境界のRINNEと黒猫の魔法使い Story3
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黒猫のウィズ×高橋留美子作品 企画 |
開催期間 2015年6月22日(月)16:00~7月22日(水)15:59 |
目次
story4
堕魔死神(だましがみ)カンパニーに辿り着いた君たちは、そこで意外な人に出会った。
「りんね、遅いですよ。」
「おばあちゃん。どうしてここに。」
「その呼び方はやめろって言ってるでしょ!?」
「こ、こめかみがいたた……。」
ウィズが君の肩の上で震えている。
「あなたたちのことを心配して、わざわざ来たのよ~。
それにしても、よくここまで来られたわね?
jふっ、期待に背いて悪いが、バイブルコーナークラッシュはもう使えんぞ。
jそういうことだ!
息のあったウィズと十文字に対し、いったい誰に言っているの、と君はツッコミを入れる。
りんねはそんなふたりを無視して、言葉を続けた。
魂子がうっすらと目を開き、口元を笑み歪めた。
tあの子は手強いわよ~?
だまし神……待っていろ!
***
君たちは、見るからに怪しげな扉がある場所までやってきた。
桜が先を続けようとしたそのとき、背後からカツン、とヒールの音が響いた。
「よくぞここまでおいでくださいました、りんね様。ですがここから先には、進ませません。
君は驚き、振り返る。
そこには、すらりとした綺麗な女性が立っていた。
「あら、見慣れない方々……。
怪しげな仮面をつけた女性が近づいてきて、君たちの顔を覗き込む。
b私、だまし神カンパニー社長室美人秘書と申します。以後、お見知りおきを。
ウィズにつられ、君もつい頭を下げた。
そんなウィズの言葉を聞いてか聞かずか、美人秘書と名乗る女性が口を開く。
bりんね様とご友人の方でしたら、堕魔死神カンパニーでおもてなしいたしますわ。
b残念です。せっかく豪勢な食事を用意しましたのに。
b狙い? 狙いなんてありません。
りんねが、美人秘書の横を通り抜けようと足を進めた。
すると――。
bりんね様といえども、社長の邪魔はさせません。
美人秘書がどこからか大鎌を取り出し、道を塞いだ。
b向こうの世界の魔法使いとかいう輩の命を奪い金貨を巻き上げこちらの世界で売る!
そうすることで我が堕魔死神(だましがみ)カンバニーは、大企業へと発展を遂げるのです!
君はハッとした。
『そういえば最近、魔道士が行方不明になる事件があるらしいにゃ。君も気を引き締めるにゃ』
ウィズに聞かされたその事件の背景には、だまし神がいた……ということなのかもしれない。
だまし神たちが魔法使い様たちの命をすぐ輪廻の輪に送るとは考えられません。
きっと彼らを倒せば、大切な命は元に戻るはずです!
bくっ……堕魔死神カンパニーの完璧な作戦はおろかそんなことまで知られるとは!
あの世のルールのため、そしてクエス=アリアスのため、お前を倒しここを通させてもらう!
***
bうっ……。
君の魔法を受けた美人秘書が、大鎌を支えにしながら後ずさる。
君は構えをとくことなく、美人秘書に対峙する。
「騒がしいねー。何かあったのかな?」
りんねが鎌をふるおうとした瞬間、どこからともなく呑気な声音が響いてきた。
b社長っ!
社長と呼ばれた、りんねと同じ赤い髪の男性。
君も、ウィズ同様、驚きを隠せない。
何故なら彼は紛れもなく、君に『金貨のポットを倒して』と依頼してきた男性だったからだ。
「どうして社長が出てきてしまうのですか……。」
「君のことが心配だからじゃないか。」
「やだ、社長ったら!」
イチャつき始めたふたりに、君とウィズは苛立ちを隠し切れない。
よそでやれ!!
りんねの鎌が風切り音を轟かせながら、鯖人に向かっていく。
だが――。
p危ないじゃないか。
彼はひらりと避けて、大袈裟に嘆息した。
pそれにパパは、りんねに伝えておかなくちゃいけないことがあるんだ。
p聞きなさい、りんね。おまえにとっても大切な話なんだ。
りんねを制止した鯖人が口を開く。
p実は――。
最終話
p実は――。
鯖人は目を伏せ、こう続ける。
pおまえが必死に集めていた金貨な……全部もらっちゃった。
j……酷い父親だ。
りんねに借金を押しつけるなんて最低だが、鯖人は、気にした素振りを見せない。
pりんねたちの世界に罠を仕掛けようとしたとき、偶然クエス=アリアスに繋がったんだけど………。
これは本当によかった。
お金になりそうな魔物がいた上、それを倒すため多くの魔法使いが集まっていたからね。
bお金を稼げて魔法使いの命も集められて、一石二鳥とはこのことですわ。
寿命を迎えていない人たちの命を、騙しとろうとするなんて……。
その悪事を見過ごすわけにはいかない、と君は思った。
p堕魔死神カンパニーの全員が乗り気になっていたよ。会社も厳しい時期だし。
p本当なら邪魔になる死神をクエス=アリアスに放り込んで、霊道を閉じるつもりだったんだけど。
金貨取り放題と謳って邪魔な死神を集め、向こうに閉じ込めてしまえばあとは好き勝手にやれる。
pうん。釣れたのはひとりだけだったけど。
pああ、そうだ。それと魔法使いさん。
鯖人が君とウィズに視線を合わせる。
p君に支払う報酬だけど、そんなものは最初からないんだ。ごめんね。
必死に稼いだ金貨のポットが無駄に……!?
君とウィズは、同時に目を大きく見開いた。
pでも金貨のポットというのはもらっておくよ。あれは換金できるかもしれないからね。
ウィズが君の気持ちを代弁する。そうだ。絶対に許してはいけない。
pさ、伝えることは伝えたし……。
パパは忙しいから、ここらへんで。
君とウィズの生活の――ではなく、クエス=アリアスとあの世の秩序のため!
あの男と戦い、止めなければならない!
***
逃げる? ふっ、面白いことを言うじゃないかりんね。
パパは逃げていたんじゃない。これをとりにきていたのだ!
鯖人が借用書と記載された紙を取り出した。
pさあ、りんね。この借用書にサインをして、パパの借金を代わりに払いなさい。
君も頷く。りんねが貧乏なのは、何もかも鯖人が悪いということだ。
j言ってることが無茶苦茶だな……。
ここで堕魔死神カンパニーもろともぶっ潰させてもらう!!
pパパと戦おうなんて、りんね――いや、そこにいる魔法使いさんも、身の程知らずだ。
この吸血火車で皆が持つ何もかもを換金させてもらう!
大きな歯車のようなものが浮き上がり、君たちは警戒に身を強張らせた。
炎をまとったそれを、鯖人が掴む。
ウィズと一緒に君は震え上がる。
丹精込めて育て上げた精霊を、二束三文のゴールドに換金されてはたまらない。
君はりんねに目配せをした。必ず鯖人を倒し、両方の世界を平和に戻すのだ!
pさあ、りんね、魔法使いさん。吸血火車の餌食になってもらうぞ!
***
渾身の魔法が購人に直撃する。
pくっ、しまった……吸血火車が……!
鯖人の手から吸血火車が離れた瞬間、りんねが飛び上がり鎌を振り下ろした。
鈍く重たい音――耕人の頭に、刃の裏側がめり込んでいた。
bし、社長――!?
鯖人が、どさり、と倒れこんだ。
りんねたちが詰め寄る前に、すかさず美人秘書が駆け寄り、鯖人もろとも姿を消した――。
どうやらそうらしい、君はほっと息を吐く。
君もよかった、と口にして大きく伸びをする。
そうだ。クエス=アリアスに戻らなければならない、と君は言う。
いつまでもあの世にいるわけにはいかなかった。
jだが霊道までは、かなり距離があるぞ。
りんねが使い捨て霊道を持ち、進め、と促してきた。
j次はバイブルコーナークラッシュを食らわせないよう気をつける。また会おう。
彼らの言葉に微笑み返し、君とウィズは霊道に入り込んだ。
思いがけない出会い、見知らぬあの世という世界――
あのワクワク感がなくなるのは寂しかった。
優しき死神と、新しい仲間たちのことを思いながら、君はウィズを抱え霊道を走った。
「今日は好調だにゃ! 見るにゃ! こんなにたくさん!」
ウィズがまるで悪役のような笑みを浮かべながら、金貨のポットを叩く。
今回はきちんとした依頼元から、金貨のポットを集めてほしいと依頼がきていた。
これだけあれば、しばらくお金に困ることはないだろう。
「キミ、今日はごせんえんのお魚を食べたいにゃ。」
また言ってる、と君は苦笑する。
そんな話が気の緩みを生んだのか、君はいつかのように金貨を落としてしまった。
「……キミ、大事なお金を何だと思ってるにゃ?」
君はごめん、と伝えて腰をかがめ、金貨に手を伸ばし――。
――ごん、とこれまたいつかのように、頭に衝撃が走った。
「――ぐッ!?」
「にゃ!? りんね!?」
そこにいたのは、紛れもなく数日前、一緒に戦った六道りんねだった。
どうしてここに――君は考えるよりも早く、そう口走っていた。
「やはりひとつくらい金貨をもらっておこうと思ってな。
それと大切なことを忘れていたんだ。」
大切なこと? 君は首を傾げる。
「――まだおまえたちに美味しいものをご馳走してもらっていない!」
「にゃにゃ? そんなことのためにまた来たのかにゃ!?」
「そんなことだと!? おれにとっては、生きるか死ぬかの大問題だ!」
「りんね、人様に迷惑をかけてはいけませんよ。」
りんねの背後から、魂子も現れた。
鯖人が繋げた霊道が、もしかしたらまだ閉じていなかったのかもしれない。
「たまにはお茶の相手がほしいから、いつでも遊びにいらっしゃい。」
そんな無茶苦茶なことを……と口にしようとしたところで、
「……仕方ないにゃ。キミ、時間を見つけてまたあの世に行くにゃ。」
ウィズがため息混じりに笑って、そんな物騒なことを言った。
まだまだあの世との縁は切れないようだ。