【黒ウィズ】アリエッタ&エリス編(クリスマス 2018)Story
開催期間:2018/12/15 |
目次
story1
この世の終わりを思わせる爆発であった。
凄まじい爆音と――それに負けない無邪気な大音声。
「わっはっはー!世界を救うのは、このわたしだー!」
クリスマス2018 アリエッタ&エリス編
怪獣は椅子を勧めても座らず、へらへら笑いながらスカートの裾をつまんでみせる。
エリスは季節感を無視して、怪獣の目をしかと見据える。
ハーネット商会からの多大なる援助によって生み出された最新鋭の魔道ラボラトリーが、跡形もなく吹き飛ばされた。
最新鋭の魔道研究施設はアリエッタにこそ相応しい。人類の進歩と発展のため、大いに魔道を探求するがよい――
そう言ったのは、他でもないイーニアだった。
アリエッタは芝居がかった重々しい口調で言う。
そして、爆破できないと判断したものも結局爆破せんとする奴だ。
……たぶん。
エリスが返答に窮していると、アリエッタが詰め寄る。
そして、成功した。その証としての魔道ラボ爆破!
幾重にも展開した魔道障壁を突き破るほどの威力。これを成功と言わずして何と言うのか!
行いは99%間違っているが、残りの1%はアリエッタなりの正義なのかもしれない。
この世には2種類の人間がいる。けつが浮いたことのある者と、ない者だ。
まあ、少し噛み砕いて言うとだな……。けつが浮くことを経験して初めて、けつが浮かないありがたみがわかるのだ。
アリエッタはリルムと共に宇宙に行った。
魔道史の金字塔、グレェェーートギャラクシー計画の第一歩である。
何はともあれよくぞ無事戻ってきたとリルムやアリエッタは持て囃され――
エリスを含む協会の人間が、彼女たちに対し甘くなっていたことは否めない。
そろそろ厳しくいかなければならないだろう。
髪の毛をくるくるくるくる。 声高に『嘘ついてるよー!』と言っているようなものだ。
石畳をメタリックに塗装したり……。店先に並ぶ大根を全部すりおろしたり……!
これ全部アリエッタの仕業でしょう!歳末魔道取り締まりキャンペーン中だっていうのに……!
魔道ラボ爆破事件について、理事連中からの問責があるし、ハーネット商会にも謝罪しないと。
ソフィはけつ浮いたことないけど、けつ浮きサイドの人間に近い、革新的な思考を持ってるからなー。
確かにソフィは笑って許してくれるだろう。しかし、彼女の懐の深さと財力に甘えてばかりではいけない。
アリエッタが部屋から出ていく。贄を使ってお仕置きする…………のはひとまず後回しだ。
暗澹(あんたん)たる気持ちで一歩を踏み出すと、毛足の長い絨毯に足をとられ、つんのめって転んだ。
心身の疲労が溜まっているのだろうか。起き上がる気力すら、湧いてこない。
なんとなく、お尻を浮かせてみた。
当然、何か変わるということもない。
mエリスさん……何してるんですか……。
ドアを開けたミツボシが、うつ伏せになって尻を浮かせるエリスを見下ろしている。
言い訳は、特に思い浮かばなかった。
story
アリエッタはイーニアの私室に呼ばれていた。
物置みたいでなんだか狭苦しいなと思ったが、これがイーニアサイズかと思うと俯に落ちた。
そんな状況で、協会所属のお前があれこれ騒動を起こしている。
市民への申し開きや、ハーネット商会への謝罪。このままでは――
それに、力ずくというのも、根本的な解決にはならんだろうと思ってな。
イーニアの小言を聞き流しながら羽根ペンの羽をむしっていると、肩を叩かれる。
魔道の探求をやめろとは言わん。お前は未来を切り拓く稀代の魔道士なのだ。
イーニアが窓を指し示す。
外を眺めると、賑わう広場の様子が窺えた。
聖なるなんやら。魔道ターキーを食べたり、プレゼントを贈り合ったり――
どこからか伐採してきた大樹にあれこれ飾りつけたりする、楽しいお祭りである。
昔、杖をあげたことがある。また杖をあげる、というわけにもいかない。
私が欲しいのは、いい子のアリエッタです。他には何もいりません。……と、虚ろな目でそう言うばかりなのだ。
アリエッタは想像する。
そう、他には何も。ふふ、ふふふふふ……。
アリエッタァアアア……。いい子にしないと……あなたを殺して私も死ぬわ……
アリエッタランドから持って帰ってきたプライベート用の魔道ラボにて、アリエッタは魔道実験を進めていた。
わたしの分身を生み出せるはずだ。出てこい、いい子のわたし!
虚空から聖邪を超越したよくわからん光が溢れ出し――
いい子エッタが生まれた。
いい子エッタ。活動時間は限られているものの、とにかくいい子なすごい奴。
おまけに、ピンチのときには圧倒的火力で自爆する機能も搭載している。
story2 いい子エッタ
エリスは奇妙な威圧感で目を覚ました。
ベッドサイドに置いてあったローテーブルを押し潰す形で、巨大な箱が鎮座している。
おっかなびっくり杖で箱をつついてみる。すると――
満面の笑みを浮かべるアリエッタが出てきた。
神経が衰弱していたのでよく覚えていないが、そんなことを漏らしたかもしれない。
アリエッタが詠唱すると、部屋中に淡い光が広がった。
風邪ひいちゃうといけないから、魔法で隙間を塞いでおいたよ。
エリスは戸惑いながらも、アリエッタの頭を撫でる。
目の前にいるこの生き物は一体なんなのか。
こんなことが、あっていいのだろうか。
エリスは悟った。
もしくは、今まさに死にゆくところなのだろう。
小さい頃に読んだ童話、『マッチ売りの魔道少女』と一緒だ。
このいい子なアリエッタは、今際の際に見る幸せな幻なのだ。
エリスは穏やかな気持ちで、幸せに身を委ねようと思った。
魔道炊き出し、やってもいい?魔道シチュー、炊き出してもいい?
何かと思えば、ボランティア活動の申し入れではないか。
エリスは、目をらんらんと輝かせるアリエッタを直視できなかった。
こんなに優しくていい子なアリエッタは、まぶしすぎる。
story
アリエッタは哲学的思索に耽りながら往来を歩いていた。すると、誰かとぶつかってしまい――
どうやら壷を壊してしまったようだ。
八つ裂きにしてやろうかと思ったが、あとでバレると人道的にまずい。
せっかく身代わりがいい子ポイントを稼いでくれているのだ。
それを無駄にするほど、アリエッタは愚かではなかった。
相対的に安いほうでいこう。アリエッタは魔道空間から魔法書を取り出し、詠唱する。
まばゆい光を放ちながら、知り合いだけど決して友達ではない壷が現れる。
このひとを、あげます。
アリエッタは魔道チンピラと金の精を魔道障壁で囲って逃げ道を塞ぎ、その場から立ち去った。
***
聖なるなんやら前日である。広場は例年以上の賑わいを見せていた。
いい子エッタとエリスによる、歳末大魔道炊き出しである。
アリエッタは陰からふたりの様子を窺うことにした。
魔道ジャーキーをかじりながら長蛇の列を遠巻きに眺めていると、ひと際汚れた服の男が目につく。
誰かと思えば、先はどの魔道チンピラだった。
腫れあがった顔とボロボロの服を見るに、金の精と殴り合って負けたのだろう。話し合いでは解決できなかったようだ。
やがて、カレーの列に並んでいた魔道チンピラに順番が回ってくる。
横柄な態度の魔道チンピラは、地面に腰を下ろしてカレーを食べる。
すると――ひと口、ふた口とカレーを食べるうちに、涙をこぼし始めた。
立派な魔道士になるって田舎から出てきたのに、魔道チンピラになっちまった……。ああああああチクショウ!
魔道チンピラはガツガツとカレーを食べきると、濡れた目元を拭った。
心を入れ替えて、魔道の力で社会に貢献しましょう。
魔道チンピラはいい子エッタとエリスに頭を下げると、駆け出していく。
その笑顔は、晴れがましかった。
気づけば、広場中が笑顔だ。その中で一番きらびやかな笑顔は、いい子エッタである。
いい子エッタの無垢なる笑みを見て、アリエッタはちょっと胸やけがした。
そしてエリスである。しまりのない笑顔でいい子エッタの頭を撫でている。その様は、どこか牙を抜かれた獣を思わせた。
アリエッタは素早く魔法書を取り出し、詠唱。
アリエッタの魔法によって、カレーを食べるエリスが光に包まれた。
突如として衣服が変化したエリスは戸惑いを見せたが――
白いふわふわを外して、カレーを食べ始めた。
楽しげに話をするふたりを見て、アリエッタはもにゃりとした疎外感を覚えた。
story
いい子エッタの生みの親であるアリエッタは、そう評した。
魔道姿見の前でくるりと回ったアリエッタは、自らが纏った季節感に満足する。
最後に勝つのは愛でも正義でもない。……季節感だ!
聖なるなんやらの夜。アリエッタはいい子エッタの前に立ちはだかる。
エリスはアリエッタといい子エッタを交互に見て頭を抱える。が、得心したように手を打った。
私が見てる幻なんだから、夢みたいに不条理なことも起こるのね。
……よくよく考えれば、生前から不条理なことばかりだったけど。
アリエッタはびしりといい子エッタを指さす。
あ、わたしの魔法でその服になってるんだった。
いい子エッタがアリエッタとエリスの間に身体を滑り込ませた。
あまりにもいい子過ぎて、裏があるんじゃないかと思っちゃう。あと季節感がない。
新魔法書1225頁!悪を根絶やしにする大いなる意志!
一方その頃、宇宙では――
冬の夜空を見上げれば、迫る巨大な隕石である。
実際、やばかった。
アリエッタは今までに、隕石のような岩を放つ魔法を何度か使ってきたが――
あるいは人類全体が滅ぶべき悪であると天は云うのか――
神のみぞ知るというやつだな。わはは!
この滅茶苦茶な感じ……現実っぽいわ!アリエッタがやらかした現実っぽい!
いいえ、現実のはずない。いい子のアリエッタなんているわけないし。これは幻……幻よ……。
アリエッタは狼狽するエリスの肩をそっと叩き、隕石を指さす。
隕石(リアル)は、すぐそこまで迫っていた。
一般市民はもちろんのこと――街中の魔道士たちが、その隕石に恐怖した。
……隕石に恐怖した魔道士もいたはずである。
アリエッタは地対空ホウキに跨り、隕石に突っ込んでいった。
続いて、いい子のアリエッタも地対空ホウキで隕石目がけて飛んでいった。
途方に暮れたエリスは、とりあえず祈りを捧げた。
結果的に、聖なるなんやらっぽい行いとなった。
隕石を粉砕せんとするアリエッタの前にいい子エッタが立ちはだかる。
そして、悪い笑み(・・・・)を浮かべた。
いい子エッタが投げつけてきた本を、アリエッタは杖で弾く。
杖の一閃。しかしそれを読んでいたかのように、いい子エッタは杖で攻撃を受けてみせる。
そのまま杖を一合、二合と重ねる。杖さぱきの技術も膏力もまったくの互角だった。
不敵に笑ったいい子エッタが急接近し、アリエッタの顔を狙って杖を振るう。
アリエッタはのけぞるようにかわすが――杖の先端が、帽子を掠めた。
脱げかけた帽子を被り直した隙を、いい子エッタが見逃すはずもなく――
横薙ぎに振った杖が、脇腹をしたたかに打った。
アリエッタはそのまま、地上へと落ちていく。
アリエッタの隕石を見届けたいい子エッタは、隕石へと視線を移す。
魔法で生み出されたわたしはどのみちあと数刻で消滅する身だし――圧倒的火力で自爆する機能もついているからな。
隕石が怖くないと言えば、嘘になる。死刑台にあがる囚人の気分。魔道タバコの1本でも吸いたいくらいだ。
でも、吸わない。
無邪気な笑みを浮かべたいい子エッタは隕石へと突っ込んでいき――爆ぜた。
この世の終わりを思わせる爆発であった。
凄まじい爆音と――それに負けない無邪気な大音声。
エリスは怪獣の目をしかと見据える。
アリエッタは髪をくるくるしていない。
彼女は嘘を言っていないし、実際、悪を攻撃する魔法であった。
謎の超巨大隅石はアリエッタによって爆破され、その破片は不埓な魔道士たちの頭に直撃、歳末魔道取り締まりキャンペーンに貢献した。
信じがたいことに一般の被害者はなく、隕石の欠片が直撃した魔道士たちも命に別状なしで、生け捕りにできた。
なんと、アリエッタの頭にも隕石の欠片が直撃していたのだ。
アリエッタはニヤニヤしながら髪をくるくるしている。
何がいい子か。思いっきり嘘をついているではないか。
目の前の〝悪〟には、今後も手を焼きそうだ。
なぜなら……売れ残った魔道ターキーが半額になっているからだ!エリス、そういうの好きでしょ?
図星なのが、ちょっと悔しかった。
いい子ではないアリエッタと、半額魔道ターキーを食べる。
現実だなとエリスは思い、少し安堵した。