【黒ウィズ】幻魔特区 RELOADED Story
story0 プロローグ
うららかな午後の日差しを浴びながら、君とウィズはまどろんでいた。
ギルドから依頼されていた仕事を一気に片づけた反動だろうか。強烈な睡魔に襲われていた。
といって、特に抵抗する必要もない。
睡魔を素直に受け入れ、深い眠りの淵へ落ちようとしていたそのとき――
”カムラナ技研工業より特殊認証コードを受信しました。ご返答をお願い致します。
小箱のような機械〈フォナー〉から音声が発せられている。
君と同じようにうとうとしていたウィズが飛び跳ねるように目覚める。
「フォナーにゃ!すごく久しぶりに喋ってるにゃ!」
興奮したウィズがフォナーを取り出そうと君の懐をまさぐっていると――
”〈承諾〉ありがとうございます。あなたの再訪を歓迎します。”
「にゃにゃ!承諾しちゃったっぽいにゃ!
懐からフォナーを取り出す間もなく君の視界は揺らぎ、意識が薄れていく――
***
そこは木々が鬱蒼と生い茂る、静謐な森だった。
かつて訪れたことのある異界である。
見知った顔や場所が目の前にあれぱと期待していたが、そううまくはいかないらしい。
「ここでぼーっとしていても仕方ないにゃ。人のいるところに行くにゃ。」
君はひとまず、この異界の象徴とも言える〈ロッド〉を探す。
巨大な塔のようにそびえるロッドの周辺に人が集まり、街が形成される異界である。ロッドに向かっていけば、誰かに会えるはずだ。
しかし視界は生い茂る木々に遮られていて、遠くまで見渡すことができない。
まずは森を抜ける必要がある。出口を探して、君は歩き出す。
「それにしても、この異界は猫が喋っても変な目で見られないから安心にゃ。」
この異界の人々は自らの心の分身である〈ガーディアン・アバター〉と共に戦う。
アバターの中には人の言葉を喋るものも存在しているため、ウィズが人々から奇異の目で見られることもないのだ。
人々――そうひと口に言っても、この異界には人間と、人間によって製造された〈ガーディアン〉がいる。
かつて君が共闘したのは、世界中にあるロッドを守るために作られた存在であるガーディアンたちだった。
君がかつての冒険に想いを馳せていると、ウィズにそっと小突かれた。
「普通の森という感じではないにゃ。キミ、気を引き締めるにゃ。」
君は師匠の忠告に従い、カードを構えて周囲の様子を窺いながら歩を進める。
耳を澄ませながらしばらく歩いていると、微かな足音が聞こえた。
獣のそれではない、人間のものだ。昼下がりの散歩を思わせるようなゆったりとした、どこかけだるそうな足取り。
やがて足音が止まった。
逡巡した後、君は足音が聞こえた方へ向かう。
葉陰に身を潜めながらそっと様子を窺う――
「んん……。」
大樹に寄りかかるようにして、うつらうつらとしている少年がいた。
その傍らには、ぐでーっと寝そべる仔犬がいる。
ぴくりと耳を動かした仔犬は君とウィズを一瞥すると、
「あう……。」
けだるそうに鳴いて、前脚で少年の膝を叩いた。
すると少年が目を覚まし、君たちに気づく。
「うお、びっくりした。急に出てくるなって。魔物かと思った。」
言葉とは裏腹に、少年の声音はのん気に間延びしていた。
君は驚かせてしまったことを詫び、敵意がないことを伝える。
「まあ、そうだろうなー。お前のその格好を見る限り。
少年はのっそりと立ち上がり、君のまとっているローブを指でつまむ。
「英雄に憧れて、こんな格好してるんだろ?」
「英雄……にゃ?」
「おおー、しゃべる猫まで完璧に再現してるのか。英雄譚に出てくる黒猫の魔法使いのこと、相当好きなんだな。」
「黒猫の魔法使いって……私たちのこと知ってるにゃ?でも、英雄譚ってなんにゃ?」
どうも話が見えてこない。
まあそれはいつものことかと思い苦笑していると、少年は感心したように君の顔をまじまじと見つめる。
「わかるわー、その困ってるっほい笑い方。本物の魔法使いも、そういう感じだったらしいね。」
なかなか似てるでしょ?と君は話を合わせておく。
「おれの名前はレグル。700号ロッド自警団のメンバーだ。
こいつはおれのガーディアン・アバター、シロ。」
「あぅ、あーぅう。」
状況が飲み込めないまま、君はレグルと握手を交わした。