【黒ウィズ】空戦のドルキマス 外伝 Story
2015/10/22 |
目次
ドルキマス編
クラリア・シャルルリエは、ブルーノ・シャルルリエの一人娘である。
ブルーノは、長くドルキマス軍に所属していた。
かの大国――ガライド連合王国に勝利したとき、最前戦で戦っていたのは、他ならぬ彼だ。
ディートリヒ・ベルクが職業を積み上げていくたび、ブルーノも軍内での評価を高めていった。
ブルーノは、どちらかというと有能な人間ではなかった。
しかし、ディートリヒと同じ軍に所属していた、ということ、
そして彼自身、ディートリヒとともに生きて戻ってきたということに尾ひれがつき。
『不死身のシャルルリエ』という異名で呼ばれるまでに至る。
彼自身の能力は大したものではなかったが、育成において飛び抜けた才能を発揮した。
ブルーノは、芝居がかった罵声を部下に浴びせることがあった。
それは彼なりの愛でもあり、そうすることで多くの軍人が育った。
その背中を見て育った少女――クラリアは、その言葉遣いを学んでしまうことになるのだが、彼は止めるに止められなかった。
彼女は、作戦行動において『進む』という以外の選択肢をほとんど選ばなかった。
それは幼い頃からディートリヒ・ベルク、ブルーノ・シャルルリエを見ていたからに他ならない。
しかしそんなクラリア――シャルルリエ軍団は、不思議と無傷で戻ることが多かった。
戦争において、どういうわけか死者が出たことはなく、何より少女に鼓舞されることで士気が高まるともっぱらの評判なのだ。
突撃型の少女を宥めるのは、ヴィラムの役割だ。
こうすることで多少は作戦指押に冷静さが出る。
無論、そうしたところでまっすぐ進む以外の選択肢は、彼女の中にないのだが。
人の意見に耳を傾ける程度の余裕が生まれるのはいいことだ、とヴィラムは思った。
実をいえば、勉強は苦手だが……それは隠しておくことにする。
でも仕方ないな。手を組んだ仲間同士だ。あの小さな船が狙い撃たれないよう、多少の援護はしてやるとしよう。
クラリアは偉そうに腕を組む。
それは生前、ブルーノが船内でよくとっていた姿勢なのだが……
当時、幼かったクラリアは知る由もない。
ウォラレアル編
君はウォラレアルの艦の甲板を歩いていた。
そこではドラゴンたちが行儀良く列をなして羽を休めていた。
確かに……。一見すると魔物のようだけど、みんな〈ウォラレアル〉の人たちに従順だった。
何か彼らを手なずける特別な方法でもあるのだろうか、と君は想像した。
ぼんやりとしていた所に、鋭い咆啼を投げかけられた君は思わず仰け反る。
キャナルの細い手がドラゴンの口元に軽く置かれると、ドラコは嬉しそうに目を閉じた。
すりよせるドラコの頭を抱きしめながら、楽しそうに彼女はそう言った。
まるで魔法のような光景だと君は思った。
唐突に、背後から声をかけたのはライサだった。
相変わらずどことなく危険の気配がある。
君は彼女に、ドラゴンを手なずける方法について聞いてみた。
あなたに説明しても理解しがたいかもしれないわね。なんならキャナルに訊けばいいんじゃないかしら。
〈ウォラレアル〉の人と会うまでは、こんなにドラゴンがいっぱいいることも知らなかったの。
キャナルの話では、彼女は子供の頃に拾ったドラコの故郷を探すための旅をしていたらしい。
そんな時、〈イグノビリウム〉が到来し、大規模な戦乱が起こってしまったという。
戦乱の最中に、彼女は国を追われたくウォラレアル〉の人々と出会い――いまに至った。
とてもそうは見えないが、彼女も戦争によって過酷な運命を担っているのだ。
彼女の言葉が分かるのか、ドラコもそれに応じるように優しい鳴き声をあげた。
君はなんとなくキャナルの魔法のような力の源が分かった気がした。
ウィズ同様に思わず妙な声を上げそうなった君はなんと言っていいか分からず、
ただキャナルとライサを見比べていた。
ファーブラ編
ルヴァルたちにとって、〈イグノビリウム〉の存在は厄介なものだった。
破壊、暴虐、蹂躙……彼らは、何もかもを踏み漬していく。
脅威的な勢いと圧倒的な物量をもって……
生命であるのは〈イグノビリウム〉。ほか全ては生命であると認識されない。
それはつまり、踏み潰そうと破壊しようと、彼らの目に留まらないということ。
卿、参戦できる者を集めておいてくれたまえ。
ルヴァルは表情を崩すことなく、そう言った。
いい人間――プルミエは、疑いもせずそうなのだろうと受け入れる。
恐らく魔法、特殊な力を失った人間が、〈イグノビリウム〉を倒すのは手間だろう。
それゆえ、力ある彼らが手を貸さなければならない。
世は、〈イグノビリウム〉のために存在しているのではない。
彼らは、彼らの住まう場所に送り返さなければならない。
ディートリヒ編
ディートリヒ・ベルクの過去を知る者は、ドルキマスにおいてひとりも存在しない。
片腕と呼ばれるローヴィですら、それについて聞いたことがなかった。
ただローヴィ・フロイセが着任した頃には、既にドルキマス国軍は彼の手中にあった。
凄まじい数の戦艦と兵を前に、昏く笑っていた姿を、ローヴィは覚えている。
ディートリヒが国に謀反を起こし、王を失脚させたというのは、国外にも知れ渡っていた。
その侵略速度は、言うまでもありませんが、我々が持つ軍の10倍程度。
間もなく山脈手前に到達するものと思われます。
ディートリヒは躊躇することなく、拠点を放棄する。
大陸の並びから見れば、恐らく〈イグノビリウム〉は〈ウォラレアル〉の地を狙う。
ディートリヒは、彼らを救うのではなく、利用すると言った。
そうすればちょうどいい頃合いだ、とディートリヒは言う。
それが何を示すのか、ローヴィにはわからない。
わからないが、聞くことはなかった。
必要とも思えなかったからだ。
見つけたものを調べもせず、捨てることはないだろう。
ローヴィは礼をして、ディートリヒのもとを離れていく。
戦争が始まることを、ディートリヒは理解していた。
そのために打てる手は打っておこう、という算段だろう。
何も策はひとつではない。
あるいは彼は、それそのものを楽しんでいるのかもしれない。
魔道艇で奥まで進み、辿り着いた場所には黒い翼を生やした男性がひとり。
君は慌てて、違う、と言った。
褒められているのか、そうではないのか、君は困惑を隠し切れない。
ただそれだけのために、彼は大陸を片っ端から自分の所有物にしようとしているらしいけれど。
おっと、君には関係のない話だったね。
さ、資源ならこの奥にあるよ。あのね、ちょっとしかないけれど。
よくわからないけど、彼は敵じゃないみたいにゃ。
君も、そうだね、と口にして、魔道艇を進める。
魔道艇で奥まで進み、辿り着いた場所には風変わりな女性がいた。
目を伏せて、見るからに落ち込む少女。
君は、困惑してどうしようかとウィズを見た。
君はピエラに腕を掴まれ、狼狽する。