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【黒ウィズ】狼たちと鮮血ずきんさん Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん
<ウィズセレクション【祭】Legend with 狼たちと鮮血ずきんさん>
2017年 10月6日 16:00 ~ 10月13日 15:59

目次


Story1 盗んだものって……

Story2 禁断の出会いかも

Story3 悩むと爆発しちゃう

Story4 ふさふさは魅力

最終話 狼姫と赤ずきん





story1 盗んだものって……



「ほう、この宝石は、良い品物ですな。これなら、うーん……金貨30枚は出せそうです。どうされますかな?」

「いくらでもいいぜ。どうせ、その宝石は俺の物じゃないからな。」

「相変わらず、悪い男ですなあ。ま、私は品物が手に入ればいいので、出所は訊かないでおきますよ。はい、金貨です。」

「その金貨は俺にじゃなくて、故郷にいるチビ共に送ってくれ。……って、いつも言ってるだろ?」

「ああ、そうでしたね。じゃあ、この金貨は、私の責任でちゃんと送っておきますよ。」

「頼むぜ。」


商人は、ラグールから買い取った宝石を大事そうに懐にしまうと、軽く会釈してから立ち去った。


「ふっふっふっ……。

ふっふっふっ……。はーっはっはっ!

あの間抜けな貴族め、今頃家宝の宝石を盗まれたことに気付いて、目を白黒させているだろな!

やっぱり、盗みは最高だ!やめられねえぜ!」


王都の貴族たちを絶望のどん底に突き落としている大怪盗。

それが、このラクール・リオンだった。

盗みは、彼の仕事であり、生き甲斐だった。


「さてと。次はなにを盗もうかなっと。」

森の中の細い道を、一台の馬車が通りかかる。

「お? ちょうどいいところに、おあつらえ向きの獲物がノコノコやってきたぜ。一体、どこの貴族の馬車だ?」


「……。」


馬車の幌の隙間から覗いた少女の姿にラグールは目を奪われた。


 (ほう……あの耳の毛並み、エンシェントウルフ族の娘だな。可哀想に人間に捕まっちまったのか)

「でもよ。この大怪盗のラグール様に見つかった以上、素通りさせるわけにはいかねえよな!

俺様のこの「影脚」を使えば、馬なんて、地面を這うナメクジのようにとろく感じるぜ!」


風のように素早く。そして、影のように一切の音を発さず。

ラグールは、馬車の前方に回り込んだ。



「何者だ!? 掲げられているこの紋章が見えんか?これは、領主様の馬車であるぞ!」

「お前らこそ、俺の顔知らないのか?俺様は王国一の大怪盗! ラグール様だ!

俺様に賭けられた賞金の合計は、小国がひとつ買えるほどだぜ!知らなかったのなら、この機会に覚えておきな!」

「なにを……賞金首が偉そうに!」

「お宝のあるところ、俺様はどこにでも現れる。うちに帰って、お前のガキにも教えとけ!」


瞬きする間に、ラグールの手刀が兵士たちの首筋を打った。

領主の兵士たちは、なにが起こったのか理解する間もなく、その場に昏倒する。


「さてと……。獲物のご尊顔を拝見させて頂こうかなっと。」


邪魔者が居なくなったラグールは、さっそくお宝のツラを拝もうと馬車の幌を開く。


「がう! がう、がう……なの!」

ひとりの少女の半狼が、飛び出してきた。

姿は、人間そっくりだが、頭部に半狼であることを示す立派な耳が生えている。


「おいおい、それで吠えてるつもりか?威嚇にしては、迫力がなさ過ぎるぜ。なりは立派な半狼だが、まだまだ修行不足だな。」

「がう。がう! がう……がう……なの……。

やっぱり、私らしくなかったわね。反省する……。」

「素直なお嬢さんだな。そんなんだから人間なんかに捕まっちまうんだぜ?」

「でも、あなたが助けてくれた……の?」

「甘いな。俺は大怪盗ラグール様だぜ?俺は、他人を助けるなんてことはしねぇ。」

「じゃあ……。」

「俺様は大怪盗。盗むのが仕事だ。だから、今からあんたを盗ませてもらう。」

「あたしは、リコラ・ラレット。あんた、じゃないわ。」

「リコラか……半狼にしては、綺麗な名前だな。」

さてリコラ、盗ませてもらった以上、お前は俺の物だ。これからは、俺様の言うことを聞いてもらうぜ?」

「痛いことはしないで……。それ以外のことだったら、あなたに従うわ。」


うなだれたまま、リコラは力なく答える。

思わず、リコラのきらきらした光を放つ耳の毛や、宝石のように輝く瞳に目を奪われそうになった。

その美しさは、人間が大事にしている黄金すら色褪せて見えるほどだ。


「話が、早くて助かる。それじゃあ、行こうぜ。」


ラグールは、リコラの手を取って……。それから辺りを警戒する。


「音を立てないように静かに歩くんだ。実は、この森には、俺たち半狼の天敵がいるんだ。」

「あなたでも、恐ろしいものがあるのね?」

「まあなさすがの俺様も、あいつには手を焼かされている。だが、奴に見つからなきゃ問題ない――」


「ほよ? あなたの言う、“てんてき”ってどこにいるの?」


「うぎゃ!? で、出たな! 鮮血(あか)ずきんのメメリー!」

「鮮血ずきんじゃなくて、赤ずきん!人が聞いたら、勘違いするからやめて欲しいな。無職のお兄ちゃん?」

「誰が、無職だ! 俺様は大怪盗ラグール!そっちこそ、人聞きの悪いことを言うんじゃねぇ!

「でもでも、ラグールのお兄ちゃんは、ちゃんとした”定職”に就いてないんだよね?村のみんなが言ってたよ!

だったら無職も同然だよね? ね?」

「……そういうことに、なるのかな? いや違う。俺様は、大怪盗!仕事はちゃんとある!」


ラグールは、とっさに視線を走らせた。

逃げ道を探ったのだ。

この”悪魔”……いや、“魔王”のように恐ろしいこの少女から逃れるために――。


「だめだよ。無職のお兄ちゃん。人とお話してる時によそ見するのはさあ……。」


『影脚の怪盗』と呼ぱれ、王都の貴族たちから恐れられた大怪盗ラグールも、この『鮮血ずきん』メメリーには敵わない。


「ぐお……。」


彼を襲った悲劇――。

それは、銀の弾丸を打ち込まれたわけでも、十字架を掲げられたわけでもない。

ラグールを襲ったのは、強烈な拳の一撃。

肉眼で捕らえることのできない速さと重量が伴った……(腹パン)だった。


「悪い狼は、せーばい。せーばいだよ。無職のお兄ちゃん?」

鮮血ずきんメメリーは、ラグールの腹部に拳をめり込ませながら、あどけなく笑っていた。


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story1-2



「やったね、悪い狼を捕まえたぞー!今夜の夕飯は、狼鍋だー!」

「……。」



「おや、メメリーちゃん。久し振りに狼を退治してきたのかい?」

「うん! 無職のお兄ちゃんが、働かずにぶらぶらしてたから、めっ! ってお仕置きしてあげたの。」


「おい、この狼男って、王都で噂になっている大怪盗ラグールじゃないか?憲兵隊が、血眼になって探しているという……。」

「まさか、そんな大物が、そう簡単に捕まるかいきっと狼違いだよ。」

「……そうか。」


メメリーは、半狼ラグールの首にさび付いた首輪を嵌めて、地面の上を乱暴に引きずっていた。

狼を退治するのは、赤ずきんを譲り受けたメメリーの使命。

そして、悪い狼に容赦は無用。

それが、尊敬する祖母からの教えだった。


「メメリーは、今日も悪い狼から、村を守ったのです!」

「ありがとうメメリーちゃん。はい、これ。少ないけどお礼ね……。」

村の住人は、メメリーに少額のお金を渡した。

「俺たちが平和に暮らせるのは、メメリーちゃんのお陰だよ。」

「そんなことないのです! メメリーはばっちゃんから受け継いだ赤ずきんの誇りを汚さ……べら!」

「……大丈夫?」

「ひてて……ちょっと噛んだだけです。そんなに思い詰めた表情で見つめないで欲しいのです。

噛んだときは、堂々としろ。逆に誤魔化すな。ばっちゃんの教えです!だからメメリーは媚びませんし、怯みません。

それじゃあ、これから捕まえた狼に石を食べさせて、川に沈める儀式がありますので、失礼します……。」


首輪に繋がれた鎖をつかむと、そのままラグールをずるずる引きずって歩きはじめる。


「あちち!あっちっちっちっ!」

「ほよ?まだ息があるの!?」

「ちっと気を失っていただけだ。全然死んでねぇ!つーか、摩擦熱が起きるぐらい、勢いよく引っ張るなよな! あー、熱かった!

おおい! この首輪はなんだよ!?よく見ると「犬用」の首輪じゃねえか!? 相変わらず、狼のプライドをズタボロにする術に長けてるなお前は。」

「ほよ? 狼に褒められたのかしら?」

「ほよ? じゃねえよ。一体、何度俺様を捕まえれば気が済むんだよ?」

「そんなの決まってるよ。お兄ちゃんが、まっとうな定職に就くまでだよ。」

「だから、前も言っただろ?俺は無職じゃないの! 職業は、怪盗なの泥棒して、生計を立ててるの!」

「チッチッチッ!泥棒は仕事じゃないって、ばっちゃんが言ってました。

メメリーは、騙されないのです!えっへん!」

「あのなメメリー、お前は知らないかもしれないがな?王都には、俺様のファンも沢山いるんだぜ?

なにせ俺は、貧乏人からは絶対に盗まない――金持ち専門の大怪盗だからさ。

中には、俺を義賊様だって崇める人も――あっついいっ!」

「動いちゃだめだよ。摩擦熱ってどのぐらい熱いのかなって、今調べてたところなんだから。」

「自分の身体で調べろ!俺の身体を使って調べるな!」

「お兄ちゃんは狼なんでしょ? どのみち、メメリーにせーばいされる運命なんだよ。どうせ死ぬんだから、実験したっていいでしょ?」

「残酷。子どもって、ほんと残酷。」


追い詰められたラグール。

彼の命運は、メメリーに握られている。まさに風前の灯火。

しかし、こうしてメメリーに捕まるのは、実は5回目。

捕まるたびにラグールは、なんだかんだメメリーの目を盗んで逃げおおせていた。


(だから、今回も上手いことメメリーを叫して逃げる隙を作ってみせるぜ。

俺は「影脚のラグール」と呼ばれた男。隙さえあれば、音もなく立ち去ってみせる!)


その時、ラグールは重要なことを思い出した。


「あ、そういえば、リコラのこと忘れてたぜ。」

「ほよ?リコラ……って誰?」

「俺が“助け出した”半狼の女の子だよ。ほら、俺と一緒にいただろ?」

「いたっけなあ?」

「いたよ。俺が、ここで死んだら、あのリコラは悪い主のところに連れて行かれちまう。それは、さすがに可哀想だろ?」

「うーん……。」

「可哀想だよな? な?」

「でも、その人も狼なんでしょ?」

「ああ、そうだ。狼ってより、半狼だけどな……。」

「狼は悪い奴ら、絶対に退治するべきだってばっちゃんが言ってた!

赤ずきんのメメリーが、狼を助けるのは変だよね? ね?」

「問答無用で、半狼は悪い奴だと決めつけるのか?」

「うん!狼は、この世から絶滅するべきだよ。だって、ばっちゃんがそう言つてたもん!」


澄んだメメリーの瞳を見て、悪い冗談を言っているのではないと感じた。


「メメリー……。」

「ほよ?どちたの?」

「どうか、命だけは勘弁してください!」


ラグールは、地べたに額を擦りつけた。

見栄も誇りも、この期に及んでは不必要なものだ。


「お兄ちゃん、命が惜しいの? 狼なのに?ねえ、どうして悪いことしたのに命乞いするの?許して貰えると思ってるの? ね? ね?」

「思ってません! でも、俺様は生きたいんです!ここで逝きたくはないんです!」

「じゃあ、命までは取ってあげる。それで許す! メメリーが決めました!」

「それって、殺すってことだよね!?頼む! それだけはなにとぞ勘弁を!

置いてきたリコラを助けたいんだ!あいつをのたれ死にさせたくないんだ!」

「うーん。そうか。のたれ死には可哀想だよね……。うーん。」

 (お、躊躇しているな。リコラを出汁にして、もう一押ししてみるか)


「とにかく一度、さっきの場所に戻ろうぜ。リコラを助けられたら、俺はどうなってもいい……。」(嘘だけど)


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story2 禁断の出会いかも


「ううっ……喉が渇いたわ。水飲みたい……がう。」


取り残されたリコラは、水場を求めて森の中を彷徨っていた。

リコラだって半分狼の血を引いている。

だから、大自然の中で生きて行くための基本的な術には長けていた。


「ふあ~。綺麗な狼……。」

「あの子は、可哀想な半狼なんだ。あの子が安全に生きていける日が来るまで、守ってやりたいんだよ。」

「あの人は、本当に狼なの?あんな綺麗な狼みたことないよ……。どうしてだろう、心臓がどきどきしてきた。」

「顔が赤くなってるぞ? 平気かお前?いや、平気じゃない方が、俺にとってはありがたいんだけどな。」


ふたりの気配に、リコラが気付いた。


「そこにいるのは、誰?」

「俺だ!ラグールだ! 驚かせちまって悪いな?」

「よかった、生きていたのね?突然、連れてかれたからびっくりしたわ。」

「まあ、命綱一本で、やっとこさ繋がってる命だけどな。」

(なんとか、リコラを利用して、生き延びる方法を考えないと……)


その時、リコラは、ラグールと共にいるメメリーの存在に気付いた。


「そこにいるのは……まさか人間!?うううっ、がうがう……なの!

「リコラ。落ち着いてくれ。こいつは……って、おいメメリーどうしたんだよ?


メメリーは、ラグールの背中に身を隠している。

そして恥ずかしがる子どものように、ちらっとだけリコラに対して顔を覗かせる。


「あ、あなたは……狼なのですか!?」

「そうよ。正しくは、半狼だけどね。がうがう……なの!ほら、怖いでしょ?」

自分の吠え声には、人を畏怖させる効果があると思つているリコラは、「どやっ」と胸を張っているが……。


 (なんだか、今までの狼とは印象が違って、すっごく可愛いな。それに、とても綺麗……

ううつ。なんてだろう? リコラを見てるだけで、暖かい気持ちになってきて胸がドキドキしてくるよ。

お母さん……。そうだ。死んだお母さんが夢に出てくる時、いつもこんな風にドキドキしちゃう……)


「もしかして、リコラに興味があるのか?」

「メメリーは、狼退治の専門家赤ずきん様ですよ!それが、リコラを見てドキドキするなんて、あり得ないのです! うんうん!

それに狼は悪い奴。絶対に倒さなきゃいけないって、ばっちゃんが言ってたもん!」

「それは、あなたのおばあさまが間違ってるわ。」

「ほよ?そんなことないよ!」

「人間にだって、悪い人もいい人もいるでしよ?半狼も同じよ、悪い奴もいるし、良い奴もいるの。」

「じゃあ、リコラは……?」

「どっちかしら? 少なくとも悪い半狼じゃないと思っているわ。」

「うーん……。」


赤ずきんを両手で覆って、メメリーは深く考え始めた。

赤ずきんを受け継ぐものは、狼退治の達人として生きるのだと、祖母から教育されてメメリーは成長した。

狼は絶対の悪。人に害しかもたらさない悪い存在だと教え込まれてきた。


 (ばっちゃんの言うとおり、今まで出会った狼は、無職のお兄ちゃんのようなろくでもない狼ばっかりだったの……

でも、リコラは悪い狼には見えない。むしろ、いい狼に見えるよ……

ばっちゃんは、こういう時どうしたらいいのか、教えてくれなかった)


メメリーが、赤ずきんとしての己の存在と個人の感情の板挟みになっている隙に――。

(まさか、リコラの一言で混乱するとは、案外ちょろかったな。今のうちに逃げさせてもらおうか)


「きっとあなたは、半狼のことを誤解されているのですね。誤解を解くには、お互いを知るのがー番です!

名前は、メメリーというの?ねえ、メメリー、私と友達になりません?私も人間のこと、もっとよく知りたいし……。」

「と……友達?メメリーと?ほええええっ!?」

「友だちとしてー緒に行動することで、お互いを理解できると思うの。ね、いいでしょ?じゃあ、今日から私とメメリーは友だちね。」


こうして、メメリーに生まれて初めての友だちができた。


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story2-2



「でもでも!友だちって、なにをするの?」

「あらメメリーは今まで、友だちと遊んだことないの?」

「メ、メメリーには、友だちは必要なかったのです。だって、狼退治で忙しかったし……。友だちなんて別にいらなかったの! 本当だよ?」

「私は、里に沢山友だちがいたわ。だから私か、友だちとしては先輩ね?教えてあげるわ。友だちって、どういうものかを。」

「う、うん……!」


 (なんだか面白いことになってきたぜ。リコラの影響で、メメリーの考え方が変われば、もう俺の邪魔をすることもなくなるかもな)


「メメリー、お腹空いてないかしら?友だちになってくれたお礼に、なにか食べ物をとってきてあげるわ。」

「食べ物!? 狼の食べ物といったら――。」

狼は悪い奴という先入観しかないメメリーは、人間の肉をむさぼり食うリコラの姿を想像してしまった。


「あそこに美味しそうな木の実が生えてるわね?ちょっと待ってて。すぐにとってくるわ。」

リコラは、近くの木の幹に爪を立てると、慣れた動作で上って行き――あっという間に降りてきた。


「はい! 新鮮な実が沢山採れたわ。ほら、メメリーも食べて。美味しいわよ!」

さっそく採った実を、口ー杯に頬張るリコラ。

それを見たメメリーも、恐る恐る透き通るように赤く熟れた実を口にした。

「酸(す)っ!

す……酸っぱい! けど、美味しいの!あの木になってる実がこんなに美味しいなんて、きっと、ばっちゃんも知らなかったの!」

「メメリーは、今まで食べたことなかったの?この近くに住んでいるんでしょ?」

「木の実は、あんまり食べないかも。」

「じゃあ、いつもなにを食べてるの?」

「狼退治をしたり、森を見張ってたお礼に村の人から、守り代を頂いてるの。」

「小さいのにメメリーは、自分の腕で稼いでるのね? 偉いわ。」

「偉い!? 本当に? メメリーは、偉いの!?」

「偉いわよ。私は……今までずっと周りにいる半狼たちに頼ってばっかりだったわ。ひとりになってようやく自分の無力さに気付いたの。

実は果物の採り方も、ついこの間まで知らなかった。今までずっと周りの半狼たちが採ってきてくれたから……。」


「エンシェントウルフ族の中では、良いご身分だったんだな?」

リコラは、力なく微笑み返すだけだった。

(このリコラって子、ひょっとして……)


「肉は? 今まで肉は食べなかったの?狼は、動物の肉を食べる奴らだって、ばっちゃんが言ってたよ。」

「私……お肉食べられないの。半狼なのに、変だよね?」

「確かにな。草食の半狼なんて、聞いたことがないぜ。」

「生まれつきお肉が食べられない体質で……だから、ずっと木の実とかキノコを食べてきたの。」

「無職のお兄ちゃんは、お肉食べるんだ?」

「もちろんだ。なにせ半狼だからな?」

「ふーん。やっばり狼なんだね。いつか人間の肉も食べるんだ……?いや、もう食べてるのかな?」


リコラに向けるのとは正反対の冷たい視線を感じて、ラグールは忘れかけていた自分の立場を思い出した。


「あ、いや! 違う! 俺も肉、嫌い! 大っ嫌い!

俺様、肉の話になるとじんましんが出てくるぐらい肉嫌いなんだ! ほら、ここ、じんましん!」

「半狼にだって色々いるのよ。メメリーにだって、好き嫌いはあるでしょ?

「うん……。実はメメリー、キノコが食べられないの。歯ごたえが、あるのかないのか、わかんないあの食感が苦手なの……。」

「それはきっと、いままで美味しいキノコを食べたことがないからよ。

今度私が、メメリーのために美味しいキノコを採ってきてあげるわ。」

「本当に? あ、でもだめ。キノコのことを考えると、いつもお腹の横が、むずむずしてかゆくなってくるの。」

「わかるわ。私もお肉のことを考えると、背筋がむずむずしてくるの。」

「リコラもそうなの?みんなから変だって言われたけど、やっばりむずむずするよね!?」

「私たち似たもの同士ね? うふふふ。」


リコラは、上の木の枝を見上げた。

美味しそうな木の実や果物は、まだ沢山実っている。



「今度はあの赤い実を採ってきてあげる。あれも美味しそうね!」

「あ、リコラ。」

「どうしたの?」

「……気をつけて。木から落ちたら危ないよ。」

「ありがとう。メメリーは、優しいわね。私を捕らえた人間たちとは、全然違うわ。」

「……ごめん。」

「どうしてメメリーが謝るのよ? 変なの。」


またしても目にもとまらぬ速さで、リコラは木を登って行く。

それを心配そうに眺めながらメメリーは考えていた。


(狼は悪い存在。だから、それを退治するために赤ずきんがいるんだってばっちゃんが言ってた。

でも、メメリーは、リコラを退治したくない。だってリコラは、悪い狼じゃないもん!

悪いのは、リコラを捕まえてた人間たち……だよね? でも、人間は狼に食われる側、守ってあげるべきだってばっちゃんが言ってた。

ってことは、ばっちゃんが間違ってたの?わかんないよ……。うーん。うーん……うーん)







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