【白猫】聖夜の奇跡・リリー編 Story
舞台の感動の熱を宿したまま、
コーネル探偵事務所へと戻る少女の元へ
――クリスマスの小さな奇跡が舞い降りる――
story1 クリスマスプレゼント
「フッフッフッ……やっぱり私の推理した通りの結末でしたね。
私に解けない謎はないですから!
でも舞台、すごくステキで感動しました! みなさん、とても輝いてましたね。
それに輝いているといえば、劇場の売店で売ってたキャラメルバニラソフトクリーム!
あまく濃厚でいて、ソフトな口当たり、最高でした!
はぁ~♪ 思い出したら、また食べたくなってきましたね。
次の公演があったら、またぜひ食べに行きましょう! ――ん? アレはなんでしょう?」
わずかな街灯の明かりでは、わからなかった違和感。
それも事務所のドアに近づくと、なんであるかがわかった。
「大きな靴下ですね。あ、ドアノブにつり下げてあったんですね。
中は……あ、キレイにラッピングされた箱があります!
私が出かけた時にはこんなものはありませんでした。つまりこれは――
私が出かけた後で、誰かがつるしていったということです!
…………
……っ、コホン。しかしこれは、いったい誰が……
むむむ……あ、メッセージカードが付いてますね! えっと……」
靴下の淵につけられていたカードには――
メリークリスマスの言葉とリリーの名前が書かれていた。
「私の名前ですね。
……メリークリスマス、靴下にラッピングの箱……いえ、これはプレゼント!
と、なると犯人は……サンタさん!
私がイイ子なので、今年はクリスマスプレゼントをくれたんですね! ドヤァ……」
story2 大切な思い出
「フンフンフフンフン♪
えへへ♪ なっにかなー♪ なっにかなー♪
サンタさんからのプレゼントなら、きっとスゴイプレゼントに違いないです!
どんなプレゼントかな? ソフトクリームだと嬉しいな♪」
プレゼントの箱を開けると、中から大きな熊のぬいぐるみが出てきた。
「わぁ……ぬいぐるみです! えへへ、カワイイですね!
探偵のカッコも似合うクマさんで、私にピッタリ……探偵の……クマさん……?
この帽子……それに虫眼鏡も……もしかして――カルム君?」
***
「おとーさん! つくえにクマさんがいます! これはじけんです!」
「リリー。彼は私の大切な相棒だよ。」
「あいぼー?」
「ああ。私にいつも大事なことを思い出させてくれる相棒さ。な、カルム。」
***
「なんで……お父さんの部屋を探しても、みつからなかったのに……
はっ! これは〈事件〉です!
見つからなかったカルム君が、ここにあるということは、それまで別のところにあったということ!
そしてクリスマスの今日、私のところへ贈られてきたということは……
犯人のサンタさんを捕まえれば、なんでカルム君をもっていたのかわかりますね!
さあ、捜査開始です!
それにもしかしたら、そのサンタさんは…………」
クマのぬいぐるみを抱いたまま、リリーは街中へと駆け出した。
story3 背の高いサンタさん
「はぁはぁ……ッ……はぁはぁ……どこ……どこに……」
――
「あッ!? 今のっ!?
待って! 待ってくださいっ!!
待って……サンタさ――お父さーーんッ!!」
「!?」
「はぁはぁ……つ、つかまえました。おとう――」
「誰がお父さんだ。」
「……クロード……さん?」
「この筋肉を見ろ。俺以外の誰に、これだけの筋肉が創れると思っている。」
「……すみません。間違えました……」
「間違えたとは……と、ソレは受け取ったか。」
「ん? それってなんですか?」
「なんですかもなにも、今お前が腕に抱いてるじゃないか。」
「え……」
「それは事務所のドアにかけておいた、靴下に入ってたクマだろ。」
「そ、それじゃあ…カルム君を置いていったのは……クロードさんなんですか?!」
「ああ。そうだ。」
「…………そう……でしたか……」
「お、おい。なんでそんなに落ち込むんだ。ワケがわからんぞ。」
「いえ……気にしないでください。あ……でも、ひとつ聞いてもいいですか?」
「なんだ。」
「どうして……クロードさんがカルム君を……」
「…………
黙っていたが……俺はお前の父親、ビリーさんに世話になったことがある。」
「えっ!? そうなんですか?」
「ああ。そのクマはな……俺が探偵を始めた駆け出しの頃に、ビリーさんから預かったものだ。」
「……お父さんから……ですか?」
「ああ。なぜ男の俺に、ぬいぐるみなんかと聞いたら、ビリーさんは笑って――」
『『探偵はどっしり構えて、冷静に推理するものだ』』
「なんだ知っているじゃないか。……ま、当たり前か。」
「お父さんの口癖でした。クマさんみたいになりなさいって……」
「俺にもそう言って、そのぬいぐるみを渡したんだ。
それからそのクマを見るたびに、ビリーさんの言葉を思い出すようになった。」
「そうだったんですね……だから、お父さんの事務所からカルム君がいなくなってたんですね。」
「いつか、ビリーさんに胸を張れる探偵になった時、返そうと思っていたんだが……
その機会は永遠になくなってしまった。」
「……」
「だが、その娘が探偵を……〈半人前の探偵〉をしているのを知った。」
「は、半人前ってなんですか!」
「半人前は半人前だ。だから、お前に返しておこうと思ったんだ。
それは俺よりも、お前が持っている方が似合っているし……ビリーさんも喜ぶだろ。」
「お父さん……」
「ビリーさんの形見の品だ。大事にしろ。」
「言われるまでもありません。クロードさん……」
「ん? なんだ?」
「ありがとう……ございました。
クロードさんが大事に持っていたから、またカルム君と会えました。」
「俺にとっても、思い出の品だ。礼を言われることじゃない。」
「はい。でも……それでも……ありがとうです。最高のクリスマスプレゼントです♪」
「フッ……それはなによりだ。」
「私、このカルム君に誓います。
いつか天国のお父さんに、私の……
コーネル探偵社の名前が届くくらいの名探偵になってみせます!」
「天国に届くほどのか。そいつは……大変だ。」
「大丈夫です! 私はお父さんの、ビリー・コーネルの娘、リリー・コーネルですから!」
――今宵、あなたのところにも、
小さな奇跡が舞い降りるかもしれません……
聖夜の奇跡 ~想いをとどけて~