【黒ウィズ】魔杖エターナル・ロア
魔杖エターナル・ロア cv.細谷佳正 |
自分を使う者に絶大な力を与えるかわりに、やがてその持ち主の精神と身体を奪い取ってしまう悪しき杖。
封印されていたが、リルムに封印を解かれ、持ち出された。
しかし、自分の言葉に一向に耳を貸さないリルムの精神を乗っ取れず、その上、杖としても使われない有り様。
基本的に投げられたり、道を決める道具にされたり、物干しにされたりと、散々な目に遭っている。
その扱いの悪さにも慣れ、リルムの保護者のような目線で語りかけるようなことも増えてきた。
我だ。〈魔杖エターナル・ロア〉だ。
我はいまもあの小娘と旅を続けている。あいかわらず話を聞かないので、最近では語りかけるのもやめた。いまだに杖は投げるものだと思っているのだけは、なんとかしたいのだが……
ある時、我と小娘はハロウィンを祝う王留にやってきた。
数百年ほど前のハロウィンは、魔法使いや魔女たちがつつましく行っていたものだが、いまでは都をあげて大々的に行われるようになったらしい。
時代の移ろいは激しいということか。
なかでもまったく趣向が変わってしまったのが〈トリック・オア・トリート〉だ。
かつては子どもたちが家の前にやってきて、「トリック・オア・トリート」と略え、菓子などをも
らうだけだったはずだが、いまでは年に一度に魔道、魔術を志す者が一対一の魔道対決を行う行事となってしまったようだ。
我はそのことを憂えているわけではない。むしろ心がおどりすらした。
なぜなら、あの小娘が何の因果か、〈トリック・オア・トリート〉に参加することになったのだ。
そして、対戦相手の少女ソフィ・バーネットと出会うことができたからだ。
彼女を見たとき、我に電撃が走った。
なぜ我の持ち主は彼女ではないのか。何もかもがウチの小娘より上ではないか。侮しい。悲しい。
彼女と小娘を見比べた瞬間、我は我が身の業の深さを呪った。
しかし、諦めるのは早い。
この〈トリック・オア・トリート〉では対決する看同士が、何か一つ大事なものを賭けて、勝負に挑むのだ。勝負に勝てばそれを得て、負ければ奪われる。
魔道を志す者にとって大切なものといえば、もちろん魔道具だ。つまり我だ。杖だ。
「何か一個大事なモノか。うーんと何がいいかなあ。さっき貰ったパンプキンパイとか?」
なぜそうなる。
「キャンディー、ショコラ、ドーナツ……他にはなんだろうなあ」
我、我。我がおるぞ。右手におるぞ。
「お菓子ならソフィもいっぱい持ってるから賭けにならないよ」
さすがソフィ。申せ申せ、もっと申せ。我が欲しいともっと申せ。
「えーと、むずかしいなあ」
杖ッ! 杖ッ! 杖ッ! 小娘、杖と言え!
「この杖とか?」
我、感涙!
「ソフィ、杖使わないよ」
我、轟沈。
「あ、そっか。ごめんごめん。」
というわけで、ソフィが買えなかったという、かぼちゃオバケのぬいぐるみで手を打ち、この勝負は始まった。
結果? そんなものを言う必要があるだろうか。
我はまだ小娘と旅をしている。それだけだ。