【黒ウィズ】喰牙RIZE Story
2017/05/19
story0 プロローグ
君は静かに呼吸を整えて、分厚い石の扉を押した。
この扉を開くたび、神妙な気持ちになる。
扉の重さと、石が擦れる重々しい響きが、重ねられてきた年月を感じさせるからだ。
あるいは、魔道士たちをそんな気分にさせるために、あえて重厚な扉を作ったのかもしれない。
通れる分だけの隙間を作り、中に入った。
君を出迎えたのは吹き抜けの広間だった。
頑丈な石造りの壁に閉じ込められていた冷たい空気が、ひんやりと踊る。
君は中の燭台に火を灯し、扉を閉めた。
「今日はいい感じに”淀(よど)み”がたまってるにゃ。」
ウィズが、君の肩の上でぐるりと広間を見回す。
「精霊と契約するには、もってこいにゃ。」
君たちクエス=アリアスの魔法使いは、異界の存在――精霊と契約し、その力を魔法として解き放つ。
そのためには異界に通じる〈叡智の扉〉を開き、彼方にいる精霊の呼びかけに答え、その真名を答えねばならない。
これが、精霊との契約である。
叡智の扉を開くには魔力の゛淀み”が必要だ。本来、この神殿のような強い゛淀み”のある場所でなければ、扉に干渉することすらできない。
だが、契約した精霊につながる叡智の扉、その情報を力―ドに封じておけば、神殿以外の場所でも魔法を使えるようになる。
だからそのカードそれ自体も、叡智の扉と呼ばれている。
「準備はいいかにゃ?」
君はうなずき、深い深い集中に入った。
君は”淀み”に触れ、そっと魔力の糸を伸ばした。それは叡智の扉を通じて異界にがかっていく。
自分の実力を超える精霊は扱いきれない。今の自分の力量にふさわしい精霊を探し、干渉して、その真名を見定めなければならない。
108の異界に住まう、多種多様な精霊たち。その力は、質も方向性も千差万別である。
ふと、何かに触れた感触があった。
精霊だろうか。そう思った瞬間、目の前でカッと光が弾けた。
「これは――!?」
”淀み”それ自体が破裂したのかと思うほどの、爆発的な魔力の奔流が君を貫く。
ふわりと足元が持ち上がった気がした。まずい、と君は直感し、ウィズを舞に抱きしめる。
あふれかえる光の波にもてあそばれ、転がされ、何度も跳ね飛ばされる。
何か起こつたのかわからない恐怖と戦いながら、君はひたすらその衝撃に耐えた。
やがて、硬くごつごつした感触と、焼けつくような熱波が全身を襲った。
目を見開いた君は絶句し、凍りつく。
そこは神殿ではなかった。
どろりとした溶岩の流れる、深い峡谷。
その谷底に、君はぽつねんとうずくまっていた。
「契約の神殿でこんなことが起こるなんて聞いたこともないにゃ。いったい何がー―
「ごめんなさーい、そこの人―!ちょっと、脇に、避けてもらって、いいかなー?」
立ち尽くす君たちに、遠くから、朗らかな声がかかった。
振り向くと、手をぶんぶん振りながらこちらに駆けてくる少女と――
その背を追いかける、魔物の群れが見えた。
「ごめーん、私、今、魔物に、追われてるのー!危ないからー、脇に、避けてー!」
「とか言われて放っておけるかにゃ!」
君はうなずき、力―ドを構えた。
魔力と呪文で叡智の扉を開き、精霊の呼びかけに答え、真名を口にする。
精霊の特質に応じた魔法が発動。カードから鋭い氷塊が飛び出し、魔物たちに次々と直撃した。
魔物たちは絶叫を上げ、たまらんとばかり逆方向に逃げていく。
それを見た少女は足を止め、目を丸くしていた。
「わあ……すごい!それ、ひょっとして呪装符?そんな風に使うの、初めて見た!」
その言葉に、ウィズは何かピンと来たらしい。
「クエス=アリアスじゃ、当たり前のことだけどにゃ。」
そらっとぼけたような物言いに、少女は不思議そうに首をかしげる。
「くえす、ありあす?なあに、それ。響きからすると、酸味強い系の料理かな?」
今度は、君が目を丸くした。
猫がしゃべったことに驚くそぶりがない上、クエス=アリアスの名前を知らないなんて。
そこで初めて、ウィズの狙いにー―そして、ウィズが勘づいたであろう事実に、君も思い当たった。
「どうやら私たちは、異界に来てしまったようにゃ。」
ーーーーーーーーー
新たに精霊と契約をしようとした「君」は、魔力の光に呑まれ、見知らぬ異界に飛ばされてしまう。
そこは流れ込んだ精霊の力が「トーテム」となり、大地や人々に特殊な影響を与えている異界だった――
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