【黒ウィズ】ストリー(謹賀新年2018)Story
2018/01/01 |
目次
主な登場人物
未編集
story1 仲間たちと過ごす年の瀬
「ううううっ。寒いなあ。朕は、冬という季節は苦手だ。
「でも、ようやく着いたね。さっそくおコタの電源入れましょう。
ストリーたちに久しぷりの休暇が訪れた。
異界を監視する仕事から離れ、のんびり休暇を過ごすためにこのたび、特別な異界を訪れたのだ。
この異界の名――。その名も『年末年始をのんびりと通ごせる異界』である。
「うむ。コタツはいい。コタツに入るど正月”とやらが、来た感じがする。
「朕、去年はおコタの居心地が良すぎて、うっかり中身が、温泉卵になっちゃうところだったよね。
「うむ。そうだな。こうして暖まっていると、うとうとしてきて、つい……。くか~。
「はやっ。
異界を監視する業務は思った以上に集中力を使うし、神経もすり滅らす。
「疲れてたんだね。ここにいる間だけは、仕事のことは忘れてのんびり休んでいいんだよ?
でも、私は、のんびりしていられないのでした。みんな(・・・)が来る前に、お雑煮とおせちの準備しなきゃね。
ここまで運んできた買い物袋から、必要な材料を取り出して、年の瀬を過ごす準備を開始するのだった。
「そうそう。これも、忘れちゃいけない、一番大切なものでした。
“お餅”や“みかん”といった食材と共に取り出したのは、一冊の古びた文献。
表紙には、「和ノ国流新年の過ごし方」と書かれていた。
「やっばり、年末年始は、和ノ国流で過こヽすのが一番だよね。お雑煮におせち料理に、おコタでみかん。
それに、この異界にいる間だけ、顔を合わせることができるお友達――
タイミング良くドアがノックされた。
「きた!
「こんにちは~。ストリーちゃん、久しぶり~。
「1年ぶり~。元気だった?
去年、リミーラとはこの異界で一緒に年末年始を過ごした。
招待したわけじゃないのに、リミーラが乗っている白馬のコウが、誤ってこの異界にきてしまったのだ。
せっかく来たのだからと、ストリーはリミーラをもてなした。それ以来の再会である。
「羽根つきのつづきするでしょ? 今年は、絶対負けないんだから。
「もちろんです。あ、羽子板もいいですけど、今年は「人生ゲーム」もありますよ。
「なにそれ、やってみたい!
「まずは、旅の疲れを癒やしてください。白馬のコウさんも、ご苦労さまでした。にんじんも、たくさん用意してありますよ。
「おう。邪魔するぜ。
リミーラは、さっそくコタツに潜り込んだ。
「ぬく~い。でたくなーい。
「私は、おせちの用意をしてますので、のんびりテレビでもどうぞ。
またしても、誰かがドアをノックした。
「は~い。いま行きますよ。は~、年の瀬はやっぱり忙しいですね。
「こんにちは……。この度は、呼んでくれてありがとう……。
「ブリュムさ~ん。お会いしたかったです。実際に顔を会わせるのは、はじめてですよね?
「アスモデウスの一件以来ですね。あの時は、ご苦労さまでした。
「こちらこそ、お世話になりました。あ、ここで立ち話もなんですから、ささっどうぞ奥へ。
と、案内されたプリュムだったが、コタツでだらけているユームとリミーラを見て、あわててストリーの背中に隠れた。
「知らない人がいる……。
「さすがのブリュムさんも、このふたりはご存知ないですか?
こちらにいるどうみても卵に服を着せたような人は、私の同業者のユームさんです。朕が口癖だから、私は朕と呼んでます。
「……朕、少々熱い。このままでは、固ゆで卵になってしまう。むにゃむにゃ。
「まあ、それは危険!?コタツで眠りすぎると身体に悪いと言いますし。
朕も、お料理手伝ってください。ちょうど、だし巻き卵を作るところでしたから……よいしょ!
「寒い!
「それから、こちらにいるのが、王子さまを探していろんな異界を駆け回っているリミーラちゃんです。
「やっほー。ストリーちゃんの友達?私、リミーラ。よろしくね?
「悪い人じゃなさそう。よ……よろしくお願いします。
「そんなところに立ってないで、おコタにどうぞ。
「な……なんですか、これは?このなかに、足を入れるんですか?
「なかで、足が当たっちゃうことがありますが、それはお互いの距離が近づいた証拠です。
「はう……。暖かい……。眠くなってきちゃう……。すー。
「ブリュムさんも、おコタの魔力には勝てませんでしたね。
さーてと、あとふたりやってくる予定なんだけど………どうしたのかな?道に迷っているのかな?
噂をすれば……。ゲッチュだね!はーい。いま、いきまーす。
「魂を浄化させるほどの強力な文明の利器とは、いったいいかなるものなのか。
口伝えではよくわかりませんでした。ならば、この目で直接たしかめるほかありません。
story1-2
「ハクアっち! ようこそ!顔会わせるのは、はじめてじゃない?だよね?
「暗き旅路を示す、ささやかなる道しるべよ。あなたとこうして直接面識を得たこと、嬉しく思います。
「そんな堅苦しい挨拶は抜きにして、さあ入って入って。
「ハクア・デスサイス。まさか、あの人までいらっしゃるとは。
「あの、鎌を持ったひとのこと、知ってるの?
「冥界出身のハクアさんね……。悪い人を見つけては、あの鎌で冥界に誘うの。
「ヘー。おっかないね。
「ハクアっち。これが、前に話したコタツだよ。どう? さっそく入ってみる?
「これが?たゆむ布に覆われた、四角い小さな寝所にしか見えません。
「まあ、そう言わずに入った入った。あ、鎌は邪魔だからこっちに退かしておくね?
「その鎌は、咎人を冥界に誘うためのもの。迂閥に扱うと……。
すー。
R「はやっ。
「コタツの居心地のよさは、ハクアっちでも抗えなかったようだね。
それにしてもハクアっちの寝顔、超かわいいー。写真に収めておこうっと。
P「そんなことしていいの? 目を覚ましたら、なにをされるかわからないわ。
「怒るかな?そもそも、ハクアっち、写真ってわかるのかな?
「そんなことより、誰か料理を手伝ってくれ。朕ひとりでは、ゆでたまごしか作れん!
「はーい。いま手伝うよ。みんな、もうすぐお雑煮できるからそれまでのんびりしててね。
コタツを囲んで、和やかな歓談。
年の瀬の緩やかな時間は、ゆったりとすぎていく。
P……でね、神界が崩壊したとき、私はただ眺めていることしかできなくて……虚しかったわ。
Hわかります。私も、いつくかの世界の終焉に立ち会いましたが、そのたびに、言葉にし難い切なさを感じます。
Pハクアさんもわかってくれる? 理解者ができてよかったわ……。こういう話、ストリーさん以外にできなくて。
H咎人を探し、さまざまな世界を回るうちに、孤独でいるのが当たり前になっていました。
でも……いいものですね。こうして穏やかに、他者と心を交わらせるのも。
そう言ってハクアは、顔だけ出して、肩までどっぷりコタツの中に潜り込んだ。
(ハクアっち、おコタ気に入ってくれたみたいでよかったー)
一方で、ストリーは、テレビと呼ばれる文明の利器に観入っていた。
「なかなか面白いVTRだったね?どうですか、ひな壇にいるタワシ(・・・)ちゃん。
「マワシだよ! 私の名前は、マワシ! タワシって、台所ゴシゴシするやつでしょうが!?
「ツッコミが長いよ、タケシちゃん。
「タケシって誰だよ!? シしかあってねえよ! 私の名前はマ・ワ・シ!
Sあはははっ。このふたり、相変わらず面白いよね。
Yいま、トリテンちゃんが喋ってるから静かにしろ。彼女の声が聞こえないじゃないか。
Rテレビっていつ見ても不思議。中に人が入って喋ってるんじゃないよね?
Sあ、そろそろかな。
ストリーは、立ち上かって台所へ向かう。
ちょうど雑煮が煮えたところだった。
Sはい、みんな。お雑煮ゲッチューだよ。
Hぞうに? とは、いかなる供物でしょう?
Sお餅っていう、柔らかくてあまーい具が入ったスープみたいなものだよ。
鍋からすくった維煮をそれぞれ順番に配っていく。
Sみなさん、行き届きましたね? それじゃあ、いただきまーす。
みんなストリーにあわせて、いただきますの挨拶。
そして箸という慣れないものに苦戦しながら、出された雑煮を口に運んだ。
P暖かいし、すごく……美味しい。
Sでしょ? これを食べなきゃ、年は越せないよ。
Yこの書物によれば、年越しに食べるのは、そばという食べ物らしいぞ? 雑煮は、年明けに食うものじゃないのか?
Sまあまあ。そういう細かいことは置いといて朕も食べましょうよ。
Y朕、口がないから食べられない。
S殻を割って、隙間から流し込もうか?
Y火傷するわ!
Rこの白いのがお餅なの?パンより柔らかくて凄く、のび~~~るわね。
Sうにょーん。
Pうにょーん。
Rう……うにょーん。はちちっ!
餅の伸びを競い合う3人。
その隣では、ハクアが餅を喉に詰まらせて苦しんでいた。
Sハクアっち、よく噛んで食べなきやダメだよ!はい、お水。
H喉に熱い物が流れ込んでいくさまは、さながら煉獄の奥底を進んでいくように熱く、苦しいものでした……。
Sお餅は美味しいけど、気をつけて食べないと喉に詰まらせて死んじゃうひともいるらしいの。
Hそれによって死界に誘われるのもひとつの運命。きっとこの食べ物は、ひとの業を浄化する使命を帯びているのでしょう。
S……そ、そうなの?
H冗談です。
story2 lKENAI☆ハプニング!
S天界も大変そうだね?あのひとたちって、いつも見ててハラハラしちゃう。
Pミカエラとイザークのふたりがいるから、大きな戦争にはならないけど………。
魔界にいる方々のほうが、活き活きしてるのはたしかね。
コタツの中でブリュムとストリー、お互いの足が当たる。
Pきゃっ!ごめんなさい。
Sおっけーおっけーだよ。肌が触れあうのも、おコタの風情だから。
Pふだん、他人に触れることがないから、凄く新鮮……。
Sおや?これは、リミーラちゃんの足かなあ?肌すべすべだねー。
Rえ? 誰も私の足に触れてないわよ?
H……
ストリーの隣にいるハクアが、気恥ずかしそうに目を閉じていた。
時間は、静かにすぎていった。
みんなでおしゃべりをしたり、テレビを観たり、おせちを作ったり。
のんびりしながらも、充実した時間をすごしていた。
Sこういうのもいいよね~。
いつも仕事に追われてて、こんなにのんびりする機会なんてないもの。ね、朕?
Y最初は不安だったが、この様子だとなんの問題もなく、年を越せそうだな?
Sこれだったら、毎週、年末年始が訪れないかなって思うよね。
Y年末年始とは?
Rあーっはっはっはっ。いまの、すんごくうけるー。
ストリーの向かい側に座っているリミーラは、ふだん見ることのないテレビに釘付けだった。
その隣では、ハクアとプリュムが、みかんの薄皮をいかにきれいに剥けるかを競い合っていた。
D……いったいここは、どこなのだ?
ドアの手前には、見知らぬ人(?)が立っていた。
Sお……お客さんですか?
D魔界を彷徨っていたら、いつの間にかこんなところに……。お、人がいるではないか。
S朕、あの人、招待しました?
Yいんや。知らん。
Pあれは、テスタメント。
S元人間だった大天使さまだよね? イアデル王の優秀な側近だった人。
P天界で奸計に嵌まって追放されて以来、行方が判らなくなっていたのに。
いつの間にあんな猛々しい姿になったのかしら?
Dそうだ。ここに来る直前、空間の歪みのようなものに足を踏み入れてしまったような気がするぞ。
Yふーむ。異界の歪みによって、この異界と魔界とが、意図せず繋かってしまったのかもしれんな。
Sそういうことでしたか。あるよね、そういうことあるある~。
D早く元いた場所に戻らねば。私には、やるべきことがあるのだ。
Sそう言わずに、せっかくいらしたんですからくつろいでください。お雑煮でもどうですか?
Dどうせ魔界から出たのなら、いっそ天界に戻りたかったぞ。
P戻ってどうするつもりなの?
D私を嵌めた男を捜している。マクシエル・ウーゴ………。そいつに復讐したいのだ。
やつは、きっといまも天界にいるはず。
帰る道を教えてくれ、お前たちには迷惑はかけん。私自身の失態は、私自身でケリをつける。
S異界の歪みならば、30分おきに玄関の右隣の自販機の横に発生してますよ。
Dかたじけない。
そう言って頭を下げると、テスタメントは入って来たばかりのドアから出て行った。
Sもう少し、ゆっくりしていけばいいのに。
H生きとし生けるものは、己に課された因果に縛られるもの。例外はありません。
Sじゃあ、ハクアっちを縛る因果って?
H絡みついた糸が複雑すぎて、私にもよくわかりません。
こちらとしては、まとわりつく火の粉は払うのみです。
そういって、ハクアはコタツに潜ってみかんの皮をむき出した。
薄皮を全部きれいにとって、ストリーに差し出す。
Sハクアっち、みかんの皮むくの上手!?
Hなにごとも、鍛錬あるのみです。
Sハクアっちって、ほんと器用だよね。
Mとつぜん失礼。どうやら、違う世界に迷い込んでしまったようです。
Pえ……?
M帰る方法を知りたいのだが、どなたかご存じないでしょうか?
Sあなたは天界の……え、偉い人ですよね?
M私を知っているのか?ならば、ちょうどいい。帰り道を教えなさい。すぐに戻らねばならんのでな。
S(朕、さっきのお方は……)
(安心しろ。とっくに帰っている)
((あ……危なかったー))
story2-2
Mむ? これはコタツ(・・・)というものではないですか? 風の噂に聞いたことがあります。
せっかく迷いこんだのです。試しにコタツの効用とやらを試させてもらいましょうか。ふむ。温かいですね。
ストリーたちは、ドキドキしていた。
S(でも……さっきのテスタメントさん。戻ってきたりしないよね?)
Y(それはない。おそらく異界の歪みから、元いた魔界に帰ったはずだ)
こんなところで因縁深いふたりが遭遇して、一悶着など、勘弁して欲しいぞ)
ストリーたちは、異界そのものの滅亡に関わるような大事件には、関与できるが――
それぞれの異界内部で起きる事件には、関与してはならないという上(・)からの強いお達しに縛られている。
S異界の歪みちゃんも、困ったものだよね。どうしてこう、あちこちに開いちゃうかなあ?
Y原因をあとで調べる必要があるな。やれやれ、結局仕事をすることになるのか……。
Rねえ、ゲームでもしない?
そんなストリーたちの心配を余所に、コタツを囲んでの人生ゲーム大会がはじまった。
Mちっぽけな人間たちが、ささやかなボードの上で、儚い人生を競いあうなど………愚かなことですね。
P6が出たわ。アイドル歌手としてブレイクし、嘘つきの猫に騙される……だそうよ。
Hはからずも、子宝に恵まれました。みなさんから、お祝い金を頂戴いたします。
Rハクアさん、これで子ども5人目?作りすぎじゃない?
H遊戯の中とはいえ、これで私も世俗の人間に近づいた証拠です。
R私はどうしてゲームの中ですら、結婚できないのよー。
Sあれ? なんか、おコタが冷たくないですか?
Yおっと、間違えて電源を切ってしまったのかも。
Mどれどれ、私か見てあげましょう。
コタツに潜り込んで、電源を探すマクシエル。
Dおや?またしてもこの世界に飛ばされたようだ。
Sええっ!?
み……道に迷いましたか!?では、私か送って差し上げます!どうぞこちらへ! さあ! さあ!
Dお……おう、すまん。
M中で明りが点きました。きっとこれで温かくなるはずです。あれ……? いま誰か来てませんでした?
Pき……来てなかったわよね?
Yさあ、なにも知らないなあ……。
D先ほどから良い匂いがする。腹が減ったところだ。なにか食わせてくれ。
P(……も、もどってきましたよ!)
Y(こうなったら、コタツのコンセントごと抜いてやる! えい!)
あ、あれ~。またまた、コタツが冷たくなってきたぞ。
Mおかしいですね。少しお待ちください。もう一度調べてみます。
Yいまだ。コタツに閉じ込めるんだ。
Dなんだ騒々しいな?
Sだ、台所はこちらですよ!お腹が減っているのでしたら、お餅でもどうですか?
(朕~。ナイスカバー!)
M電源のようなものは、ちゃんと「ON」になってますよ。これで暖かくならないとは原因がわかりません……。
おや? この紐はなんでしょうか? これが外れているから、温かくならないのでは?
Yあ、ほ……ほんとだ~。誰かが、間違ってコンセントを外したんだな? そのせいか~。
S(朕! いまのうちに、マクシエルさんを異界の歪みに放り込んで!)
Y(無茶を言うな!)
Dストリーどの。この焼き餅というのは、なかなかうまいのう。きなこというものが付いてるのが、とくにうまい。
Yうぎゃあああああっ!
ユームは、飛び上かってマクシエルの顔に抱きつき、視界を奪った。
Mこ、こら!なにをするのです!?
Yご存じない!?これは正月の名物、お年卵というやつだいお祝いに卵を顔にぶつける習慣なんだ!
Mそれはわかりましたが、これでは前がみえないでしょうが! 危ない! 転ぶ!
D魔界で食したダークなんとかという、菓子に食感が似てるのう!
Sあ、あのこちらには……なにもありません。だから、部屋に入ってはいけませんよ!
ストリーが必死に押しとどめるが、テスタメントはコタツの部屋に入ってこようする。
H助太刀いたします。
危機を察したハクアが、みかんの皮を絞って目が痛くなる汁をテスタメントの眼球に命中させる。
Dぐあっ! なにをする!? この私を愚弄するか!くそう、目が痛い! これは毒か?
テスタメントは、両手で目を覆った。
H失礼。手がすべりました。
Dくそう。目が開けられんではないか!? 水……水はどこだ?
Mどきなさい卵君。というか……いい加減にしろ、この卵野郎!?
Dうおおお! 目が……目があ!
Mおっと失礼……。
Dいや、こちらこそ。
……ん? いまの声、どこかで聞いたことのある声のようだが……。
Sあ~あ~あ~!かなづちの歌~。かんながけの歌~
年の瀬には、みんなで大工という歌を歌うそうです! あ~、あ~、あ~!
Dもう、わかった。やめろ。うるさくてかなわん。
S目を洗った方がいいですよ。洗面所へどうぞ!
story3 いい年になりますように
S(ハクアっち、ナイスアシスト! 超助かっちゃった!)
Hこの程度、日頃の礼にもなりません。
それでは……。私はしばし、花を摘んでまいります。
Mいい加減に離れないか、この卵野郎!
Yぐはっ!
S朕!
Mふう……おかしな風習もあったものですね。
コタツも堪能しましたし、そろそろ帰らせてもらいます。異界の歪みはどこでしょう?
ストリーは、歪みが発生する場所を教えて、早々にマクシエルにお引き取り願った。
Sはあ……よかった。なんとか大惨事にならずにすんだよ。
残念ながら、朕は犠牲になりましたが、ストリーはあなたのこと、生涯忘れません。
Y朕は、まだ生きている……。勝手に殺すな……。
Sあれ? 異界の歪み見つかりませんでした?
ここはどこだ? なぜ私は、こんなところにいる?
Pギンガ・カノン……? どうして彼女まで?
R一難去ってまた一難ってやつ?
Sよ……ようこそお越しくださいました。……と、言いたいところですが、いま、ちょうど立て込んでおりまして――
K私だって、来たくて来たわけじゃないさ。帰る方法を教えてくれれば、勝手に去るよ。
S表に出たところの自販機の隣に異界の歪みが発生してましてですね……。
M教えてもらった場所には、異界の歪みなどありませんでしたよ? 娘さんの勘違いでは?
と言いながら、マクシエルが戻ってきた。
Y(ひよっとして発生していた歪みは、自然生滅してしまったのかもしれないな)
テスタメントはまだ洗面所で目を洗っているようだが、いつ戻ってくるか、しれたものじゃない。
ハクアの方も、小さい花を摘みに行ったのなら、そろそろ戻ってきてもおかしくない。
Sい……いますぐ、新しい歪みを探しに行きましょう! だから、外に行きましょう。はやく!
Mな……なにをするのです? 外は寒いのですが……。
K歪みがある場所を知つてるなら、とっとと教えな。
こんなところで油売ってる暇なんかないんだ。私は、さっさとあの女を殺しに行きたいんだよ。
最悪のタイミングで、ストリーたちの耳に届く足音。
S(まずい、ハクアっちが戻ってきた!)
Yあー! あそこ! あそこに歪みっぽいものがあああ!
「「え?どこに?」」
H禍々しき気配を感じました。なにかありましたか?
Sううん! なんでもなかったよ。それよりハクアっち、お料理手伝って。台所に行こうよ。ね? ね?
Hもちろん、お手伝いしますが……。
Dようやく視界が戻った。酷い目にあったわい。
Mすいません。コタツの上にメガネを置き忘れました。
Yえ!? ちょっと!? メガネ、してるじゃないか。
Mこれは替えのメガネです。
K歪みなんてないじゃないか。にしても、外は予想外に寒い。歪みが再び発生するまで、暖を取らせてもらうよ。
Yいやいや、お二方。しばし、しばし待たれよ!
Sなんでもどってくるのー!? まずいよ! まずいよー!
Hむ?禍々しき気配がより濃くなりました。
D先ほどから、私を陥れたあやつの声がするのう。まさか……いるのか?
だったら、幸い。ここで積年の恨み、晴らしてくれよう!
S(もうだめだー!朕、私たち明日から無職決定だよ!)
もう、ダメだと思った矢先、とつぜん、外が騒がしくなった。
Rみんな、気をつけて! 暴れ馬よ!
ひひーん! ひひーん!
Mこれは面妖な。なぜこのようなところに暴れ馬がいるのです?
退け退け~!人の恋路を邪魔しなくても(・・・・・)、馬に蹴られて死んじまえよ!
Mぐはっ! なぜ私が……!?
Kなんだよこのバカ馬は! 私に斬られたいのかい?
ひっ!? おっかない眼光!
Rコウを虐めないで!ごめん、知らない人ばかりだから、ちょっと興奮しただけなのよね?
Kちっ。なんだい……。
お? ちょうどいいタイミングで、歪みが発生したわ。私はこいつで帰らせてもらうよ。
M私も、帰ります……。酷い目にあった。
S(よ……よかった。リミーラちゃん、ありがとう!)
R(お礼はいいよ。私もなにか役に立ちたかったし)
Hなにやら、騒がしかったようですが、禍々しき気配は、消え失せました。
Sそれよりも、ハクアつち。おせち作ろう? ハクアっち器用だから、絶対料理上手になるよ。
H包丁の使い方を教えてください。私の鎌では、うまくネギが切れなくて。
D私もそろそろ帰らせてもらう。餅という食べ物、うまかったぞ。
Yふー。これで、予想外の来客は全員帰つたな。一時はどうなることかと思ったぞ。
S大変ですね。ストリーさんも。
Yやや? セティエ・レーじゃないか。
S遅れてごめんなさい。仕事が長引いちゃって。それより、明日、みんなで初詣に行きませんか?
Y初詣か、それはいいな。みんなで行こう。
story3-2
ここは「年末年始をのんびりと過ごせる異界」だけあって、初詣用の神社もちゃんと存在していた。
年が明けて新年を無事迎えたストリーたちは、神社へ向かっていた。
Yコタツでほてった卵には、外の寒気が心地いいな。
s初詣って1回やっちゃうと、毎年やらなきや気がすまなくなりますよね。
Sわかるー。去年のお願いなんて、全然叶えられてないけど、なんだか詣ないと、損した気持ちになるよねー?
ブリュムさんもハクアっちも、今年お参りしたら、来年もきっとお参りしたくなるよ。
P来年……? この異界の1年は、私がすごしている異界では何日分かしら?
Hストリーに呼ばれたら、また来るだけです。冥府の断罪者には、時の流れは無関係ですので。
s異界ごとに時間の流れが違うから、ややこしいですよね。管理するのも大変なんです。
Sお仕事大変だよね。
sまあ、ふだんちゃんと仕事してるから、たまにこうして羽を伸ばすのが楽しいんですけどね。
R耳が痛いわ。
s……それにしても異界の歪みが、あちこちに発生しているみたいですね。
Zここはどこだ……? 私の民は、どこに行ってしまったのだ?
Sそうだった。異界の歪みの大量発生をなんとかしなきゃいけないんだった。
s歪みの発生は、天災みたいなものですから、私たちでは、どうにもできません。
放っておけば、そのうち収まりますよ。うん。
Sそんなものかなあ?
Y適当だな。
よーし、この杖さえあれば、パパを……ってここはどこ?
いったい、どこだここは!? どうすべきなのだ?進むべきか、退くべきか。だが……だが……だが……。
Rなんだか、いろんな世界の人たちが紛れ込んじやつてるみたいだね。
Sさまざまな異界で生じた歪みが、私たちがいるこの異界と繋がってるようだね。朕、どうしよう? さすがに放っておけなくない?
Yうーむ。
ぶう。ぶう。 ぶう。
なーう。なう。あれ~、ご主人さまどこー?
新年から筋肉を鍛える喜びに満ちあふれてるぜ。つて、おい。ここはどこだ?
sさすがにメチャクチヤになってきましたね。
Yなにも知らずに迷い込んできた彼らを、そのままにしてはおけないな。
S初詣は後まわしだね。
Y結局、仕事をするのか……この異界でも、のんびりできることはないんだな。
Sまあまあ、そう愚痴らないで。異界の歪みは、そのうち収まるみたいだし、いまだけ、我慢我慢だよ。
はい、みなさーん! お帰りはこちらでーす。私についてきてくださ~い。
なんだか知らないけど、お姉さんについていけば帰れるんだね?
ぷうぷう。ぷうぷう。
のんびり過ごすはずだった休暇は、予想外に賑やかな展開となりました。
でも、終わってみれば、楽しかった思い出ばかり。
しかし、来年こそは、のんびりとすごしたいなーと思ったりもします。
魔法使いさんは、どんなお正月を過ごされましたか?
また近いうちにお会いすることもあるかもしれません。その時は、お話聞かせてくださいね。
それでは、今年も良いお年を。万物の始まりと終わりを見通す異界より、ストリー&ユーム……。
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