【黒ウィズ】アンダーナイトテイル ~童話戦争~『魔道杯』 Story
開催日:2020年11月19日 |
目次
story1 悪い人ですか?
童話の住人達が暮らす異界に、昼なお暗い、恐ろしい森がありました。
ー度入れば人食いイバラの餌食になり、二度と出られないと言われる森。
その入り口に、ふたつの人影が立っていました。
mごしゅじんごしゅじん!見えましたよ!スリーピィ城です!
ひとりはミッケ。よく手入れされた、立派な長靴をはいています。
mほら、イバラの向こうにちょっとだけ!いよいよ童話石が近づいてきましたね!
vそのはずだが、おまえはついてこなくていい。
もうひとりはヴィラード。吸血鬼の呪いをとくために、失われた自分の童話石を探しています。
mいーえ、行きます!ぼくは、受けた恩を倍にして返すまで、ぜったいに、おそばを離れませんからね!
数日前、旅の途中でミッケは山賊に襲われました。そこにヴィラードがあらわれ、山賊の血を吸って倒したのです。
v飢えに負けて浅ましいまねをしただけだ。恩を返されるようなものではない。
mくー。そうやって控えめにされちゃうと、ますます恩返ししたくなります!よし、まず道ばたの草でもむしって――
Z恩返しだとぉ?その前に、たっぷり仕返しさせてもらおうじゃねえか。
vいつぞやの山賊どもの残党か。しつこいやつらだ。
Zお前らの金と命をいただくのが俺たちの仕事なんでねえ。とっとと死んでもらおうか。
vやれやれ……。必要でない食事はしたくないのだが――
ヴィラードがマントを翻すと、無数のコウモリが羽ばたいて山賊たちを襲います。
Zぐわっ……!うう……。
山賊たちは次々と青ざめ、気を失って倒れました
mふあー……。おまえたち、見た?ぼくはまたごしゅじんに恩ができちゃったよ。
ミッケは従者のねずみたちに言いました。ねずみたちは、無言で何度もうなずきます。
v何度も言わせるな。これはただの呪わしい吸血鬼の行いだ。以前もたまたま血に飢えていて――
W血に、飢えて……?
vなんだおまえは?
O……もしかして、あなたたちは悪い人ですか?
mわるい人!?
vだからどうした?
mえっ、えーっ!?ごしゅじん、待ってください!
Oよかった……。わたしは、オーリアと申します。おふたりのような方を探していました。
v私はおまえに探される覚えはないのだが。
Oでも、スリーピィ城へ行かれるなら、イバラの森はお困りでしょう。わたしに案内させていただけませんか?
mぼくたちの話、聞いてたの?きみがこの森をどうやって――
にっこり笑い、オーリアは、髪にさしていたバラの花を手にして、イバラに向けてかざしました、すると――
mわわわわ!!イバラがトンネルになってくよ!?
Oこの森の木や花は、みんなわたしのお友達。わたしの心が伝わるのです。
そう言って、オーリアは、森に咲くバラのつぼみをミッケに渡しました。つぼみはきれいに花ひらました。
mはあ~……。なるほど。これならイバラも怖くないね!
オーリアは、ヴィラードにもバラを渡しました。ところが、バラはしおれてしまいました。
vふっ……。吸血鬼の呪いは、おまえの力より凶悪らしい。
Oすてき……!
mはぁ!?
vええ!?
Oすみません……興奮して……。やはり、この悪い方なら間違いないと……!
v……おまえは……。
Oお願いです。お城へ案内する代わりに、一緒に悪いことをしてください!
story2 呪われたお姫さま
vようするに、おまえは悪に憧れている、ということか。
O善きものだけに触れるように、と言われて育ちましたので。
mとはいえ、困ったなあ。ぼく、悪いことなんてしたことないよ。
vほう。魔王を騙してねずみに変えて飲み込んで、城をうばったのは誰の童話だ?
mそれは前のごしゅじんへの恩返しのためで……あと、飲み込むのはこわいから、魔王ねずみはぼくの従者になってもらいました。
Oなんと……。すべてを奪った相手をさらに従わせる!すばらしい悪です!どきどきします……。
mそ、そうかな!?いやあ……それほどでも……。
そんなこんなでミッケとオーリアは親しくなり、ヴィラードはなんとなく場に慣れました。
Oヴィラードさんは、童話をよくご存じなんですね。
v以前に悪事をはたらいた際、いろいろと知る必要があったのでな。
Oでは、スリーピィ城の童話についても?
v呪われた眠り姫の城だろう。糸車の錘(つむ)に触れて15歳で死ぬと、魔女に呪いをかけられた。
妖精により、死は和らげられ眠りに変わるが、錘に触れる呪いは避けられなかった。
姫はいまも城の奥深くで眠っている。私の童話石を手に入れるには、姫に目覚めてもらう必要があるのだが――
mそこでぼくの恩返しの出番ですねこの秘密アイテムで、お姫さまをくすぐって目覚めさせます!
ミッケは愛用の革袋から猫じゃらしを取り出してみせました。
vそんなもので目を覚ますわけがない。姫を目覚めさせるのはただひとつ。
O真実の、愛の……キス、です、ね……。
mどっどっどうしますごしゅじん、するんですか、ごしゅじんがあいのあいの!キッ……!
vやめろ!!猫じゃらしで私の顔を擦るな!
mだってー。
v吸血鬼がそんなことをすれば相手は死ぬ。呪いの力をなめるんじゃない。
mじゃあどうやって姫の目を覚ますんですか?秘密アイテム洗濯バサミで鼻つまみますか?
vさあな。それより見ろ。悪事をはたらくチャンスだ。
ヴィラードは、行く手に転がる白い玉を拾うと、ミッケの足元へ投げました。
mんん?えいっ!オンガエシ・ナガグツ・キーック!
ミッケが蹴りあげた白い玉は、オーリアの手の中にすとんと落ちて納まります。
Oこれは……。この森で亡くなられた方、ですね……。
白い玉に見えていたのはどくろでした。
v死者を冒涜とはなかなかやるな。
mうわー!そんなつもりじゃ……あ、でも、いまは悪いことしてるから……でも……。
Oそ、そうですね。ようし、わたしも……悪いこと……。
オーリアは、震える手で抱えたどくろを見つめました。
すると、森の蔓草が伸びてどくろを木の下に埋め、小さな白い花が咲いて死者を弔いました。
mよかったぁ!このほうが絶対いいよ!これって、オーリアが望んでることだよね?
Oはい。でも、悪人としては失格ですね……。
mどうしてそんなに悪いことをしたいの?ぼく、オーリアは自然なほうがいいと思うな。
O……。
v童話の世界ははっきりしている。悪は必ず報いを受ける。おまえにその覚悟はあるんだな?
無言のまま小さく笑みを浮かべて、オーリアはバラをかざしました。
Oさあ、着きました。
道をあけたイバラの向こうに見えるのは、スリーピィ城への入り口でした。
vありがたい。では、城に着いたら、私の童話石を渡してもらおうか。眠れる森の姫、オーリア・スリーピィよ。
mオーリアが!?お城のお姫さま!?
v眠れる姫の童話は別名をイバラ姫という。イバラは姫を侵入者から護る城壁だ。姫以外、自在に操れる者などいない。
O……そうですね……ヴィラードさんは、わたしの物語をご存じでした……。
おふたりを騙すことができれば、少しは悪くなれるかと思ったのですが……。やはりわたしは無力ですね。
vくだらんな。そんなことで悪になれるものか。
mごしゅじん冷たいです!大丈夫だよ、オーリア、よく見たらすっごい悪人顔!こわ!
Oふふ。ミッケさん、優しいです。でも、わたしには無理みたいです。
v……。
オーリアはふたりを城内へ招き、ヴィラードの童話石を用意しました。
v私は童話石さえ手に入ればどうでもいい。その上で、単純な興味で聞く。
眠れる森の姫が、なぜ眠らずにいる?なぜ物語を裏切るのか?
Oさみしくて。生まれながら呪われ、定めのままに眠り、他人(ひと)の手で目覚める――そんな物語が。
mそれでお城を抜け出したの?
Oわがままは承知していました。ー度だけでも、自分の知らない、自由な物語を生きてみたかった。
――でも、結局、なにもできませんでした。
オーリアは、部屋の奥にさげられた重いカーテンを開きました。そこに、古びた糸車がありました。
Oやはり、わたしにできるのは、この呪われた糸車の錘を刺し、目覚めない眠りにつくことだけ……。
story3 バラの雫
bたしかに、ずいぶんとわがままだな。童話の主人公でありながら、自分の物語が気に入らず、悪に憧れる。
だが、わがままで何が悪い?物語はいくらでも作り直せばいい。主人公はおまえしかいないのだから。
Oそれが、人々に長く愛され、語られている物語でも?
v時代とともに人は変わる。ならば物語が変わるのも自然なことだ。
O……変える力の無い者の物語など、誰も望まないと思います。
mそれはオーリア次第だよ!いつだって、みんなが望んでるのは、主人公が幸せになる物語だもん!
vおまえの気持ちはわからんでもない。私自身、与えられた物語から逃げ出して、吸血鬼の呪いを受けた身だ。
あげく、他の童話の登場人物達を、物騒な遊戯(ゲーム)に巻き込んだ。だが――
Oその遊戯にも、わたしは招かれませんでした。
vそれは……。
O当然です。ただ眠らされて起きるだけの姫など、招いてもつまらないですから。
mそれは違うよ!ごしゅじん、なんとか言ってください!
Oヴィラードさんならご存じでしょう。「自分だけ招かれない」ことが、眠れる姫の物語で持つ意味を。
v姫に呪いをかけたのは、宴にひとりだけ招かれなかった魔女だ。それが悲劇の始まりだった……。
哀しい笑みを浮かべたまま、オーリアは呪いの錘を手にしました。
mオーリア、ぼくオーリアが好きだよ!せっかく仲良くなったのに、眠ってお別れなんていやだよ!
Oありがとう。わたしもミッケさんが好きです。夢で会えたら、また一緒に森を歩きましょう――
と、オーリアが、みずからに錘を刺そうとしたそのとき。
Oあっ!
ヴィラードの放つコウモリ達が、オーリアが持つ錘を弾きました。
そして、くるくると宙を舞う錘をヴィラードがしっかりと掴みました。
vまったく。自分で言うとおり、おまえはじつにつまらん姫だ。
錘を手に、ヴィラードはゆっくりとオーリアに近づきます。
m……ごしゅじん?
青い目が、獲物を見定めるように輝きます。うすく笑う形のいい唇の奥に、鋭く尖った牙が見えます。
vいいだろう。遊戯に招かなかった詫びとして、お前に悪を授けてやろう……。
そう言って、細身の剣に似た錘を振りかざし――
O――いや……やめて!!
v教えてやる。こうして他人の物語を横取りするのを悪というんだ。
ヴィラード自身に突き立てたのです。
mどう、して?
v言っただろう……悪は必ず報いを受けると。私にふさわしい結末だ……。悪に身を染め、童話世界の者たちを苦しめ、血で長らえてきた……。
傍らに置かれたヴィラードの童話石が、だんだん輝きを失っていきます。
mいやだいやだ!!ごしゅじん、勝手に眠っちゃいやだ!!
vうるさしいのも……悪くなかったぞ……。ミッケ。
童話石は、鉛になって砕けました。
動かないヴィラードの傍らで、ミッケの従者のねずみたちが、チイチイと小さく呼びかけています
mごしゅじん……だめです……。ぼく、まだ、ひとつも恩返ししてないです……。ごしゅじん……ヴィラードさまあ!!
O……。たしかに、教えていただきました。
ヴィラードさんを眠らせたのも、ミッケさんを悲しませたのも、すべて、わたしの弱い心のせい。
わたしさえ、もっと強い気持ちで自分の物語と向き合っていれば、こんなことにはならなかったのに――
愚かなわたし。これこそが「悪」なのですね……。
自身の物語では知ることのなかった、心からの後悔、失う痛み。
ヴィラードを思い、ミッケを思い、オーリアは、祈るように涙を流しました。
すると。
m……なに?
城の中に、みるみるバラの蔓が伸び、壁を這い、天井へと伸びていくではありませんか。
バラはいくつもつぼみをつけ、つぼみは次々花を咲かせて、甘い香りが城に満ちます。
その花びらは、オーリアの涙と同じ、透明な雫を乗せていました。
雫のひとつが花から落ちて、ヴィラードの唇をそっと濡らすと――
v……う、ん……?
mあああ……ごしゅじん……!よかったあああああ!!ごしゅじんごしゅじんごしゅじん!!
ミッケは目を開けたヴィラードに飛びつきました
vうるさいぞ、ミッケ……。朝は苦手だと言っただろう……。
mあざじゃだいでずごぉ!ごがっだごがっだどぉ……!!
オーリアの流す純粋な涙が、「真実の愛」の雫となり、ヴィラードを目覚めさせたのでした。
Oありがとう……お花たち……。
v物語を変えたのは花ではない。おまえ自身の力だ。オーリア。
眠れる森の姫の呪いはとけました。けれど、もうひとつの呪いは――
v振り出しに戻る、か。いや、すでに私の童話石はない。始まりもしないということか……。
mだったら、新しく作ればいいじゃないですかごしゅじんが呪いをとく物語。
Oそうです。ヴィラードさんが幸せになる物語を、きっとみんな読みたいと思っています。
オーリアは、ヴィラードにバラを渡しました。バラは見事に花ひらきました。
vこれは……。
mあ、ツバメ!
ヴィラードのマントの中のコウモリが、姿を変えて飛び立っていきます。
O良いことの前ぶれだそうですよ。物語は始まっているのかもしれせんね。
こうして、子人は、新たな物語を探して旅立ちました――
m待って!その前に、ぽくの恩返しの物語ですからね50倍返しでお願いします!
v手始めに、どこぞの魔王でも騙しに行くか?
mまかせてください!ばっちり騙して、立派なお城をプレゼントします!
Oやっぱり、悪い人たちですね……。