境界のRINNEと黒猫の魔法使い Story2
黒猫のウィズ×高橋留美子作品 企画 |
開催期間 2015年6月22日(月)16:00~7月22日(水)15:59 |
目次
story2
「……センベイって意外と固いにゃ。」
バリッという音が響く。
食べ過ぎはよくないよ、と君は言うが、ウィズの意識はセンベイに向いているらしく返答がない。
りんねの説明によると、ここがあの世というところらしい。
彼らとはぐれなかったことに安堵しながら、君は霊道のことを思い返す。
〝現世〟と〝あの世〟を結ぶ霊道は、それが開いていれば生きている者でも通れるのだという。
中には生きた人が霊道を通り、あの世に迷い込んでくることもあるらしい。
それよりウィズ様? ぼくの話、聞いてましたか?
聞いてたにゃ。アレが輪廻の輪にゃ。
ウィズの目線の先に、巨大な赤い輪のようなものが浮かんでいる。
ゴトン、と重たい音を響かせながら、ゆっくりと回っていた。
輪廻の輪に霊が乗ると、転生するにゃ。
生きている人でも、乗ってしまうと転生させられるから危険だにゃ。
あの世にある食べ物や飲み物を口にすると、霊が見えるようになっちゃうんだよ、ウィズちゃん。
桜は、そのせいで霊やりんねなどの死神と関わりを持つようになったらしい。
ですが桜さま、おふたりは最初から見えていたようなので……。
魔力があると見えるようになるのかにゃ?
君は首を傾げる。どうやらりんねや桜の世界では、普通死神などは見えないようだ。
そんなことを考えていると、何かに気づいた桜が口を開く。
……あれ? あそこにいるのって、もしかしてだまし神?
なに!? こんなところにあいつら――
ふと桜が指さしたところには、先ほどクエス=アリアスで遭遇したようなきぐるみが複数……。
死神も大変みたいにゃ。
そうだな。本来ならだまし神がこんな表立って動くことはないんだが……。
嘆息混じりにりんねがそう言った瞬間、背後から怒声のようなものが響いた。
あれ? 今の声って――。
気のせいだ。無視してだまし神を倒そう。
りんねが不快そうに顔を歪めた。
数が数だ。悪いが魔法使い、あっちを頼む。
それだけ言い残して、りんねはだまし神に向かって走りだした。
魔法使い様、よろしくお願いします。だまし神を捕まえると金一封がもらえるんです!
君はわかった、と言って頷く。そしてりんねに背を向けて、だまし神へと向かっていった。
***
今ので最後にゃ。さあ、りんねたちに合流するにゃ。
君はりんねが走っていたほうへと目を向けた。
するとそこには――。
「見ていたぞ。おまえ、何やら怪しい術を使っていたな!」
見知らぬ男性がいた。
君とウィズを睨みつけながら、何やら物騒な武器を持っている。
「喋る黒猫がいるのを見るに、六道の関係者かと思ったが、怪しすぎる術を使っていたからな。
ま、待つにゃ。りんねと私たちは、クエス=アリアスで知り合って――。
「問答無用だ!
ボンッと音を立て、男が持っていた武器からカプセルのようなものが撃ち放たれる。
君は咄嵯にウィズを庇った。
君に当たったカプセルが割れ、そこから灰が溢れ広がった。
キミ、大丈夫かにゃ!?
けほ、と咳き込むぐらいで、痛みもなにも感じない。
「怪しい術を使うヤツなら聖灰を受ければ、痺れるぐらいのダメージはあるはずだが……。
「得体のしれないやつ……しょうがない。
男が分厚い本を構えた。あの角で叩かれると、とてつもなく痛そうだ。
「これは使いたくなかったが……。
こっちの話を聞くにゃ!
「可愛らしい猫の姿をしていようと、俺は油断せん! 正体をあらわせ、化け猫め!
***
「待ってください、魔法使いさん!
とどめの魔法を放とうとした瞬間、駆け寄ってきた桜が君を制止する。
知り合いなんです、この人。ごめんなさい、伝え忘れてて……。
「ま、真宮さん……?
……止めるならこてんぱんにする前にしてほしかったにゃ。
「ふっ、この程度でこてんぱんなんて甘いな。
男性も何事もなかったかのように立ち上がるが、服は君の魔法でぼろぼろだ。
ええっと、この人は十文字翼くん。私の同級生で――翼くん、大丈夫?
jもちろんだよ、真宮さん! それと俺たちは、ただの同級生なんて間柄じゃ――。
魔法使いさんは、大丈夫でしたか?
桜が彼の言葉を遮るように、君のほうを向き問いかけてきた。
君は、大丈夫だということを伝える。桜は、君たちのことを十文字に説明してくれた。
j悪かったな、おまえたち。勘違いとはいえ、バイブルコーナークラッシュをくらわせてしまって。
気にしないで、と君は伝える。突然襲われたとはいえ、こちらも攻撃してしまったのは事実だ。
そっちも終わっていたのか。
話し終えた君たちのもとへ、りんねが鎌を携え戻ってきてそう言った。
jおい、六道。俺を置いて真宮さんとどこに行っていたんだ。
勝手についてきて勝手にはぐれたおまえには関係ない。
jぬっ……真宮さんを守るのは、この俺だ。関係ないなどとは言わせんぞ。
うるさい。だいたいおまえは――。
はた、とりんねが言葉を止めた瞬間、視界が真っ黒になる。
にゃ!?
“うふふ、だ~れだ”すぐ後ろから、そんな女性の声が聞こえてきた。
しかし、君にはあの世の知り合いはいない。黙って答えられずにいると……。
「あら、あなた誰?」
誰だか知らない人に誰だと聞かれた君は、困惑を隠し切れない。
おばあちゃん、おれはこっちだ。
りんねのおばあさんにゃ!?
tふふ、お・ね・え・さ・ん・でしょ!?
にゃにゃ! い、痛いにゃ! こめかみが痛いにゃ!
女性はウィズのこめかみを拳の間に挟み、グリグリと締めつけている。
それを見た君は、おば――お姉さん、もうそこらへんで、と声をかけた。
tそう、おねえさんよ~。ほほほ、あなたいい子ね。
うう……キミが無事なのは、私の犠牲があったからにゃ……。
t可愛らしい猫ちゃんと、かわったお客様――は!? あなたたち私が見えるのかっ!
魔力のおかげだろう。そのことを六文が説明してくれた。
そして彼女がりんねの祖母で、同じ死神だということと……。
名前は魂子(たまこ)であるということを教えてくれた。
それで、どうして魂子さんがここに?
tそうそう。悪霊がうようよしているところを見つけたのよ~。
おばあちゃんが浄霊してくれればいいんじゃないか。
tその呼び方やめろって言ってるでしょ~!?
こめかみがいたた……ちょっと待て。今はそんなことをしている場合じゃ……。
t浄霊するごとに、お金がもらえるのよ? りんねのために持ってきた話なんだけど?
その話を聞いたりんねが、鎌を大きく振るい、背筋を伸ばした。
行くぞ魔法使い。モタモタするな。
やっぱりお金なの?
悪霊を暴れさせるやつなんてひとりしかいない。それに無視するわけにもいかないからな。
お金に困ってるなんて、妙にシンパシーを感じるにゃ。
jそういうことなら俺も行こう。真宮さんのことが心配だ。
帰ってもらうのはもう少し後になりそうだ。行こう、魔法使い。
りんねの言葉に頷いた君は、まだこめかみを押さえているウィズを抱きかかえ、走りだした。
story
魂子と別れてあの世を歩いていると、クエス=アリアス行きの霊道――元の場所についた。
これ全部、悪霊なの?
ああ……これはかなり厄介だぞ。
大量の悪霊がいて、道を塞いでいる。
この数を相手にするのは、かなり骨が折れそうだ。
魔法使い様、ウィズ様、どうかよろしくお願いします。
任せるにゃ。私の弟子は、こう見えてなかなか優秀なんだにゃ。
悪霊に混じって、だまし神もまた出てきたみたいだ。あれもまとめて叩いておきたい。
というか、どうしてだまし神たちはあっちの霊道に向かおうとしてるんだろうね。
クエス=アリアスに行くつもりか? いや、だが何故……。
だまし神はどこにでもいるにゃ?
どこにでもってわけじゃありませんが、霊道を通ることはありえます。
まだ寿命のある人間を編してあの世に導こうとする悪い死神ですからね。
死神も楽じゃないにゃ……。
悪事を働く死神もいれば、りんねのように使命を果たす正しい死神もいるということだ。
魂子が言ってたけど、死神として働けばお金をもらえるのかにゃ?
……基本的には。実はりんね様は、純粋な死神ではないのです。
だからほかの死神より多くの道具に頼るしかないんです。それはつまり通常よりも経費が……。
だからりんねの鎌はボロボロなのかにゃ?
君は、そういうことは言っちゃダメだよ、とウィズを諌める。
りんねの鎌は、今にも折れてしまいそうなほど傷ついているように見えた。
……りんね、どうしたにゃ?
君とウィズのやりとりを聞いていたりんねが、両手両膝をついて沈んでいた。
りんね様、落ち込まないでください。悪霊を倒せばきっと鎌のメンテナンスもできます……。
六道くん、その鎌を質屋から出すのに五千円もしたのにね。
ごせんえんって、クエス=アリアスだといくらになるにゃ?
君は、さあ、と答える。
ウィズが食べている魚ぐらいだろうか? と君は付け加えた。
ウィズ様は毎日五千円の魚をたべているのですか……!?
あれはそんなに美味しくないにゃ。
ななな、なんて贅沢な……!
j……まあ、値段の話は置いておいて、これからどうするんだ? 六道。
もちろん、悪霊を浄霊する。そして悪霊を増やしているやつを本気で叩く。
j悪霊を増やしているのって、もしかして――。
もしかしなくても、こんな悪質なことをするのはひとりしかいない。
彼らは、悪霊というものを相手に恐れる様子がない。
どことなく呑気な空気に不安はあるけど、心強さが大きく勝った。
よし行こう――君は気を引き締めた。
この世界の新しく出会った仲間たちがいれば大丈夫だ。
さあ、やるぞ! おれたちで悪霊を浄霊してやる!
***
くっ……キリがないな。
悪霊を倒そうとしているのに、だまし神に邪魔をされると時間がかかる。
あれ? これ……?
桜が立ち止まり、紙のようなものを拾い上げた。
……これは。
表面には「果たし伏」と書かれている。
はたし……ふせ……?
jなんだこれは。馬鹿にしているのか。
撲はりんねくんに欧られたあの日のことを、志れない……。
僕はりんねくんに殴られたあの日のことを、忘れない……ってことかな?
そう書かれているようだ。
読むのつらいね。
この誤字の多さ。筆跡。間違いなく――
「そう、僕だよ! りんねくん!
おまえだっ!
ごつん、と鈍い音を立てて、りんねの鎌が男の頭にめり込んだ。
刃がついていないところとはいえ、あれは痛そうだ、と君は思った。
魔狭人(まさと)という名前の――。
mとてつもなく痛いじゃないか、りんねくん。それはそうと僕の手紙は読んでくれたかい?
激痛に涙を浮かべながら、平然を装おうとする男。
知り合いなのかにゃ?
うん、色々あって六道くんを恨んでる心の狭い悪魔。
mそう! 僕は魔狭人! 悪魔の魔に、狭い人と書いて、魔狭人!
積年の恨みを晴らすため、果たし状を送ったのさ! 悪魔らしからぬ真っ当さだろう?
ちょっと何言ってるかよくわからないにゃ。
mふ、馬鹿にするのは構わないが、僕は自分より弱いものには容赦しないぞ、黒猫。
言ってることは最低だし、酷い手段も平気で使ってくるので気をつけてください。
君は警戒を強め、魔狭人と呼ばれる悪魔に対峙する。
気を抜くな、魔法使い。くるぞ――!
***
mぐっ――!? まだまだ。この程度じゃ、僕は諦めな――。
せい!
mやめ――ま、まだ話してる途中――。
せいっ!!
mうぐッ!?
ようやく倒し終えた魔狭人を、さらに殴るりんね。
mわ、わかった……ぼ、僕が悪かった!
それにしてもおまえ、どうしてここにいるんだ。
mふ、はははっ! それは教えられないな!
――
mすみません。悪霊をスカウトしてりんねくんの邪魔をしようと思いました。
だまし神といい、悪魔の侵入といい……何よりクエス=アリアスヘの霊道といい――
今回の騒動には、裏がある気がする。
私は最初から怪しいって言ってたよ。
…………。
裏がある気がするんだ。どう思う? 魔法使い。
桜の言葉を無視したりんねが、君に向かってそう言った。
裏とは? 君はそう訊き返す。
……堕魔死神(だましがみ)カンパニーだ。
あっ、堕魔死神カンパニーっていうのは、だまし神たちの集う非合法会社です。
思い返してみれば、お金が稼げると見知らぬ人に言われたところぐらいから怪しいですね。
君は、いったいどういうことなのかをりんねに訊いた。
見知らぬ男性に『金貨ザックザクの仕事がある』と声をかけられたのが昨日。
向かった先――金貨取り放題会場には、本当に大量の金貨があった。
それを見た瞬間、今まで背化わされてきた借金をチャラにできると考え舞い上がったのだとか。
だまし神が現れ、魔法使いである君たちと戻ってきてみると、騒動になっていた。
そして今に至る。
しかし、考えてみると――。
そんなうまい話はない!!
その堕魔死神カンパニーは、どこにあるにゃ?
罠が多くて、りんね様ひとりでは辿り着けないのです。だから場所も……。
いや……魔法使い、おまえがいるならあるいは……。
魔法使い、ついてきてくれるか?
君は首を縦に振る。ここまで来たのだから、最後までりんねに手を貸そうと思った。
それじゃあ、私も。
jなっ――真宮さんまで!?
ま、待て六道! 俺も行くぞ! 真宮さんが心配だからな!
お願いね、翼くん。
jうん! 俺に任せて!
迷惑をかけてすまない。
君は気にしないで、と言う。大変だとは思うが、迷惑だなんて考えもしていない。
もちろん力になれるよう頑張るよ、と続けた。
少し休んだら、堕魔死神カンパニーに乗り込むぞ。
境界のRINNEと黒猫の魔法使い Story2