉は最高の賓客だ。そのため〈號食み〉が来ると宴が開かれ、豪勢な食事が用意される。
氏族を巡る旅の途上、シューラたちは久々に、〈アレフワ族〉の街に足を踏み入れた。
突如。
空から、何か巨大なものが降ってきて、地響きを立てて広場に落ちた。
剣のような翼を生やした、大きなドラゴンだ。頭を振り、ふらつきながら起き上がる。
「ウェーイ!ウェーイ!ウェーイ!
「ウェイ!ウェイウェイ!ウェイ!
やめんかあ――――っ!!
「「ウエ――――イ!
ていうか、ここどこだ?えーいわからん!あいつはどこへ行った!?
「ウェイ!ウェイウェイ!
鋼の竜が暴れ出す。剣状の翼が空を裂き、集まってくる機械鳥たちを次々と弾き飛ばした。
〝ダークサンブラッド〟!
ラディウスの放つ紅蓮の刃が、巨竜を真っ向から直撃した。
Sすいませんすいません!ウチのフェルムがすいません!
***
フェルムと名乗る、竜変化の少女。ケイトリンと名乗る、ふわっとした少女。スバルと名乗る、しっかり者の少年。
話を聞いてみると、やはり彼らは、異界から来てしまったようだった。
Sどうにかそいつを見つけて、追い詰めたところだったんだけど……。
S卜ーテム……氏族……すごい、本当に異界なんだ、ここ……。
「ウェイ!ウェイウェイ、ウェーイ!ウェイ?
〈アレフワ族〉の機械鳥と会話(?)を交わしていたケイトリンは、こくりと小さく首をかしげた。
Sというか、この鳥……ケイトリンの使い魔にそっくりだ。もしかして――
Sつまり、ケイトリンの力がこの異界に流れて、卜ーテムになって……そこから、〈アレフワ族〉の人たちが生まれたってこと?
それを聞いて、ケイトリンはポンと手を打った。
ケイトリンの頼みに応じて、〈アレフワ族〉の使い魔たちが、続々と街中から魔道具を持ってくる。
ケイトリンは、ふわっとしたことを言いつつ、それらをガチャガチャいじり始めた。
そして。
超即席の魔力波検出分析機。特定の魔力波だけを検知できるから、これで歪みを探せば――
ケイトリンが魔道具を操作すると、鳥がクルリと西を向いた。
「ウェイ!ウェイウェイ、ウェーイ!
警備隊に見つかって、戦いになって。犯人は捕まったけど、船と物資は、港の西に沈んじゃったんだって。
Sまあまあ、それで、えっと……もうー度、その歪みを通ったら、元の世界に帰れるんでしょうか。
禁具をほっとくわけもいかないし。サクッと取りに行っちゃおっか!
story
シューラは水着姿になって、水中活動の力をもたらす呪装符をライズした。
S俺とケイトリンも、〈潜水〉の魔法をかけ終わりました。いつでも行けます。
ラディウスたちに手を振って、シューラは海にダイブした。
強力な呪具や禁具を見つけて封印するのも、私たちの使命なんだ。
Sそれ……すごく危険なんじゃないですか?
禁具絡みの事件は、往々にして、命に関わる危険な事態に発展する。
それに、禁具の封印は〈號食み〉の力を――肉体に宿る祝福の力を用いて行うため、術者に凄まじい負荷がかかる。
シューラの父も、危険な禁具を封印するため身を削り、結果として命を落としている。
それは、〈號食み〉という氏族にとって、決して珍しいことではない。
私は、旅先で出会った人たちに――おいしいごはんを笑顔で分かち合った人たちに、誰ひとり悲しんでほしくない。
だから、禁具を封じるの。みんなに貰った命の力でね。
フェルムは、「むう」と考えるように唸った。ー方、ケイトリンは、ふわふわと微笑む。
名産品も、煮込み料理が多いんだ。放っといたら完成、みたいな。
Sひょっとして、めちゃめちゃもやし入れてきません?
そんな会話を交わしているうちに、海底が近づいてきた。
ドラゴン!?
Sあいつ――俺たちが追ってた奴です!
この地はいいな。実にいい。面白い力にあふれている!ここでなら、俺はもっと強くなれそうだ!
魔剣竜はニヤリと笑い、キラッと輝く何かを口へ放り込んだ。
すると、海中に凄まじい渦が巻き起こり、シューラたちを呑み込みにかかった。
Sうわっ!
ケイトリンが雑な呪文を唱えると、シューラたちを魔法の光が包み込み、荒れ狂う渦から守ってくれる。
魔剣竜はさらに光るものを――呪装符を取り出し、大口に放り込む。
思い出す。ここには、禁具と一緒に、密輸された大量の呪装符も沈んでいることを。
呪装符を使うには〝顔あり〟の武器が要る。もし、密輸された品のなかに、〝顔あり〟の剣もあったとしたら――
魔剣を取り込む魔剣は、高らかに呪装符の〝銘〟を呼ばわり、その力を解放した。
***
Sどう考えてもサルーム先生だソレ――――!
もう何度目になるだろうか――さらなる大渦が発生し、シューラたちを襲う。
魔剣竜へと近づくまで、次々に放たれるライズを、ケイトリンが魔法で防ぎ続けていたが――
つかれた。
Sちょっとお――――!?
ー同はなすすべもなく大渦に呑まれ、巨人にぶん回されるがごとく翻弄された。
身体に強い圧がかかり、上下左右の感覚が消える。脳が激しく揺さぶられ、意識が飛びそうになる。
歯を喰い縛って耐えながら周囲に目をやると――
渦のなか、ケイトリンが木っ端のようにもみくちゃにされ、目を回していた。
助けなければ――と思うが、手持ちの呪装符に、この大渦をなんとかできそうなものはない。
たとえば、そう。先日訪れた〈青龍族〉。
彼らのトーテム、〈青龍轟神将〉なら、水を自在に操ることができるのに……!
そう思った瞬間、目の前に、強い光が弾けた。
魔力の光。強い力を秘めた、呪装符の光が。
突然目の前に現れた呪装符を、シューラは渦にさらわれる前にどうにかつかみ、とっさに封呪槍へと放り込んだ。
頭に、呪装符の〝銘〟が伝わってくる。
まさか、と思いながらも、シューラはその〝銘〟を口にした。
槍から、龍の形をした蒼い閃光がほとばしる。
その光は、たちまち渦へと喰らいつき、喉首を噛みちぎるようにして、渦をばらばらにしてしまった。
渦が消え、自由を取り戻したシューラは、槍の口から呪装符を取り出す。
間違いない。その〝銘〟は〈青龍轟神将〉――〈青龍族〉の里にあるはずの、伝説級の呪装符。つまり、トーテムそのものだ。
まじまじと眺めているうちに、呪装符は、パッと細かい光になって散ってしまった。
当惑していると、すーっとケイトリンが泳いできて、ちょいちょいと肩をつついてくる。
S何度もやらせるかっ!
スバルとフェルムが時間を稼いでくれている間に、ケイトリンが何やら指で魔法陣を描き、ふむふむとうなずいた。
うなずき、シューラは目を閉じて集中した。
思い出す。宴を開き、饗応してくれた人々を。あたたかな笑顔と、おいしいごはん。確かに心の通じ合った、幸せなひと時を。
(その暮らしのひとつひとつが、世界を作ってる。私はそれを知っている……見て触れて昧わって、笑い合って旅してきたから)
(だから――わかる!今、力を借りるべきトーテムは――)
ケイトリンの魔法で押し出された力が、呪装符となる。
シューラはそれを即座につかみ、ライズした。
今度は、魔剣竜が大渦に呑まれた。スパルたちを巻き込むことのない、きわめて局所的な大渦だ。
さらにシューラは、別のトーテムを思い浮かべ、その知識と記憶を呪装符に変えてライズする。
〝デウカリオン・プリミラ〟!
渦に巻かれた魔剣竜の下から、三叉柘のごとき水柱が立ち昇り、天を衝く洪水となってほとばしった。
水柱は魔剣竜をー気に押し上げ、水面はおろか、その上の空に向けて、高々と跳ね飛ばす。
ラディウスとレイルを乗せ、フレークが飛翔する。向かうはもちろん、天に打ち上げられた魔剣竜。
魔剣竜は宙で身をひねり、巨大な尾を叩きつけてくるが、これはレイルとフレークが障壁で弾いた。
さらに、水上へ浮上してきたケイトリンが魔法を放ち、魔剣竜の身体を空中で拘束する。
〈ln The Fast Lane〉!
シューラは両足に風のブーツをまとい、空へ舞い上がる。
空中に縫い止められたままもがく魔剣竜へ、ふたりは同時に、最大のー撃を繰り出した。
炎の刃と、無数の風の砲弾が、魔剣竜を直撃し、大爆発の華を咲かせた。
story
かくして。
自我ある魔剣は破れ、海底に眠っていた禁具の回収も完了した。
異界の歪みを作り出すというその禁具は、かなり危険な代物であり、まともに扱うのは至難の業だったが――
ケイトリンは〈アレフワ族〉やスバルとともにあれやこれやと禁具をいじくり倒した挙句、その制御に成功したのだった。
S放っておくと危ないから、俺たちがいなくなったら封印しちゃってください。
Sいえ、こちらこそ。元の世界に帰れるのはみなさんのおかげです。本当にありがとうございました。
そしてケイトリンたちは歪みを発生させ、それを通って元の異界へ戻っていった。
その直前。
そう言って、ケイトリンはふんわり笑った。
ひょい、と歪みに消えていく彼女を見て、ラディウスが苦笑する。
まあでも……起きちゃうからには、しゃーないない、っと。
シューラは禁具を拾い上げ、歪みを閉じる。
あまりにいろんな人がいて。あまりにいろんな文化があって。危険な禁具が生まれもする。
だから、この世界には〈號食み〉が必要なのだ。あらゆる氏族、あらゆる文化の肯定者として。あらゆる呪具や禁具の鮮印者として
この、つぎはぎだらけのびっくり箱のような世界を、ばらばらにならないよう繋ぎ止めておくために。
(でも、あんなことできるなんて、聞いたことないんだけどなあ)
呪装符を生み出した己の手を見つめ、シューラは首をかしげる。
呪装符は、異界の力が結晶化した存在だ。
今回は、シューラがトーテムから受け取った力がー時的に結晶化して呪装符になった、ということなのだろう。
あらゆるトーテムの力に触れてきた、〈號食み〉ならではの能力――かもしれないが、そんなことができるなど初耳だった。
この世界は、私にとって、びっくり箱で、宝箱。
だからこうして、見て触れて昧わって……笑い合って、守っていきたい。私も世界も、みんなの暮らしでできているから。
ちなみにシューラの圧勝だった。