【黒ウィズ】大魔道杯 in 月夜の思い出 「ドルキマス」Story
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開催期間:2018/09/20 |
story 月夜の思い出
笑顔でうさ耳を差し出され、ローヴィは心底困惑した。
〝佳月祭〟は、ドルキマスの伝統行事の1つだ。
元は秋の収穫を祝うもので、月に歌や舞を奉納し、大いなる天の恩寵に感謝を示す意図があった。
今は、月を眺めながらの宴会行事になっている。
空を戦場とする軍人たちにとって、天の恩寵を賜ることは、欠かせぬ験担ぎである。
豪放聶落な笑い声とともに現れた、第3艦隊提督ブルーノ・シャルルリエ。
その頭に、燦然とうさ耳が輝いていた。
シュネー国と講和を結んだのも束の間、ドルキマスはガライド連合王国との外交に失敗。戦争状態に突入した。
ガライド連合王国軍は、とにかく数が多い。互いの戦力比を考えれば、容易ならざる戦いになるのは明らかであった。
あれよあれよという間に、うさ耳をつけられ、ニンジンジュースを持たされ、甲板に送り込まれてしまった。
***
甲板では、多くの兵士が宴に興じていた。
でたらめに踊り出す者。故郷の歌を唄う者。ブルーノの物まねをして大爆笑を誘い、背後から現れたブルーノ本人に組みつかれる者。
酒は入っていないはずなのに、みな、心ゆくまで酔いしれたように盛り上がっている。
あ、チーズがもうないですね。お皿下げちゃってください、おかわり持ってきます!
エルナは、そんな兵士たちの間をちょこまかと動き回り、てきぱきと気を利かせて、他の従兵に間断なく指示を飛ばしている。
そもそも人の輪に入ることさえ苦手だった。今も、甲板の片隅で、ちびちびとジュースを飲むことしかできない。
すると、エルナがこちらに気づき、屈託のない笑顔でずかずか近づいてきた。
若い兵士の言葉に、場がドッと湧いた。
ディートリヒの気難しさは誰もが知るところだ。
談笑のネタになってもいるのだろう。
あまり話す機会のない兵士たちが、フランクに質問を投げかけてくる。
みな、ディートリヒのことは気になるらしい。ローヴィがちょっとした彼の癖を教えただけで、場が驚くほど盛り上がったりもした。
背後からの声に、ローヴィは仰天して振り返り――
絶句した。
その場の誰もがそうだった。
ディートリヒの傍らのエルナを除いて。
「「「「うさ耳閣下万歳!!ドルキマス万歳!!!!
兵士たちはたちまち総立ちになって、熱狂の声と拍手の音を夜空に響かせた。
後に、この出来事は〝佳月祭の奇跡〟と称され、ドルキマス空軍に長く語り継がれることとなる。
それは、このとき実に参加した兵士の多くが――
ブルーノ・シャルルリエも含め――ガライド連合王国戦で帰らぬ人になったせいでもある。
ディートリヒの従兵であったエルナも、後に鉄機要塞攻略戦で命を落とした。
彼女亡き今、ディートリヒのあのような姿を見ることは、もはやないのかもしれない。
ローヴィは、秋の月を見るたび思い出す。
他の誰にもできないやり方で、第3艦隊を支えた従兵がいたことを。
彼女の笑顔と元気さが、夜空の月の輝くように、みなに光を与えたことを――