【黒ウィズ】ジョッシュ・ソール
ジョッシュ・ソール CV: |
2017/00/00 |
バックストーリー
ジョッシュ・ソールほど悲しい運命を背負ったヴァンパイアはいない。
彼は高名な男爵家の長男として生まれ、やがて家督を継ぐ者として大切に育てられた。
それはまさに愛に満ち溢れた少年時代だった。――その能力に目覚めるまでは。
ジョッシュが自分の能力に目覚めたのは、ある春の朝のことだった。
その日、風邪で臥せっていた母の為にジョッシュは花を摘んだ。
「へへっ。母様、これお見舞いのお花! 早くよくなってね」
「……ジョッシュ、あなた……そのお花」
母の曇った表情に驚き、手にした花に目を落とすジョッシュ。
先ほど摘み取ったばかりの花は、その小さな手の中で無残に枯れ果てていた……
ジョッシュの目覚めた能力とは、触れたものから生気を奪う、死を与える能力だった。
その力は自分の意思とは関係なく発動し、手にしたものの命を奪っていく。
父は領地の僻地にある深い森に屋敷を作らせ、ジョッシュを一人住まわせた。
最愛の母でさえ、ジョッシュを忌み嫌うようになった。ジョッシュはその力ゆえに、愛を失ったのだ。
それ以来、窓から見える風景をただ見つめるだけの生活が何年も続いた。
そうして何度目かの冬が近づくある朝のことだった。
ジョッシュは窓の外を歩く一人の女性に目をとめた。女はボロボロの服をまとい、木の実や野草を摘んでいる。
最後に人を見たのはいつのことだろう。
――話をしてみたい。
強い衝動に駆られたジョッシュは、そう思う間もなく扉を開き、彼女を屋敷に招き入れた。
彼女の名はロゼット。いわれなき罪により、魔女裁判にかけられることになった彼女は、迫害を逃れ一人この森へ身を潜める様になったという。
互いの悲しみを分かち合う二人はほどなくして打ち解けた。彼の悲惨な半生に涙を流すロゼットにジョッシュは言う。
「不幸な運命を嘆くのは今日でやめよう。僕たちはもう孤独ではないのだから……」
その日以来、二人は毎日顔を合わせ、文字通り朝から晩まで話をした。ジョッシュの冗談にロゼットは声を出して笑った。
そんなロゼットを見てジョッシュも笑った。どれだけ喋っても会話が途切れる事はなかった。
二人はこれまでの失った時間を取り戻すように、人生の春を謳歌した。
そんな二人が互いを深く愛するようになるまでに、さして時間はかからなかった。
ジョッシュはロゼットに触れたいと願った。
ロゼットはジョッシュの腕に抱かれたいと願った。
互いの愛を意識した瞬間から、二人の新たな悲劇が始まった。
どれだけ心を寄り添わせても、決して肌を重ねる事は出来ない。
愛が深まるほど、すぐ隣にいるはずの相手が遠く感じられる。
そのジレンマが、万力のように二人の心を一日、一日と締め上げていった。
そしてついに、二人の春は終わりを告げた。
ジョッシュの腕に抱かれてロゼットは死んだ。
ジョッシュは二つの棺を作った。
一つはロゼットの為に。そして一つは自分自身のために……
しかしヴァンパイアのジョッシュに、神は自死する自由さえ与えることはなかった。
出来る事は、棺の中でただ眠る事だけだった。
愛深きヴァンパイア、ジョッシュ・ヒール。その悲しい眠りを妨げる者に対してのみ、彼は容赦のない死を与えるだろう。