【白猫】3000万回のラッキーチャンス! Story
2015/03/16
目次
登場人物
story1 二人の天使
冒険家、たっくさん増えたね♪
いやはやさんぜんまんとはね~……まったく、アタシがぴょっと目をはなしてたスキに……
はなしてたんだ……
あら? ディオニスだ。
うぐぐ……俺としたことが、戦闘用の鎧で一週間も政務をしてしまうとは……
忙しかったとはいえ、ぬかった……もってくれ、我が鎧よ……!
うっ! 御大の店まであと少しだというのに、鎧の留め具が外れそうだ! このままではあられもない姿に……
ぎ、ギニャー! やめれー!
「ラッキープレゼント!」
うぉっ!? 唐突に足元を駆け抜けたうりぼうにつまづいて転ぶぞ!
こ、これは……! 倒れた衝撃で、鎧の留め具ががっちりはまっただと……!? なんたるラッキー……!
…………
……ん?
……どう?
んん?
ハッピー?
んむう?
鎧脱げなくて、どう?ハッピーじゃない?
まあ、な。これで万全の装甲で御大の店へ行けるしな。
うん。うんうんうんうん。そうよね。よかったよかった!
……? よくわからんが、忙しい身でな。失礼!
いや~……いいことするってスガスガしいなぁ~……!
いまのうりぼう、アンタが呼んだの……?アンタ、どちらさま?
あ、こんにちは。あたしはマール。幸運の女神さまにおつかえする天使だよー。
おい。
あんな鎧男に<<幸運>>をやることはなかっただろう、マール
んー、でもねー、かなり苦労してる様子だったよ?若そうなのに、むーって顔でさー。
フン。まつりごととはそういうものだ。するべき努力は努力と呼べん。
こっちも羽だ……天使が二人……?
こんにちは。私はアイリスといいます。あなたは?
……なんだ? 人間? 馴れ馴れしく声をかけるな。
ちょっとぉ! 礼儀正しくアイサツしたでしょぉ!?
フン。俺はガレア。人間風情に名乗る名などない。
行くぞ。マール。人間どもの街で、いつまでも遊んでいる暇などない。
ムッ! ずいぶんないいぐさ! アンタたち! ちょっと待ちなさいよ!
お前たちに付き合っている時間などない。用があるなら横にくっついて歩きながら話せ。
おいてこうったってそうはいかないわ、横にくっついて歩きながら…………アレ?
どうした? そうするのであれば、止める手立てもないわけだが。
うん……じゃあ、ついてくわよ。
さ~って、本日の<報われない人>はどこかなー?ラッキーあげちゃうよ~♪
story2 働き者のリーゼント
ちっ、あのオヤジ、久々に顔見せたと思ったらコキ使いやがって……
上まぶたと下まぶたがタイマンしそーだっつーの!ねみーぜちくしょー!
<フラフラ歩くテツヤの頭上に、突然の落石が迫る!>
ラッキープレゼント!
<掛け声とともに放たれた。マールの不思議な力が、テツヤのリーゼントを鋼に変える!
落石は、リーゼントに砕かれ、粉々になって地面に散らばった……>
……お?
……どう?
……あぁ?
鋼鉄のリーゼント、ハッピー?
……あん? わかんねーけど……岩、防いでくれたってことか?
うん。
……おぅ。さ、サンキュー…………じゃ、じゃあな!
うんうん!ラッキーでハッピー♪
……ふむふむ。
つまり、二人はこうして人助けをしてまわってるってこと?
俺たちの仕事を人間なんぞに話してなんになる。
アタシは猫よ!
同じことだ。
おなっ……!?ちがうと思うけどっ!?
<幸運>の女神はきまぐれだが、努力した人間が不幸になることは望まない。
そこでマールが遣わされ、不当な不運に見舞われた者に<幸運>を与えているのだ。
(この人やっぱり親切だわ……!)
ふうん……?ガレアは黒いけどさ、アンタもマールと同じなの?
俺は<奪う>側だ。
過剰な<幸運>を――――あるいは不運をな。
……なるほどー。ひょうりいったいってわけね。
でもねー、誰にでも簡単にラッキーをあげるわけじゃないよ。
これは努力へのごほーびなんだ!
……さっきのテツヤはなんの努力?
あんなにフラフラになるまで働いてたんなら、うん。それは、努力でしょう!
(意外とハードルは低いみたいね……)
……マール、いつも言っているだろう。もっと厳格に審査しろ。
いいじゃない~、みんなハッピーになる分には~?
そう簡単なことではない。いいか、過ぎたる<幸運>は……
ハイハイ、わかったよー。それじゃ、本来のターゲットを探そっか。
……フン。まあいい、行くぞ。道中には魔物も多いが、幸い味方も得たことだしな。
えっ!?アタシたちのこと!?
……知らぬまに俺は、おまえたちに対し、ある程度本心を語っていた……
それは、俺自身が<ダチ>だと認めたからなのではないか、ということに気づいたのだ。
いつのまにか勝手に友達認定されてた……
いいじゃないキャトラ。お手伝いしましょ?
サンキュー。では、行くとしよう。
story3 ふるえるこいぬ
キュゥン……
しょげないよ、タロー……
せっかく、やっと見つけたのに……落としちゃった<雪のルーン>、だれかひろって届けてくれるよ……
……ぶるる……寒いね、タロー……
キュン……
……枯れ枝、集めてくれたの……?
……たきびね……でも…………火がないんだぁ……
キュゥゥン……
……タロー…………私、もうくたくただよ……
マール! マール! マールゥ!!
ら、ら、ら、ラッキープレゼントぉ!!!
<マールの杖から放たれた温かい光が、コヨミとタローを包む……>
……あれ……?
……おむかえ、なの……?
キュン、キュン……
……うふふふふ……
……あっち、とってもあかるいね、タロー……
マールゥゥゥウ!!!
ら、ら、ら、ら、ラッピープレゼントゥア……!
<再びマールがふりかざそうとした杖を、ガレアが止めた。>
待て。
<ガレアはコヨミへと歩み寄ると、そっと手をさしのべた。>
……こんなところにペタンと座ってちゃダメだ。さあ、宿まで送ろう。
<ガレアはコヨミの手を引いて、近くの宿に送り届け……
戻ってきた。>
……すんごい近くに宿あったね……
ああ。
ガレア~、そんなことしなくても、ラッキーにしちゃえばいいよー?
そうすれば幸せだもん。ごほーびの出し惜しみをすることなんてないんじゃないー?
…………
ガレアさん……?
……気をとりなおして、次に行きましょっか!アンラッキーな人どこ~?
…………
ガレア? どうして黙ってるの?
……マールはまだ、わかっていない……。<幸運>というものを……
?
……ともかく、もう少しついてきてくれるか?
はい。マールさんを追いましょう?
サンキュー、ブロウ……!
story4 みすぼらしい少年
……これだけじゃとても足りません……家には妹もいるんです……
自分だけ特別だと思うなよ。闇の魔物のせいで、苦しんでる人は大勢いる。
半人前以下のお前の働きに、これだけの食糧を渡すんだ。
感謝されこそすれ、不満を並べるのはおかど違いだな!
……リィナ……
なんなのあのおじさん!? あんなイジワルないよ!?
あの子を救わなきゃ! ラッキープレゼン――!
――待て! マール、軽卒な行動はよせ!
止めないで! あの子を幸せにしなくっちゃ! ラッキー……!
――!?
<杖を振りかざしたマールが突然ひざから崩れ落ちた。>
マールっ!?
……大丈夫だ。……少し<幸運>の供給を<止めた>だけだ。
<幸運>を……とめた……?
ガレア……どういうこと……?
…………
う、うわあぁぁあっ!?
しまった、あの子の不運が魔物を呼び寄せたか……! 行くぞ!
まってよ、マールは!?
……!
<ガレアの白い翼から放たれた光を受け、マールはうっすらと瞳を開いた。>
……あれ?
さっきの少年が魔物に襲われている。助けに行くぞ。
!? だからラッキーをあげればよかったんだよ!
慎重すぎるのも考えものだよ! ちょっと冷たいじゃないガレア!? ぼやぼやしないで急ぐよ!
…………
ガレアさん……
story5 幼い妹
<――魔物を退けると、助けられた少年はぺこりと頭を下げた。>
ありがとうございます、旅の方……
気にしないで。ラッキープレゼントォ!!!
ばっ……!
ありったけのラッキー、あなたにあげるよ!幸せになってね!
えっ? えっ?
<マールの杖から一際眩い光が放たれ、少年の全身を包み込んだ。>
……!
えっ? あれっ? いまのは……?
……忘れろ。
そんな、忘れろったって……?
……おにいちゃーん……!
リィナ! ……すみません、失礼します。忘れません、ありがとう!
これであの子は、幸せになるってこと……?
もちろんでしょ!だってあたし、ラッキーをあげてハッピーにする天使だもん。
……本当にそれがあの子のためか?
え?
……見てみるがいい。……お前が、何をしてしまったかを……
え……?
…………
……
ただいま、リィナ。すぐに食事の支度をするよ。
! まって、おにいちゃん、それっぽっちなの……? それだけじゃ……
……おにいちゃんは、だんなさまのお屋敷で食べてきたからいらないよ。
……うそ。そんなのうそだよ!あの人、ケチだもん!
こら、だんなさまの悪口はよせ。
みんな言ってるもん! あの人、自分だけもうけて、まわりにぜんぜんあげてないって!
あたしがもっとたべものもらってくる!
待て、リィナ!
まずい!
え? どうしたのよ急に?
あの子たちは食べ物を手に入れるぞ!
それはどこからだ!?
…………
……! まさか……!?
…………
……
……50人からの従業員に配る分を引いて、残りの食糧はこれだけか……
……くそっ、闇め……! 仕入れが滞らなければ、こんなことには……!
ふん。見栄を張らなくなったらあきんどはおしまい、か……辛いところだな! ちっ、うるさい腹の虫だ!
なんだと!? どうしてここに魔物が!? くそ……どういうことだ!?
story6 見栄を張った商人
「――なんで門が開いて……?それに誰もいないし……?」
「――たべものいっぱいだよ!もってかえろ、おにいちゃん!」
「――リィナ……」
<――魔物を蹴散らし、屋敷の奥へ到達すると、商人が横たわっていた……>
……遅かったか……これが不運の末路だ……
これ……?そんな、どうして……!?
マール。お前はあの少年に、<幸運>を与えすぎてしまった。
なにそれ……?だって、ラッキーをあげるのが、あたしの役目……!
『努力した人間が、報われないのは間違ってる』
だから女神さまはあたしたちを遣わせたんだって、ガレアは言ってたよね!?
そうだ。<報われない>のは間違っている。そう考えている。
だが……それだけだ。過剰な<幸運>を手にしたものがどうなるか……!
行くぞ、マール。これだけでは済まないだろう……!
……!
……ねえ主人公……あの二人って……
……うん。なにかありそうね。乙女のカンで。
乙女じゃない主人公はどう?
主人公もそう思うのね……
……ついていってみましょう。
まだ魔物もいるし、最後までお手伝いしなきゃ……
story7 声をかけてしまった者
りょうてじゃかかえきれない♪こんないっぱいのたべものはじめて♪
ああ、そうだな……
……おい、ガキども。いい物持ってるじゃねえか。
闇の魔物のせいで、食糧が足りなてねぇのに、羨ましいぜ。分けてくれよ?
やだ、はなしてっ!
リィナ!?おい、その手をはなせっ!
――!?
<――そのとき、一本の木が倒れ、ごろつきが下敷きとなった……>
な、なんだよこれ……!
……! あたし悪くないもん……悪くないもん!
ま、待てよ、リィナ!
そんな!? どうして、あっちの人にアンラッキーが……!?
少年と対峙した結果だ。彼は不運になってしまったのだ。
違う! あたしは<ラッキー>をあげただけ!誰からも奪ったりなんかしてない!
異常なほどの<幸運>は、他者の<幸運>をも引き寄せ、奪う。
<運>がゼロになれば、その人間は生きていられない。
そんな……!そんなの、知らなかった……
どうして……? あたしは、人をハッピーにしてあげたいだけなのに……
……幸福、か……
…………
あたし悪くない、悪くないもん……!
おい、そこの子供たち。なんだその食糧は?どこから持ってきた?
これはあたしたちのだもん!
どこからか盗みでもしたか……? 話を聞かせてもらおう。さあ、ついて来い!
やっ、いやだーっ! これはあたしたちのだもん!
リィナ!
――なっ!? どうしてこんなところに魔物の群れが!?
あたし悪くない、悪くないもん!
魔物の唸り声が!
行くぞ!
こんなことになるなんて、あたし……
わかっている! まだ取り戻せる!
……でも……
前を向け、マール! ……たった一度の失敗で立ち直れなくなる……
そんな天使に、だれを幸せに出来る!?
……!
……イイコトいうじゃん、ガレア。
ええ……!私たちも力を貸します。さあ、急いで!
……うん!
story8 後悔する天使と反省中の神
<魔物を倒した跡に、少年と少女が立っている。兵士が倒れている……>
…………
あなたたちは……前に会った……
…………
なにか、したんですか、僕に……?
あの……
…………
ど……
…………
……?
……どう、だ?
……どう、って……
……あまり……いい気持ちじゃありません……
…………
……君にとっての幸せを、聞かせてくれないか?
……リィナと一緒に暮らせることです。
それだけか?
それだけです。他に望みなんてありません。……リィナ! それ返しに行こう。
おにいちゃん……?
ははは、捨てるわけじゃないよ。でも、独り占めって、気分は良くないよな?
リィナの分はもうあるし…………余ったらまたもらえばいいさ!そうしよう!
……うん。
いい子だ。
…………
……お願いします。
……いいんだな。
はい。
<意思を秘めた瞳で頷いた少年。ガレアの黒翼が、少年から<運>を吸い取る……
無言で頭を下げ、兄妹は立ち去った。>
…………
<ガレアはマールに向き直ると、白い翼から<幸運>を受け渡す。>
…………
これでまた、お前は他者に分け与えられる<幸運>を得た。
……あたし、いい気になってた……自分勝手に<ラッキー>を……<幸運>をばらまいてただけで……
……こんな力があっても、あたしはうまく扱えない……誰も幸せには出来ないから……
……言い忘れていたが、被害者たちは、まだ息がある。
……<運>が良ければ助かるな。
! それを早く言ってよ! それなら……それなら……! 命が助かるなら……!
いいよね!? 幸せだよね!? あたしはそうだと思うもの! あげるわあたしの<幸運>を!
ラッキープレゼント!
……う……?
あとあとあと、さっきの人と、商人の人と! 急がなきゃ!
……フン。せっかちな奴だ。
ねえ、さっきの子さあ、こーうん取っちゃったら、またふうんになるんじゃないの?
余分な不運も奪っておいた。
もしかして、そのぶんガレアさんが不運になるんですか?
それはない。俺はな。
<幸運>の神さまなんだよ、実は。
えぇっ!?
女神じゃなくて残念だったか?
ウン、ソーネ、サギダトオモウワ……
現実を受け入れろ。さて、マールを追うか。魔物もまだいるだろうしな。
最終話 前をむいた天使
ラッキープレゼント!
……いてててて……
ラッキープレゼント!
……ん……
長居は無用だ。行くぞ。
そーね。
……ガレア……
なんだ。
……ごめんなさい!あたしが軽々しく、<幸運>をあげちゃったせいで……!
みんなに迷惑かけて…………ガレアにも……
……本当にごめんなさい!
……いいさ。
……でも、一つだけ教えて。<幸運>は、他人の不幸の上にあるものなの……?
…………
(……みんなが幸せになる<幸運>……<ラッキー>も、きっとある……はず……
と言うか、あって欲しいし、ないのもアレだし希望は捨ててないっていうか……)
なんだかもごもご歯切れ悪いわねぇ~?
…………
現に、お前は……
え?
む。連日の謁見で疲労が。我としたことが、つのが木のフシに挟まるなどと……!
あっ! がんばってるのに報われてない人発見! <幸運>あげなきゃ!
おいっ!?
量をセーブすればだいじょうぶなんでしょ~?
……やれやれ。お人よしな性格は直りそうもないな……
いいじゃない。あんなカンジでちょこちょこやるぶんには、だれにも迷惑かかんないんでしょ?
まあな。……よくそこに気づいた。やるな、キャトラ。
ガレアさん、聞いていいですか? マールさんに<幸運>を供給してるって……
それは、どういうことなんですか?
……そうだな。ダチには、隠し事はしたくないしな。
マールは一度死んだ。俺の過失で。俺は自分の<幸運>の半分を分け、彼女を甦らせたんだ。
えっ……!?
……今回の彼女と同じように、考えなしに<幸運>を与え、その被害者にしてしまったんだ。
俺の<幸運>の半分を得て、彼女は天使として生まれ変わった。いや、俺とほぼ同じ存在だから、
<<幸運>の女神>と呼べるかもな。
そうだったんだ……
マールと一緒に世界を周るのは、彼女への罪滅ぼしと……
<幸運>は、本当に<幸運>なのか……? それを考えるためなんだ。
<幸運>の神様でも、そこはわかんないんだ?
……神だって、完全じゃない。
俺たちも、迷って悩んで、試行錯誤して、努力して生きてるのさ……
あんま変わんないのねえ、アタシたちと……
ラッキープレゼント!
む。無事だった逆の角に、鳥のフンが落ちただと。
あ、あれ……?
喜ばしいことだ。おもしろハプニングが重なった。もう一声……!
え!? なんだこの人~!? それがラッキーなわけ~!?
マールにいたっては、ほんとに全然未熟な神さまだねぇ。
……お恥ずかしい限りだ……
ふふふ……