【黒ウィズ】幻魔特区スザク Story1
story1 初級 華の中にあれ
目の前には、見たこともない景色が広がっていた。
地平の果てまで続く平原には、朽ち果てた高度な文明の跡と――
「あ、あの塔みたいなのはなんにゃ……?」
雲を、空を突き抜けてそびえ立つ、あり得ないほどに高い「何か」。
君とウィズは、ポカンと口を開いたままそれを見上げている。
「いったい……何をどうすればあんなものが作れるんだにゃ……。」
想像を超えた建造物を目の当たりにして、君たちが呆然としていると――。
「ロッドはヒトが作ったんじゃなくて、落ちてきたモンだろ。」
聞こえてきた声に振り返ると、そこにはひとりの少年と、一匹の犬。
ロッド?と君が繰り返すと、その少年は巨大な塔のような物体を指さす。
「アレだよ。ウチの街は333号ロッドで……って、ホントに知らないのかお前。名前は?」
聞かれ、君は自分の名前を彼に伝える。
「俺はキワム。よろしくな。コイツはクロ、俺のペットな。
でもよ、ロッドなんて――特にスザクロッドなんてどっからでも見えるだろ。お前、出身は?」
そういえば、と君は手にした箱を彼に見せる。この世界に来たのはこの箱が原因だった。
「あ、それなら俺も待ってるぜ。フォナーだろ?」
『ワン!』
クロかひと声鳴くと、キワムの持っている箱に「よろしくな」という文字が出る。
どうやら、キワムの持っている箱――「フォナー」は、クロの言葉を翻訳してくれるらしい。
「このへん、最近物騒だからさ。俺の街までは連れてってやるよ。
しっかしガーディアンが出せる奴はいいなぁ……俺は出せないからさぁ……うらやましいよ……。」
ガーディアンって何のこと?と聞く前に、キワムはクロと先に歩いて行ってしまう。
「……今はキワムに付いていったほうがいいかもにゃ。」
ウィズの言葉に君は頷き、キワムの後を追う。
行く先には天を貫く、ロッドと呼ばれる謎の塔。この世界のことは、まだわかりそうにない。
***
***
「お前、大丈夫か?怪我とかしてないか……?」
キワムを守りながら塔へと着いた君たちに、彼は心配そうな表情で声をかけてきた。
「そういえばお前、魔法みたいなの使ってたけど、いつもああやって戦ってるのか?」
キワムの言葉に君はうなずく。コレ以外の戦い方を知らない、とも付け加えて。
「もしかして、それがお前のガーディアンっていうか、ウィズの力なのか?ホント変わってるな、お前。」
「えっへん!」
君は、胸を張るウィズを見ながら苦笑する。
道中、君はウィズが戦っていたことを問いただざれ、咄嗟に自分のガーディアンだとして紹介した。
どうやらガーディアンというものはヒトの言葉を喋るらしく、キワムはそれで納得してくれた。
ふと、君はウィズにじゃれつく小さな犬――クロのことが気になった。
「クロはキワムのガーディアンじゃないのかにゃ?」
「こいつはただの犬だって。見てわかるだろ?2、3年前に拾ったんだ。」
言いながら、舌を出して笑うクロをキワムは抱き上げる。彼の言うとおり、君にもただの犬にしか見えなかった。
「俺は生まれつきガーディアンが出せなくてさ……そのせいで邪魔者扱いさ。」
少し寂しそうにキワムは言う。ただ、彼は自分のことを悲観してはいないようだった。
「ただ、俺の友達――スミオとヤチヨのガーディアンは凄いぜ!あとで見せてもらえよ。
あいつらのガーディアンはノイズとシキって言ってさ、二人に似ていい奴なんだ。それで――。」
キワムの話を聞きながら、君は苦笑する。
――と、その時。
「キワム!」
「おー、スミオとヤチヨじゃん。丁度よかった、こいつにノイズとシキ見せてやってくれよ。」
「それどころじゃないっての、馬鹿!早くこっちに来なさい!」
ただならない雰囲気に、君は自然と身構える。
もしかして自分は歓迎されてないのでは――そう考えた時だった。
『アンタもよ、うすらとんかち!そこに居たら私が全力出せないじゃないのよ!』
『退避されたし。拒否した場合我々は、被害についての不平不満を受け付けない。』
「なっ、なんにゃこいつら!!」
妖精に似た小さな生き物と、同じくらいの金属質の飛斤物体が君たちを急かす。
「シキとノイズじゃん、どうしたんだよそんなに慌てて……!」
君はキワムが少し前に話した内容を思い出す。たしか彼らはスミオとヤチヨのガーディアンだったはずだ。
だが、その一瞬の思案が君の足を止めてしまった。周囲には敵意を持った魔物が集まり始めている。
『ああもう言わんこっちゃない!うすらとんかちねほんと!!』
『敵性勢力の接近を確認。退避不可、ガーディアンによる共闘を進言する。』
「というわけだ、頼むぜヨソもん!」
「っていうかこの人信用していいの?そもそも敵の可能性は……?」
「そんなら俺が真っ先にやられてんだろー。頑張れーみんなー。」
「ったく……戦力外は楽でいいわね……行くわよシキ!」
『はいな!』
シキの返事と同時に、ヤチヨは首にかけた機械を耳に当てる。
「花開け、我が心に咲く赤い果実よ!“インフローレ”!」
『さて……暴れようかの。』
短い詠唱の後に現れたのは、荘厳な衣装に身を包んだ、超然とした女性。
「来い、ノイズ!
我が心を貫き出でよ、雷牙の機神!“エクスマキナ”!」
『All enegy lines connected. I'm all set up here.』
……そして、軋みながら立ち上がる巨大な機械人形!
2体とも、魔力に似たとてつもない力を内包している。
君は、ここまでの強い力を見たことが無い……!
「この子たち……何者なんだにゃ……!?」
「くっちゃべってるヒマはねえぜ、ヨソもん!」
「来るわ!」
***
***
「あらかた片付いたかな、これで。歯ごたえねエ連中だったなぁ。」
「歯ごたえある連中だったらビビって逃げるくせに。調子いいんだから……。」
戦いを終えた2体のガーディアンも、先程までの可愛らしい姿へと戻っている。
「お前ら大丈夫か、怪我とかしてないか?」
「キワムは心配性なんだよ、あの程度じゃノイズにゃ傷ひとつつかないぜ?」
「スミオの言うとおり、ガーディアンが居ない自分のことを心配してよね。キワムこそ怪我はない?」
「俺は大丈夫だけどさ……心配なのは心配なんだよ……。」
しょんぼりとするキワムの傍らでは、クロも同じようにしょんぼりとしている。
その光景がおかしくて、君は思わずふっと笑ってしまった。
「そういやお前のガーディアンって、その猫なのか?」
「そうにゃ、私がガーディアンのウィズにゃ!魔法みたいな力を使えるにゃ、よろしくにゃ!」
君が言葉を発するヒマもなく、ウィズはアッサリと自己紹介を終える。
「ヘー、シキと違ってずいぶん素直な子ね。よろしくねウィズちゃん。」
「こちらこそよろしくにゃ!」
『はいはいそこまで!ヤチヨ、私はアンタの一面でもあるんだから、自分を自分で否定しないでくれる?
それにウィズ、アンタも調子に乗らないでよね!ヤチヨは私の物なんだから!』
「別に調子に乗ってるつもりは無いにゃ。シキはもっと冷静に物事を見たほうがいいにゃ?」
『にゃ、にゃにおう……言わせておけばぁ!待ちなさいウィズーー!!』
「にゃはは!捕まらないにゃ!」
『ゥワン!!ワンワン!』
すっかりと打ち解けている様子のウィズとシキ。
それにじゃれつくクロも混ざり大騒ぎになってきた。
ふと、君はその大騒ぎの中にノイズが居ないことに気付く。
君はスミオにその居場所を聞いてみることにした。
「ああ、ちょっと待ってくれ。アイツは気まぐれでさぁ……。」
スミオはそう愚痴を言いながら、手にした機械を操作し、ノイズの場所を探った。
「……あっちだ、行ってみよう。あいつ、何か見つけたみたいだ。」
君とスミオは大騒ぎする皆から離れ、ノイズが居る場所へと急ぐ。
そこには――。
「う……ん……。」
見知らぬ少女がひとり、倒れていた。
幻魔特区スザク | |
---|---|
幻魔特区スザク 序章・1・2・3・4・5 | 2015 03/12 |
幻魔特区スザク 外伝 | 03/12 |
魔法使いとクロ犬のウィズ | 04/01 |
幻魔特区スザクⅡ ~カリュプスの槍~ | 2015 06/30 |
幻魔特区スザクⅡ 外伝 | 06/30 |
ハッピースイーツカーニバル Story3 | 02/22 |
キワム編(Christmas stories 2015) | 12/15 |
幻魔特区スザクⅢ ~ソムニウムの輝き~ 序章 1 2 3 4 外伝 | 2016 05/31 |
アッカ編(Christmas stories 2016) | 12/14 |
キワム&ヤチヨ編(6th Anniversary) | 2019 03/05 |
キワム&クロ編(サマコレ2020) | 06/30 |